46 新都リライズ:道中―反撃
エルドラ、一体何が起こっている?
爆発音多数に加え、魔物の群れ。
異常と異常のオンパレードだ。
(ふむ、線路内に魔物が侵入できぬよう結界が張られていたんだが、特殊な爆弾で打ち破ったのだろう。そこから魔物が侵入、で今に至るのだが……)
あきらかに外に生息する魔物の数と比例しないよな。
つまり、何者かがこの大群を引き連れて襲ったと考えるべきか。
(この地域、魔物の数が激減していると聞いていた。その線で間違いないだろう。流石はミミゴン、良い親友をもったわ!)
嬉しいお言葉、ありがとな。
で、首謀者らしき人物は?
(我に任せておけ。すぐに探し出してくれる!)
心強いぜ、エルドラ!
頼りになる相棒だ。
「ギャアギャアー!」
「うるさいな! っと」
両側から攻めてくるライオンみたいな魔物に、力を尽くしたストレートパンチを食らわせる。
魔物は頭を失いながら来た方向に押し戻され、勢いで車両を突き破っていく。
腰を落として、ジャンプする体勢に入り一呼吸おいて、思いっきり床を蹴って飛び上がる。
『自由飛行』を発動させ、広い範囲にあちこち目を向けて、有様を確認する。
ん、あそこにいるのはハンターか。
流石と言うか当たり前だけど、何人か守りながら魔物と対峙している。
当然、苦戦しているわけなので、救いの手を差し伸べる。
前作った、でかすぎて軽すぎる大剣をハンター達に向かって振り抜き、地面に突き刺す。
それを使いな、的な意味でプレゼントしたのに、不審がって手に取ろうとしない。
仕方ないので『念話』で怪しげな口調で、使えと伝える。
(それを……使うといい。この危機を乗り切ることができる……ぞ)
「な、なんだこの声は! いったいどこから!」
「ナイリウス! 迷っている暇がない! その剣を扱え! お前なら軽々と使いこなせるはずだ! そんな馬鹿でかい、デザインセンスがなさすぎる剣でもな!」
おい、今いうことか?
ようやく、ナイリウスという青年は決心したようで、傷だらけの手で大剣を握った。
触れると同時にナイリウスの傷は塞がり、癒しの光を纏った手で剣を引っこ抜く。
驚愕の表情を浮かべたのは言うまでもない。
「体の……底から底から、力が湧き上がってくる! 何だか、大暴れしたい気分だ! ハハハハハッ!」
「ど、どうしたんだ!? 大丈夫か!」
「先輩! ここはナイリウスに任せて、私達は乗客を守りましょう!」
現在、無双している青年に何が起こったのか。
俺が、剣に『武器スキル付与』で『使用者の体力回復』と『アドレナリンバースト』を付与させたからだ。
おかげで、狂ったように笑いながら、それまで苦しめられていた魔物をバッサバッサと斬り伏していく。
これで、常人サイドは大丈夫だな。
ありがとう、助手。
良いスキルを教えてくれて。
俺は、ハンター達とは反対側にいる魔物の集団に飛行した。
エルドラの報告通り、線路を守る結界を張っていた装置が爆破されていた。
そして、現在も魔物が線路内を侵し、電車に乗り込んでいく。
俺が流れを断ち切るとしようか。
助手、こちらに全敵の注意を向けさせるスキルはあるか?
〈あそこにいる『ルビーシールド』が、『注目』という囮スキルをもっていますー。それを使えば、全体の注意を自分に向けれるでしょー。さあ、『ものまね』ですよー!〉
任しとけ。
赤いヤドカリが巨大化した魔物がいた。
『ものまね』!
《スキル『注目』『ファランクス』『受け流し』『硬化』を獲得しました》
敵をひきつける役をタンクっていうんだっけ、囮に特化したスキルだな。
特に目立つのが防御力。
物理や魔法は効いても、その防御力がダメージをとことん減らす。
殻で覆われた本体を攻撃しないと、攻撃が有効ではない厄介な敵だな。
でも、今は厄介な奴に自分からなってるんだけどな。
そして、奴らは俺を攻撃してきた。
魔物の姿でも、中身が魔物じゃなけりゃ混じることもできない。
ルビーシールドの防御力を頼って、殻に閉じこもり、次に何をしようか考える。
これだけ様々な魔物がいるんだから『ものまね』で、魔物スキルを獲得していくか。
〈いいですねー! ミミゴンにしては良い案ですー〉
それぐらいの罵倒で動じないぞ。
近くの敵から、まねしていくか!
次々と『ものまね』して、ミミゴンという身体は変化し続けていく。
変化して、鳥になったかと思えば、瞬間で猪に近い姿になる。
もちろん、この間にも敵は俺を襲いかかる。
更に、さきほどの『注目』を使用して、車両に向かった魔物も方向転換して牙を向ける。
猛攻が入り混じって、俺を攻撃するブレスは周りの魔物に被害を与えた。
魔物が魔物を殺しているようなものだ。
鋭い爪は、小さい肉体を持つ者を切り裂き。
研ぎ澄まされた牙は、別の魔物の肉に食い込み、血と唾液を啜る。
俺は、それらを避ける。
もう十分か……助手、どれだけ獲得できた?
〈見てみましょうかー。表示しますよー〉
スキル『ゼノグラシア』『眼力』『麻痺牙』『睡眠牙』『即死牙』『影縫い』『急所発見』『エコー』『デストロイビーム』『癒しの霧』……。
さすがに多いなぁ。
ただ、どの状況でも切り抜けられるほどの強さになったんじゃないか。
こうなったら俺を止めることは、できねーな。
さてさて、こんなに混雑している魔物達をどう処理してやろうかな。
めんどくさいから、これでいいか。
魔物の姿を解除して、人型に変化し『自由飛行』で空中に佇む。
「終わりだ! さー、俺の最強すぎる卑怯なスキルを食らえ! レベルマイナスデ……」
〈はーい! ストップ、ストップー!〉
な、何しやがるんだ、助手!?
ちょ、発動しない!
止めんなー!
攻めてくる魔物共のスキルを避けながら、冷静になろうと努めた。
助手は慌てた口調で、説明し始める。
〈何、バカなことしようとしてんですかー!〉
『レベルマイナスデス』で一掃しようかと。
良い考えのはずだ。
俺よりレベルの低い魔物を即死させるスキルだろ?
〈魔物だけじゃないんですよー! 分かっていますかー! 生物もですよー! 生物ー! 生き物、全て効果の範囲内ですよー! 何が言いたいか分かってますかー!〉
生物……乗客も巻き込まれるのか。
けどさ、この前ドワーフを魔物から助けた時『レベルマイナスデス』使ったが、あいつらには効いてなかったが。
〈『魔結界』は、スキル攻撃から身を守るものですよー。そんなの効くわけないじゃないですかー〉
要するに『魔結界』の中にいる人物は平気ってことだな。
今で言うなら、ダンダンは『魔結界』の中だから安全か。
〈『レベルマイナスデス』は非常に強力なスキルですがー、逆に広範囲すぎて味方も巻き込むので、不便でもあるのですよー。それに死霊スキルは経験値を得ることは、できませーん〉
死霊スキルは経験値がもらえないのか。
通りでこの前、即死させた時に充実感が得られなかったわけだ。
〈死霊スキルっていうのは、言わば死神の召喚ですからねー。死神は命欲しさに殺すんですから、私達の経験値にならないのは当然ですねー〉
死神に経験値である魂をもっていかれるわけか。
うーん、一掃したい気分だ。
こうなったら、エルドラに化けて暴れてやる。
肉体がグワングワンと揺れながら、徐々に徐々に龍の姿へと変身する。
「グオオオオー! ハッ! エルドラ参上だ!」
(ウオオオー! やってやれ、ミミゴン! いや、我よ!)
試しに、この囲まれた状況で全力で腕を振るってみる……。
……終わった。あっけなく。何もない。
(ちょっと、強すぎたな。地形……変えちまったな)
エルドラのドン引きが、伝わってくる。
い、いや俺は戦いを楽しむ性格じゃないからな。
これでいいんだよ、レベルも1上がったし。
〈いつまで、この状態でいるんですかー。エルドラって結構大きいですしー、目立つのですよー〉
よし、満足、満足。
『ものまね』の効果を解除し、エルドラから普通の人間に戻った。
ずっと同じ服では楽しくないから『異次元収納』で衣服を取り出し、早着替えした。
しまった、これ女性用の下着じゃないか。
俺、今の性別、男だよな。
これはしまって……で、あれはあれはどこだ。
わけもわからず、クワトロから買いすぎたな。
エルドラが、『念話』で事態を引き起こした犯人を報告する。
(ミミゴン、今回の電車を襲わせた犯人を見つけたぞ。ほら早くしろ! 逃げちまうぞ!)
待て待て! 焦らせるな!
着替え完了。
クールなスーツを身に着ける。
今から首謀者を懲らしめると共に、リライズの最高権力者に会うんだからな。
エルドラ、位置を教えてくれ。
位置情報を貰い、『テレポート』で瞬間移動し、捕らえに行った。
これで電車事件は無事終了した。




