傭兵派遣会社―企み
暗闇。
だけど、完全なる闇で覆われているわけではない。
正面の扉から漏れる光が、うっすらと通路を照らす。
「やあ、元気かい? 藤原くん?」
「…………」
男がドアを開け、中にいた人物に声をかけたが。
「返事がないな。ちゃんと飯、食べてる?」
「…………」
藤原と呼ばれた少年は、ポツンと部屋の隅に座っているだけである。
目は虚ろ、口は半開きで涎が垂れている。
Tシャツに長ズボンという身なりに加えて、衣服は散らかり、コンビニの袋とコンビニ弁当の容器が乱れ放題である。
まさに。
「ゴミかと思ったよ。……君がね」
「…………」
男は少年のパソコンを勝手にログインし、中身を見る。
ゲーム画面のようで、キャラクターが描かれたカードが並んでいるシーンだった。
「あらら、ガチャで爆死かな? 何万、入れたのかな?」
相変わらず、男の質問に対する返事がない。
焦点が左右で異なっている。
脳が崩壊したかのように見える有様だ。
「もしかして、この前の依頼料を全部……」
返事はなかったが、少年の頭を縦に振った。
苦笑を浮かべる男は、指をパチンと鳴らした。
「失礼いたします、ラオメイディア様」
「はい、じゃあ藤原君に食事させて、部屋を綺麗にするんだ……始め!」
部屋に入ってきた女性は、ラオメイディアの指示により、テキパキと掃除、洗濯、調理をしていく。
ラオメイディアは『異次元収納』に入れていた最新ゲームを、少年の目に映させる。
少年は目を生き返らせ、ケースを奪おうと手を伸ばすが、ラオメイディアは遠ざけて、口を開ける。
「これ、欲しいの?」
「ほしい……欲しー!」
「欲しい? 欲しい? 最新ゲームが欲しい?」
「欲しー!」
「だったら、僕の話……聞いてくれる?」
少年は伸ばす手を下ろし、話を聞く体勢に入る。
「聞く、聞くよ、良太は! 手に入れるためだったら」
「じゃあ、聞いてくれるね?」
行儀よく正座までして、少年は欲しがっていた。
「偉いね、藤原君。今時、正座までして聞こうという奴なんていないよ。だって図々しい奴らが、テレビに映るくらいだからね」
「早く、はやく!」
女性が持ってきた料理を、少年は汚らしく食べていく。
早速、掃除したばかりの床に米粒が落下していった。
ラオメイディアは、ポケットティッシュで米粒を拾いながら、話を進める。
「いいかい? 今度の依頼は、名無しの家にいる奴を殺してほしいんだ」
「奴って?」
スマホを取り出して画面を何度かタッチし、メールを送る。
少年のスマホが通知音を発し、メールが届いたことを知らせた。
けど、彼は見なかった。
「忘れない内に見といてね。メールに添付してある画像の奴を殺すんだよ。分かったかい?」
「もがもご……」
少年の口に、ご飯や肉を放り込んでいく。
「ちゃんとやってくれたら……ジャーン! 最新ゲームの『ラストヨンパチ(嵐)ファミリー・サモンライド!』だよ」
可愛らしいキャラクターが描かれ「プレイする権利をやろう」というコメントが載っているパッケージだ。
パッケージを受け取った少年は、嬉しさのあまり口に入っていた食べ物を吐き散らした。
正面にいたラオメイディアは、全身に米粒を付けられ、パッケージも持っていかれた。
「うわぁ! 約束された神ゲーだ! クソゲーじゃないはず、今度のは!」
「……ちゃんとやってくれるね? 今から」
「うん、わかった。あとでやる」
「家政婦さん、連れて行きなさい」
女性は、騒ぐ少年を担いで部屋から出ていった。
入れ替わるようにして、別の女性が入ってくる。
「秘書ちゃん、準備は完了したかな?」
「既に完了しております。後は、社長の一声で」
「うん、ありがとうね。じゃあ、始めようかな」
『念話』を使用して、各リーダーに繋げる。
ラオメイディアは常に笑顔を浮かべ、上機嫌な声を発した。
「よし! じゃあ、社長を喜ばせるための依頼……スタート! さあ、ゲーム感覚で終わらせてきなさい」




