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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第三章 リライズ決然編
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68 名無しの家:ラヴファースト―19

 人の身長を優に超える巨体、手足、翼。

 銀色に輝く翼に光が当たれば、反射するほどの光沢。

 周りには、光の玉を複数浮かせて、鋭い目で隙を窺っている。

 奴の名は『アンビバレンス』。

 対して、立ち向かっているのは手に刀や矛など合わさった形状の武器『刀槍矛戟』を持ち、メガネをかけたスーツ姿の男。

 ラヴファーストが、名無しの家を庇うようにして上空に浮かぶ『飛翔刀』の上に佇む。



「なかなか、しぶとい奴だ。だが、久々だな。こんなにも長期戦になったのは」



 昔の記憶を脳内に描き出し、色々な思い出を振り返りつつも、必ず倒すという闘争心を高めていた。

 睨みあっている両者の下では、街のあちこちで爆発や倒壊が発生している。

 魔物が現れ、兵士に攻撃して、巻き込まれた建物が音を立てて崩れていく。

 トタン屋根が目立つ街で質素な家が多かったが、それでも家なのだ。

 家族が住む家が次々と破壊されていく。







 ここで、アンビバレンスは動く。

 ラヴファーストは『刀槍矛戟』を持ち上げ、刃を敵に向ける。

 アンビバレンスは、刃物のような手を振るって、光の玉がはじけ飛んだ。

 『光爆球』は触れれば、爆発するというシンプルなスキルだが、秘めた爆発力はこの上ない。

 一球でも通してしまえば、名無しの家は無残な最期を遂げてしまう。

 『打消しの意志』を纏わせ、全ての『光爆球』を無効化を図った。

 広範囲に散らばった球体へ『飛翔刀』を最速で向かわせ、振り抜いて消滅させては、次の球体へと移動する。

 もちろん『光爆球』が、名無しの家に落ちるまでに『刀槍矛戟』を振るい続ける。

 その間も、奴は黙ってはいない。

 隙間を巨体が縫って、ラヴファーストに突進してくる。

 『飛翔刀』が瞬時に回避し、ラヴファーストは変わらず破壊させていく。



 突進をかわしながらもようやく、全ての『光爆球』を消し終わり、再び向かいあう。

 だが、さっきと違うのはラヴファーストの表情は余裕のある笑みを浮かべていた。

 なぜなら、局面を打開する朗報が起きたからだ。



(奴の詳細情報を解析できたぞ。確認してくれ)

「はやいな、オルフォード」



 名前:アンビバレンス

 レベル:318

 種族:『神聖幻獣』

 称号:『バハムート』

 耐性:『パーフェクトボディ』

 戦闘用スキル:『転生召喚獣(戦闘用)』

 常用スキル:『転生特典(常用)』

 特殊スキル:『転生特典(特殊)』

 究極スキル:『絆』『想い出』『神風』『エグゼクションレーザー』

 アンビバレンス:(文字が歪み、解読できない)の転生特典として存在する、究極召喚獣。命令をその都度、書き換えることができる。『エグゼクションレーザー』を放つと一定時間発動不可、行動不能。主人とは……。



 これらの情報の他に、脳内へ次々と過去の情報が流れ込む。

 最も見ている暇はないので無視して、奴の弱点を確認する。

 なるほど、奴の心臓きゅうしょはそこだな。

 アンビバレンスの首辺りに赤く光る魂が見えた。

 急所を確認し、オルフォードに礼を述べる。



「ご苦労だった。ゆっくり休むといい」

(まったく……礼の言葉が足りんぞ。まあ、甘えさせてもらうとするかの。じゃーはっはっは!)



 奇妙な笑い声をあげて『念話』は途切れた。

 弱点は首。

 だが、今の武器では奴の分厚い攻撃で邪魔されるだろう。

 なら……武器を変えるだけだ、より強い武器に!

 『刀槍矛戟』を空中に離し、浮遊させる。

 両手で待つように広げる。



 ラヴファーストが乗る『飛翔刀』の下――草が生えていないまっさらな地面――に多数の黒い魔法陣が展開し、そこから飛び出てきたのは。



「やっと召喚できたか。『伝家宝刀』……」



 右手に握った『伝家宝刀』は小さな刀、一本だけだった。

 『召喚刀』で唯一喋ることのない刀だが、代わりに発しているのは『ピーピー』という電子音だ。

 もちろん『伝家宝刀』は、この刀だけではなかった。

 瞬きする暇もないほど、魔法陣から多種多様な刀、剣が召喚されていく。

 その刀剣は最初に握った小刀を包むようにくっついていった。

 小さな刀を中心にし、刀が寄せ集まっていく。

 ガチャガチャと金属どうしを擦りつける音を出しながら、徐々に徐々にと大きくなっていく。

 やがて、最後の1000本目の刀と合体し、出来上がった『伝家宝刀』は巨塔のような存在感を放つ、もはや刀とは呼べぬ物となっていた。

 複数の刃を身に着けた『伝家宝刀』を、ラヴファーストは軽々と前に構え気を高めていた。

 『伝家宝刀』はラヴファーストの必殺技にあたる最強の『召喚刀』。

 それゆえに相当の詠唱時間を要し、また再詠唱時間も相当である。

 また『伝家宝刀』には制限時間も要され、長くは保てないのだ。

 それらの犠牲を経て生み出された『伝家宝刀』は、誰にも止めることのできない最強武器だ。



(がーはっはっは! いいぞ、ラヴファースト!)

「エルドラ様!」



 実に楽しそうな笑い声を発したのは、エルドラ様だった。

 『念話』で励ましてくれるのだ。



(あの頃の栄光を取り戻すぞ! 解放してやれ! 『七生報国』の一人、無敵の剣士ラヴファーストとして!)



 まだ、エルドラ様が真の王として君臨していた過去が蘇る。

 『七生報国』というエルドラ様の側近だった頃を誇りに思っている。

 敵なし負けなしの剣士ラヴファーストと呼ばれ、エルドラ様と共に戦った過去を懐かしいと思うと同時に、沸々と湧いて溢れる勇気を伴い、目は奴の急所に鋭く向けられていた。



「覚えておけ、アンビバレンス。お前を倒すのは……この『七生報国』である、ラヴファーストだ!」



 左手をクイッと振り『刀槍矛戟』『私護刀』『孤軍奮刀』を、アンビバレンスに飛ばした。

 三刀は全力を振り絞って、主人が企てた計画を達成するため、空を突っ切る。

 加速する勢いで、アンビバレンスの肉体に突き刺さり、動きを制限させた。

 アンビバレンスは身をよじって、何とか動こうとするが深く突き刺した刀が行動を阻止している。

 『伝家宝刀』の切先を、無意味な抵抗をするアンビバレンスの喉仏に向け。



 そして、解き放った。

 『飛翔刀』の加速と『伝家宝刀』の鋭利な切先、ラヴファースト自身の力が、アンビバレンスの首に穴をあけ、しばらくしてアンビバレンスの肉体は光の粒子となって、空に爆散する。

 静かな蒼い空に朝日がもたらす日光を光の粒子が反射し、すっかり辺りは輝いた。







「エンタープライズの”夜明け”だな……」



 『伝家宝刀』は制限時間を過ぎたことで一本、また一本と消えていく。

 『刀槍矛戟』や『私護刀』、『孤軍奮刀』もまた光を放ちながら消えていくのだった。



『お役に立てて、幸せでした! ご主人様!』

『また召喚してくださいねぇ。待ってますよぉ~』

『あの、その……一緒に、戦えて、寂しくありませんでした! この思い出を忘れずに、ずっと待っています!』

「また、頼むぞ。さあ、ゆっくり休め」



 ラヴファーストが告げて、三刀は消えた。

 『飛翔刀』は泣き声を出しながら、ラヴファーストを乗せて地上へと降りていくのだった。

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