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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第三章 リライズ決然編
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66 名無しの家:軍隊―17

 トラックから、いの一番に飛び出すと、名無しの家に入ろうする魔物の群れへ突っ込んでいく。

 片手に大斧を携え、足に思いっきり力を入れ、一気に蹴り上げ空中へ舞い上がった。



「俺様が通る道だー! 退きやがれー!」



 『衝撃波の意志』を斧に纏わせ、振り下ろす。

 塊の中心ではじけた斧が、辺り一帯の魔物を吹っ飛ばしていく。

 犬型の魔物や人型の魔物も重量なんてないかのように、まとめて空中に飛ばされた。

 さっきまで魔物でひしめき合っていた場所で華麗な着地を決めたのは。



「このトウハが、名無しの家を救ってやるぜ!」



 赤いネクタイ、黒のスーツを身に着けている鬼人トウハだった。

 2本の小さい角を生やし、幅の広い刃を付けた大型の戦斧を肩にのせて歯を見せ笑っている。

 なぜなら、ラヴファーストに鍛えられた力を存分に発揮できる場だから。



「よっしゃー! 突っ込むぜー!」

「待ってください、トウハさん! ちゃんと、僕の指示を聞いて下さいよ!」



 ラヴファースト直属の軍隊をまとめる指揮官シアグリースが、トウハを制する。

 トウハだけでなく、シアグリースや他の兵士もスーツで身を包んでいた。

 スーツ姿が並べば、素晴らしい統一感である。



「各班、散らばってくれましたね。ここから本番ですよ!」

「暴れてーんだよ。行くぜ!」

「一人で行動しないでくださいよ! トウハさん、優秀なのに」

「そもそも俺の方が優秀なのに、なんでお前が指揮官なんだよ!」



 トウハの叫びにシアグリースは呆れ、さっさと走っていく。

 更に怒ったトウハが追いかけ、戦場へと足を踏み入れていった。







「上空ではラヴファースト様が、こちらに被害が及ばぬよう、アンビバレンスの気を引いてくれています! 今のうちに僕たち1班2班が避難所となっている工場へ向かい、住人をエンタープライズに誘導しましょう! その他の班は全体に散らばり、魔物の殲滅を目指しましょう!」

「よーし、俺が魔物を蹴散らすぜ!」

「頼みますよ、トウハさん!」



 シアグリースが駆け抜けながら『念話』で全班、再度確認し作戦を開始する。

 トウハは大斧で次々と魔物を掻っ捌いていく。

 その光景に班員は驚き、同時に闘争心を燃やす。

 皆、それぞれが得意とする武器を手にし、闊歩していた魔物と交戦していく。

 シアグリースも心の奥底では闘争心が現れ始めていたが、工場へ向かう道中は既にトウハによって魔物が骸と化していた。



 遠くには、雄たけびを上げるトウハが魔物を討伐している。

 レベル63のトウハさんに敵う相手なんて、そうそういないだろう。

 そもそも、僕ら軍隊の平均レベルが45ぐらいなのだ。

 その辺を偉そうに暴れる魔物で、だいたい20~30レベル。

 Aランクの解決屋ハンターが相手する魔物で40レベル、せいぜい60ぐらいだ。



 この前レベル90とかいう魔物を、ラヴファースト様が訓練の一環だと言って強引に戦わされた。

 失禁なんて朝飯前で、気絶した兵士が山ほどで訓練にもならなかった。

 僕も怯えながらも武器を構えていたのを覚えている。

 いや、構えていただけで何もできなかった。

 いつもトウハさんと、クラヴィスさんが何とかしてくれていた。

 無茶苦茶な訓練ばっかりだけど、おかげさまで元村人の僕らがこうして魔物に立ち向かえている。

 村に住んでいた頃なんか、武器を持って戦うことなんかないと思うぐらい臆病者だった。

 いや、ここにいる皆がそうだ。

 鬼人たちのように日々、戦いなんて生活ではなかった。

 村で畑を耕し、農作物を生産し、育てば街へ売りさばきにいくレベル1の村人だった。

 街へ出かけるときには当然、魔物がいる道を通るわけだから、毎回襲われないか不安で仕方がなかった。



「でも、今はレベル43。神父のノウアさんが、エンタープライズに連れていったせいで……」

「何、暗い顔してるんですか! 指揮官がそんなのじゃあ、ついていけませんよ!」



 幼馴染のヴィヴィが励ましてくれる。



「……そうだね! ヒーローに相応しくないよね!」



 彼女は兵士の中の紅一点だが、ただの女性と侮ってはいけない。

 回復系スキルを重点的に習得しており『ヒーリング』や『マイクロヒーリング』はもちろんのこと、状態異常の回復スキルも覚えており、ハッキリといって戦いにはあまり向いてはいないが、治療者ヒーラーとして必要とされている。

 彼女以外にもヒーラーはいるのだが補助系スキルも習得していたり、彼女自身の適応力が素晴らしく、全兵士からも頼りにされている。







 そうこうしている内に、目的地の工場前に到着した。

 魔物は、やはり先を進んでいたトウハが倒していたが、それよりも。



「おい、てめぇ! 助けてやっただろうが! ちったー感謝しやがれ!」

「俺の『魔法剣』があったから、奴は倒せた。獲物を横取りしてきたのは、そっちだろう」

「ふざけんな! だいぶ苦戦してたじゃねぇか!」

「してねぇなー。このテル・レイランが、苦戦なんかしたことねぇんだよ!」

「ど、どうしたんですか」



 喧嘩していた二人を抑えようと、話に加わる。

 今は喧嘩している場合じゃないんだけど。



「聞いてくれよ、シアグリース。こいつがピンチになっていたところを俺が助けてやったんだ。それなのに礼の一つもしやがらねぇ」



 トウハがそう話しながら、指さした方向には巨体の魔物が転がっていた。

 どちらが討伐に貢献したかを争っているのか。

 そう考えると、自然にため息をついた。

 火花を散らす二人を宥めようと、シアグリースが話に加わる。



「いいですか、お二人さん。今は名無しの家を救うため、戦うのでしょう。こんなことで無駄に体力を消費しないでくださいよ」

「うるせぇ! ハッキリ白黒つけねぇと気が収まらねぇんだ! おら、かかってこい!」

「ちょっと、トウハさん! 大人になってくださいよ!」

「そんなに幼く見えていたのか? もうとっくに成人してるぜ」

「だいぶ幼いですよ、精神年齢が。それと、えーと……」



 トウハの挑発にまんまと乗り、剣を構えている男性。

 程よく伸ばした金髪で、恰好は如何にもハンターっぽい男だ。

 僕が名前を聞くか聞かまいか悩んでいるところで、男の方から紹介してくれた。



「さっきも言ったが、俺はテル・レイランだ。そこの細い奴、引っ込んでな。この小っちゃい角生やした頑固野郎の肝を潰してやる」

「おうおう、やってみやがれ。素手で十分だぜ!」

「ちょっと! 思い出してください! エンタープライズが最強だということを証明しろと、ミミゴン様に命令されたでしょう!」

「ミミゴン……?」



 と、テルが反応した。



「ちっ、しゃあねぇ。ほら、ドワーフはここにいるんだろ。早く避難させ……」



 トウハが目的を思い出し、工場へ入ろうとした瞬間、目の前を炎の刃が通り過ぎた。



「ミミゴン、だと? 今、ミミゴンだと言ったな」

「おい、何しやがる! 剣を引っ込めろ!」

「お前ら、傭兵共か。なら、ミミゴンは社長というわけか。なるほど、だから強かったわけだ」



 テルは、まるで先ほどとは別人のように豹変してしまった。

 その様子には、僕らも腰が引けた。

 トウハだけは違い、しかめっ面で睨んでいる。



「外道ども。『魔法剣』の餌食にならんうちに、とっとと退け」

「その様子だと、傭兵が気にくわんらしいな、テル」

「当たり前だろ。そんな奴らに、ここのドワーフは渡さない。しかも俺一人だけじゃねぇぜ。素手で魔物を蹴散らす人間がいた。あれは明らかに俺よりもレベルが上だ」

「へぇー、面白いな。そいつには、ぜひとも会ってみてぇな。どっちに味方するか、楽しみだ」

「トウハさん、黙ってください! テルさんも! 僕らは傭兵じゃありませんよ!」



 テルの表情は怒りに染められている。

 おそらく彼の苦い過去に傭兵が関わっているから、ここまで頑なに通そうとしないんだろう。

 その過去は最悪な出来事があったのかもしれない。

 だけど、僕たちは助けに来た、エンタープライズの兵士だ。

 丁寧に釈明している時間はない。

 誤解を解いて、できることなら共に戦ってほしい。



「あなたの敵は僕たちじゃない。テルさん、あなたが賢明な方ならすぐ分かるはずです。共に戦いましょう!」



 言葉による意思の疎通を望む。

 逡巡しているようで、構えている剣がかすかに震えていた。



 背後で爆発音が響いた。

 恐る恐る振り返ると、まさに巨人というべき魔物が着地していた。

 どこからか、飛んできたのだろう。

 人とは言い難い顔を見せ、両手には幅が広い巨大な剣を携え、強靭な肉体は丸太のよう。

 この魔物について知っていた。



「『キメリエス』でしたっけ。解決屋のAランクハンターでも討伐に困難した魔物……」

「なんで、ここにいるの。デザイア帝国領にいる魔物だよね……」



 ヴィヴィと僕の腰が抜けそうだった。

 だけど、訓練の時に連れてこられた魔物よりは、マシだと思えば立っていられた。

 戦うか、逃げようか迷っていたけども。

 もう逃げるという選択肢しか見えなかった僕らに対し、トウハはやる気に満ち溢れていた。

 一目で分かるぐらい目を輝かせ、武器を勢いよく抜き放った。

 迷うテルの肩をポンと叩き、トウハは声に出す。



「お互い、守りたいものは一緒だろ」



 切先をトウハに向けていた剣は、やがてキメリエスの方に向けられた。

 迷いを断ち切り、決心した様子だ。



「喜べ。このテル・レイランがいれば、負けることはない!」

「いいや、このリーベタルス・トウハがいれば、勝ちしかねぇな!」

「何、張り合ってるのですか」



 トウハも武器を敵の方に向け、笑う。

 テルは、トウハの笑いにつられて表情が柔らかくなり、宣言するかのように言い放った。



「じゃあ、この二人がいれば絶対に勝つわけだな!」

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