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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第四章 エンタープライズ躍動編
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92 シュトルツ村:ミミゴン―16

「キャリー! 開店だぁー! ビシッとでかい羽を広げろぉ!」

「ちょ、ちょっと待ってください! ミミゴンさんにクラヴィスさん、これはどういう……」



 そろそろ日が沈み始める頃、シュトルツ村に移動した四人+一匹。

 『テレポート』して、早々にキャリーが背中に背負っていた”クワトロの店”を下ろし、クワトロがボタンを押して、箱状の無機物が展開していった。

 キャリーは巨体に似合う羽を扇のように広げ、圧力を感じるような自己主張の激しい黒色の翼がとにかく目立つ。

 客を寄せ付ける商売のコツなんだろうか。

 それでだ、あれだけ大きな”店”が地面に落ちたら、振動と音が鳴り響くわけだ。

 インドラ上級監察官が、解決屋から飛び出してきて、建物正面にいる俺たちの姿を認めると叫んでいた。

 クワトロは、真正面で「なんなんですか、これ!?」と言われても平気な顔して、俺の方を見る。



「万能薬は、この中だ。旦那だけ、付いてこい。手狭だからなぁ、一斉に入れねぇんだよぉ」

「ミ、ミミゴンさん! この男、何者ですか! 私のこと、完全に無視してますよ!」

「落ち着け、インドラ上級監察官。病人は解決屋の中だな。すぐ、万能薬もっていくから。あと、これを先に渡しておく。重病の者から、先に治してくれよ。じゃあ!」

「ちょ、ちょっとちょっと!?」



 一旦、喋り終えるとインドラが口を挟んできそうだから、とにかく早口で喋って、万能薬2個を渡して、クワトロの店に入っていく。

 後ろから、やいやい言葉が聞こえてくるが、クラヴィスがなんとかしてくれている。

 ニコシアは、キャリーの横で姿勢正しく崩れることなく佇んでいた。

 肝心のクワトロは、といえば果物や小銃が並んだ棚を動かそうと、必死になっていた。



「大丈夫か、手伝うぞ」

「すまねぇな、旦那ぁ。まさか、万能薬がご入用とは思ってなかったのでねぇ。奥の部屋に片付けてたんだぁ」



 改めて見渡してみると、確かに普段から使いそうな生活用品に食材、武器、アイテムが整頓され配置されている。

 人気の商品は、ここに固めているのだろう。

 俺は棚を両腕で持ち上げ、横にずらしていく。

 筋肉を使っている感覚がない。

 なんだか拍子抜けしそうな軽さだった。

 ……なんかのスキルだろうな。



「よう、できたか。奥へ行くぞ」



 棚をどかすと、壁があるだけだと思っていたが、扉がついていた。

 ドアノブを回し、金属でできた扉を開けて、クワトロはさらに進んでいく。

 しばらくして、その部屋に照明が付き、俺も中に入っていった。



「うわぁー……なんで、こんな散らかってんだ」

「一緒に探すぞ、旦那ぁ」

「お、俺もかよ」



 何というか、豪華な子供部屋という感じだ。

 木製の床の上には、大量に商品が転がっている。

 古い本、古そうな武器、アイテム、明らかに腐っていそうな食材が散らかっていた。

 部屋自体はとても広いのだが、その分だけ商品が落ちている。

 左右の壁際には、クローゼットのようなものがあり、クワトロがそこを重点的に探していた。

 俺もしゃがみ込んで、床に散乱した商品の一つを取って、万能薬か確かめる。

 ……なんだ、これ。

 ゲーム機……?



〈あっ、これはー! 今では幻の「ゲームファミリー」ですねー! 持ち運びしやすい携帯ゲーム機なんですけどー、なんと遊べる数……無限大ですー! というのもー、ゲーム会社から販売されるものだけでなくー、クリエイトできるのですよー! プログラムとか難しいのを知らなくても、簡単にゲームにできるんですー!〉



 助手が早口で説明してくる。

 これで瘴気は治せないのか。



〈無理ですけどー。病人を元気づけるぐらいはできますけどねー〉



 じゃあ、ここに置いておくか。



〈えー、もったいないー! せめて、レモレモちゃんに渡してあげてくださいー!〉



 まあ、ゲーム開発に役立つなら持って帰ってもいいかな。



「クワトロ、これもらっていいか?」

「ここにあるやつは、ほとんどいらねぇやつだからなぁ。別に構わないぜぇ」



 『異次元収納』で、長方形のゲーム機を異次元に収納する。

 万能薬を探しに来たんだが、なんだか宝探しをしているみたいだ。

 目的の物を探さないとな。



「なぁ、旦那ぁ。探してるけど暇だから昔話してもいいか?」

「”探してるけど暇”の意味がわからない。ちゃんと探せ」

「10年ほど前の話だ」



 まあ、嫌そうな顔をしながらも探してくれるのだから、喋らせてやるか。

 その話に気になるところがあっても、いちいち口を挟もうとは思っていない。

 クワトロは、ガサゴソと引き出しを開けたり閉めたりしながら、語り始めた。



「メルクリウス家の四男として生まれた自分は、両親からみっちりと商売について教えこまれた。生まれて間もない頃からな。おかげで早く歩けて、言葉も話せるようになった。上に兄がいるからかもな。だけど、次男と三男はいなかった。死んだんだよ、交通事故でな」



 交通事故だと?

 リライズで生まれたのか。

 それにしても、異世界で交通事故という単語があるとはな。



「自分は、その時まだこの世に生を享けていなかった。そりゃそうだろうよ。次男、三男のかわりに稼がせるための四男だからな。要するに、次男三男の分まで稼ぐ商人にならなくちゃならなかった。商人としての才はあったみたいだが、自分はやる気がなかった。二十歳になってのことだ。両親から、ものすごく言われたよ。今までの教育費を捨てる気か、と。なんて勝手なやつなんだ、って思った。だけど、悪口を言わないよう必死に耐えた。兄との約束だからだ。悪口なんて言わせとけ、言った分だけ倍になって返っていくさってな」



 こいつ、意外とふわふわした生き方をしていそうだったが、軸はしっかりとあるやつだな。



「だからって黙ってる自分じゃなかった。売れそうにない万能薬を大量に購入した。やけくそだ。あんな高いアイテム、誰が買うんだ。勝手に家の金使って、勝手に仕入れた。そしたら……売れた。めちゃくちゃ売れた。なぜか知らないが売れたんだよ。そしたら家族から褒められ、召喚獣キャリーもくれた。調子に乗った自分は、また万能薬を仕入れた。……売れ残った。ということで売れ残った万能薬9個が、こちらです」

「あったのかよ。ずいぶんと埃まみれだな。瘴気を治しても、別の病気になりそうだ」



 確かに、クワトロの手には9個分の万能薬があった。

 ……そうだ、さっきあんなこと言っていたな。

 金を払う必要がなくなるかもしれない。



「さっき、ここにあるやつは”ほとんど”いらねぇって言ってただろ。だから……」

「20000エン×9は……」

「さっきの発言は何だったんだ」

「ほとんどって言っただろぅ、ほとんどって。ただし、これが金になるなら”ほとんど”に含まれなくなる。これが商売ってもんだよなぁ……違うかい?」



 正方形の電卓を素早く取り出したかと思えば、一瞬でボタンを押して。

 180000と表示された液晶画面を見せつけるかのように、目の前にもってきた。

 そんなに高くないように感じるが、この世界では高額らしい。

 ニコシアが用意したっていうし大丈夫だろう。

 仕方なく頷き、納得した。



「買うはいいとして、9個? 10個欲しいのだが、あと1個はないのか?」

「すまないな、旦那ぁ……あと1個は、なんとかしてくれぇ。アハハッー!」

「とても謝罪しているようには見えない。なるほど、客を怒らせるのも商人の仕事か」

「おい、その握り拳で何しようってんだぁ? 殴って殺したところで、万能薬はドロップしねぇよぉ。するとしたら、確実に『命』だよ……冗談じゃねぇか、な? やめてくれぇ……ほんとにドロップしちゃうぜ、命が!」

「この握り拳は、別にお前を殴るために作ったんじゃねぇよ。ただ……なんとなくだ」



 こいつを殴ってもいいが、今は一秒も無駄に出来ない。

 って思いながら、俺も何やってるのだろう。

 あと1個……万能薬があれば、この村とはおさらばできる。

 すぐにクワトロの店を飛び出した。



「ニコシア! インドラ! 万能薬9個だ! 早く渡してきてくれ!」

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