73 エルドラ脱出―1
俺はミミゴン。
日本で大活躍だった元ものまね芸人で、転生……という現象が起こったらしい。
結果、魔法とかレベルとか、ゲームの世界に似た「異世界」で生きることになった。
死因:不明。
名前:不明。
ミミゴンという名前は、この異世界に来てから付いたもので、日本で暮らしていた時の名前は忘れてしまった。
忘れたことといえば、友達がいたはずなのに名前が思い出せない。
お笑いの師匠がいたはずなのに、名前が出てこない。
完全な記憶喪失というわけではないが、主に名前に関して全然憶えていないのだ。
だが、別に困ってなどいない。
異世界に来た当初、すぐに帰りたい気持ちがあったが、今では異世界も悪くないなと思えている。
だって、一国の王だし。
なんてことを脳内で語っていたのだが、相変わらず暇だ。
俺は超縦に長い王城の最上階にある玉座の間で、やたらと大きい玉座に腰かけて数時間。
いや、腰かけてというのもおかしい。
俺の体は”人間”ではなく”機械”だからだ。
形は、宝箱に8つのプロペラを付けたドローンだ。
オクトコプターというらしいが、実際にプロペラを動かして飛ぶこともできる。
サイズはどうなのかというと、普通に小さい。
上手い例えが出てこなかったが、分かりやすく言うと、宝箱の部分が学校の机ぐらい。
重さについてだが、結構重いらしい。
……色々と説明していたが、要するに玉座に”置かれている”という表現が正しいはずだ。
椅子に座布団をのっけるみたいな……ちょっと違うかもしれないけど。
とにかく言いたいのは「何時間もここにいて暇だ」ということだ。
「ミミゴン様は休んでいてください!」というセリフを今日、何回聞いたことか。
ここのところ、俺だけ城の外に出て”外交”したり”戦闘”したりしたから、国民からすれば何も役に立っていないと思ったのだろう。
そういうわけで、側にメイド二人が控え、玉座に置かれている……というよりも監視されている。
「よし、じゃあ出かけようかな」
その言葉を発した途端、両側から薙刀の刃が目の前に迫る。
薙刀を突きつけているメイドはニコッと笑って。
「ミミゴン様は動かなくて結構です! 今度は私達が、この国を支えますから!」
なんか国が乗っ取られた感じだ。
この感じだとトイレにも行けないんじゃないか、という気迫に満ちている。
まあ俺には幸い、排尿機能とかはないのでトイレの必要はないが。
うん? 『テレポート』を使え、だと?
使いたいけど使えないんだよ……こう言葉に表せないけど、そうなんだ!
けど、ここから出てもやることないしな。
(バカモノー! 我がおるではないか、我が!)
あ、エルドラか。
(我の目的を忘れたのか! 国づくりだけじゃないぞ!)
そういえばそうだったな。
おい、と脳内に聞こえてきたが、すっかり忘れていた。
この異世界で最初に出会ったのが、最強の龍人と名乗っているエルダードラゴンのエルドラだ。
ちなみにミミゴンという名は、エルドラが名付けたものだ。
この機械の体も、元はエルドラを閉じ込めている【英雄の迷宮】から脱出するために開発されたロボットなのだが、なぜか転生の際、魂が乗り移ったようだ。
そして、エルドラの目的とは。
ちゃんと覚えているよ。
平和の国づくりと、エルドラの脱出だろ。
『念話』というスキルで、直接エルドラと会話している。
(分かっているなら、よい! それより、我の脱出方法はどうなったのだ)
今も、オルフォードが調べているはずだが。
そうだ、これならメイドも自由行動を許してくれるかもしれない。
(なら、即実行だ! 待ちくたびれておるのだぞ!)
じゃあ、後でな。
『念話』を切り、次はオルフォードに『念話』を繋げる。
すぐに繋がり、老人の声が脳内に響く。
(なんじゃ。こっちは部下に仕事を取られて、暇なんじゃ!)
もしかして、お前もなのか。
オルフォード様は働きすぎですから、部下にお任せください! とでも言われたのだろう。
付き合いは短いが、言動からして気の短いオルフォードが素直に折れるとはな。
(どうしてもと言うからじゃ。それより用件を言え! 用件を!)
用件は、解決屋で手に入れたエルドラの脱出方法だ。
どうだ、どこまで調べられたんだ?
(そんなの、とっくに終わっとるよ)
終わってたんだ、いつのまに?
いや、聞かなくても分かる話だな。
それで、情報は!
(ガセを取り除き、可能性のある情報だけを、ピックアップしておいた紙を持ってる。取りに来んかい)
いや、ちょっとな。
重要な件で話に来た、とかで俺のところに来てくれない?
上手い事、口実をさがしてさ。
(……しょうがないのう。ワシも自由になりたいとか、そんなんじゃないからな)
いちいち言わなくていいんだよ、そういうこと。
「帰ってきたな、俺の故郷!」
(我の牢獄でもあるがな)
オルフォードに玉座の間まで来てもらって、色々とあってメイドから解放され、現在に至っている。
ちなみに姿は人間で男だ。
真っ白な石材でできた巨大な建物であり、綺麗な彫刻も施されている。
巨大な扉にもたれかかって『異次元収納』から一枚の紙を取り出す。
オルフォードから渡された一枚の紙。
そこには、今いる【迷いの森】の中心部分に存在する【英雄の迷宮】に関しての情報が寄せられていた。
といっても一般人は【英雄の迷宮】という名前を知らないので、代わりに謎の建物と表記している。
(それで、ミミゴンよ! 何か分かったか? 我は、もうワクワクしておるわ!)
今、読んでるから静かにしてくれ。
上から下まで、びっしりと字が敷き詰めてあったが、要約するとだ。
『この建物について』
『謎の建物:扉の開閉方法』
とりあえず、この紙に記されていた二つの情報にタイトルを付けて、一つひとつエルドラにも分かりやすいよう簡単に説明していく。
(我をバカにしておるのか?)
さて最初の『この建物について』だな。
恐らく、この謎の建物全体はスキルによって造られたものだろう。
それも『石材加工』『建築設計』などといった、いわゆる一般的に使用されている建設系スキルでできた建物ではなく、もしかすると究極スキルといわれる『創造』でできた建物かもしれない。
これほど繊細で、きめ細やかな石材……この世の物とは思えないほどだ。
スキルと断定したのも、私が普段使っている建築素材を調べるための道具で調べた結果だ。
見た目は石材で出来ているように見えるのだが、結果は『不明』とのことだ。
この道具は世界に存在する、あらゆる石、宝石類はもちろん、木材から動物の皮に至るまでだ。
もちろん未発見の素材もあるだろうが、それでもデータ量は凄まじいのだ。
私、リライズの建築士からは以上だ。
じゃあ、次は『謎の建物:扉の開閉方法』だ。
【迷いの森】での狩りがあったので、ついでに元学者としての調査結果を伝えようと思い、ここに記した。
グレアリングの学校で習った中に、世界の建物という内容があったのを思い出す。
詳しい説明は省くが、これは恐らくスキルによって造られた建物だろう。
というのも、今は存在しない旧都テクニークの中心にあった建物の質感にそっくりだからだ。
数少ないが世界にはスキルだけで建設された建物がある、と習いました。
自分は旧都テクニークの建物しか頭にないので、これを例に挙げさせていただきます。
直接、見た感じでは教科書に載っていた旧都テクニークの写真と似ています。
そして巨大な扉ですが押しても引いても、びくともしない。
乱暴ですが、魔法を放ったり、自分の武器であるハンマーで叩いたりしたのですが、それでも開けることができませんでした。
可能性としては、何らかのスキルによる開閉でしょう。
自分からは以上です。あと、金ください。家族がいたら、たぶん泣くくらい厳しい生活です。彼女もいませ……。
最後、何書いてんだこいつ。
急に現実、叩きつけてきやがった。
そもそも依頼料的なものは振り込まれているのか?
(依頼料なら、もう払っている。確か、情報提供者には、ほんの少しだけ依頼料が支払われる。もし依頼者が個人的に払いたいなら、情報提供者を紹介するというシステムだったか)
一応、ガセでも金は手に入るのだな。
後で使いの者でも派遣して、金渡しておくか。
最後の情報提供者が可哀想だし……五年経ってるけど。
とりあえず、まとめるとエルドラを出すことはできないということだな。
(おい!? ミミゴンよ! 分かってないのか、スキルだ! 何かのスキルを用いれば、そこの扉は開くのだ!)
だけど、スキルといっても何のスキルだよ。
困ったときの助手、ということで何か案はあるか?
〈さあー? ただ、この建物は『永遠なる牢獄』という究極スキルで造られていますねー〉
【英雄の迷宮】と呼んでいるが『永遠なる牢獄』というスキルなのか。
(あっ【英雄の迷宮】というのは、当時死闘を繰り広げた青年がそう呼んでいたのだ。なぜスキルと違う名で呼んでいたのかは不明だが。それにしても厄介だったな)
永遠なる牢獄なんだろ、脱出は諦めた方がいいんじゃないか。
(諦めろだと!? うん……そうか、潔く諦めるか)
本当に諦めるのかよ。
ダメだろ、コロッと考えが変わっちゃ。
(そうだな! ミミゴンの言う通りだ! 諦めぬぞ!)
じゃあ、そのままの考えで貫いてくれ。
なあ、エルドラ久しぶりに会いに行ってもいいか?
(なに!? 今から、こっちに来るのか!? 我が「入っていい」というまで『テレポート』するのではないぞ! 色々と片付けなくては!)
しばらくして『念話』でエルドラから「入っていい」と許可が出たので『テレポート』で入ってみた。




