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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第三章 リライズ決然編
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エンタープライズに関する会議

「皆、よく集まってくれたわ。今、忙しい時期なのに」



 女王エリシヴァ様がそう切り出し、議論が始まる。



「まず、この会議に見慣れない少女がいるけど紹介するわね」



 私の事だ。

 女王様は、壁に寄り添って立っている私を見ながら紹介していく。



「彼女は『カルア・ミル』。リライズ大学の学生よ」

「よろしくお願いします。カルアです」



 一人の大臣が手を挙げ、女王様に質問する。

 外務大臣のセプテンバー様だ。



「その子は大丈夫なのか」



 オールバックの髪を撫で、私に目を向ける。

 大丈夫かって?

 私一応、成績優秀なのよ。



「えぇ。カルアちゃん、分かっているわね」

「もちろんです」



 私は議論の内容をまとめるだけ。

 ここで聞いたことは絶対に誰かに話してはいけない。

 ちゃんと契約書にサインしたから、大丈夫よ。

 それに話す気なんて、サラサラない。

 一般人の私がいる時点で、話す内容はしょうもないはずだわ。

 私が呼ばれたのは、テープライターとして出席するため。

 録音をしたものを、あとで紙に書き残す。

 ボイスレコーダーを持って、出席者に向ける。

 録音……開始。



「さて、カルアちゃんの紹介も済んだから本題に入りましょう。ゼステラド、例の物を」

「こちらです」



 丸テーブルの上にコトンと置かれたのは。



「魔石か。それがどうした」



 財務大臣のカジーノ様は、呆れたように口を開けた。

 他の出席者、法務大臣のスタンレー様も同様だ。

 けれども、やはり女子の憧れであるスタンレー様は呆れた顔をしていても美しいです。

 フワッと香る香水の匂いが酷く場違いな気もするが、良い匂い~。

 私、スタンレー様に会えて幸せ!



「けどこの魔石、わたくしに似合いますわね。気高き色、艶! そして何より、大きさ! 指輪にしちゃいたいくらいだわ」

「スタンレー、興奮しないで。ゼステラド、説明を」

「はい」



 女王様に叱られても、表情は笑ったままのスタンレー様。

 やっぱり可愛い!

 大統領のゼステラド様は、私と大統領を含めて7人全員に言い聞かせる声を発する。



「この魔石は、最高級ではない! 最高だ!」

「最高ランクの10に達するということか。この、カジーノも見たことがない」

「まさに、わたくしに相応しい魔石ね!」



 魔石は私の専門範囲外だけど、この反応から見るに相当なものらしい。

 大臣たちも立ち上がるほどだから、すごいのね。

 だが、ゼステラド様の次の言葉が大臣の足に衝撃を与えた。



「いや、鑑定ではランク10を上回ったのだ! 分かるか、この価値が!」



 大臣達は椅子にドカッと腰掛ける。

 それも落ちるように。

 表情は険しくなる。

 空気も重くなる。

 ちょっと待って、なんかおかしい。

 ていうか私、いる?

 いらないよね、ていうか……いちゃダメだよね。

 スタンレー様も、さすがに空気を読んで口角を下げる。



「私から話すわ。ゼステラド、座りなさい」



 女王様は、ゆっくりとハッキリと語り始める。

 内容は今日、エンタープライズという国から王が来て、この魔石を対価とし、リライズの技術権利を全て所持するという。



「いい? 問題は技術の売買だけじゃないわ。この魔石よ」

「魔石崩壊反応……でしたか。過去には【旧都テクニーク】での大爆発に関して、純度の高い魔石の扱いに失敗し、魔石崩壊反応を起こしたと言われていますが。まあ、あれはまだ小さい魔石でしたから街一つだけで済みましたが」

「カジーノ、これはでかいぞ。街一つなんてもんじゃないな。軽く国一つ、いけるんじゃないか。ハハハッ!」

「笑い事じゃないぞ、セプテンバー! 誰も、触れてはならない! すぐに封印しろ、ゼステラド! 魔石の付き合いは長いが、未だ魔石が崩壊する理由について解明されていない! もし、傷一つつけてみろ。俺は死んでも、恨み続けるぞ!」

「バカいうな、カジーノ。外務大臣の俺にとって、これは使えるぞ。で、どうするんです、エリシヴァ様?」

「それを今から考えるのよ」



 場は混乱しているみたい。

 まあ、私にとってどうでもいいんですけど。

 一般人には関係ないし、国なんてどうでもいいわ。

 あー、早く帰って疲れを癒したい。



「エリシヴァ様、悪いことはいいません! すぐにエンタープライズにでも返しましょう! それと交渉も打ち切りましょう! 一部の技術ならいいですが、全部となると『リライズ』は威厳を保てない」

「おい、財務大臣なのに活かし方を知らないとはな。こういうのはな、使わなきゃ損なんだよ。なあ、法務大臣?」

「そうよ、セプテンバーの言う通りだわ。どうせ権利を与えても、扱え切れないはずよ。だってドワーフの技術ですもの。ドワーフがいなければ、理解も利用もできない。エンタープライズという国は、どうやらおバカな王がいるらしいわね」

「ドワーフは、いると聞く。それに今、名無しの家に向かっている。ドワーフをスカウトするつもりでな」

「ふん、ゼステラド。あそこの連中は国に捨てられた奴らだ。リライズに捨てられるということは、技術がないということだ。どっちにしても、得しかない交渉だ。魔石は、本当にこの一個だけか?」

「あの反応から察するに、まだありそうな気もします。抑止力としての魔石を隠し持っているのでは、と思いますがね」



 ゼステラド様は、嘘を見抜く特技をもっているらしい。

 いいなぁ、私も欲しい。

 彼氏が自慢話ばっかり話すけど、本当かどうか怪しいのばっかだし。

 腕時計が17時を示している。

 そう言えば、あと2時間でアニメ一挙放送が始まるわ。

 早く終わってくれないかな。

 お金も貰えて、楽な仕事と聞いたからやってるのに、全然楽じゃないじゃん。



「外務大臣として言わせてもらうと、それが本当ならエンタープライズと友好な関係を築いた方がいい。それに最近、各地の魔石鉱の質が落ちてきている。ある学者が、溜まっている魔力が何者かに吸われていると言っているが、これでは商売にならない。財務大臣、そうだろう?」

「戦争も激化してきてる。稼ぎ時と言いたいらしいが、この魔石で武器を造りたくはない! 経済で困っていることもない。今まで通りでいいんだ!」

「あら、その戦争……長くは続かないと思うわ」

「どういうことだ、スタンレー?」



 紅茶を啜って、笑みを浮かべる。

 スタンレー様は男性優位だったリライズに改革をもたらし、女性も働ける社会に改善させた。

 女性社長が人気になってきているのも、この人が非常識を常識へと正したからだ。

 流石です、スタンレー様!



「動き出したらしいわよ、噂になってた大魔法使いが」

「デザイア帝国の嘘だと言われているアレが?」

「その虚構、一体誰がつくったのかしらね。とにかく、グレアリングの精鋭部隊が大魔法使いによって全滅。勝利はデザイア帝国に傾いているわ」

「それは困る! 戦争が長続きしてもらわなければ、経済の面で大ダメージだ! 戦争経済で潤っていたのが、終わるだと……」

「な、財務大臣よぉ。お前の少ない脳みそでも、理解できたよな。賛成した方がいいぞ」



 お、終わり始めたかな。

 ボイスレコーダーの電池残量も少なくなってきた。

 もっと充電しとけばよかった!

 早く終わって!



「エリシヴァ様、交渉は成立させた方がよいでしょう。法務大臣の言う通り、ドワーフの技術といっても生半可な者に使いこなせません。それに魔石は大手の軍需企業であるアンゲルス・アームズに託しましょう。彼らなら、上手く扱えるはずです」

「それで落ち着いたのね。分かったわ、そう進めることにしましょう」

「ありがとうございます。エリシヴァ様」



 女王様の解散の合図で、大臣は去っていった。

 はぁ、終わったー!

 ボイスレコーダーをオフにして、私も立ち去ろうとした時。



「カルアちゃん、どういけそう?」

「えっ、あ、はい大丈夫です。大丈夫です」

「そう。これからもあなたには、世話になると思うわ」

「ありがとうございます。では、失礼します」



 やっぱり緊張するなぁ。

 ていうか本当に私、必要だったかな?

 ……アニメ一挙放送が終わったら、紙に書き写すとしますか!

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