白い羽根
カナはどうくつのまえにいた
おおきないわやまのふもとにぽっかりとくちをあけたどうくつは、まるでかいぶつのくちのようでおそろしい
月の光もいりぐちまでしかてらすことはなく、おくはまっくらでなにもみえない
カナは枝をにぎりしめて、ゆうきをだしてさけんだ
「冬の精!ここにいるの!?」
カナのこえがどうくつのなかでひびいてきこえる
しばらくまつと、どうくつのやみがうごいたきがした
「……なぜ、ここがわかった?」
どうくつのおくで、真っ赤な目がカナを見つめていた
「……赤い実のちからをつかったの。でもつかいきってしまったわ。もういちど、赤い実をもらえないかな?」
「……ふっ、ふふふ、ふははははは!きづいているんだろう?まわりのひとがおまえのきおくをなくしたことに!」
「……えぇ。それが赤い実のちからをつかったせいなのね」
「ならば!あの実ではきおくをとりもどせないこともわかっているだろう?なぜさらに実のちからをもとめるのだ」
「……もう、お父さんもお母さんも、わたしをわすれてしまったわ。わたしにはかえる家もない。てにいれるために、赤い実のちからがひつようなの」
「あぁ、なんとよくぶかい……あれほどむくなたましいがすっかりけがれてしまったようだ……おもしろい。いいだろう。しかし、つぎはたましいではなくおまえじしんをもらうぞ」
「……いいわ。赤い実をちょうだい」
冬の精はゆかいそうにわらうと、どうくつのいりぐちへでてきました
月の光にてされたそのすがたはまっくろでつばさをひろげたからだは、月の光をのみこむやみそのもののようでした
「……あぁ、このすがたか。冬の精ってのはうそっぱちだ。白いすがたもだいきらいな月の精のすがたでわるさをしてやろうってだけのニセモノさ。どうだ?こわくなったか?」
「……いいえ」
「ふん、いいだろう。赤い実をやろう」
そういって、やみの精はカナのあたまにくちばしをちかづけました
そのしゅんかん、カナは枝をやみの精のくちにさしこみました
やみの精がおどろいているうちに、枝はまばゆい光をはなち大きないちまいの白い羽根へとかわりました
そのまま、カナは羽根をましたにふりぬきます
白い羽根はやみをきりさくようにやみの精をまっぷたつにしました
カナがもつ白い羽根は、またもすがたをかえて月の精があらわれました
「きさま!月の精か!」
「やぁ、やみの精。ずいぶんとたましいを食べたみたいだね。かえしてもらうよ」
「おのれ……」
やみの精はそういうと、とけるようにきえました
「……たおしたの?」
「あぁ、カナ。がんばったね。きみのたましいもかいほうされているよ」
カナはからだにあたたかいなにかがはいっていくのをかんじました
「あたたかい……やみの精はしんでしまったの?」
「いいや、精霊はしなない。ほら」
月の精がしめすほうをみると、小さな小さなくろいひなどりがよわよわしくないていました
「これなら、ちからをとりもどすのにそうとうなじかんがかかるだろう。こんどはわるさをしないようによくみはっておくよ」
そういって月の精は小さなやみの精をくわえると、自分の羽根のあいだにおしこみました
「さぁカナ。おくっていこう」
「……うん!」
月の精にみちびかれて森をあるいていくと、小屋のあかりが見えてきました
おもわずかけだすカナのみみに、じぶんをさがすこえがきこえてきました
「おぉーい!カナぁー!」
「カナぁー!どこにいるのー!」
カナのめから、なみだがこぼれおちます
「お父さぁん!お母さぁん!」
「カナ!」
「あぁ、カナ!よかった!」
カナはむちゅうでふたりにだきつきました
お父さん、お母さんにだきしめられて、カナはしあわせでいっぱいのきもちになりました