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ネズミの王 ~ エルフと私、時々抹茶パフェ  作者: 裃 左右


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32/46

魔女はイチゴラテを飲む

 戦いが終えたマリンカがまず言ったのは、こんな言葉だった。


「思ったより悪くなかったわ。 でも、正直に言えば、決戦競技(ディシプリン)をするには戦術はもちろん、戦い方そのものがなってないわね」


 根本的な指摘。

 良いか悪いかを論じる以前に、私達はそのスタートラインにいないかの言うように言われたのだった。

 吉田くんは憤慨していたが、自分に勝った相手に言い返そうとはしなかった。


 私は場所を移すことを、提案した。

 魔力も消耗したことだし、二人は休息した方がよかろうと思ったのだ。


「お前は、くやしくないのかよ」


 吉田くんにそう聞かれたが、私にはそんな気持ちはなかった。

 それに、マリンカの指摘をきちん聞いた上で努力した方が、効率がいいに違いない。


「べつに。 何も知らないまま努力しても、上手くいかないよ」


 私がそう答えたのを見ると、マリンカは強くにらみつけてきたような気がした。

 マリンカには、なにか私の態度に気に入らないところがあるのだろう。

 どうもなにかと、時折、マリンカからはお叱りを受けてしまう。


 マリンカは、私に歩み寄る。

 ぐっ、と襟元を掴まれ、はっきりとした口調で言った。


「ちゃんとわたしを見ろ」


 言うだけ言って、彼女は手を離す。

 私は苦笑する。

きちんと、マリンカのことを見てるつもりなんだけどな……。


 私たち向かったのは、近くにある休憩室だ。

 ベンチに座り、ドリンクサーバーから飲み物を受け取り始める。


「お前、コーヒーとか飲むのかよ」


 吉田くんがぎょっとして、私に尋ねた。


「そりゃ、コーヒーくらい飲むよ」

「……へー。 なんか大人だな」


 子供になってから、苦みがより強く感じるようになった。

 昔、そう、前世で飲んだ時よりも、ブラックコーヒーが苦く感じる。

 それでも、私は比較的苦みを好んだ。

 私室の茶話会では、もっぱら紅茶だけどね。


「ファルグリンは抹茶ラテでいいんだよね?」

「ああ、それで構わないよ」

「構わないと言って。 本当は大好きなくせに~」

「うるさい。 僕は別に嫌いとは言ってない」


 ファルグリンは、コーヒーを飲まない。

ここのドリンクサーバーだと、よく好んで、あまい抹茶ラテを飲んでいる。

それかイチゴラテも飲んだりもするが、それはマリンカがよく飲む奴だ。


「と言うわけで、はい。 イチゴラテ」

「……どうも」


 不本意そうに、マリンカは差し出したイチゴラテを受け取る。

 いまだに、私を不機嫌そうに睨んでいるのだ。


「なんで、ムスッとしてるのさ?」

「どうしても、なにも。 ……と言うか、あなたは気にしてないの?」

「え? なにを?」

「そう、なら好きにすればいいわ!」


 やけにマリンカがぷりぷり怒っている。

 その割に、イチゴオレは受け取ってくれたので、本気で嫌がってるわけではないのだろう。

 うーん、まあ、とりあえず、そっとしておこう。


 マリンカは、気を取り直して席に座る。

 そして、他のみんなにも座ることを促した。


 マリンカは、一度ラテを両手で包み込むように飲み始める。

 息を吹いて、表面を冷まそうとしているようだった。


「吉田と言ったわね」

「ああ」


 マリンカは、イチゴラテに口を付けるよりも早く口火を切った。

 吉田くんも、すぐに話を始めたいと言わんばかりに、目線を返す。


「あなたの戦い方は、固定砲台。 完全に足を止めての撃ち合いよね」

「ああ、そうだぜ」

「魔術師の戦闘形式はいくつも種類があるけど。 あなたの戦闘スタイルは、授業の中で生まれたものね」

「……確かにそうだな、授業でやった模擬戦だ」


 授業における模擬戦は、西部劇の決闘のようなもの。

一対一で向き合い、教師の合図と主に魔術を撃ち合うものだ。何もない場所で、足を止めたまま、正面から魔術をひたすら撃ち合う。


「その形式の模擬戦だと、『早撃ち』の速さ。 相手の魔術を圧倒し、シールドを破る『火力』 止まった相手にきちんと命中させる『正確さ』が重視されるわ」

「1年の授業では、シールドは使わなかったよ。 とにかく、反応するよりも早く相手を撃てばよかった。 2年生になってからは、そうもいかなくなったけどな」


 シールドの取り扱いを、模擬戦で併用しないといけなくなったのは、授業だとつい最近だ。

 早撃ちに優れているだけだと、シールドに弾かれるので、必然的に火力は高くなる。


 シールドは、銃弾規模であれば、そうそう破られはしないだけの強度も有するため、必然的に『爆炎の槍』などの爆裂魔術に傾倒する生徒が増える。

 1年前は、フォースの早撃ちがメインだったけど、今はそうはいかなくなった。

 一般生徒に決戦競技(ディシプリン)をやらせれば、大半が『爆炎の槍』の撃ち合いを狙うだろう。


 私のような魔術を扱うことが苦手な人間か、変わり者だけが、『兎跳び(バニーホップ)』で懐に潜り込み白兵戦を挑むのだ。それは1年目からずっとだけど。

 私はずっとそれだけをやり続けてきた。


「吉田、あなたが模擬戦でどんな風に頑張ってるかは、わかるわ。 その点だと、あなた。 けっこう授業では優秀でしょう?」

「まあ、そうそう負けねえな……」

「ええ。 判断も早いし、器用だわ」

「……アンタには、負けたけどな」


 吉田くんは、不満そうである。

 もともと一般生徒の中では、トップクラスと言われているのが彼である。

 ロドキヌス師からのお墨付きもあって、学業でもそう悪くない成績なのだろう。


「正直なところ、予想以上にあなたは強かったわ。 それに戦闘慣れもしてた。 誰かさんの影響もあってか、機動力で翻弄されたときの対処能力もあったしね」

「誰かさんって、誰だろうなあ……」

「そこ、茶化さないの」


 言い出したのマリンカなのに、私が乗ってあげたら怒られた。解せぬ。

 とはいえ冗談ではなく、吉田くんは、新しい魔術まで習得していたし、今回の戦いには私も感心させられている。


「ただ、残念だけど。 授業と実戦は違うの。 あなたの戦い方は、決戦競技(ディシプリン)にあってないのよ」

「……じゃ、オレはどうすればいいんだよ」

「それを説明してあげるわ」


 こほん、とマリンカは息を整える。

 まるで、家庭教師でもしてあげてるみたいだ。


「魔術師における戦闘の基本は、大きく二つに分けられるわ」


 マリンカは、ノートに図を描いて見せる。


「1つは、流れを意識すること」

「流れ?」

「そう。 流れを操り、状況をコントロールするの。 あなたは、わたしと陽介、二人をまとめて『爆炎の槍』で倒そうとしたわね」

「ああ。 爆裂魔術なら、上手くいけば二人とも吹き飛ばせるからな」

「相手の立場に立ってみて? もし、あなたがわたしや、陽介だとして。 それをされたら誰が一番邪魔になる?」

「え……? うーん、わかんない。 一番近い、陽介とマリンカはお互いが邪魔だろ」


 マリンカは、視線を左右に動かした。言葉を探しているようだった。

 もっとスムーズに返答が返ってくるのを、予想していたのだろう。


「いいえ。 この場合、わたしと陽介からすれば、最も邪魔なのはあなたよ。 だって、一方的に魔術を撃ってくるんですもの」

「うん…… そう言われたら、そうかも」


 私も本音を言えば、マリンカは要注意せねばならない対象だったが、その中でも常に吉田くんの攻撃の動向には強く意識をさせられた。

 爆裂魔術を使われ、吉田くんが消耗したのを見て仕留めようと思った。それは、マリンカにとってもそうだったのだろう。


「こうなると、わたしと陽介、二人がかりであなたを倒す可能性もあったわね」

「そ、そうなのか?」

「まとめて倒したいなら、下手に注目を集めずに、当てられると確信がある時だけにするべきだったわね。 爆炎の槍は、確実に当てられる自信があった?」

「ない、けど……」

「最も消費が多い攻撃を、効果的でないのに撃つのは良くなかったわね。 攻撃には、狙いが必要よ。 きちんと意味や効果。 そこから起きる流れを考えなきゃ」

「そんな難しいことを言われても、わかんねえよ……」

「そ、そうなの……?」


 マリンカは困っているようだった。

 思ったように、吉田くんに話が通じないのだろう。吉田くんが悪いと言うよりは、年相応なだけなのだろうが、マリンカにはそこが理解できないのだ。


「うーん。 試しに、わたしがしたことを説明するとね」

「おう」

「まず、『煙使い』の能力で煙をだしたわ。 そして、妖精を召喚して、煙の中に待機させて……そのあとは、透明になって煙から離れたの」

「透明になった?」

「そう。 『姿隠し』と言うマントよ。 これを使えば、魔力を消費して透明になれるわ。 魔力を探知しようとされると、すぐにバレちゃうけどね」

「ああ、そういうのがあるのは、なんか見たことあったな。 注意してみようとすれば、すぐ見抜けるし、全然意味ないと思ってた」


 吉田くんは、あっけらかんとした様子でそう答えた。


 なるほど、透明化して煙から抜けたのか。通りで見抜けなかったわけだ。

 私は、そういうものがあるとすら知らなかったけどな!


 決戦競技(ディシプリン)自体、そんなに知らないからな。どんな魔導器(セレクター)が選択としてあるかも、調べている最中だから、まだ知らない魔導器(セレクター)も多い。

 透明化できる『姿隠し』は、私にも使えるだろうか?


 マリンカは、魔力の煙で覆い隠すことで、透明化の瞬間がばれないようにしたらしい。

 弱点を補強する方法としては、基本的なものらしかった。


「わたしが煙から離れた後は、妖精にデコイに変身してもらって、二人の注意が逸らしたの」

「あー。 煙の中に見えた影って、デコイだったんだな」


 今気づいたのか、吉田くん。

 てっきり、もう気付いていたものだと思った。


「気を逸らしてから、陽介を不意打ちで倒したけど……別に、あなたを先に倒してもよかったけどね」

「なんで、陽介から倒したんだ?」

「陽介の方が、残しておくと面倒そうだったからね。 わたしは剣の扱いが得意ってわけでもないし、接近戦同士の戦いになったら、さすがに陽介の方が分があるでしょ?」

「え? ああ、さすがに負けないね」


 私は当然のことを、普通に言った。


「はぁあ? 調子に乗らないでくれる?」


 そしたら、普通にマリンカに怒られた。げせぬ。

 マリンカの言ったことを、肯定しただけなのに。


「じゃ、陽介より、オレの方が弱いってことかよ」


 吉田くんは、不満げだった。

 実際に戦えば、吉田くんが勝つこともあるが、私の方が有利だろう。


 ただ……吉田くんが使ったあの新技。『飯綱狩り(ウィールズアウト)』と言う魔術があれば、状況は傾くかもしれない。あれを上手く使えるなら、吉田くんは私に勝てる。


 マリンカは、イチゴラテを飲んだ。

 吉田くんの理解力に合わせて、話そうとしているのだろう。

 どう返事するか、迷っているようだった。


「……今はそうね。 魔術射手(キャスター)であるあなたが、もし勝ちたいのなら『早撃ち』『火力』『正確さ』だけでは戦えないわ」

「他にどうすりゃいいんだよ」

「一撃で決められない以上、流れを意識して追い込むしかないわ。 それには『戦況読む力』『連射による制圧力』。 この二つで最後まで、詰め切るしかない」

「それって、さっきマリンカが言ったみたいな作戦だろ?」

「ええ、そうね。 状況を分析して、流れを作る。 そして、最後に敵を仕留める状況にまで導くの」

「……わかんねえよ、そんなの。 言われても、そんな考えつかねえもん」


 吉田くんは、否定的だった。

 自分には出来ないとそう断じていた。


「それに戦ってる最中だろ。 オレは魔術を操るのに真剣だし、すげえ集中力いるんだぜ。 他のことを考えるのなんて無理だろ」

「わたしは実際に、やってみせたわよ?」

「ぐ…… そう言われてもな」


 吉田くんには、無理だと言う意識が強いようだった。

 確かに、戦闘の流れを読みながら、戦うのは簡単ではない。

魔術師にとっては、そのための使い魔でもある。


人面犬やマンティコアとの戦いでは、テイラーに役割分担をした。

テイラーに魔術の発動を任せて、私は目の前の戦闘に集中した。もちろんそれでも、簡単ではなかったけど、そんな最中でも、勝ちきるまでの流れはある程度、見えるように戦っていたと思う。


 マリンカはため息をついた。


「なら、一対一で勝つのは難しいと自覚して。 自分の力不足をきちんと把握することは大事よ」


 あくまで、冷静に一歩引いたような様子のマリンカ。

 それに苛立ちを見せる吉田くんは、叫んだ、。

 彼は必死だった。


「でも、オレ勝ちたいんだよっ!」

「すぐに出来ないとか、なんでもかんでも無理とか。 そんなので勝てるほど、甘くないわ。 勝ちたいなら、それを乗り越える。 それが出来ないなら、別の手を考える!」


 マリンカは、それだけではダメだと言う。

 彼女は、今日、初めて声を荒げた。


「……勝利ってのはね、指くわえてヨダレ垂らして、『ほしい』『ほしい』って待ってるだけでもらえるもんじゃないのよ!」


 誰も何も返せなかった。

 そこには、マリンカの努力してきた重みと言うものが感じられた。

 彼女には、魔女マリンカの名を継ぐ、魔女として背負ってきたものがあるのだろう。


「ちょっと日を改めようか」


 私は、あっさりと間に入った。

 誰も発言しようとしない、その重い空気の中。


「吉田くんは、今回の話を持ち帰ってゆっくり考えてみると良い。 アドバイスをもらってるのに、無理、出来ないばかりじゃ北村翔悟には勝てないよ」

「……お前までそんなこと言うのかよ」

「マリンカは、君に勝ったんだ。 その意味がわかるね? どんなに負けても、どんな努力でもする覚悟があるんだろう?」

「お前だって負けたくせに」

「私は1年間、負けっぱなしだったけど私は諦めなかった。 今では『普通の生徒』には負けない。 今まで以上に努力して、『選ばれた生徒』にも勝てるようになって見せるさ」

「な、なにを偉そうに……」


 吉田くんは、泣きそうな顔をしていた。

 それでも、私は微笑みかけた。


「ごめんね、マリンカ。 アドバイスの途中だったのに」

「……いいわ、べつに」


 マリンカもまた不満げな表情をしている。

 吉田くんと合わないのもあるだろうけど、私自身の振る舞いにも不満があるんだろうな。

 でも、私にだって言いたいことはある。


「日本製の剣型魔導器(セレクター)を使ったのは、こちらの参考になるように合わせたつもりだったんだよね? それなら、私や吉田くんにも扱えそうだと思ったんだよね?」

「えっ。 ……そうよ」

「たださ。 勝負と名を付けた以上は、本気でやってほしいな」


 マリンカは、目を見開き、はっとしたような表情を見せる。

 彼女は、私がないがしろにしたように思ったのだろう。

 だが、それはこちらのセリフである。


「マリンカ。 次、勝負で手を抜いたら許さないからね」


 それで、この場はお開きとなった。


 その後、私はファルグリンとカフェに出かけた。

 彼は、機嫌が良さそうに、抹茶パフェを食べる。


「身内に甘いのは、魔女の伝統だけどな。 マリンカもそのあたりは、引き継いでいるらしい」

「ああ、親切だったね。 参考になったよ」

「助言を求めに来た人間に、それを与えるのも魔女の役割だろうな。 勝ち負けに熱いのは、まだ若さゆえなんだろうけどね」


 ファルグリンは饒舌だった。

 わりと我慢していたのだろう、みんなの前では口数が少なかった。

 気を遣っていたと言うよりは、認めていない人間に、気安い態度がとれないのだ。

 エルフは、なにかとプライドが高いみたいだから。


「それで。 どうするんだ、陽介」

「なにが?」


 私は餡みつをつまむ。

 興味がないように装いながら、私はその甘味を楽しむ。

 黒蜜のコク、独特な風味の甘み。

餡はそれと比べるとサッパリしているが、どっしりとしている。


 やはり甘いものは、脳にいい。良い刺激になる。


「僕が何を言いたいかはわかってるだろ? 決戦競技(ディシプリン)に参戦するにしても、マリンカは厳しいんじゃないかってことだ」

「ふふ。 実は今回は、あんまり期待してないんだ」

「……そうなのか?」

「そう。 吉田くんの誘いがこじれた時点で、勧誘は厳しいと思ってた。 でも、まさか試合までしてくれるとは思ってなかったけど」

「……魔女は情が深いからな」

「うん、マリンカはよくしてくれたよ。 それで、吉田くんに良い刺激になると思ってた」


 ファルグリンは、意外そうに瞬きをした。


「随分と、吉田とやらに期待してるのだな」

「あー、いや、そうでもないな。 ただ、吉田くんは、吉田くんなりに頑張ってる。 応援してあげたくもなるじゃないか」

「入れ込む理由はそれだけか? お前は他人に興味なんてなさそうだけどな」

「そこまで言うかい? まあ……私の本音を言えば、強い相手。 北村翔悟と戦うのに、一番、都合がいいってだけかもしれない」

「北村翔悟?」

「ああ。 彼は強いらしいから」


 この世界における天才。

 戦闘における選ばれし者。そう言った人間がどれだけ強いかに興味がある。

 どうしたら、そんな人間を倒せるか、にも。


「なるほど。 強い……強い、ね」

「なにさ?」

「いや。 それはそれとして、マリンカの戦い方は参考になったか?」

「うーん。 『姿隠し』は使えるかも。 煙幕は、魔術で再現できないけど、錬金術で真似をすればいい」

「それだと、決戦競技(ディシプリン)では使えないな」

「それは仕方ないさ。 それを言うなら、そもそも私はシールドも使えない」


魔力で盾を形成することもできない私は、シールドが使えない。


「今日の戦いでも思ったけど、決戦競技(ディシプリン)ではハンデだろうね。 吉田くんの撃った『飯綱狩り(ウィールズアウト)』で弾幕を張られたら防ぎきれないね」

「なんにせよ、攻撃を防ぐ方法は必要だ。 なにか考えた方がいい」

「そうだねえ。 ルールをもっと見て、使える魔導器(セレクター)のリストを調べるさ」

「ただし、手に入る範囲で、だな。 ルール上、可能にしても異世界(ニーダ)にある魔導器(セレクター)はそうそう手に入らないものも多い」

「そうだね。 となると、日本製の魔導器(セレクター)だと都合がいいけど…… まず、虎徹はなしだ」


 同じ剣型魔導器(セレクター)でも、飛燕と虎徹では別ものだった。

 虎徹は、私にとっては相性が悪すぎる。

虎徹の持つ機能、魔力で斬撃を放つ『斬空』は私には起動できなかった。増幅器である鞘も活用できない。


「空中を高速で飛び跳ねることが出来る兎跳び(バニーホップ)だけは、相性が良かったのか活用できたんだけどね」

「似たような魔導器(セレクター)は、異世界(ニーダ)にもあるから、マリンカとしても扱いやすかっただろう」

「そうなの?」

「空を飛んだり、空中を歩行するための魔導器(セレクター)は、誰もが発想しうる範囲のものだろう?」

「まあ、確かに」


 魔術で何をしたいかって話になれば、必ず飛行は話に上がるだろう。

 長い間の人類の夢だ。世界は違えど、人類共通の思考と言えるかもしれない。


 ファルグリンは、抹茶パフェの白玉を飲み込んだ。

 餅は、彼の好物だ。米の餅は、エルフの食文化にはないものらしかった。

 根菜をつぶしたニョッキのようなものならば、存在したようだが。


「陽介。 なぜ、わざと負けた?」


 さっきのマリンカとの対決の件を言ってるんだろう。

 私は、あっさりマリンカに落とされた。

 でも、あれは仕方がないんじゃないかと思う。


「……べつに、わざと負けたわけじゃないよ。 本当にマリンカは強かったよ」


 私はそう答えた。


「背後から不意打ちされたら、やられるしかないさ」

「嘘をつけ。 普段のお前なら、簡単に背後をとらせたりはしないだろう?」


 ……確かにいつもなら、もっと警戒してる。

 いつもなら、あの状況で足を止めることもない。徹底的に安全策に出る。

 強敵には、持久戦から分析に入り、隙を見ての一撃。

 それが、私のスタイルだ。


「確かに、らしくなかったかもね」

「ああ。 徹底的に機動力を生かし、剣の射程に持ち込むのが、お前の常道だとしたら。 射撃攻撃が弱点となり、まとも対抗に出来ないことが、常に課題となる。 お前は理解してるし、無防備な方向へは警戒してるだろう?」

「もともと決戦競技(ディシプリン)のルールじゃ、私は全力では戦えないよ。 使える武器も少ないしね」

「マリンカは、そんな答えでは納得しないと思うがな」


 ……確かに、マリンカには失礼だったかもしれない。

 でも、あそこでマリンカと全力で当たるのは、抵抗があった。

 なにせ、マリンカ自身が全身全霊の本気じゃない。


「あれはマリンカが悪いよ。 彼女は、あえて日本製の魔導器(セレクター)をメインに装備してきた。 そんな相手に勝ったところで、なんの価値もない」

「マリンカが本気なら、本気で勝負したと?」

「そうだね、それはそうだよ。 でも、そうじゃなさそうだから、別のことに興味がわいたんだ」

「別のことだって? 確かに、陽介には、たまに様子見で手を抜く癖がある。 その情報収取の一環か?」

「どうかな……。 そんな癖あったかな」

「陽介は、事前の情報収集は欠かさないよ。 逆に倒す方に踏み切れば、それは執拗なくらいに粘着的だ。 事前に情報がなければ、戦いの中で情報を集めようとするか。 できる限り、短期決戦で敵を倒すかだ」


 私は笑ってしまった。

 そんなところ、ファルグリンに見せたかな。


「手を抜いていたわけじゃないけど、マリンカがどう戦うかに興味があったのは否定しないよ。 それに、吉田くんがそれに対してどう対抗しようとするか、にも」

「本気を出す価値はなかったと?」

「それ以上に、見たいものがあったのさ。 その価値はあったよ」

「ずいぶんと、冷めてるんだな。 ……そのわりに決戦競技(ディシプリン)への参加に、こだわってるが」

「それは……吉田くんに力を貸したいと思ってる、それは本当だよ。 それに、私にとってもいい経験になる」

「経験だって?」

「……今、強さの壁を感じていてね。 正々堂々、誰かと戦える理由が欲しいんだ」


 ファルグリンは、怪訝そうに表情を歪ませる。


「それこそ、わからないな。 陽介、お前はなんのために強さを求めるんだ?」


 改めて考えたら、なぜだろう。

 なぜかはわからないが、私が自分の望みをかなえるために、それが必要だった気がする。

 ……また、すごく大事なことを忘れている気がする。


 私の中で、いろんなものが抜け落ちている。

 でも、どうしてなんだろう。


「ただ、強くなりたい。 それだけじゃだめかな」

「そんな漠然とした理由で、そこまで努力できるはずがないだろう」

「……自分でもよくわからないんだ。 ただ、強くならないといけない気がする」


 答えは出ない。

 なぜ、私は強くなろうと努力しているんだろうか。


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