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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第四章 エンタープライズ躍動編
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79 シュトルツ村:マトカリア―3

 空は徐々に光を失っていき、もう少しで星空へと変貌する時刻。

 シュトルツ村から遠く離れ、辺りには草しか生えていない地面にマトカリアは這いつくばっていた。

 スキル『潜伏』『警戒』『視野拡大』で、自身は半透明な人間へとなっている。



「『見破る』!」



 彼女は囁くようにスキルを唱え、目の前に対象の情報を映し出す。



 名前:ギガースレオ

 レベル:80

 種族:魔物

 称号:『レグルス』

 耐性:『睡眠無効』『風無効』

 戦闘用スキル:『捕食』『獅子』『大絶叫』

 常用スキル:『獅子』

 特殊スキル:『獅子王』



「レ、レベル80!?」



 口を押さえながら発した言葉だが、それでも音はあった。

 だが、相手の方は気づいてはいない。

 しかし、四方八方に顔を向け、警戒するようになった。

 彼女の声が聞こえたわけではない。

 『見破る』などの情報系スキルには”目”が全方向にあるかのような効果を相手に与えてしまう。

 何かに見られたと思ったギガースレオは、体を忙しく動かし始めた。

 マトカリアは口を塞いで、じっとしている。

 先ほど覚悟を決めたとはいえ、高レベルの魔物を目の前にすれば、恐怖が襲ってくるのは当然。

 それもギガースレオは自分を優位に超える身長、体格ならなおさらだ。



「何をボケッとしている……マトカリア。よく見てみろ。あんなに警戒している。ついには持ってる大鎌を振り回し始めたぞ。怖いか? トラヒメナ草原でナンバーワンの魔物が、怖がっているのだぞ。あれは警戒ではない。相手もまた、恐怖しているのだ。得体の知れない存在による『見破る』にな」



 マトカリアに憑依している猫、ゼゼヒヒが彼女に問いかけた。

 焦点の定まらない瞳が、ようやく落ち着きを取り戻し、マトカリアはギュッと拳を握る。



「ありがとう、ゼゼヒヒ。おかげで、立ち向かうべき恐怖を殺せた気がする」



 彼女の持つスキル『暗視』が、暗くなった草原を昼間と変わらない明るさに変化させていく。

 彼女に夜はない。

 いつも狩りをしている時間、昼間と変わらない状況がマトカリアに冷静さと集中力を取り戻させた。



 マトカリアは、じっと腹這いし続け。

 そして、ゼゼヒヒが考えた作戦が実行された。

 その作戦の内容とは。



「『ヒーリング』! 『ヒーリング』! 『ヒーリング』!」



 『ヒーリング』の効果は、対象の自然治癒力を向上させ、傷の治りを早めるスキル。

 その対象は、マトカリアではない……ギガースレオだ。

 半透明の両腕を敵に向け、静かにスキルを詠唱している。

 緑色の輝きがギガースレオの身体を包み、本来であれば回復させるのだが。



「ゥゥゥ……!?」



 痛みに耐えるように歯を食いしばり、喉の奥から小さな呻き声を漏らしていた。

 さらに激しく大鎌を振り回しているのだが、マトカリアとの距離は遠く、刃が突き刺さることはなかった。

 そもそも、マトカリア自身の姿が見つかっていないのだ。

 その間にも離れた場所から『ヒーリング』を放ち続ける。

 いったい何が起こっているのか。

 それは。



「マトカリアの『ヒーリング』を『逆転』させた。吾輩の所有する『逆転の法則』でな! おかしな光景だ。演出は回復しているように見えるのに、まさか内側から破壊されているとはな。傷つけずに殺されること……光栄に思うがいい!」



 『逆転の法則』により『ヒーリング』の効果を正反対の性質に変化させていた。

 回復はダメージに”逆転”し、ダメージは回復に”逆転”させるスキルが『逆転の法則』の効果だ。



「『ヒーリング』! 『ヒーリング』! ヒーリン……あれ、魔力が尽きた!?」



 先ほどまで、手のひらから放たれていた緑の輝きが突然消えてしまった。

 魔力が尽きてしまったのだ、スキル使用に伴う魔力が。

 もうこれでは『ヒーリング』は放てない……そんな状況に陥ったのだが。

 マトカリアは、まるで子守唄を歌うようにそっと呟いた。



「『魔力吸収』……」



 ギガースレオへ向けていた両腕に、今度は青白い輝きが集まり始めた。

 『魔力吸収』のスキルが、ギガースレオの魔力を奪っているのだ。

 吸収した魔力で、再び『ヒーリング』を放つ。

 マトカリアが持っている『回復効果UP』が『ヒーリング』の効果を高め、より大きなダメージとなっていた。







 ギガースレオの討伐が終わったころには、すっかり暗くなっていた。

 倒せたことを確認できたマトカリアは安堵し、一気に緊張が解け、草原に座り込んでしまった。



「私……倒せたんだ。あの魔物を……」

「ああ、そうだ。お前が倒したんだ、マトカリア。……いや、待て。吾輩のスキルで倒したんだから、吾輩が」

「私”が”倒したんだよね! やったー! すごい、夢みたい! Aランクハンターの魔物を倒すだなんて!」

「わ、吾輩のスキルがあってこそ……」

「私”が”やったんだー!」

「おい、なんなんだこの娘! もしかして、ちょっとヤバい奴か?」



 マトカリアは猫耳としっぽをピョコピョコと動かし、ギガースレオの皮など売れる素材を剥ぎ取り、村へと飛び帰った。

 『韋駄天』で素早くなった足で。







「ええー!? い、10000エン!? もうちょっと高く……」

「すみません。10000エンです」



 解決屋に戻り、ギガースレオの素材を買い取ってもらおうと受付に向かったマトカリアだが、万能薬を買うのに必要な20000エンに達しないことに憤っていた。

 解決屋のお姉さんも困った表情を浮かべながらも、マトカリアに提案をする。



「なら、今すぐギガースレオの素材を必要とする職人でも探しましょうか。少々お時間をいただきますが、もし見つかれば交渉で買い取り価格をより高くできますが」

「あ、あの! お願いします!」



 真夜中の解決屋は人が少ない。

 今いるハンターは、マトカリアだけ。

 解決屋のスタッフも、あの女性と奥で書類整理をしている男性のみだ。

 村の皆はすっかり就寝しており、聞こえてくるのは小さな虫の鳴き声。

 マトカリアは今にもベッドに身を投げたいほど疲労した体を動かし、近くにあった木製の椅子に座る。

 ゼゼヒヒの『憑依』は解除され、猫耳等はついていない。



「ギガースレオを倒した時、レベルアップしたんだっけ。……めちゃくちゃレベル上がってる」



 受付では女性が忙しく電話しており、交渉してくれている。

 マトカリアは、そこまで頑張ってくれることに感謝し、解決屋内に置かれている書物を取ってパラパラとページをめくっていった。







《称号『ヒーラー』を獲得できます。『ヒーラー』を表示することで、スキル『マイクロヒーリング』『回復効果UP+』『リリース』を獲得できます》

「『ヒーラー』を表示!」



 手に取っていた書物はスキルに関するものが記載され、マトカリアはそれを見ながら、称号『ヒーラー』を獲得していた。

 そう、ゼゼヒヒの『逆転の法則』を使えば回復系スキルが有効的な攻撃手段となるため、より強力なスキルを手に入れていたのだった。



「お待たせしました、マトカリア様」

「あ、はい!」



 呼ばれたマトカリアは、急いで受付に向かい結果を聞く。



「あのー、どうなりましたか」

「はい、とある方が12000エンで買い取ってもよいと」

「12000エン……それじゃ足りないんです! 20000エン……20000エンで!」



 粘り強く食い下がるマトカリアだったが、女性は横に首を振るのみだった。

 その様子が続きそうだったので、諦めることにした。



「ご、ごめんなさい。12000エンで買い取ってください」

「ありがとうございます。こちら、12000エンです」



 差し出された袋を黙って受け取り、再び椅子に座って袋の中身を確認する。

 白金貨と金貨が詰め込まれているだけあって、なかなかの重量だった。

 一枚いちまい丁寧に触れていると、どかどかと大男が入ってきた。

 スタッフが、その男に「上級監察官」と呼んでいたことから、ここの解決屋の長であることが分かる。



「明日、クラヴィス上級監察官が来られる。できるかぎり、情報はまとめておけ」

「それで森の方は、やはり……」

「ああ、このままだと……」



 スタッフと上級監察官が話し込んでいるようだが、徐々にマトカリアの耳には入ってこなくなった。

 後半の方は聞き取れなかったが、前半に出てきた名前。



「クラヴィス……様が、ここに? どうして?」



 今、解決屋ハンターの中で最も注目されているAランクハンター。

 クラヴィスの存在は英雄のような扱いになっている。

 Aランク賞金首と呼ばれる最強クラスの魔物をたった一人で何体も屠ったという噂は、マトカリアも聞いていた。



「今日は、もう寝よう。ゼゼヒヒも、どこかで寝ているだろうし」

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