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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第四章 エンタープライズ躍動編
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88 シュトルツ村:クラヴィス―12

「はぁー……帰ってきたぜ。シュトルツ村……」

「ミミゴン様……どうやら『羅刹天』の影響で、体が重たくなってきました」

「じゃあ、さっさと終わらせよう。そうしよう」



 昼間で、この村は建っている建物も多い。

 建物といっても、木と石でできた粗末な印象だが。

 それにしても、人が少ない気がする。

 まあ、いいか。

 俺とクラヴィスは、疲労困憊の身体を引きずるようにして、解決屋に向かう。

 ふと気になって、後ろを振り返る。

 そう、マトカリア……と、猫。

 猫。

 真っ白い猫。

 確か調合を頼んだ時、一緒にいた猫だよな。

 何なんだ、この猫。

 俺の視線に気付いた猫は、逆に睨み返して『言葉』を発した。



「なんだ、じろじろ見やがって。吾輩は神聖な生き物だぞ」

「そういえば、こいつ……喋ってる! 俺の知ってる猫じゃない!」

「”非常識”を”常識”にするぐらいの余裕はあるだろ。今が、そのときだぞ」

「なんで、こんな偉そうなんだ。それにしても、なんか忘れている気がする」



 うーん、と首を捻らせていると、クラヴィスとマトカリアが解決屋に入っていくのが見えて、急いで追いかけた。

 猫は、じっとこちらを眺めていた。







「あのぅ、私は魔物の素材を売ります。クラヴィス様、ミミゴンさん……ありがとうございました!」

「マトカリアさんには案内役だけでなく、僕の命も助けていただきました。本当に感謝しています!」

「ああ、マトカリアには感謝してる。本当に助かったよ。クラヴィス……いや、世界を救ったも同然の働きだった。な、クラヴィス?」

「そうですね。彼女は強い。僕から本部長に推薦しましょう。Aランクハンターでも通用しますよ」

「そ、そんなぁ。私、一人じゃ強くないのに……」



 マトカリアは、恥ずかしがっている……というよりも、どこか申し訳ない気持ちになっているように見えた。

 でも、英雄から推薦とあっては本部長も断れないだろう。

 いや俺から見ても、本気で強いと思っている。

 助手によると幽寂の森最強の魔物と鉢合わせしたにも関わらず、目的を達成したらしいから、すごいやつだよ。

 見た目は中学生に見えるのに、中身はAランクの実力。

 なんか、カッコいいな。



「あの、ありがとうございました!」

「これからも頑張ってください! 応援してますよ! 何かあったら、連絡くださいね!」



 クラヴィスは元気に声を発する。

 彼女は受付に向かい、道具袋の中身をスタッフの女性に見せていた。

 買い取ってもらうそうだから、おそらくかなりの額になっているはずだ。

 クラヴィスが倒した獲物を横取りして得た素材だろうけど、お礼としては十分のはず。

 これで彼女も幸せになるはずだな。



 二階から階段で降りてくる足音が聞こえて、クラヴィスと俺はそちらに向き直る。

 その人物は縦に長く、横にも広いという外見でスーツ姿。

 シュトルツ村担当の解決屋で、上級監察官のインドラという名前だ。

 上級監察官というからには、強いのだろう。

 彼は俺たちが帰ってきたのを見て、すぐに駆け寄ってきた。



「ご無事でしたか! クラヴィスさんに、ミミゴンさん!」



 丸い顔が生み出す笑顔は非常に愛嬌があって、善人っぽい。

 実際、善人なんだが。

 インドラは周りを見渡して、クラヴィスに尋ねる。



「あの、それで捕獲は……」

「すみません。とても捕獲できそうになかったので、討伐してしまいました」

「そうですか……何か事情があるのでしょう。そこの部屋で話しませんか?」



 インドラが顎をしゃくった先には、扉があった。







 応接室のようで、中央に木の椅子が何個か並べられている。

 応接室にしては奇妙な部屋ではあるが気にせず、インドラが手で示した椅子に腰かけた。



「それで、クラヴィスさん。何か分かったことはありましたか?」



 インドラは対面の椅子に座り、クラヴィスに問いかけた。



「はい、魔物ではなく龍人でした。容姿は、とても龍人とは思えませんでしたが」

「龍人……煙を纏っているのが龍人ですか。あれは何かのスキルですかね?」

「僕から見て、あれはとてもスキルだとは思えませんでした。自然に体内で発生したように感じました」

「直接、戦ったあなたが言うのですから、そうかもしれませんね。本部長に、どう報告したらよいのでしょう」



 インドラは椅子から立ち上がり、ちょうど幽寂の森が見える窓から覗いた。



「ありのままを伝えるしかないでしょう。ハウトレット様も理解してくれるはずです」

「クラヴィスさんも、ご存知でしょうが……世界は明らかに変化しています。現に解決屋には、大量の依頼がきています。それも多くが『見たこともない魔物が邪魔をしている』と。リライズの『魔物研究調査団』が研究を進めているようですが、未だ解決には至っていません。私の予想だと、世界が世界を保てなくなるのではと考えています」

「魔物自体も、謎の部分が多いんですよね」



 魔物かぁ。

 日本には、まったくいなかったな。

 ゲームの世界だけの存在だと思っていたが。

 今は慣れてしまったけど、この世界において、かなりの脅威であることは確かだ。

 人以上に強力な存在。

 だけど、今もどこかで人同士が争っている。

 インドラが突然振り返り、クラヴィスに話しかけた。

 何か思い出したようだ。



「クラヴィスさん、もう一つ頼まれてくれませんか?」

「構いませんよ」



 動きは落ち着いているものの表情が険しいインドラが、もう一度席につく。



「ここ、シュトルツ村で原因不明の病に侵されている者が多いんです。お気づきでしたか?」

「……そういえば、マトカリアさんに最初お会いした時、万能薬を強く求めていましたよね。行商人さんに」

「ああ、そうだったな。で、クールに買ってやったわけだ」

「医者にも分からない病気。万能薬なら治ると思ったのでしょう」



 インドラが暗く重い口調で、話をつづけた。



「この村の、特に高齢者の方が病に侵されているのです。クラヴィスさんには、この病気を治す方法を、病気の発生原因も調べてほしいのです。すみません、お疲れのところを……」

「協力させてください。上級監察官として、共に村を守りましょう!」

「ありがとうございます! 分からないことがあれば、聞いて下さい」



 深く頭を下げ、感謝を伝えている。







 昼過ぎ、昨日から宿泊している宿屋でくつろいでいた。

 二つあるベットは質素だが、十分に安らげる。

 クラヴィスはベットに座り、大剣の調子を見ていた。

 俺も寝転んで、目を瞑っていた。

 ものすごく眠い。

 あぁ、ベットに吸い込まれていきそうだ。



「ミミゴン様、明日どうしますか?」

「うん? ……俺に任せておけ。お前も疲れただろ? 戦闘はクラヴィスに任せっきりだったからな、俺にも活躍の場を与えてくれ」

「よろしいのですか?」

「いいんだ。むしろ、俺の方が役立てるはずだ。ただ、俺に付いてきてくれよ。一人は寂しいからな」

「はい、もちろんです! お供させてください!」

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