56 名無しの家―7
……ここは?
真っ暗闇というより、闇そのもののようで何も見えない。
死んだのか?
〈おお みみごんー! しんでしまうとは なにごとだー! しかたのない やつだなー。 おまえに もういちど きかいを あたえ……〉
いつまで、お前の茶番に付き合えばいいんだ、『助手』。
〈おまえが つぎのレベルになるにはー あと……〉
いい加減にしてくれ。
茶番に呆れて、声を荒げる。
ここはどこなんだ!
助手は、からかうような物言いで説明する。
〈そう、カッカしないでくださいよー。あなたは意識を失って、気絶しているんですよー〉
気絶しているのにお前と話せるのかよ。
ていうか、『妨害』でやられたのか?
『見抜く』が『妨害』され、気を失った。
〈この私としたことがー。やられちゃいましたねー〉
『妨害』を防ぐには、意識エネルギーで戦わなければならないんだよな。
『妨害』を防ぐことができなかったら、意識が奪われる。
だけど、俺は『全障害ステータス無効』によって意識が奪われることはないと、最初のほうで『助手』が説明していたじゃないか。
〈ええ、意識が奪われることはありませんがー、なんらかの原因で同時に『気力』も失われたんですー。あなたが気絶したのは『気力』を失ったからですよー〉
『気力』だって?
なんだそれは。
気力っていうのは人が持つ動力源というか、元気の素みたいな力だよな。
〈そうですー、その気力が尽きたのですよー。『妨害』失敗と『ものまね』によってー〉
『妨害』されてしまったのは分かるが、『ものまね』だと?
〈『ものまね』が発動しませんでしたよねー。エルドラになりたくてもー〉
そういえば、そうだ。
そう、そのことについても聞きたかった。
なぜ、発動しなかったんだ?
〈さぁー?〉
さぁー、ってなんだよ。
解説してくれ、お前が好きな解説を。
〈解説は好きですよー。もちろん、解説をー……と思ったんですが正直、知らないんですよね『ものまね』のスキルがー〉
知らないだって?
この世界のことなら大抵知っている、あの助手が?
それは言い過ぎだ、と照れる吐息に続いて、話を始める。
〈全く未知のスキルなんですよー。いったい、誰が生み出したスキルなのかー。気になって詳細を検索したのですがー、全くの不明なんですよねー。効果は分かるんですがー、作成者不明ー。何を消費するのか不明ー〉
ここにきて急展開って感じだな。
誰かが生み出したスキルだから存在しているんだよな。
スキルを生み出す存在と言えば、エルドラとかできるらしいが。
〈そして、エルフですねー。エルフの誰かが生み出したスキルなのでしょうかー? それにスキルの誕生には『対価』を求められますー。『スキル創造』という使命を持つエルフですが、そもそもスキル一つ造るのに『対価』を求められますから、バンバン造ることはできないんですよー〉
スキル創造への『対価』ってなんだ。
さっきから理解が追い付かないのだが。
〈とにかくー、私の推測によると『ものまね』は、ノーコストで発動できるスキルではないということですねー。私は『魔力』や『回数』が関係しているかと思いましたが、『気力』が関わっているとー〉
つまり『気力』がなくなると『ものまね』が使用できなくなるというわけか。
だが俺の気力って、どのくらいあるんだ?
〈不明ですねー。もちろん個人差はありますしー、『見抜く』などでも分かりませんからねー。ですが、もし『これ』が関係あるとしたらー〉
『これ』?
もったいぶらずに教えてくれ。
〈『ものまね』する対象の『レベル』が関係しているのではないかとー〉
『レベル』か。
魂の経験値だよな。
魔物を倒すことで得られる力、と言い換えても差し支えない。
ただ、レベルであると導いた過程が気になる。
どうしてそう思ったんだ?
〈あくまで推測ですから、期待しないでくださいねー。この前ー、新都リライズに向かう電車で襲撃されたじゃないですかー。覚えていますかー?〉
ああ、傭兵派遣会社VBVが魔物を大量に送り込み、傭兵の竜人二人が襲撃した事件だったな。
ダンダンと楽しく会話している最中のことである。
ダンダンは無事だろうか?
あれだけご教示いただいたんだ、エンタープライズに招待してもてなしたい。
〈その戦いで、大量の魔物を『ものまね』しましたよねー? ですが今回、エルドラ1体分で気力が尽きましたー〉
気力が回復していなかったんじゃないのか?
〈その説も理解できますがー、電車の出来事から1日あいているんですよー。ホテルで泊まって寝ましたよねー。気力は寝れば回復しますー。一回睡眠をとれば全快すると仮定してー、エンタープライズから新都リライズまで”人間”、”魔物”と実に数多く『ものまね』しましたがー、影響は特に現れませんでしたー。
ですがー翌日、新都リライズから現在に至るまで、明らかに『ものまね』した回数は少ないでしょー? ですから『回数』は関係ありませんねー。ここから『レベル』ではないかと導き出したのですー。高レベルのエルドラ、ラヴファーストに今日何回もなっていますしねー〉
現実世界であれば首を頷いているだろう。
ただ、『魔力』の可能性もまだ消えてない。
俺も『ものまね』のスキルに関する考察に興味が出てきた。
恐らく、俺だけが取得しているスキルだと思っている。
長年生きているエルドラが『ものまね』というスキルに驚いていたし、オルフォードも言及していない。
いや、情報オタクのオルフォードなら何か知っているかもしれないが。
『ものまね』は、これからも主力になるだろう。
使う本人が詳細を知らないというのは恥ずかしいし、不測の事態に陥ることもあるはずだ。
……うん、今の俺みたいにな。
すっかり最強スキルだと信頼しすぎていたし、依存しすぎていた。
それが、災いした。
反省、後悔は終わってからするとして、俺は『魔力』の可能性も考えてほしい。
〈『魔力』も消費している可能性ですが、ハッキリと言って不明ですねー。スキルの発動に『魔力』が消費されていないかもしれませんしー、消費していたとしても常用スキルの何かが消費を抑えているかー、もしくは『魔力』の消費が0になったかもしれませんねー。どっちにしても『魔力』が関係しているかは依然として曖昧なままですねー〉
俺が持つ『魔力』の最大値は結構高いようだ。
ゆえに魔法による攻撃が本当は望ましいのだが、横文字に弱い俺は物理で殴ることしかできない。
『魔力』が関係していようがしてまいが、『気力』そして対象の『レベル』が関係している公算が大きいことは分かった。
〈あっ、そろそろ目覚めますよー。今、持ち合わせているスキルで可能な限りの回復を行っていますがー、それでも十分治癒できていないはずですー。起きたら、すぐに『テレポート』でエンタープライズに帰りましょー!〉
助手の提案に引っかかる。
名無しの家の住民を置いていけと言うのか。
エルドラを一撃で殺せる奴もいるというのに?
〈ですが、現時点で私とミミゴンは会話していますー。つまり、生きているということですー。再び、あのビームを放つには、インターバルを置く必要があるのだと思いますー。殺したいのでしたら、既にミミゴンを殺していると思われますしー。早く起き上がって、インターバルの間に行動できなければ、今度こそ殺されますよー! いいんですかー! あなたが死んだら、私は……私は……〉
もしかして……。
俺が大切な存在になってしま。
〈――私に殺されたいんですかー? いいですよー、いつでもあなたの命、停止できますのでー〉
冗談です、冗談です。
ちょっとした戯れですよ、怖いな。
というか、勝手に人様の命、握ってんじゃねぇよ。
まったく『助手』に世話を焼かれるなんて、何十年も生きた大人とは思えないな。
そして、視界に光が差し込んできた。




