プロローグ
自分が生まれ変わったらしい。
その事実を受け入れるのに、時間がかかった。
私は赤ん坊だった。
自由に動かないからだ、はっきりと見えない目。
母親らしき人物に抱き上げられて、無力で居続けることは不安だった。精神が安定せず、本当の赤ん坊のように私は泣きじゃくるばかりだった。
だが、私はなぜ死んだのだろうか。
思い返して、ひどく体調が悪かったことは覚えている。休憩時間もなく、法的に無理なことを職場に強要され、それを上司に訴えても改善されることなく働き続けていた。
痛み止めや胃薬を毎日のように服用し、働き続けていた。
……過労死だろうか。
自分を必要としてくれる人を見捨てられないという、使命感で私は職場を辞めることが出来なかった。
いや、単純に臆病だったのだろうな。
頑張り続けていたことが全て無になって、虚しさを覚えた。より精神が不安定になる。日夜問わず、泣きわめき続けた。
体に精神が引きずられている以上に、現実を分析すればするほど正気が保てなかった。
私はなぜ生前の記憶を保ったまま、生まれ変わったのだろう。
すべて忘れてしまえばよかったのに。
両親はまだ若い男女だった。
年齢は二十代前半といった所か、生前の私と比較しても若い。
周囲の会話やTVから聞こえる内容を聞くに、私が生まれ変わった場所は住んでいた地元からそう離れていなかった。
ほぼ地名もなにもかも知っている内容、時折知らない人物の名前や地名も聞こえなくはないが、つまりは日本のままである。
海外で暮らすよりは、言葉の壁を感じずにいられるので気楽だと言えるだろうか。
しかし、私はすぐに知る。
ここは私がいた日本ではないと。
……母親に抱かれて、外に出た時に見かけたのは耳の長い美しい人。角の生えた屈強な大男。ヒゲを蓄えたやや頭身の小さな成人男性。
ここは……どこだ?
私の理性は崩壊しそうだった。