月の精
「ところで……きみはだれだい?」
お父さんのことばに、カナはめのまえがまっくらになっていくようでした
「さぁ……しらないこだな。おじょうちゃん、どうしてこんな森のおくに?」
「まいごかしら?おじょうさん、おうちはわかる?」
木こりのおじさんとお母さんのことばに、カナはふるえがとまりません
「こまったわ、このこのおやはどこかしら」
「村のこじゃあないようだしなぁ」
カナはからだをぎゅっとだきしめますが、ふるえはとまらずどんどんつよくなっていきます
「おじょうちゃん、どこからきたんだい?」
木こりのおじさんがカナのかたにてをふれたしゅんかんに、カナははじかれるようにかけだしました
「あっおじょうちゃん!そっちは森のおく……」
木こりのおじさんのこえもきかず、カナはちからのかぎりにはしります
はしって、はしって、
はしりつかれたカナは小さないずみのふちでないていました
「お父さんもお母さんも、木こりのおじさんもわたしをわすれてしまった!!もう赤い実もなくなってしまった!!みんなのなかから、わたしがきえてしまった!!」
カナはかなしくてかなしくて、なきつづけました
なきつかれたカナはいつのまにかねむってしまっていて、めがさめたときにはよるになっていました
「そうだ……みんなわすれてしまったんだ……」
カナのめから、またもやなみだがあふれだします
そのとき、カナのあたまのうえからこえがしました
「やーっとみつけた!」
カナがなみだでにじんだめでみあげると、小さな白いとりが月の光でかがやくいずみのうえにうかんでいました
「……あなたは、冬の精?」
「ちがうよ、ぼくは月の精。ずっときみをさがしていたんだ」
「わたしを?」
「やみの精からのろいをうけたね?のろいのちからがつよくてきみをさがせなかったけど、ようやくみつけることができた」
「あの赤い実の枝はのろいだったのね……でも、わたしは実のちからをぜんぶつかってしまった。みんなからわすれられてしまったの」
「あぁ、やみの精はたましいを食うからね。たましいっていうのはじぶんだけのものじゃない。まわりのひとがおもい、きおくするきみのすがたもまたきみのたましいのいちぶなんだ。それをうばうために、のろいをあたえたんだろう」
「とりもどせないの?」
「いちどうしなったたましいはもどらない。やみの精のはらのなかにあるからね。やつをたおさないと……」
「あなたのちからでたおせないの?」
「じつは、やみの精はぼくのふりをしていろんなにんげんからたましいをうばっていてね。たおそうとしたんだけどちからではごかくで、あいうちになってにがしてしまったんだ。きみのたましいを食べたあいつには、もうぼくではかなわないだろう」
「そんな……わたしになにかできないの?わたし、たましいをとりもどしたいの!」
「うーん、やつをさそいだせればなんとか……でもどこにいるかわかるかい?」
「わからない……あの森にはもういないだろうし……」
「うーん、こまったな、たすけてあげたいけどやつののろいのけはいもきえてるし……」
「そんな……」
カナはくやしくて、てをぎゅっとにぎりしめました
パキッ
カナのてににぎられた枝がおとをたてました
「あれ?その枝……のろいはないけどかすかにやみの精のちからをかんじるね」
「赤い実のついていた枝よ」
「なるほど……よく見せて」
「なにかわかるの?」
「ふぅーむ、なるほど……そうか!やつはこの枝を通してきみのたましいをうばっていたんだ!いまはかすかにそのなごりをのこしているだけのなんのちからももたない枝だけど、なんとかやつのいばしょまでおえそうだ!」
「それなら!」
「しかしやつはつよい。まともにむかってもたおせない。きみにもきょうりょくしてもらうよ」