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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第三章 リライズ決然編
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70 名無しの家:ミミゴン―21

 弱々しい声を出しながら、目を開ける。

 知ってる天井、俺の部屋か。

 ドローンの形をした機械は、ベッドに乗せられていた。

 どこからどう見ても、寝ているとは思えない光景だ。

 子供が飽きて、ベッドにおもちゃを置いていくような感じ。



「お目覚めですか、ミミゴン様」

「やっと、起きた! 大丈夫ですか、ミミゴン様!」

「ニコシアと、テンションの高いレラか。ちょっと声量を下げてくれ」



 冷静ながらも喜ぶニコシアに対し、レラははしゃぐ子供のような声で迎えてくれた。

 脳はズキズキして気持ちが悪いし、羽を回して空中に飛び上がろうとするも、羽が回転しなかった。

 故障したドローンみたいだな、俺。

 そんな俺を最初から分かっていたかのように、ニコシアは車椅子を持ってきて、レラは俺を座面に乗っける。

 あー、車椅子か……。

 そして、レラが車椅子のハンドルを握って押していく。

 ホイールが回転して、移動を始めた。

 コトコトとゆっくり進む間に、混乱している脳内の整理を始めた。

 結局、どうなったんだ。

 あれから一日、経った。

 名無しの家は無事なのか。

 ドワーフ達を、ちゃんと兵士が守ってくれたのか。

 ラヴファーストは、あの化け物を倒したのか。

 エンタープライズを襲撃してきた傭兵集団を撃退できたのか。

 とにかく心配事が脳内を支配していった。



「階段ですから、衝撃に耐えてくださいね」

「うー、分かった……いや、分かってなーい!」



 あの超長い階段を車椅子で駆け下りていくらしい。

 俺の部屋は、縦に長すぎる城の最上階に位置する。

 ちょっと待て、おい、レラ!

 なに準備運動してんだ!

 こうなったら。



「ニコシア! 俺を抱えて階段を」



 ニコシアも、ウォーミングアップを始めていた。

 そんなのしなくていい!

 俺を抱えて降りるだけでいいから!

 叫んでも二人の耳には届いていなかった。

 見るからに楽しそうな二人は、いよいよ車椅子についている車輪を片方ずつ持って、屈む。

 そして、飛び上がって吹き抜けを落ちていく。

 いや、豪快だな!

 てっきり車椅子を走らせて階段を勢いよく駆けていくのかと思った。

 それも無茶な考えだ……が。



「これも、まあまあ無茶じゃないか!」

「『フェザー』!」



 ニコシアは地面に激突する前に、スキルによって落下速度を下げ、ゆっくりと降り立った。

 二人はこちらを見て「ほらね、大丈夫でしょう」と言いそうな目を向けてくるが。

 俺がおかしいのか。

 この世界では普通の事なのか。

 よし、気にしたら負けだな。







 城を出ると、空は真っ暗だ。

 雲一つない澄み渡った星空だった。

 何より気になるのは、目の前には多くの丸テーブルが並べられ、側には椅子も設置してある。

 そして、多くの人。



「あっ、ミミゴン様!」

「ミミゴン様がお目覚めだ!」



 口々に「ミミゴン様!」と喜ぶ声が響き渡る。

 これは、パーティーでもやろうってことか。

 困惑した俺にアイソトープが近づいてきて、説明してくれた。



「これがエンタープライズのパーティーですよ。目が覚めましたか」

「ってことは、やり遂げたんだな」



 レラは車椅子を動かして、近くの椅子に近づけ、俺を持ち上げて座らせた。

 座らせたというより乗っけた。



〈ミミゴンー、モブキャラみたいな人間なら『ものまね』できる気力がありますよー〉



 助手か、なんだか久しぶりに聴いた気がする。

 それほどに疲れたということか。

 それとも、本当にそれだけ眠っていたのか。



〈そんなわけないでしょー。さー楽しんでくださいねー。私も一人でパーティーしますからー〉



 お前、どっかに住んでるのか。

 そんなわけないか、スキルだしな。



〈じゃあ、またー〉



 冷静な物言いで、助手の声が去っていった。

 はぁ、可愛げないなぁ。

 一緒にパーティーできるといいんだがな。

 変わったスキルだ、まったく。



「ミミゴン様、宴始めましょうよ!」

「さっさと飲みたいってか。わかった、わかった」



 話しかけてきた男の『ものまね』をして、姿形を変化させる。

 それから立ち上がって、全員の注目を集める。

 話し声も雑音も全くなく、静かになった。

 皆は俺の方を見て、言葉を待っていた。



「みんな、ありがとう。何に対しての”ありがとう”なんて、今は考えなくてもいい。それより……宴の始まりだ! 全力で楽しめー!」

「「「おおおー!」」」



 一斉に歓喜の声が響き、皆にとって今日は素晴らしい一日となったはずだ。

 ある者は香ばしい匂いに包まれた肉を豪快にかみつき、酒を流し込む者もいる。

 子供たちもテーブルにのった料理を片っ端から、がっついていく。

 のどが乾いたらジュースを飲む。

 そして、喜び合う。

 言葉で伝えて、心で伝えて、顔で伝えて。

 大人たちもそうだ。

 肩を組んで、これでもかと酒を呷る。

 生きて帰ったこと、エンタープライズという家が守られたこと。

 ありとあらゆる大成功を互いに喜んでいる。



「たくましい奴らだな。王様が目立たないぜ」

「そんなことないんじゃないか、ミミゴン」



 独り言のように呟いた一言を聞いて、俺に向かってきたのは。

 げっ、テル・レイランか。



「だ、誰かな。兵士にいたかなー」

「とぼけんじゃねぇよ、王様。あの時、傭兵だって嘘ついたミミゴンなんだろ」

「あれ、誤解……解けたのか?」



 サカイメの街を防衛した時、共に戦った(?)テル・レイランだが、とっさに傭兵って名乗ってごまかしたが。

 傭兵という職業が嫌われている世界だし、何よりこいつ自身が物凄く毛嫌いしていた。

 誤解を解こうと思っていたが、いつの間にか解けていた。

 遠くにいたトウハの方を向いて、声を上げる。



「おーい、トウハ!」

「なんだよ、テル」

「レイランでいいって言ってるだろ」



 いつの間にか、仲良くなっているぞ。

 レイランは隣の席に座り、色々話し始めた。



「まさか、王様やってるなんてな。それに姿形変えられるって本当なんだな」

「二人とも、いつ仲良しになったんだ」

「戦場でな、気が付いたら意気投合してたんだ」



 と、レイランが言う。



「で、俺のライバルになったんだぜ」

「トウハのライバルがレイラン? いいじゃないか」

「ああ、ライバルがいれば互いに研鑽しあって強くなれるって聞いたからな」



 トウハのやつ、いつもにも増して嬉しそうだな。

 いつも怖い顔が笑ってやがる。

 楽しいなら、それでいいんだ。

 この二人、面白いことが起きそうだ。

 黙って話し合う二人を見つめて、酒をちょびっと飲む。

 アルコール類は控えていたからな。

 酒を飲みすぎるなと師匠は、よく言っていたからな。

 しかし『ものまね』して人間の体とはいえ。

 どうなんだろう、ちゃんと分解できているのか。

 そもそも酔うのか?



「二人で話したいことがあるみたいだから、俺は抜けるぜ」



 トウハはそう言い残して「シアグリース!」と叫んで別の席にいる青年に走っていった。

 それにしても、話したいことってなんだ。

 レイランの緩んだ表情が、一気に硬くなる。



「俺、傭兵がどんだけ嫌いか。もう分かっているよな」

「ああ、豹変したものな。傭兵って言っただけで」



 傭兵に関して、トラウマになったような過去でもあるのかと思うぐらいだ。



「俺の故郷は【マギア村】ってとこで、そこで生まれたんだ。そこは人里離れた場所にあってな、そう簡単にはたどりつけねぇ村だ。なんせ、村全体に認識阻害の結界を張っていたからな」

「つまり遠くからは村が見えないってことか」



 そんなスキルがあるとはな。

 いや、まあ『透明化』とかあるみたいだし。

 ある意味、悪いことし放題な世界だな。



「ていうか、なんで結界を?」

「マギア村にいる者は全員、人間と……魔人のハーフなんだ」

「人間と魔人のハーフか」

「大昔、テルブル魔城を抜け出した一人の魔女と人間が生み出した存在なのさ。だから、俺は魔法が使いこなせるし、剣に魔法を付与させる『魔法剣』というスキルが使える」

「強すぎる存在だから結界で隠そうってなったのか」

「違うさ。人間と魔人の混血だからだよ」



 言い切るように言葉を吐き出し、グラスに入ったアルコール飲料を一気に呑みこんでいった。

 まるで自分から酔いたいと思っているようだ。

 そうでもしないと話が進まないからだろうか。

 それは、つまり。



「悲劇さ。どうやら世界の常識には違う種族と交わっちゃいけないらしい。おかげで、村の人間が外に出たら敵だらけ。もちろん、マギア村の人間だってバレたらな」

「なのに俺に打ち明けた。いいのか、そんなことして」

「ダメに決まってるだろう。だけど、ミミゴンなら味方にまわってくれるはず。そうだろう?」



 まあ、恐ろしいとも何とも思わんからな。

 それに、俺に世界の常識は伝わってないから、差別する気すら全くない。

 そうして打ち明けたレイランの表情は、どこか泣きそうだった。



「外の人と仲良くなれるなんて思いもしなかった。俺は一人でずっと……探し続けるだけだと思っていた」

「寂しかったんだな。村の人間とは友達になれなかったのか」



 と茶化して言ったが、どうやら禁句に等しい言葉だったようだ。



「もう村の人間とは会えないんだ。あの頃の友達はな」

「何か、あったのか。すまん、聞きすぎたな」

「いや、今日で全部吐き出させてくれ。せめて、ミミゴンの記憶にいさせてやってくれ」



 今度はビールの入ったグラスを取って、胃に流し込む。

 さすがに飲みすぎじゃないかと注意しようと思ったが、言うに言えなかった。

 悲しそうな表情を浮かべていたからだ。



「ある日、村が襲われた。結界は破壊され、外から人が押し寄せてくる。家は焼かれ、抵抗する者は容赦なく殺され、子供たちを奪っていく」

「いったい、誰がそんなことを」

「……傭兵だ。それも村を出て、8年で分かったことだ。そう、長年求めていた答えが見つかったんだ。解決屋ハウトレットでハンターしながら、復讐に支配される毎日を生きてきて、8年目だ」

「情報屋でもある解決屋でいたのか、知ってる者が」

「元傭兵だって名乗ったそいつが、酒場で『昔、マギア村で盗んだ宝だ』と叫んで周りに自慢していやがった。あとで、そいつに『良い店知ってるんだ』って言って人気のない所に誘って、ボコボコにして吐き出させた」



 拷問だな。

 だが、元傭兵が可哀想とは思わなかった。

 確かに、この世界の傭兵は最低の職業だ。

 故郷を失くして、復讐に募らせる日々を送っていると思うと、あまりにも残酷な人生だ。



「その村を襲うよう、指示したのは……ラオメイディアだ」

「ラオメイディア……」



 傭兵にならない? とスカウトしてきた気持ち悪い笑顔の龍人か。



「『VBV』という傭兵派遣会社の社長、だよな」

「よく知ってるな。まあ、あいつの存在は裏では有名だからな。それに傭兵派遣会社の社長なんかじゃねぇ」

「えっ、社長じゃない? あいつは確かにそう名乗っていたが」

「社長なんてものじゃない。『VBV』の他にも様々な傭兵派遣会社があるわけだが、その全ての元締めがラオメイディアだ。つまり、全ての傭兵派遣会社は奴に繋がっているわけだ」

「で、レイランはラオメイディアへの復讐するのか」



 迷うことなく、頷いた。

 もう復讐することが生きる動機になっているみたいだ。

 もちろん復讐なんてすべきじゃないと考えている。

 奴の会社名も「暴力が暴力を生む」と言っている通り、復讐は復讐を生む。

 ある意味、無限ループに近いのだ。

 ラオメイディアを殺したところで、別の人物に復讐心が宿り、今度はレイランが狙われる。

 そう思うと、止めたい気持ちだが。

 彼の復讐を止める勇気がなかった。



「俺は毎日、奴を殺すために心血を注いでいる。復讐して、やっと友や村の人間が天国に逝ける。だがな、まだ恨みを抱え続けているようで、村のあった場所に魔物として存在しているそうだ。それは強力な魔物らしく、攻撃そのものが効かないらしい。複数のハンターが、そこへ向かったが誰一人として帰ってきた者はいない。だから、俺がラオメイディアを殺して、ちゃんと報告しないとな。そしたら、成仏っていうんだろうか……まあ、魔物は消えるはずさ」

「そうか。何か情報を掴んだら、報告しよう」



 そう言って、彼を励ました。

 これ以上、話すことはやめようと思った。

 せっかくの宴だというのに悲しい気持ちになるのはな。

 レイランは全て吐き出せて良かったという表情を浮かべて、立ち上がった。



「ミミゴン様、聞いてくれてありがとうな」

「様ってつけなくていいさ。どうだ、スッキリしたか?」

「ああ、最後にミミゴンと会えてよかった。それと、ラフレシアビュースから俺を救ってくれてありがとうな。感謝が遅れてしまった」



 頭を下げるレイランに対し、何かできることはないかと考えていると、一つ名案が出てきた。



「お前、エンタープライズの住人にならないのか? 毎日楽しいし、トウハが修行に協力してくれるはずだぜ」



 少しは迷う素振りでも見せてくれるのかと期待したが、そんなことはなくただ冷淡に。



「誘ってくれるのは嬉しいが、俺にはやらなきゃいけないことがある。それが終わったら、ここにくるよ。じゃあな」



 言葉を置いていくかのように言い放つ。

 酔ってはいたが千鳥足になることなく、しっかりと歩いて、リライズの方角へ去っていった。

 サカイメの街まで歩いていくのだろうか。

 まあまあな距離があるから『テレポート』で送ってやろうと思ったが、嫌がりそうだ。

 あいつなら魔物に襲われても倒せるだろう。

 思ったより強いみたいだからな。



 エンタープライズに住んでくれれば、安定した毎日が手に入る。

 修行もできて、友も得るだろう。

 だが、それよりも彼の復讐心を失くしたいと思って誘ってみたのだが、断られた。

 どうにかしないと、まずいのではないかと心配したが、いや信じるべきだと思って、一気に酒を呷った。

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