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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第四章 エンタープライズ躍動編
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74 エルドラ脱出―2

「蛇足、以来だな。ここに来るのは」



 『テレポート』で【英雄の迷宮】内のエルドラが閉じ込められている場所に、俺は姿を現した。

 かなり広い空間には、あの巨大な龍がいる。

 相変わらず、黒い床と黒い壁だ。

 ところどころに生えているこけも気になるが、俺が見たいのは。



(おお! ミミゴンよ、何か食べていくか? 紅茶やお菓子も、ここで作ってやるがどうだ?)



 巨大な龍こと、エルドラは振り返って放った一言。

 案外、満喫してるんじゃないのか。

 壁際にはボロボロの機械が多数、放置されている。

 あれもスキルで作ったのだろうな。

 本当に、エルドラって何でもできるんだな。



 俺はエルドラを見ようと、顔を上げたが。

 ん? エルドラ……なんか更にでかくなってない?

 そう、前回会った時よりも一回り大きくなったように見える。



(フハハ、気づいたか! そう、鍛えたのだ! 栄養も摂って、筋トレもしてな! 全盛期とまではいかないが、段々と取り戻しつつあるのだ!)



 エルドラって意外と頑張り屋なのか。

 筋トレの成果を見せたいのか、両腕を曲げて上腕二頭筋を見せつけてくる。

 もう分かったから、と手で示してエルドラの逞しい腕を下ろさせた。

 スキルで作られた工具や、どっかから拝借してきたであろう本など散らばった床を見て、無性に片付けたくなってきた。

 エルドラが普段、どんな本を読んでいるのか気になるため、近くに落ちていた本を拾ってみた。

 表紙にタイトルが書かれていたであろう文字が古くなって読めないが、適当に真ん中の方を掴んで本を開ける。

 ん、とー……調合?

 【マルアリア治療薬】 黄花+青花……?



(ところでミミゴンよ。いったい何の用で、ここに来たのだ?)



 ああ、前に脱出方法を見つけたみたいなこと、俺が言っただろ。

 ちょっと試してみたいんだ。



(ほう。なら、試すがよい!)



 俺は右手を巨大なエルドラの足あたりに当て、一言呟く。



「『テレポート』!」



 トルフィドの村近くの草原をイメージしながら呟いた。

 そして発動し、一瞬光が過ぎ去ったと思えば、草原に立っている。

 『テレポート』は術者と触れていれば、一緒に瞬間移動できるスキルなので、それならどうかと思った……が、そう甘くはないらしい。

 俺が触れていたエルドラの姿は、どこにもない。

 視線の遠くには村が見えるのみである。



(おーい、ミミゴン! 我は、まだ動かなくてよいのか?)



 エルドラ……失敗だ。

 顎をさすりながら、俺の案が成功しなかったことを素直に受け入れ、思考する。

 俺だけが『テレポート』できたということは、やはり【英雄の迷宮】はエルドラ専用の牢獄だ。

 エルドラだけを頑なに離さない、独占欲の強い封印だ。

 それだけ強力なスキルだが、それを放った青年とやらは何者なんだ。

 そもそも、エルドラ専用のスキルってなんだよ。

 なあ、その青年はいったい。



(ぬー? そういえば、リライズの研究所で働く研究員が着る白衣姿だったな。ということは、リライズに犯人が!?)



 いや、もう何年も経っているんだろ?

 リライズの人間がやったとして、さすがに死んでるだろ。



(我は生きておるが。『不老』のスキルでな)



 何でもありな生き物だな……そもそも生き物なのか?



(失礼な! 我の心臓は今日も頑張って働いておるわ!)



 ラヴファーストといい、アイソトープといい、あの爺さんといい……

 その青年がまだ生きている可能性もあるが、現時点でエルドラの脱出を阻止しようとする奴はいない。

 仮に生きていたとして、今は傍観しているのか、あるいは見てもいないのか。

 エルドラと戦った青年は、かなり強いんだろ。



(ああ、強かったな! ラヴファーストらとミミゴンが出会った場所、あのクレーターも奴の仕業だからな!)



 『千里眼』とか遠くから見ることのできるスキルを持っていたって、おかしくないはずだ。

 確かにエルドラの存在について、国民には伝えていない。

 強大な力を持つエルドラを果たして、外に出していいのかと思うとな。



(ラヴファーストやアイソトープで、国民は化け物に慣れているだろう。我を出したって、大丈夫だぞ!)



 あと、お前……大きいし。

 どこに住むんだ、そんな体で。



(むぅー。も、もちろん努力はしておるよ。人間の体に変身して、イケメンになる努力をな。最近、ちょっとずつしわがなくなってきたんだぞ)



 なら、大丈夫か。

 脱出さえすれば、俺は仮の王をやめることができる。

 俺はさっさと、この異世界から脱出して家に帰るか。



(ところで、他に脱出方法はないのか。もしかして、もうないのか?)



 正解だ、エルドラ。



(なら、再び人型ロボットの製作に勤しむことにしよう! これで、また友達が増えるぞ!)



 もう、出なくていいんじゃないか。

 楽しそうだし。

 俺も帰るか、と『テレポート』で城に転移しようとしたとき、エルドラが話しかけてきた。



(実は我、暇なときは『天眼』で各地を旅しておるのだがな)



 『天眼』ってグーグルアース的なスキルと思えばいいのか。



(ある村で、我の飼い猫を見つけてな)



 か、飼い猫?



(ラヴファーストらと共に建国した帝国で、帝王をしておったときのだ。まさか、あいつが生きているとは思わなくてな……うぅー!)



 泣いているのか、涙声になっている。



(勝手に死んだことにして……墓まで作ってしまったのだー! 我は、なんてことをしてしまったのだ! あいつとは直接、謝りたいのだ! お願いだ、ミミゴン! あいつを……ゼゼヒヒ・オワリノハジマリを連れてきてはくれないか!)



 えっ、ゼゼヒヒ・オワリノハジマリっていうのか、その飼い猫。



(捨て猫だった、あいつを拾ってな。名前を付けるときに、側に置いてあった国語辞典で適当に開けたページから付けた名前なのだ!)



 ひどいな、その名付け方。

 勝手に付けられた猫が可哀想だな。

 どうせ、そいつもめちゃくちゃ強いんだろ。



(いや、何もないぞ。ただの”癒し”だ! ”癒し”を連れてきてくれ! 慰めてくれー!)



 つくづく思うのだが、本当に帝王だったのか。

 そんな事を思ってしまったが声には出さなかったので、泣きじゃくるエルドラには聞こえなかっただろう。

 分かった、エルドラ。

 連れてくればいいんだな、そいつを。

 そう問いかけると、エルドラは感謝の言葉を述べ、場所を伝えた。



 その村に行く前に、トウハの兄であるクラヴィスに会いに行ってみようか。

 彼は「復興支援隊」のリーダーで兵士数人と、グレアリング領の被災地に向かったんだよな。

 今も金をくれるグレアリング王の頼みだし、そもそも復興が怠け者のドワーフのせいで進んでいないということを、俺が伝えたんだからな。

 俺は『テレポート』で移動……と思ったが、グレアリング王に被災地を教えられただけで、直接行ってはいないから歩いて向かうことにした。

 ……その前に、エンタープライズに戻って、出発することを伝えないと。

 そうしないと、国民が反乱を起こしそうだからな。

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