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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第四章 エンタープライズ躍動編
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89 シュトルツ村:クラヴィス―13

「食事よし! 睡眠よし! 気合いよし! 準備よし!」

「行きましょう! ミミゴン様! それで、どうしますか?」



 二階建ての宿屋から出た俺とクラヴィスは、村の中を散歩することにした。

 散歩の目的は、高齢者に流行っているという病気について解明すること。

 そして、治せたら治すこと。

 さてと、まず結論から言うと……この病気に関しては治せるということだ。

 今すぐというのは難しいかもしれないが、あることを確認すれば治療可能である。



「マトカリアの家に向かうぞ」



 村人たちに、マトカリアの住所を聞きながら目指すこととした。







 村人から話を聞くたびに、村の中でマトカリアは有名だということが分かった。

 この村で、ただ一人のハンター。

 トラヒメナ草原に魔物が増えれば、行商人などが困る。

 そのためにハンターがいるのだが、彼女一人では魔物を倒すのは無理難題に等しい。

 そうとは思えないが、村人たちの話を聞くかぎり、どうやら最近強くなったみたいだ。

 村人も寝耳に水といった感じで、驚いていた。

 急に強くなるなんてことは、なかなかありえない。

 おそらくだが、あの猫のしわざだろう。

 昨日、クラヴィスが推薦した時「私、一人じゃ強くないのに」と断っていた。

 猫とマトカリア……質問したいことが山盛りだな。

 だが、彼女は愛されていることもあって、万能薬を奪われるようなことは起きなかった。

 みんな、自分の親が死に近づいているというのに、誰も不満をいうことなく、マトカリアを見守っていた。

 実はひっそりと、マトカリアのために村人の間で、こっそりと募金が行われていたらしい。

 使うことはなくなったが。



「で、ここがマトカリアの家か。普通だな」



 石の壁、木の屋根で構成されたシンプルな建物。

 扉を軽くノックする。

 今の時間帯は日が昇って、だいぶ経っている頃だ。

 中から返事はなかったが、かわりに緩やかに木の扉が開いた。



「あれ!? クラヴィス様にミミゴンさん!? どうして、ここに?」



 マトカリアの服装は昨日と違い、ラフな服装だった。

 白く薄い生地の服と、紺色のズボン。

 今日、狩りはしないのだろうか。

 俺は理由を話す。



「万能薬は効いたか? 村で流行している病気に」

「は、はい。おかげさまで!」



 扉から、チラッと見えたのは母親だろうか。

 ベッドで腰かけながら、水を飲んでいる。

 穏やかな表情を浮かべ、俺と目を合わせると軽く会釈してくれた。

 高齢者に多いと聞いていたが、この方はとても年老いているとは思えない。

 つまり病気は、誰にでも発生する可能性のあるものだということを、証明しているのかもしれない。

 女性に年齢を聞くのは失礼だ。

 見た目からして、三十代後半だと思うが。



「あの……」

「ああ、悪かった。病気に万能薬が効くってことが分かった。ありがとう」

「いえ……あの、協力できることがあったら言ってください!」



 万能薬、幽寂の森での出来事。

 彼女は恩返ししたいのだ。

 協力できることか……そうだなぁ。



「今は、その特に思いつかないのだが……あっ、じゃあここに猫を連れてきてくれ。あの白い猫だ」

「分かりました! 任せてください! 行ってきます!」

「あっ、ちょっと! ゆっくりでいいから!」

「はは、行ってしまいましたね」



 クラヴィスが彼女の走る後姿を苦笑した。

 しばらく、ここで待つか?

 いや、連れてくるのに時間がかかるだろう。

 その間、クラヴィスと俺二手に別れて行動しよう。

 聞きたいのは、病気になった時期、病人についてだ。

 ということで、クラヴィスにも伝えたのだが、こいつも走っていきやがった。

 どんだけ、元気満々なんだ。







「で、どうだった……クラヴィス」

「はい。どうやら……」



 二人が得た手掛かり。

 それは、いきなり一斉に発生したわけではないが、最初の発病者から短い期間に流行したという情報。

 そして……これは驚くべきことなのだが。



「全員、発症したとたん『脚が痺れた』こと。始まりは脚の麻痺だということだ」

「これって……」

「ああ……”瘴気侵蝕”、だな。きっと……」



 ここに来るようになった原因である、黄色い霧を纏った龍人。

 奴と対峙したクラヴィスは、敵から酸を受け、瘴気侵蝕状態になった。

 瘴気侵蝕は、まず脚から痺れ始め、頭へと向かって麻痺が進行していく症状。

 全身の力が抜け、いわゆる脱力感に襲われる。

 頭部まで症状が進行すれば、死ぬ。

 現に、この村では死人が出ている。

 最期は何も喋ることはできず、失明もして、何も見えない。

 孤独な死を迎えるということだ。



「治療方法は”万能薬”と”マルアリア治療薬”ですか」

「ちょっと待っててくれ」



 俺は一旦クラヴィスから離れ『助手』に相談する。

 なんで離れるかというと……『助手』と話している間、ぶつぶつと独り言をつぶやく気味の悪い奴になるからだ。

 ってことで『助手』、瘴気侵蝕を治す方法は他にないのか?



〈あるにはありますけどー……ミミゴンは不可能ですねー〉



 うん、どういうことだ?



〈大きく分けて、治療方法は二つですー。一つは『スキル』による回復ー。もう一つは『アイテム』による回復ー。現実的な方法は、二つ目の『アイテム』による回復ですねー。ちゃっちゃと万能薬を集めましょー!〉



 確か、あの行商人……万能薬20000エンって言ってたよな。

 お金が問題でない。

 今現在、病に侵されている者が12人。

 合計金額……240000エン。

 別に問題はないな。

 国に帰れば、すぐに手に入る額だろう。

 問題は別のところにある。

 この異世界で20000エンは、かなりの高額だ。

 クラヴィスは20000エン、ポンッとくれてやったが……高額ということは簡単に手に入らないということ。

 それだけの価値があるということ。

 数……万能薬の数が足りるかということだ。

 助手、万能薬ってどこに売ってるんだ?



〈リライズですねー。それも、ごくごく一部のお店ですねー。数もー……12個、手に入れるのは至難の業ですよー。あははー、努力どりょくぅー!〉



 こいつぅ……目の前に助手がいたら、ぶん殴ってる。

 死にかけてんだぞ、おい!

 どうしろってんだよ!



〈助けたいですかー?〉



 当たり前だろ!

 救えそうなのに救えない……しかも直面しているんだぞ。

 無視できるか、こんなこと!



〈万能薬は、どうやってつくりだされていると思いますかー?〉



 授業を受けている暇はないぞ。

 5分で分かることを45分もかけて教えてもらう必要はないんだ。



〈最年少将棋棋士の名言は、ともかくー……万能薬は『調合』によって製薬されていますー〉



 『調合』……つまり、マトカリアのスキルか!

 ここでも『調合』が必要なのかよ!

 いや、あの時とは違って敵がいないから、マトカリアを『ものまね』すれば使えるんだけど。

 だったら、マルアリア治療薬はどうなんだ?

 俺の予想では、素材の入手に時間がかからず、無駄を省けるはずだ。



〈マルアリア治療薬に必要な『青花』『黄花』は基本、幽寂の森にしかありませーん。言っときますけど、あれも希少な植物なんですよー。魔界攻略に必要……いえ、何でもありませーん。言っても分かりませんからねー〉



 魔界うんぬんは、どうでもいいが。

 マルアリア治療薬を手に入れるのは困難だな。

 黄色い霧……厄介なことに植物にも影響し、枯らしてしまう。

 実質、入手不可能な植物になってしまった。

 残る手は、万能薬か。

 それと、そもそもどうやって……あの霧に触れていない村人が瘴気侵蝕になっているのか。

 これも突き止めなければ、新たな発病者を生んでしまう。

 やることが多いな。

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