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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第三章 リライズ決然編
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48 新都リライズ―2

「どちら様でしょうか」

「ミミゴンといいます。女王様とお話がありまして」

「担当者に伺いますので、少々お待ちください」



 官邸エントランスホールのソファに腰かけ、じっと待つ。

 暇なので、行き交う人々を観察してみるか。

 大体はスーツ姿で、政治家だな。

 人間はいない、全員ドワーフだ。

 ドワーフといっても、人間がちっちゃくなったようなもんだ。

 だからか、挙動が可愛い。



「ミミゴン様、許可されました。案内誘導線に従ってください」



 受付の声は、冷淡に端末を押す。

 女王に会いたい、という怪しさ満点の人物を怪しんでいない。

 まるで来ることを知っていたような口ぶりだ。

 下から電子音がして見下ろすと、磨き上げられた床にピンクの丸が現れた。

 丸は、床を泳ぐようにして先を進んでいく。

 ピンクの直線が引かれ、目的地まで誘導するようだ。

 直線をなぞるように、俺は歩いた。

 建物内はシンプルでいて、綺麗だ。

 ただ、迷子となる複雑さを兼ね備えている。

 案内板も単純ながら、迷路のように通路が張り巡らされていた。

 誘導線があるからこそ、俺は不安を抱くことなく前を歩けるのだ。

 しばらくして、ピンクの点が扉の下へと潜り込んでいく。

 この重厚な扉の先に、ドワーフの女王様か。

 新都リライズを治める最高権力者。







 シンプルな木彫がされた重厚な扉を、ゆっくりと淑やかに押していく。

 中には、スーツを着た小さいオッサンと華やかな衣装に包まれた小さな女性が静かに座っていた。

 オッサンドワーフは、長机の前に設置された椅子に。

 女性――恐らく女王『シャルトリューズ・エリシヴァ』だろう――も椅子に。

 オッサンが、この椅子に座りなさいという感じで空席へと促す。

 この空間には緊張感が存在しているが、この二人は緊張していない。

 俺だけに、ヒシヒシと襲ってくる。

 音を立ててはいけない、というような暗黙のルールを感じさせるため、静かに腰かけることにした。



 …………静か。

 俺から切り出すか。



「エンタープライズの王ミミゴンと申します」

「私がシャルトリューズ・エリシヴァ。エリシヴァと呼んで。このリライズを統治しているわ。で、こっちが大統領のリキュール・ゼステラド。よろしく頼むわ」

「どうも……ゼステラドとお呼びくださいな」



 女王も大統領も、口調に圧を感じる。

 強気で、俺と対峙していることを認識させられる。

 ここで有効なのは武力ではなく、交渉力。

 まずはエンタープライズについて、どこまで知っているか。



「エンタープライズという国を認知してもらいたいんだ」

「知ってるわ。もちろん、私たちは認知する。お互い、友好的な関係を築きたいでしょう?」



 ここで、ゼステラドが前に出る。

 打ち合わせしたように、スムーズに。



「ミミゴン様、武器にお困りではありませんか? そうですね、城の武装をあまりされていないそうですが。それに兵士の装備も。」



 ふん、なるほどな。

 俺たちを調べたか。

 まあ、そんなことはどうでもいい。

 こいつらが、自分たちの技術を売り込んでくるのは理解している。

 大統領ゼステラドが、”その”専門のようだな。



「いや、結構だ。城塞に武装なんてしたら、誰も来なくなる。エンタープライズは、城が国なのだ」

「確かに要塞と化しては、民が玄関を通ろうとは思わんでしょうね。ですが、兵士に関しては必要性を感じますがね。兵士とは戦うのが仕事です。戦いでは、相手を倒さなければならない。そして、傷を負うのも当然のことです、よね?」

「そんなことはないな。俺の部下は優秀だ。傷なんてものは負わない。それに武器は必要ない。今は商人を頼っているが、そのうち武器防具は自分たちで作る。そして完成した物は、リライズ産にも負けぬ伝説級の大物になる」



 はっきりと言い切ると、大統領は少し怯む。



「ミミゴン様……まだ私達の技術をご存じないのか、それとも愚か者なのか。製造に関しては、我々ドワーフに有利だ。人間が挑むのは構いません。ですがね、ドワーフには絶対に勝てない」



 大統領が余裕の表情で諭してくるが、聞き流して語る。



「俺がいつ、人間が武具製造に挑戦するなんて言った?」

「何?」

「そりゃ、生まれつき『職人』の隠しスキルを持つドワーフに人間、竜人、魔人が勝てるわけないよなぁ」



 隠しスキルというものがある。

 『見破る』等で、相手のスキル一覧を見ても表示されないスキルのこと。

 そのスキルは消すこともできないし、増やすこともできない。

 言い換えるならば『種族スキル』というやつか。

 隠しスキルは種族によって異なり、固定されている。

 例えば人間なら『凡人』、竜人なら『強人』、魔人は『不特定体質』、エルフは『妖精』。

 ドワーフは『職人』と『小人』の二つを持っている。

 俺はこれらのことから、種族として成り立たせるスキルではないかと考えている。

 ドワーフに『小人』が無ければ、ただの手に職を持つ人間になってしまう。

 人間を基準とすると『種族スキル』がないと皆、姿同じの人間へとなってしまう。

 つまり、種族というのは『種族スキル』によって変わるのだと思った。

 なぜ、こんなことを知っているのかというと、一度助手に訊いてみたことがあるのだ。

 種族というものを知りたいと訊いたら、返ってきた答えがこれである。



 更に「『ものまね』で、これらの隠しスキルを獲得できるのか」と訊くと。



〈できないですよー。唯一その種族以外、獲得できないスキルですねー。まあ、獲得しちゃったら肉体が混乱しちゃいますからねー。しょうがないシステムですねー〉



 隠しスキルについては、こんな説明で終えて話を戻そう。

 そう『職人』のドワーフに、いくら他種族が挑んでも出来上がるアイテムの完成度では勝つことはできないということ。

 俺が挑んでも最強のエルドラが挑んでも、ある一定値までしか完成度が上がらないのだ。

 ただ、俺が『ものまね』で、ドワーフになれば『職人』のスキルを使用することはできるみたいだ。

 覚えることはできない。

 俺は相手を絡めとる空気に負けず、話を続けた。



「なぁ、エンタープライズの存在意義を知ってるか? どの種族でも、仲良く生活できる国を目指している。不得意な分野は、得意な人物に任せる。分かるだろ、大統領さん」

「あなたが言いたいのはドワーフを受け入れ、自分たちで作っていくというわけですか」

「もう既に、少ないがドワーフの国民がおり、色々造ってもらったりしている」

「それでは、私達の武器を買う必要ないってわけね」



 ここで、エリシヴァが口を挟んできた。

 反論しようとするゼステラドを手を挙げて黙らせ、女王が結論へと導く。



「ゼステラド、説得しても無駄だわ。この交渉は終わりにしましょう。さあ、あなたからも何か言いたいことがあるんじゃないかしら?」

「話が速くて助かる。さすがは、女王といったところか」

「長いこと統治者をしているのよ。交渉力、観察力は自負しているわ」



 意外と、お年を召していらっしゃるのが分かった所で本番に入る。



「リライズ領以外での、リライズで生み出された技術を使用してはいけないとあったはずだが」

「ええ、憲法では『自国成立特許権の一般的制限』として存在しているわね。他の国で、私達の技術を使われると儲からないもの。仕方のないことだわ」

「でも使用料を払えば、その国でも使えるんだろ。例えば、エンタープライズで車を製造、使用が可能になるわけだ」

「そうよ、そうやって儲けるための法だからね。で、お金を払うから使用させてくれ、ということ?」

「ま、そういうこと」

「いいわ。けど、高いわよ。それぞれ、小分けにされていてね。例えば、さっき言った車。これの使用料に加え、製造する技術にも料金がつく。つまり、走らせるのにも造るのにも使用料が取られちゃうのよ。他にも電気技術はドワーフの技術だから、電気料金と使用料。武器を造る鍛冶技術の使用にも料金が発生するし、ドワーフの技術を使用するためには手続きとかしないといけないからね、手数料も発生するわ」



 事前にオルフォードから、これらの料金地獄について聞いていてよかった。

 国として儲ける仕組みとしては、こんな感じなんだな。

 誰だって豊かで楽な暮らしを過ごしたい。

 だけど楽をするためにはリライズの技術が、どうしても必要不可欠である。

 そして、金がないからと無断使用すれば、一瞬で分かるというらしい。

 どうあがいても、お金を支払わなくてはならないのだ。

 当然支払えないとなると、今後使用不可となり、牢屋行きである。

 脱出不可能の監獄がリライズ領内にあるらしい。

 そこに放り込まれたら、一巻の終わりである。

 まあ、そうなってもなんとかなりそうな気がするが。

 その監獄についても、オルフォードから聞いたが、あらゆる技術と謎の力を用いて「脱出生還フラグ」とやらを全力で折らせにくるという。

 どんなに運のいい奴や、身体能力抜群でも脱出不可能だそうだ。



 とにかく、俺は全力で楽したい!

 そのためには、金も努力も惜しみない性格の人間だ。

 で、皆も楽させたい!

 というわけで……。



「リライズの技術、全部使用させてもらおう!」

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