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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第三章 リライズ決然編
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50 名無しの家―1

 新都リライズ内のホテルを利用させてもらっている。

 窓から覗かせる夜景から、美しい光が見えてくるだけでなく懐かしい思い出をも蘇ってくる。



「あー……今頃、家族はどうしているのだろうか。なんだか俺だけ……逃げているみたいだ」

〈ミミゴンー。あなたは逃げたんじゃなくー、死んだんですよー。死んでしまったら、もう『家』には帰れませんよー。全てを受け入れて、異世界を満喫してはー?〉



 助手……真実を改めて突きつけられたが、どうしても、どうしても……。

 受け入れられない、納得できない。

 今、こうやってエルドラの夢を叶えるために動いているのは、何かしてないと……。

 思い出してしまうんだ、あの頃を。



 俺は売れてる有名芸能人として、皆から愛されていたんだ。

 笑わせて、笑わされて。

 世の中には希望がない、っていう子供や大人に笑ってほしかったんだ。

 拙い物真似だと思っていたのが、思ったよりウケた。

 成功している有名人たち本人になることはできない。

 だけど近づくことはできる。

 それを端的に表したのが「物真似」なんだ。

 世の中、優しい人は成功する方法を本にする人がいる。

 実演もしてくれる、講演もしてくれる。

 だけど、興味をもてない人がいる。



〈とっつきにくいからですかねー〉



 そうかもしれないな。

 金持ちになりたいって人がいる。

 成功して有名になりたいって人がいる。

 生きる希望を見つけたいって人がいる。

 生きる意味を知りたい人もいる。

 そんな人々を何人も見てきたし、俺もその一部だ。

 だから、ほとんどの家庭にあるテレビの中で、成功している人たちの「物真似」をする。

 物真似が似てなくたって構わない。

 ただ、成功した人の雰囲気、というのが伝わればよかったんだ。

 ああ……世界にはこんなふざけた人でも成功するんだな、って分かってほしい。

 皆が見るテレビ放送が、俺の講演だ。

 うーん、色々伝えたけど分かりにくいか。



〈要するにー、画面の前の皆を幸せにしたいってことでしょー〉



 俺の熱意を簡単にまとめんな、って言いたいけど、だいたいあってる。



〈それでー、「物真似」ができないから、きっと日本で再び希望を見失った人が増えるとー?〉



 いや、まあ近いかな。

 俺はできる限りのことをしたい。

 もう、自殺を目の前で見るのは嫌なんだ。

 はぁ、もっと健康に気をつけるべきだったか。

 しかし、俺がいようといなかろうと変化はないかもな。



〈どうして、そんなこと言うんですかー? 励まされた人に失礼ですよー? 私はねー、あなたの「物真似」に心を打たれた人が同じように「物真似」をしてー、そしてそれを見た人は励まされー、更に広がるのではと想像しますー〉



 広がる?

 「物真似」して励まして、励まされた人が「物真似」して?



〈人間はねー、感動したことや印象に残ったことを他の誰かに伝えたい生き物なんですよー。そういう特性があるから、人間は絶滅することなく生きてこられたのですー。こうすれば成功するよ、って教えたから生き残れる確率が上がるー。遺伝子に経験は受け継がれないー。スキルは受け継げないってことですよー。全て一から学んでいくしかないのですー。でも皆、学ぶのは大変でしょー。だから、本に情報を残すー。講演で方法を教えていくー〉



 それが人類の生きるすべ

 教えることこそ、人類の重要課題なのか。

 それが、使命というやつか?



〈ミミゴンの前世は知りませんが、きっとー……たくさんの人に教えることができたんじゃないですかー? 希望とか楽しみ方とかー〉



 だったらいいな。

 そういう世の中になってたら、俺の勝ちだな。

 あっ、今思い出したんだがな。

 「学ぶ」の語源って何か、知ってるか?



〈語源ですかー? うーん? 答えはー?〉



 「真似る」だよ。

 「真似まねぶ」というのが由来になっているらしい。

 本当かどうかは知らないが、俺はそうだと信じている。

 お師匠様がな、そう教えてくれたんだ。

 自然と師匠の言葉が脳内で再生される。



『真似るのは、他人様の芸だけじゃないで。上手い人の技術スキルも、真似するんやぞ。例えばな、プロ司会者の話し方、口調、姿勢。プロ芸能人の笑わせ方、後輩への気遣い、その他諸々やな。ええか、社会人になって他人のやり方を真似したら逮捕されるか? されんやろ? ほな、やったったらええねん! 他人の技術、尊敬しながら盗んだったらええねん。もちろん、成功してる奴やで。その方法で成功しとんねんやから、真似したら成功するよな? 素直に、謙虚に学ぶんや。学ぶは、真似ぶ。それを肝だけじゃなくて、目にも脳にも銘じるんやで。ええな?』



 師匠の名言、懐かしいなぁ。

 もう、あの人には会えないけど、もし、もし会えたとしたら。

 今の俺に、何と言ってくれるだろうか?

 そろそろ、横になるか。



〈では、おやすみー、ミミゴン〉



 官邸の職員に紹介されたホテル。

 ここのホテルは『ヴィシュヌ』不要の珍しい宿泊施設だから、助かった。

 まあ、いざとなったら自国に帰ればいい話だけどな。

 明日は、スラム街か。







 ここが、名無しの家か。

 新都から1時間弱歩いた場所に、ぼろそうなトタンの家が密集していた。

 煙突も多く、煙を吐き出し続けている。

 人に会うんだから、身なりをきっちりさせたんだが、何というか酷く違和感がある。

 ボロボロの衣服で、ねじ回したり削ったり作業しているドワーフ。

 もうちょっと落ち着いた格好の方がよかったか。

 めっちゃ見られてる。

 それより、ここの長『エックス』という人物についてだ。

 そいつに会わないと、来た意味がない。

 ということで、こちらを珍しそうに見つめてくる男の子に訊くか。



「エックスっていう人、知ってるか?」



 口を開けることはなかったが、大きい建物の方を指さした。

 あそこにいるのか。



「ありがとな、少年。お菓子、食べるか?」



 『異次元収納』からお菓子を取り出し、集まってきた子供たちに配る。

 エンタープライズのお菓子を大量にもらったから、この子たちにやろう。

 さて指さした建物は、まあまあ綺麗なトタンの家だ。

 でっかい工場のようだな。

 少年たちに礼を言って立ち去る。







 玄関は、この入り口か。

 誰かいるのか。



「おい、おまえ。とまれ。うごくな。のら、のら」



 声がしたほうへ向くと、鉄パイプを持って立っている者がいる。

 少……女?

 明らかにサイズのあわない白衣を着た少女が、金髪と体を揺らしながら鉄パイプを構えている。

 袖が長く、手が出ていない。

 袖で鉄パイプを持っているのだ。

 ところどころ、煤が付いている。

 だが、そんな恰好でも目は真剣だ。



「エックスという名の人物に会いに来た。なあ、知っているか」

「しってる。けど、おしえない。おまえは、あやしい。のら、のら」



 自分自身でも怪しいと思う。

 まあ、武器向けられるのは分かる。



 背後から突然、甲高い金属音が響いてきた。



 シャッターが突き破られた音のようだ。

 おいおい、なんだ。

 少女を無視して、音の出どころに向かうと巨大な二足歩行ロボットが闊歩していた。



「じいちゃん、またしっぱい。ぼうそうしてる」



 小さなため息が聞こえてきたが、そちらに注意を向けている場合ではない。

 なぜなら、そのロボットは俺を敵と見なし、襲ってきたからだ。

 手始めにミサイルが飛んでくる。

 助手、戦闘だ!



〈とー! 『眼力』ー!〉



 目を思いっきり開けた勢いで、ミサイルの勢いを消し飛ばし、地に落とした。

 眼の力だけで風圧が発生したことに驚きを隠せなかった。



「おい、お前さん。あの『49号』を止めれるか?」



 しわがれた声がする方向に、顔を向ける。

 いかにも、あの兵器を造りましたと分かる爺さんが出てきた。



「えーと、49号っていうのか。ぶっ壊していいんだな?」

「ああ、構わんが軽く機能停止させる程度だぞ。表面に傷一つ付けるなよ! 分かったな、兄ちゃん!」



 おい、無茶言うな!

 これには助手も、流石に無理だと抗議している。



「あいつの素材は貴重な物ばかりだ。壊したら弁償だ!」



 もう弁償コースでいいから助手、任せた!



〈いいんですねー? いいんですねー? 本当の本当に弁償でー〉



 何回も聞くな、覚悟は決めたんだ!

 金くらい、今の俺ならいくらでも稼げる。

 弁償でいいから、いくぞ!

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