6 村と寄り道
「ここが【トルフィドの村】よ! 村長!」
「お? ケイト! 今日も、届けに行ったのか?」
「うん! 二人とも美味しそうに食べてたよ」
「そうか、それだけお前さんの料理がうまいというわけじゃ」
「あと、それでね。ほら、この子を拾ったんだ!」
「ん? なんじゃそれは?」
「ほら、【リライズ】で流行ってるロボットってやつだよ」
「なんでこんなところに、ロボットが?」
「ねえ、ミミゴン。なんで、あそこにいたの?」
道中、名前を聞かれ「ミミゴンだ」と本名を教えてしまったが、後で面倒なことにはならないだろうか。
それはともかく……村全体に活気があって、村人は畑で野菜を育てているみたいだ。
耕したり、植えたり、忙しいな。
そういえば、と昔を思い出す。
テレビの企画で、田舎の方に連れていかれて、よぼよぼのじいさんと一緒に野菜を育てるってのがあったなあ。
視聴率は悪かったけど、俺は楽しめたし、お金も貰えた。
何より新人時代だったから、テレビで放送されたこと自体が嬉しかった。
それで、俺があそこにいた理由を聞かれているわけだが。
どう答えたらいいんだ?
まあ、適当に答えてみよう。
「俺は、旅するロボットとして開発されたんだ。で、散歩してたら、あそこにいたわけだ」
「旅するロボットか……面白いね!」
信じてもらえたようで、ありがたい。
ちょろくて助かったと言い換えることができるが。
その後、ケイトという名の女性の家に連れて行かれた。
家は、他と比べて小さいが立派な木造の家。
中は薄暗く、テーブルとベッドとタンスのみの質素な部屋だ。
「ここでゆっくり休んでいくといいよ」
「ありがとう、休ませてもらうよ」
ケイトは嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「私、まだ仕事が残っているから、後で話しましょ」
入口のドアは閉められ、俺だけになった。
そんなに俺が来たことが嬉しいのか。
ま、かわいい人だな。
しっかり仕事して、家庭を支える優しいタイプだ。
この村で一番人気があるはずだ。
だって、村人全員が「おかえりー」って言ってたしな。
さてと、今後の計画を立てるか。
「エルドラ、迷宮の扉を開けられる者を知っているか?」
(いや、知らないな。だが、見つける手段は考えてある」
「それは?」
(『解決屋ハウトレット』だ。ここから北に位置する【不羈の王国 グレアリング】にある本部で、悩みを抱える者の助けになってくれる。そして、情報量だ。世界各地に居を構え、情報収集している)
「情報屋でもあるのか」
(情報を売買したり、悩みの解決でも収入を得ている組織だ。ミミゴンは、そこで情報を得て、何か手掛かりを見つけてほしい)
「分かった。明日から【グレアリング】って国へ向かえば良いんだな」
(その前に会ってほしい人物がいる)
「会ってほしい人物?」
(建国するために必要な者だ。明日、会いに行こう)
色々と疑問はあるがその内、分かるだろう。
帰ってきたケイトから、村のことや数年前に亡くなった親のことなど聞いたり、俺のことを最小限話したりして、その日を終えた。
機械の体でも寝ることは、できた。
目を閉じると、いつの間にか熟睡していた。
スリープ機能を付けてくれたエルドラに感謝だな。
夜中、ずっと起きっぱなしはきつい。
そうならなくて良かった。
ケイトは既に起きていて、朝食を作っていた。
テーブルには、俺の分もある。
「ありがたいんだが……機械だし、食事は必要ない」
「ちゃんと食べないと。機械でも栄養は必要だよ」
「食べなくてもいいんだよ。栄養は必要……」
「はい、どうぞ!」
「それは強引過ぎるだろ!」
無理矢理、宝箱のふたをこじ開けて野菜が入ったシチューをねじ込んでくる。
口じゃないから! 熱っ! けど、おいしい。
おいしいけど味覚あるんだ、俺。
エルドラの遊び心で付けた機能か?
再び、隙間にシチューを突っ込もうとしたので、慌てて話した。
「ま、待て! おいしいけど待ってくれ! いい考えがあるから!」
「いい考え?」
「『ものまね』!」
ケイトの姿になって食べればいい。
そしたら、ちゃんと食べている感じになる。
同じ姿、同じ服装に変身し、金属のスプーンを持って、自分で食べる。
ああ、おいしい。
食事という行為を改めて確認できた。
無事、食べ終わり休憩する。
ケイトは、姿が自分そっくりに変わって驚いていたが、すぐに慣れたようだ。
もっと驚くかと思ったが。
「いやーすごいね! ロボットすごいね! 私になって私の料理をおいしく食べてくれた!」
「ごちそうさま。おいしかった」
「君は、新都リライズから来たんでしょ!」
ん? リライズ?
さっきも言ってたな。
助手よ、説明してくれ!
〈お、その顔はー。【実現の国 リライズ】について説明してほしい顔ですねー〉
俺のどこに顔があるのか知らないが、その通りだ。
さすが、助手!
〈褒めても説明しかできないですよー。はいー……【実現の国 リライズ】は小人が多く暮らしていますー。ドワーフは手先が器用なので、狩人や冒険者の装備、アイテムなど作製していますー〉
そこでロボットが開発されているのか。
それにドワーフ。
人とどう違うのか、会うのが楽しみだな。
俺は、リライズ生まれのロボという設定で行こう。
エルダードラゴンのことは、あまり話題にしたくないしな。
「ああ、リライズ出身だ」
「ねえねえ! 君以外にもロボットってたくさんいるの?」
「う、うん。たくさんいるよ、たくさん」
「例えば、どんなのが?」
「こ、こう、人間と同じように手があって仕事してたり」
「他には?」
適当に日本で見たロボットを言っていく。
ここでも、いるか分からないが。
すごい、興味津々だな。
「私、一度でいいから【リライズ】に行ってみたいの。おしゃれな格好して。ここに来る商人さんが楽しそうに、いろんな街や国を教えてくれて……だからね、一度でもいいから村を出て旅して、大きな国に行きたいなあ」
楽しそうに語るケイトを見て、都会に憧れた時期を思い出す。
東京に行って有名人に会いたいなあと思ってた、田舎で。
俺は、有名人に会いたくて有名人になろうと決意して選んだのが芸人。
芸人なら、すぐ会えると考えていたが全然会えない。
なんとか売れようと必死で、ものまねだけでなく色々頑張ってたな。
「この後、どうする? もう、グレアリングに行くの?」
「いや、もうしばらく世話になる」
「そう! なら、今日もおいしい料理作ってあげるね!」
「ありがとう。あと、ちょっと散歩してくる」
「いってらっしゃい! 気を付けてね!」
俺には妻がいて、最初はあんな感じで毎日見送ってくれたけど。
子供が生まれてから、妻と疎遠になった。
ちょうど、売れ始めてきて仕事が忙しくなってきたからな。
そして、離婚。
家も取られて、養育費を送る生活になった。
すまない、仕事に夢中になりすぎたな。
……昔のことは忘れよう!
今からエルドラが俺に会わせたい者に会いに行く。
場所は【見捨てられた地】。
村から昨日の森へ続く道を進む。
途中の分かれ道を、森ではないほうへ進んだ。
この先に【見捨てられた地】があるらしい。
道中、魔物に出会った。
ゴブリン、ウルフ、パイソンとか。
レベルも低く1~5までの魔物ばかりだった。
持っているスキルは無く、耐性も無い。
スキルは何も得られなかったから、戦う必要はないな。
もうすぐ、目的地に着く。
いったい、誰が俺を待っているのか。
巨大な隕石が落下したんじゃないか、というほどの窪みができていた。
とにかく窪みが広がっている。
(説明しよう! その窪みは、我を封印しようと闘った際に、青年の究極魔法でできたものなのだ!)
「こんな魔法を食らって、よく元気だな」
(体は滅ぼされても、スキルで復活したからな。我をなめるなよ)
急な斜面を下って、中央を目指す。
そこに誰かいるからだ。
「窪みの中央に誰かいるぞ。二人……いるのか?」
(そこにいる者こそ、お前に会わせたい者だ)
近づくと、ビジネススーツを着てメガネをかけたヤクザに見える男性と、メイド服を着こなし、膝まである長い金髪の女性が立っていた。
(……『人間をやめた男』と『人間を超えた女』だ)
空気が違う。
威圧のようなものを感じる、体が押しつぶされそうな。
空気清浄機が自ら電源を切りそうな、そんな空気だ。