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勘当

初投稿作品です。続くよう頑張ります。

 「それで?アウフ家当主直々に、こんな時間に呼び出しだなんて、何の用です?」


 多くの価値ある装飾品が飾られた応接室に青年の楽しげな声が響く。私が座る椅子の背後に立つ息子と娘。親の贔屓目なしに見ても、我が国の皇帝に仕えられる、誇らしい子供たちだ。向かいに座る男と違ってな。


 「レオ!当主であるリシュタル様の前なんだぞ!」


 息子は男の尊大な態度に怒りをあらわにした。しかし向かいの男は足を組み、笑みを浮かべたままで、息子の言葉には何も反応をしなかった。視線を窓の外へ向け夜空を眺めていた。


 「よい。今は、父と子として話している」


 手を軽く動かし息子を諫め、私は言った。愚かな男に対して子、と言ったことに驚愕して怒りは消えたようだ。私も自分で言ってからこの男を子だ、などと不愉快極まりない。


 「さて。お前を呼んだ理由だが、最後通告だ。アウフ公爵家として、皇帝に仕えるのにふさわしい身の振り方をしろ。さもなくば、この家から出ていけ」


 我が家アウフ家は、帝国を興す頃から仕えてきた。そして仕えるのにふさわしい力、知略、振る舞い、忠誠、様々なものを私は親から求められたし、子供たちにも求めた。上の息子と娘であるスティルとリリアは私の期待にこたえるかのように立派に育ってくれた。だが、この男は違った。

 皇帝家にはこの男と歳が同じの第三皇子、カイル殿下がいらした。だから殿下の良き忠臣となってくれることを願いレオンハルトと名付けた。最初はよかったのだ、最初は。兄や姉も才能にあふれ、幼いころから同年代には比肩する者がいないほどであった。それだけでも親として、アウフ家の当主としてこの上ない誇りであったが、レオンハルトは偏っていた。戦闘力の大きな指標となる魔法において、防御魔法、補助魔法にばかり秀で、攻撃魔法においては全く使い物にならないというアンバランスぶりだった。しかしそれでも殿下とも良好な関係を築き、その妹君でもあったアリス様とも仲良くしていた。

 だがいつからだったか、レオンハルトに放浪癖が出始めた。最初は数日、そして次第にその日数は伸びていき、学校を休み、殿下たちと過ごす時間も短くしていった。

 私はあの男が家に戻るたびに叱ってきたが、全く意味がなかった。何度言いつけようと、どこ吹く風と聞き流していた。スティルやリリアもその態度を幾度となく注意していたが、レオンハルトは二人を見て気の毒そうな顔をして相手にしていなかった。そしてついには、公爵家としてのあらゆることを放棄し、数か月に一度しか帰ってこなくなった。公爵家の立場、兄姉への敬いの無さ、殿下達との関係を顧みない行動、もうこれ以上は我慢ならなかった。

 そして今日帰ってきたレオンハルトに最後の機会を与えた。


 「ははは。何を言い出すかと思えば。……そうだね、その方がいいだろう。出ていくとするよ」

 「………そうか」


 だが無駄だった。わかりきっていたことだが。


 「お前の部屋の小物を持ってさっさと出ていけ。もう顔も見たくない」

 「そうさせてもらうよ」


 自然な動作で椅子から立ち上がり、扉に近寄り、開けたところで動きが止まった。


 「おや、シルフィじゃないか。もしかして聞いていたのかい?」


 シルフィは私の末妹だ。この子も才あふれてたが体が弱かった。上二人は軍でいない、私も仕事でいない、そんな時とにかく様々な話を聞かせていたレオンハルトにはとても懐いていた。だからこの話が聞かれないように時間を選んだというのに。


 「はい、聞いておりました。レーヴェ兄様、家を出られるのですか?」


 扉の陰になりシルフィの姿は見えないが、声から悲しさと寂しさが感じられる。


 「そうだね。だからシルフィとももう会わないだろうね」

 「そんな!わ、私はレーヴェ兄様と離れたくありません!」


 こうなるだろうことは予想できた。レオンハルトがアウフ家から出ていくという事実さえ隠せたら、いつものようにどこかへ行ったと誤魔化せたものを。どうしたものだろうか。


 「それは困ったね。………そうだね。シルフィ、私の部屋にある私物を君に預けておくよ。またいつかあった時のために大切に持っておいておくれ」

 「それではやはり兄様はっ!………いえ、わかりました。お待ち、しております」

 「いいこだね、シルフィ。………さあこれでもういいかな。僕は行くとするよ」


 レオンハルトはこちらへ振り向いて呟いた時。 「待て!家を出ていく前に俺と勝負しろレオ!これで終わりでは俺は納得できん!」

 「私も。相手をしなさい」


 私の後ろの二人が我慢できなくなったようだ。積りに積もった恨みを晴らすといわんばかりの、刺すような視線をレオンハルトに向けた。


 「スティル兄さん、リリア姉さん。いいよ、二人共相手をしてあげよう」 


 レオンハルトはスティルとリリアに視線を向けいつもと変わらぬ微笑みを見せた。


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