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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第三章 リライズ決然編
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64 名無しの家:吸血鬼―15

 結晶を纏った壁を背に座り込み、疲れを癒す。

 結晶から漏れ出る魔力が、怪我の治りを早め、体力を回復させる。

 何百回と戦った。

 あぐらを掻いて、眠そうに欠伸までするアイツと。



「来た当初より、かなり成長したのな。『領域管理者』は、まだまだだけどな」

「グラウンディング……僕は領域管理者になりたくありません! ミミゴン様の右腕として、務めたいのです! くそっ、何で近づけないんだ」



 苛立ちを込めた拳を壁に打ち付けた。

 小太りの龍人に接近しようとすると、跳ね返される。

 それにダメージも食らってしまう。

 そう、近づくことさえできないのだ。

 おまけに、攻撃しても避けられる。

 今のレベルでは勝てない。



「はぁー。また、入口付近の魔物でレベル上げか」

「頑張るんだな。あと2000年は必要だと思うがな」

「次で終わらせるから、覚悟しとけ!」



 吐き捨てるように言って、その場を離れた。







 ネクタイを締め、黒い背広と黒いマントを身に着ける。

 吸血鬼っぽい、と言ったミミゴン様とアイソトープ様が作ってくださった衣服だが、いまいち吸血鬼さを感じない。

 僕の中では吸血鬼というのは、もっと質素な服装なのだ。

 返り血を浴びても『自動洗濯』が付与されているので、いつも清潔ですし、何より防御力が高いので有難いですが。



「あら、ホントにあるのね。じゃ、これを持ち帰って」

「――誰だ、お前は!」



 青い髪を肩まで垂れ流し、背中に赤い剣を背負った女がいた。

 顔を見るに若く、世の男性なら虜にするほどの美を兼ねている。

 採った魔石をポケットに入れ、僕を見る。



「あなた、もしかして出来損ないの吸血鬼じゃない?」

「お、お前」



 彼女は丈が床まである青いローブに身を包み、ひらひらと蠢いている。

 確か「ジェラルド・ガードナー」と呼ばれるローブで、魔女の一族だけが纏えたはず。

 まさか。



「魔女、なのか。誰もが恐れる魔女の一族か」



 妖艶な笑みを浮かべ。



「ご名答。だけど、魔女という名ではないわ。『ナルシス・ズーム』という名を与えられたの。そう、呼んでほしいわ、吸血鬼」

「今は吸血鬼の名を捨てている。僕の名前は、ツトムだ。ミミゴン様に与えられた名前だ!」



 ローブから足が見えず、浮遊しているみたいだ。

 あっちこっち浮遊しながら、語り始めた。



「お互い、テルブル魔城を離れ、大魔王の支配を受けなくなった。脱出して正解だったわ。吸血鬼がいなくなったと騒ぎになっていたから、てっきり暗殺されたのかと思っていたけど、まさかこんな美しい場所で出会えるなんてね。もしかして、このナルシスを愛してるから?」

「誰が魔女を好きになるか! 復讐するために、出てきたんだ! あの大魔王にな!」

「ナルシスも同感だから、納得するけど……悲しいわね。もっと人生、楽しんだら? 傭兵派遣会社『聖者の行進』の社長をしているの。毎日が楽しいわ。醜い社会で、醜い人を惨殺して、醜い五臓六腑を食す。あぁ、醜い世界は素敵。そして、ナルシスが大好き。自分は自分が大好きなの」



 涎を垂らし、語る姿はおぞましい。

 表はルックスが良く、男を魅了する肉体。

 裏は鍛えられた人殺しの肉体。

 それが、この魔女だ。

 魔法を自由自在に操り、呪術系スキルにも長けていると聞いたことがあるが。



「このダンジョンの入り口に、見張りがいたはずだが」

「あら、彼らのことかしら。来なさい、ナルシスの操り人形」



 簡単に入れないよう、入り口に二人の見張りが付いている。

 だが、現れた二人は生きている人間がする歩き方をしていなかった。

 体を揺らし、足を引きずりながら、一歩一歩が軽い歩き方だった。



「精霊『マリオネット』。ナルシスが得意とする精霊を呼び出すスキル。彼らは、死んじゃいないわ。だけど、あなたの行動次第で……」



 剣を構えた2人が襲いかかってくる。



「死ぬことになるわね! フフッ!」



 そもそも、彼らはラヴファースト様に鍛えられた精鋭のはず。

 それを容易く操るとは、魔女というのは恐ろしい奴だ。



「それでもミミゴン様に忠誠を誓った同志か! 『ナンバー:4200』!」



 吸血鬼の固有スキル『呼出技術コール』は、4桁以下のナンバーを唱えると、その番号に登録されたスキルを発動することができる。

 つまり、このスキルだけで、ほぼ全てのスキルを所持していることになるが、通常より魔力消費が多くなり、血液も失うことになる。

 それゆえに、おいそれとは使えないのだ。



 『ナンバー:4200』には『睡魔の饗宴』のスキルが登録されており、早速発動する。

 背後から現れた紫の影が手を広げ、迫る二人に抱きつき眠らせた。

 とりあえず、傷つけることなく眠らせることに成功したが。



「隙あり!」

「こいつが残っている!」



 ナルシスの剣による刺突を避け『ナンバー:1993』を詠唱し、手に拳銃を握る。

 そのままの勢いを維持し狙いを定め、引き金を絞った。

 銃が火を噴いて弾丸を放つが『バリアウォール』を張った魔女には届かなかった。

 『バリアウォール』を貫通できるスキルを思い出す。



「『ナンバー:318』! 『ナンバー:7884』!」



 『障壁貫通化』を発動させ、障壁を無視できる効果を得ると同時に『魔力吸収』の効果も得て、環境に紛れている魔力を体内に吸い込んでいく。

 『呼出技術コール』を主体とした戦法なので、消費量の激しい魔力をわずかでも回復するために『魔力吸収』を唱えた。

 この戦いは長期戦と化すだろう。

 そして何より、高純度の魔石から漏れだす魔力を利用すれば、魔力が尽きることは少ないはずだ。

 この場所自体、ツトムを有利にしているのだ。



 連続して引き金を絞る。

 奴は『バリアウォール』で阻まれるだろうと高を括っているように思われたが、弾丸を躱して、距離を置いていく。



「私は戦闘のプロなのよ。表情を見れば、何をしたかぐらい分かるわ」



 しばらくして全弾撃ち尽くし、銃を捨てる。

 なら、少し無茶をしてみるか。



「『ナンバー:2000』!」



 スキルを唱え、手に握られたのは。

 機関銃、ガトリング砲ともいわれる極めて高い連射速度で弾丸を発射できる銃だが、もはや大砲を抱えているようなものである。

 ナルシスにだいたいの照準を定めて、その巨砲が烈火を噴き出した。

 凄まじい連射速度で魔女を襲うが柔軟に肉体を動かし、避けている。

 壁や天井を利用して、縦横無尽に移動していた。

 『回避術』を発動させているのか。

 残像が見えるほどのスピードで弾幕を避け続けている。

 ガトリング砲による攻撃を当てるのが難しいことは承知していた。

 それより、相手の動きを集中して覚えるために攻撃している。

 また弾幕を張ることで、こちらに接近させない意味もある。

 今できた余裕を、ミミゴン様への報告する時間にあてた。



「ミミゴン様、聞こえますか! ツトムです!」



 ミミゴン様に『念話』を繋ぐイメージをし、返答を待ったが、返事がない。



「トレーニング・ルームから、ツトムです! 緊急事態です!」



 寝ていたとしても脳内に声が響いているはず。

 緊急事態だと叫んだのだから、必ず応答してくれるはずだと思っていたが。

 どうしたんですか、ミミゴン様。

 まさか『念話』が繋がらない状況に陥っているのか、返答する余裕のないほどの状況に置かれているのか。

 こうなったら一人で対応するしかない。

 試されているのだ、と考えるべきか。

 奴の動きを見極めて……。



「いない! どこい……った?」



 鋭い痛みが胸から訴えている。

 左胸から紅い切先が飛び出していた。

 切先から生き血が垂れている。

 振り返ると同時にガトリング砲に遠心力をつけ、強烈な一撃を加えようとしたが、後ろに飛び退かれた。

 ナルシスの剣は、二種類の赤で染められていた。



「心臓を狙ったつもりなんだけど、突き刺さらなかったの?」

「幸い、自我を持つ心臓でな。勝手に避けるんだよ」



 『自我臓』の常用スキルで致命傷には至らなかった。

 もっとも、出血しているのは確かだが。

 『呼出技術コール』による血液消費があるので、出血するのは最悪だ。

 ノーダメージを心掛ける必要がある弱点を抱えている。



 ナルシスは向かってくる。

 ガトリング砲は使えないと思い、敵に投げつけ距離を置こうとしたが、細身の剣で巨砲を斬り裂いて更に侵攻してくる。

 正面に迫ったとき、深紅の剣を構え、振り下ろしてきた。



「『ナンバー:1210』!」



 登録された短剣を呼び出し、迫る刃を受け止め、腹を蹴り返した。

 呼び出した短剣は華奢で、斬りつけるのに向いてはいないが魔力、血液の消費量が少ない。

 無駄に戦いを長引かせるわけにはいかず、隙を見つけて一撃必殺を狙いたいが。



「あの方の命令が、ナルシスに勇気をくれるのよ!」



 蹴っ飛ばす脚を片手で握られ、怯むことなく深紅の剣を閃かせた。

 とっさに身を庇った右手が斬り落とされ、落下していく自分の腕に気をとられている内に、懐まで入ってこられた。



「このクソッ!」

「死になさい! 誰にも気づかれない孤独な死を迎えなさい!」



 左手に持ち替えた短剣で、再び受け流そうとした。

 そこで気付く。

 剣身がなかったのだ。

 刃のない柄だけを握っていたのだ。

 当然、真っ赤な刃を邪魔する障害がないので、そのまま突き抜かれる。



「どう、なってる!?」

「魔剣『ブラッディソード』。魔人なら聞いたことがあるわよね」



 思いっきり引き抜かれ、体内を巡っていた血が飛散する。

 ふらふらと後退し、穴の開いた箇所に手を当て、少しでも出血量を少なくしようと努める。

 それでも、大量にもっていかれた。

 目の焦点が揺れ動き、ナルシスが分身しているように見えてくる。

 そのことより、魔女が把持はじする剣を見つめた。

 ナルシスは剣を見つめる目に上機嫌になり、語り始めた。



「その昔、テルブル魔城を建てた初代大魔王『ブラッディ』が愛用していた剣。今は斬りつけた相手から吸血し強化する能力は失われているものの、武器を腐蝕させる能力は健在なの」

「『ブラッディソード』……魔王城の金庫に保管されていたはず」

「私は大魔王の次に権力を握る魔女一族なのよ。言えば、手にすることぐらいできるわ」



 『ブラッディソード』は確か、二本あったはずだ。

 あの頃、一度だけ二本飾ってあったのを見た記憶がある。

 奴がもっているのは一本だけ。

 だが、それでも危険な状況だということは変わりない。

 右手を失い、出血多量。



 まさか、僕は諦めるのか。

 いや、まだやることがあるだろう。



「逆転……してやる。吸血鬼として恐れられた『俺』になる時間だ!」

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