5 初戦闘
迷宮の周りは、木々が生い茂って鬱蒼とした森だ。
だが、木漏れ日のおかげで、進みやすい道を映してくれている。
「ここが迷宮の外……」
〈【迷いの森】と言われていますねー〉
「――助手!? 俺が言わなくても、出てくるのか!」
〈ミミゴン、解説させてくださーい。私は、あなたの役に立ちたいのですよー〉
「そ、そうか。これからも解説、頼むぞ」
〈はーい! お任せください!〉
なんだか嬉しそうな声だった。
世界を知らない俺に解説してくれることは、ありがたいけどな。
スキルに自我があるのか分からないが、仲良くしておこう。
怒らせて、いざって時に使えないと困るしな。
「さてと、適当に散歩するか」
タイヤを動かし、散策する。
ウィーンとラジコンカー特有の走行音を出して、あちこちを見渡す。
日本でも見かけた小動物も、いるなあ。
小鳥にリス、ヘビまで。
あれが、魔物か。
狙うのは、緑色の大きいトカゲっぽいやつ。
どれくらいの強さなのか、スキル取得も兼ねて試すか。
「『見破る』!」
名前:ベノムサウルス
レベル:14
種族:魔物
称号:『毒使い』
耐性:『毒半減』
戦闘用スキル:『毒牙』『ポイズン』
常用スキル:『毒成功確率UP』
特殊スキル:なし
毒を使う魔物か。
レベルも高いな、俺レベル1だぞ。
レベルってのもゲームで見たように高くなればなるほど強くなると考えていいかな。
『ものまね』を使用して攻撃しても、毒属性だからダメージは与えにくい。
それでも努力するのが俺だよ。
物は試しだ。
「『ものまね』!」
宝箱の姿から、トカゲの姿に変身する。
《スキル『毒牙』『ポイズン』『毒成功確率UP』を獲得しました》
〈『ポイズン』は、相手を毒状態にする玉が使用できるようになりますよー〉
「さっそく、使うぜ。『ポイズン』!」
俺の頭上で作られた毒の玉が、ベノムサウルス目がけて飛んでいった。
見事、命中!
が、それほど効いていなかったし、毒状態にもなってなさそうだった。
毒相手に毒は、効き目が薄いか。
ベノムサウルスは、俺を敵と認識したようで二本の牙を見せつけ襲いかかってきた。
攻撃を避け、すかさず『毒牙』で奴の体を噛みつく。
牙に毒が流れているようだった。
『毒牙』が発動しているようだ。
毒の牙から逃れようとジタバタ暴れるが、俺は踏ん張って毒を流し続けた。
ようやく、毒状態になったようで急激に力を失い、やがて死に至った。
やったぞ、俺!
これが元人間の力だよ。
「やっぱり、『ものまね』は使えるなあ」
(そのようだな、ミミゴン!)
「エルドラ!? 姿は見えないけど……」
辺りを見回しても、エルドラの姿はなく、ベノムサウルスの死体が転がっているだけだ。
「どこにいるんだ?」
(迷宮の中だ。お前が心配でな。『天眼』っていう動かなくても、あらゆる場所を見通すスキルと、『念話』という離れていても会話できるスキルでサポートしようと思う。ちなみに我の声は老化して発音できないから『念話』で直接、ミミゴンに話している)
「そうだったのか」
(それはそうと、出口は分かるか?)
「いや、分からない。適当にレベル上げでもしようかと思っていたところだ」
(そうか、レベル上げも必要だな。この森は大きいから、出口を目指しながら上げていくと良い)
「ああ、了解。じゃあ、エルドラ。案内、頼めるか?」
(任せておけ! 我の案内は、確実だ。信用してくれ!)
エルドラの案内に従い、トカゲの姿で目指した。
40分は、歩いたと思う。
蛇の魔物に化けて、ゆっくりと這っている。
疲れはしないものの、出口が見えてこない不安があった。
案内をするエルドラに「大丈夫なのか」と口にしたが。
(大きい森林なんだ。迷宮の場所は奥深くだから出口まで遠いのは、当たり前だ)
そう言って、再び案内を開始した。
まあ、嬉しいこともある。
道中、ウッドウルフやヴァイパーなど魔物を『ものまね』しながら倒しているので、
レベルが上がっている。
けれど、この森……なんとなくだが魔物の数が少ない気がする。
名前:ミミゴン
レベル:3
種族:兵器
称号:なし
耐性:『全障害ステータス無効』
戦闘用スキル:『見破る』『毒牙』『ポイズン』
常用スキル:『消音行動』『危機感知』『毒成功確率UP』
特殊スキル:『ものまね』『機械』『助手』
これが素のステータスだ。
レベルも上がった。
新たに2つスキルを獲得した。
いいぞ! この調子だ!
ん? 何か嫌な気配が。
(ミミゴン! 右だ!)
「――グッ!」
……こういうことも、ある。
不意打ちを食らってしまった。
『危機感知』で気配は分かっても、対応を急がねば意味がない。
思いっきり吹っ飛ばされ、ヘビの姿である魔物「ヴァイパー」に化けていた姿が元に戻ってしまった。
〈『ものまね』で化けていたヴァイパーの体力がなくなってしまい、効果を失ったようですー〉
「ヴァイパーだったら死んでいるダメージを食らったわけか」
(奴は、この森で一番強い魔物。その名も『イエロードラゴン』だ!)
正面には、黄色い外見で二足歩行をしている巨大なドラゴンがいた。
大きい腕をこちらに向け、魔法を放ったようだ。
〈『サンダーボルト』ですー! 避けてくださいー!〉
「簡単に言うんじゃねぇ!」
ロボットのタイヤが右に曲がり、加速して間一髪、避けることができた。
あぶないところだった。
直前までいた場所にある、木に大きく穴があいていた。
油断ならねぇな。
「『ものまね』!」
すぐにイエロードラゴン、そっくりの姿に変わる。
《スキル『サンダーボルト』『ダークネス』『高速詠唱』『MP消費0』を獲得しました》
《耐性『雷・闇属性無効』を獲得しました》
勝てる! 油断しないかぎり!
助手に訊きたいことが増えたが、今は戦いに集中だ。
どうやって戦う?
サンダーボルトとダークネスは使えないだろう。
属性無効をもっているのだし。
毒魔法で相手を毒状態にするか。
こっちに敵が近づき、魔法を放ってくる。
残念だが、耐性もってるんだわ。
体にさっきと同じ雷の魔法が当たるも、効かず。
毒で弱らせる!
「『ポイズン』!」
前に『ポイズン』を放った時よりも、速く大きな毒の玉が形成され、イエロードラゴンの方へ放たれた。
『高速詠唱』の効果と化けたイエロードラゴンの魔力が合わさり、より強力で速い毒魔法ができたのだろうな。
毒の玉は、奴にぶち当たり毒状態になったようだ。
こっちが有利になったな。
サンダーボルトが効かないと知り、ダークネスを放ってきた。
どうやら、バカらしい。
〈『ダークネス』ですー。避けなくていいですー。そのまま、やっちまえですー!〉
(奴の頭に思いっきり、パンチしてやれ!)
「はいはい、見ておけよ。渾身の一発を!」
奴の放った魔法は、俺の体に当たるも消滅して不発に終わる。
焦っているように見えたが、俺は気にしない。
隙を逃さない、俺。
何か魔法を唱えていたようだが、顔面を躊躇なくぶん殴った。
魔法が効かないなら、物理で攻撃すればいい。
簡単だな。
よろめいたものの、まだ立てる力が残っているらしい。
だったら、倒すまで殴り続ければいい。
「ウォーーー! ぶっ倒れろ!」
1分ぐらい、一方的に殴り続けた。
さすがに、かわいそうだなと思っても殴り続けてしまった。
生きるか死ぬかの闘いだからな。
《レベルアップ! 3⋙5》
《称号『殴打』の獲得により、スキル『格闘』を獲得しました。
『殴打』の称号を表示している間、素手による攻撃時『攻撃力+100%』の効果》
はー、疲れたわー。
よく頑張ったよ、俺。
ここらで一息つ……え。
「いたぞ! イエロードラゴンだ!」
「『シャイニングレイ』!」
「いてッ!?」
背後から突然、魔法が。
体を魔法の光線が突き抜く。
振り返ると、二人の人間がいた。
イケてる男と女である。
この世界にも、ちゃんといるんだな人が。
(ボーッとしてる場合か! 逃げろ!)
「腹に穴が開いて、痛いんだ」
(奴らは強い! 逃げたほうがいい!)
「『操魔剣 ドラゴンキラー』!」
男の背後に、禍々しい剣が浮かび上がる。
なんだあれ!?
剣は、俺の方に突っ込んでくる。
逃げるしかないだろ!
『ドラゴンキラー』とか言ってたし!
すぐさま、左に避け、足を一生懸命動かす。
操魔剣は、追ってきたようだった。
嘘だろ!? 追尾機能とかあんの!?
かっこいいな。
「うぅっ!? さ、刺さったのか」
剣は、背中から突き刺さり体を貫く。
突き刺さっている剣は、役目を終えたようで消えていった。
ぽっかりと穴のあいた胸からは、蛇口を捻ったように血が溢れ出してくる。
魔物の姿で逃げるよりも、ロボのほうが速い!
そう判断して『ものまね』を解除する。
車輪を必死に回し、全速力で走る。
以前、聞こえていたウィーンという駆動音は『消音行動』によって無くなったんだなと、このような状況でも考えていた。
どうやら、撒いたようだ。
後ろには、先ほどまでいた森がある。
一心不乱に森の中を駆け巡り、ようやく眩しい日の光を拝むことができた。
太陽のもたらす光に安心感があった。
しばらくは落ち着けるか。
これからのことを、エルドラと相談する。
「どうする? 近くに国でもあれば行くか?」
(……ミミゴン、疲れているだろう。近辺に上質な野菜が特産品の村がある。そこに行こう)
「で、どこにあるんだ? エルドラがまた案内してくれるのか?」
(案内するのは、我ではない。……そこの娘だ)
前から、黄色に近い赤髪の若い女性が歩いてくる。
肩までかかる髪をなびかせ、顔に喜色を浮かべている。
俺に気づいたのか、走って距離を狭める。
すると、俺を抱きかかえて。
「かわいい! ロボット!? 村に来る?」
「ああ、ぜひ連れて行ってくれ」
「うわ!? しゃべ……った!?」
驚いて、俺を離しやがった。
だが、猫のように華麗に着地する。
ロボットが喋るのは不自然なのか?
(ロボットというのは、普通は戦闘用だったり、探索用だったりする。だから、喋る機能など一切無いのだが。それでは、面白くないと思って発声機能を付けてみたというわけだ)
「よく造れたな」
(ある少女が、喋るロボットを造っていたのでな。ちょいと技術をパクってみた)
目立たないように喋らないほうがいいのか?
別にどうでもいいことだが。
それより、この女性は目をキラキラさせて俺を見ている。
モテているわけではないだろうが、このままだと話が進まないので、こっちから話しかけてみた。
「近くに村があると聞いたんだが、あなたは場所を知っているか?」
「え、あ、うん! 私が住む村のことだね! すぐ行こう!」
再び俺を抱きかかえて、村の方まで走って行った。