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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第三章 リライズ決然編
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55 名無しの家―6

 工場を飛び出し、まず目に入ってきたのは真っ暗闇の深夜だということ。

 そうだ、この時間は寝る時間だろうが。

 それから、目に映ったのは。



「魔物かよ。しかも大量かよ」



 街中に入り込んでくる魔物の数々。

 そして、響き渡るサイレンと避難指示だ。



『戦えぬ者は、工場へ避難しろ! 野郎共は武器を持って、避難する時間を稼げ! 早くしやがれ!』



 この声は、レンジか。

 避難指示を聞いた子供や女性が、工場へ逃げ走ってくる。

 助手、起きてくれ!



〈はいはいー。今、起きましたー。もう、寝させてくださいよー。ふぁ~〉

「呑気に、あくびしてる場合か! くそ、『インフェルノ』!」



 子供たちを襲おうとした狼型の魔物に、巨大な火の玉をぶつけ消滅させる。

 倒れた子供を無理やり立ち上がらせ、走らせた。

 とりあえず、避難が完了するまで『インフェルノ』だけで倒すか。

 『インフェルノ』しか強いスキル、知らないし。







「『インフェルノ』! 『インフェルノ』! まだ湧いて出てきやがる!」



 工場に近づく魔物を一掃し、防衛しているが際限がない。

 助手、お前を待っているんだ!

 早く起きて、戦ってくれ!




〈あと、五分だけー〉



 二度寝すんじゃねぇよ!

 ほら、お前の大好きな戦闘だぞ!



〈嫌いですけどー! ていうか、私一人に押し付けないでくださいよー! エルドラ、聞こえているでしょー!〉

(うむ、聞こえておる。ミミゴンとの、楽しそうなやり取りをな)

〈わざと聞かせているんですよー! それに楽しくありませんよー! あなたも何とかしなさいよー!〉



 エルドラも聞いていたのかよ。

 常に三人で会話しているようなものだったのか。

 って、おい。

 助手がサボるんじゃねぇ。



〈戦闘、嫌いですー! 今回は、ミミゴンに任せますー! あと、最強のエルドラさんにもー。タノモシイカラナー、エルドラハー〉

(最強だと言うし、頼もしいと言うなら、仕方ないな! ワッハッハ、我の攻撃を食らわせてやるわ!)



 おー、頼もしいぞ、エルドラ!

 軽く助手に乗せられているけど。

 酷い棒読みに、なぜ気付かない。



 正面に、俺を殺そうと剣を持って走り寄ってくるゾンビ。

 ゾンビって、夜に復活する元人間だったか。

 もう、目に生気は宿っていない。

 ただ、殺そうと武器を振り回すのみだ。

 そこで、エルドラは遠く離れた名無しの家の敵に攻撃を加えた。



 バナナの皮を踏んだみたいにこけて、尻餅をつかせた。



 ……こかすだけか。

 こけたゾンビは起き上がろうと、必死に手足を動かしている。

 エルドラは、このしょぼさに謝罪してきた。



(いや、すまない。転ばせる力しか出せないのだ。我が迷宮から脱出できたら、強いんだがな)

「手柄を奪ったハンターにやった転ぶ呪いか。くっ、今は頼りにならない……」

(せめて、転ばせる呪いで援護する。許してくれ、ミミゴン)



 許すしかない。

 『とりあえず許しとけ』というお師匠様の教えもある。

 ああ、助手!

 いい加減、目を覚ましてくれ。

 俺だって寝たいんだ。

 転んだ魔物を上から踏んづけて止めを刺しながら、助手を起こす。

 『急所発見』のスキルで、わずかに透き通って見える心臓を確実に踏み抜いていった。

 力いっぱいに踏んづけたせいで返り血に勢いがつき、全身を赤く染めていく。

 質の良いスーツが……。







 間もなく、エックスが小柄な肉体からは想像できない速さで駆け寄ってきて、俺に指示を下した。



「なあ、ミミゴン。街を守る『防衛電力障壁』を張るために、急いで電源装置を起動させに走ってくれねぇか」

「『防衛電力障壁』? そんなのが、あるのか」

「街を塀で囲っていないだろ、めんどくさいからな。魔物が近寄らないよう、聖水を振りまいているだけだ。まあ、こういう事態に備えて、全電気エネルギーを消費して強力な障壁を作り上げる装置を開発していたんだ! 戦場に暇はねぇぞ! こいつら連れて、電源装置に向かえ!」

「ああ、分かった。いくぞ!」



 ランタンと道具をもっている二人を連れて、エックスが指さした方向に駆け抜けた。

 『疾風迅雷』で瞬間移動し、通り道の敵を殴ったり蹴り飛ばしたりして、薙ぎ払っていく。

 そこに、炎の剣を振り回す人影が見える。



「おいおい! 一体全体どうなっているんだ!」



 ん、あいつ、確か……。

 剣は炎を纏い、魔物の猛攻から身を守っている青年がいた。

 防御と同時に炎の剣による反撃を食らわせ、地道に討伐している。

 それでも、流れゆく時間と共に敵の数も多くなる。

 そうなれば囲まれる。

 現に囲まれていた。



 なら、俺の出番だ。

 とにかく魔物を殴ったり蹴ったり、助手がいない時の戦闘法で数を減らす。

 スキルとか、いちいち使い分けたり、覚えたりがめんどくさいからな。

 格闘しかないんだよ。



「やっと、終わったみたいだ。ありがとう、ハンター」

「ああそうだな、テル……」



 言いかけて慌てて、口をつぐむ。

 テル・レイランなんていったら、ミミゴンだってバレるかもしれない。

 こいつの中のミミゴンは誤解を生んだままである『傭兵のミミゴン』だから、こんな非常時に喧嘩なんてしていられない。

 あの時の傭兵だということが、バレるわけにはいかない。

 あの時、化けていた人間と違う人間に『ものまね』しているので、多分バレないはずだ。



 剣に纏わりついていた炎は、レイランが鞘に納めると解除される。

 後ろのドワーフ二人が息を切らしながら、ようやくここまで来た。

 ゼェゼェと必死に呼吸をしようと努めている。

 その二人がレイランを見て。



「あっ、いつもお世話になっております。レイランさん!」

「鍛冶屋のとこの息子さんじゃないか。こんな時に何してんだ?」

「実は、ミミゴ……」



 お前ら、ミミゴンって言っちゃいけねぇんだぞ!

 ミミのところで、急いで口を塞いで『テレポート』を発動させたいのだが。

 レイランが疑問をぶつけてくる。



「今、ミミゴンって……」

「いや、耳がゴールデンって言おうとしたんだろ」

「耳がゴールデンってどういうことだ。今、言うことじゃ……」

「お前は工場にいる人たちを守れ! じゃあな! 『テレポート』!」

「おい!」



 目標の電源装置がある建物を見つけたので『テレポート』で瞬間移動する。

 これでレイランから逃げ、足の遅いドワーフを一瞬で連れていけた。

 一石二鳥である。







「さっさと始めてくれ! 時間がねぇんだろ!」

「分かってますよ、ミミゴン様。それより、なぜレイラン……」

「後で答えるから、早くしてくれ」



 いや、答えねぇけど。

 ランタンを小さい発電所みたいな電源装置の横に置いて、作業現場を明るくした。

 急いで道具の入ったケースを開け、道具を上手い事使って、電源装置に何かしている。

 見ている俺はよく分からないが、今建物に魔物が侵入してこないか、見張っていた。

 当たり前のように、魔物が襲ってくる。

 『眼力』と叫んで目をカッと開け、魔物を吹き飛ばして殺す。

 建物の前に移動し、戦っているとあるものに気付いた。



「何か上空が明るいな。月が出てきたのか?」



 夜空に光る一点の光。

 最初は月が出てきたのかと思っていたが、徐々に明るく大きくなっている。

 雲に隠れて、うまく識別できなかったが、察した時にはもう遅かった。



〈あッ、あれはー!?〉

(ミミゴン! 究極スキルだ! 避けろ!)

「――『ものまね』! 『究極障壁』!」



 とにかく『ものまね』と叫んだ。

 それに避けるわけにもいかなかった。

 『テレポート』を使えば避けることは余裕だが、電源装置で作業している二人が死んでしまう。

 それに防衛電力障壁も発動できなくなる。

 これらを避けるために『ものまね』で……最強クラスのエルドラになったのだが。



「グハァ!? ウッ、ガハッ!?」

(ミミゴン!?)



 『究極障壁』で防いだはずなのに……。

 喉奥から熱い何かが溢れ、激しく吐き出した。

 ぬらぬらした真っ赤な血液。

 まさか、エルドラに化けて血が出るとは。

 それに口からだけではない。

 『究極障壁』を貫き、俺の体を抉って、腹にポッカリと穴が空いている。

 穴を埋めようと何かしらのスキルが発動しているが、その間にも鮮血がほとばしった。

 うっ、頭がクラクラする。

 ……限界か。

 エルドラの肉体が力尽き、元の機械オクトコプターの体に戻る。



「嘘だろ! 最強のエルドラの肉体で、一撃? 一撃必殺だと!?」

(何なのだ! あのビームを放った化け物は!)



 空を見る。

 綺麗な星空が姿を見せたが、俺が見たいのは別の物だ。

 そう、あの強力な『究極障壁』さえも貫くビームを放った奴は空中で静止していた。

 そいつは、銀の翼を生やした巨大な龍とでも呼べばいいだろうか。

 いや、あれこそがファンタジー世界における『ドラゴン』というものだろう!

 まさにラスボスとして妥当な存在が、そこにいたのだ。

 そいつは腕を組んで、見下ろしていた。



〈これはやばそうですねー!〉

「やっと、起きたか『助手』!」



 これで勝てる……と思い込んでいた俺が情けなかった。

 『助手』を頼りきりにしていた罰だろうか。

 あるいは、俺が最強だと自惚れていたからだろうか。

 いや、両方か。

 天罰に等しい不測の事態に見舞われたのだった。



〈ちょっと『見抜く』で正体を見てみましょうかー〉

《『見抜く』が『妨害』によって阻まれています》

〈はいー!? 誰ですー!?〉



 俺は、エルドラの『ものまね』で奴と対峙しようとした。

 再び、『ものまね』を……。



「あれ、『ものまね』が発動しない……? 『ものまね』! 『ものまね』!」

〈ミ、ミミゴンー……ちょっとー、覚悟してくださいねー……〉



 おい、どうした!?

 何だか、視界がグラグラ揺れているぞ。



〈意識が、持ちそうに……ないんですー! 今、必死に『妨害』による意識攻撃を防いで、いる、の、ですがー。ごめんなさーい! 潔く死にましょー!〉

「冗談だろう!?」

(ミミゴン! ミミゴ……)



 視界が真っ暗になった。

 エルドラの悲鳴が聴こえなくなり、目の前の敵も見えなくなってしまった。

 体が冷めていくような感覚に襲われ、終いにそれすら感じることができなくなった。

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