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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第三章 リライズ決然編
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45 新都リライズ:道中―奇襲

「に、ニート政策? 働いていない人のことか」



 ニート……日本でも聞いた単語だな。

 学校に行かない、働かない者、若年無業者と言うんだったか。

 度々、問題となる労働に関すること。

 エンタープライズも、いつかそんな問題に悩まされる時が来るのだろうか。

 働いたら負け、なんて言う「流行ってはいけない言葉」が生み出された時点で、本当に負けだよ。

 だいたい、勝ち負けの問題じゃないが。

 ダンダンに質問攻めする。



「NEET政策ってのは、労働者対策ということですか?」

「うーん、大きく言えばそうかもしれません。ですが、本質は別物です。その前に喉、乾いてませんか? 良ければ、何か奢りますよ」

「いいのですか! ありがたくいただきます!」



 スーツの胸ポケットから、スマホを取り出し、お菓子や飲料等を詰め込んだワゴンを動かす販売員に声をかけ、注文する。



「私は、ホットコーヒーを頼もう。ミミゴンさんは?」

「そうだな……野菜ジュースで」



 かしこまりました、と販売員はすぐに用意する。

 カップとグラスを置いて、ボトルで注いでいくのだが、そのボトルだけでいくつもの飲み物が内蔵されているみたいだ。

 温かいコーヒーをいれて、スイッチで切り替えると、リンゴベースの赤い野菜ジュースが注がれる。

 そして販売員が差し出したタブレットに、ダンダンのスマホを被さると音が鳴り、支払いが完了された。

 ありがとうございました、とそつなく去っていった。

 さされたストローをチューとすすって、口内を野菜ジュース特有の味が占め、喉を通っていく。

 異世界でも味は変わらんな。

 しかし、ハイテクというんだろうか……スマホ一つでここまで出来るとは。

 ダンダンは一口含んで、話し始める。



「スマートフォン……確かに便利な機器であるのは、間違いないんですがね。ただ便利すぎる反面、問題もあるわけです。先ほどの『NEET政策』も、スマホという堕落要素に対抗するための政策でもありますし、他の面でも関係しています。いいですか、スマホが堕落の根源ではないのですよ。今や、インターネット社会。あらゆる物が世界インターネットと繋がっている……。俗に言う『森羅万象の情報インフラ化”IoE”』と世間一般ではなっていますが、ご存知でしょうか?」



 IoE?。

 物をインターネットに繋げるのは、IoTだ。

 色んな物をインターネットに繋げば、より生活が便利になるとかで開発されてたよな。

 リライズだと、もう一般化されているのか。

 IoEとやらは聞いたことがないな。



「そのIoEとはなんだ?」

「IoEとは、ありとあらゆる存在を国に接続し、色々と楽ができるシステムのことです。ロボットは増え、人の手は少なくなってきました。皆、働かなくてもいい時代になったのです。ええ、もちろん……働かなくては国がなくなってしまいます。そこで登場したのが『NEET政策』。働かない人物は、すぐに社会から追放されます。ヴィシュヌは個人の社会評価を表示します。その人が、どれだけリライズに貢献しているのかが、ハッキリと分かるシステムです。国のために働けば『ポイント』が加算され、集団行動できない怠け者には減点という罰が与えられ、0ポイントになると軍が出動し、強制的に排除されるのです。それが『NEET政策』ですよ」

「厳しい国だな。まあ、そうしないと自ら造り上げた『便利』で自滅してしまうものな」



 もし、日本も便利すぎる未来となった時代、こうした処置がとられるのだろうか。

 無職には鉄槌、国の存続のために日々働き続ける生活となってしまうのだろうか。



「これらの政策に、反対する者もいますよ。一生懸命、国の異常さを演説し、麻痺している国民に気付かせようとする目覚めた政治家も……そんなリライズに都合の悪い政治家は、数日もすれば皆の記憶から、社会からも抹消されているのですがね」

「つまり、殺されると?」

「さあ、どうでしょう。誰も気にしないのでね。都合の良い国と国民……それらの『都合の良さ』で成り立っている国ですから」



 洗脳というのだろうか、国という組織が部下という国民に催眠を施し、発展と成長を繰り広げる。

 誰にも欠点を見せない、気づかせない。

 生まれた時から、洗脳教育され、生きる意味を知らず考えさせず、働かせて働かせて、そうして得る進化。

 健康で安全で幸せに生きることができますよ。

 そんな謳い文句に誘われて、本質を暴けない。

 しかし、謳い文句は嘘をついてはいない。

 決して自由ではないが、優しい優しい社会。

 こんなところに住みたいだろうか。

 甘やかされ、騙され続けて真の自由を手にすることができないというのに。



「ミミゴンさん、いかがですか。この国は。恐ろしいと思いましたか、それとも幻想的だけど住んでみたいと思いましたか?」

「俺は遠慮しとくよ。今の俺にとって、あまり魅力を感じないからな」



 転生前の俺なら、ここで生活したいと思っていたかもしれない。

 それも全然売れなかった若手の時なら、なおさら。

 だって、簡単に生きることが出来るから。

 生きる意味を知らなくてもいいし、考えなくてもいい。

 職探しも悩む必要はない、お金に困ることもない。

 師匠が若者に向けた言葉を思い出す。


 ”生きなくてもいいから死ぬな、殺されるな”


 けど、今の俺は一国の王だ。

 俺には強さがある、自由になれる力がある。

 俺は皆を幸せにできる力を身に着けたんだ。

 偽りの自由なんか無くてもいいんだからな。







 コトコト、と野菜ジュースが入れられたグラスが揺れる。

 それを感じ取った直後、大きな爆発音と電車を揺さぶる衝撃を食らった。

 あちこちで置物が落ちる音、ガラス製品が割れて散らばった音が奏でられている。

 乗客は姿勢を低くして頭を抱え、防御の体勢に入っていたり、何事かと辺りを見回していた。

 ダンダンと俺も、何が起きたのか状況を理解しようと努めている。

 今度は先頭車両の方から爆発音が聞こえ、高速で走っていた電車が急ブレーキしはじめ、慣性の法則で進行方向に体を持っていかれる。

 転ぶ者や耐える者もいる、この室内にスピーカーから怒声が発せられた。



「乗客の皆さま! 魔物が……魔物が線路内に侵入してきました! それに電車も動きません! 先輩、ど、どうすれば……わッ、魔物が中に!? 先輩、先輩! 助けt……」



 その残酷な放送を最後まで聞く者はいなかった。

 なぜなら、窓から侵入してきた魔物に気を取られ、それどころではなかったからだ。

 すぐに、衝撃で倒れているダンダンの側に行き、『バリアウォール』で魔物の猛攻を防ぐ。



「ダンダン! 大丈夫か!」

「だ……大丈夫ですよ」

「その場を動くなよ、俺が守ってやる!」



 犬型の魔物は『バリアウォール』に噛みついてくるし、見るからに悪そうな小人型の魔物は魔法を唱える。

 鳥っぽいのもいるし、窓の外にはでかい猪もいる。

 戦うスキルを持たない者は、悲鳴を上げて死んでいく。

 最期は電車の床に赤い染みを遺して、世界に別れを告げる悲鳴。

 車両内は客の血で床は汚され、ガラスの破片、物が散らかっていた。

 まずいまずいまずい、流石に数の多い魔物から人々を守り抜くのは困難だ。

 状況の把握に努めたいが、俺の張る障壁バリアウォールに殺そうとする魔物が、べったりとくっついていて冷静になれない。



 タイミングを見計らい、『バリアウォール』を解除すると同時に、近くの敵には『キル』を五本の指それぞれから飛ばし、遠くの敵には範囲攻撃ではない『インフェルノ』を放つ。

 『キル』が込められた黒い火の玉は魔物を飲み込み、きれいさっぱり存在を消し、燃え盛る火の玉『インフェルノ』は当たった魔物を豪快に燃やし尽くす。



 魔物群に襲われる前に『魔結界』で、ダンダンを包んで、狭い安全地帯を形成する。

 次に『武器創造』で、使いやすいリボルバーをイメージした。

 リボルバー拳銃が好きなんでな。

 発動して手に握られていたのは拳銃なんだが、少しイメージしていたのよりも大きいサイズだった。

 また、大きいのが出来てしまった。

 前回の反省から、結構小さめなのを想像したっていうのに。



〈更に小さいのを想像すれば、いいじゃないんですかー〉



 そんなの分かってる……助手か、久しぶりだな。

 頭、ちゃんと冷えたか。



〈かなり面白いことになってますねー〉



 なに、嬉しそうに話してんだよ、ちょっとは応援しろ。



〈がんばれー、がんばれー! で、いいですかー〉



 それでいいから、俺を見守ってくれよ。

 早速、完成した予想より大きいリボルバーを敵に狙いを定めて、引き金を引く。

 が、弾が出ない。

 犬型の魔物『ブラックドッグ』が燃えているような目で睨み、尖った歯で突き刺そうと口を開き、飛んできた。

 華麗に「回避」からの、蹴り飛ばし。

 蹴りによって、勢いのついた肉体は壁に激突して、牙が折られ気絶した。

 なんで弾丸が発射されねぇんだ。



〈弾が込められていないからですよー、マヌケさーん。『武器スキル付与』で『無限弾薬』と『光速弾』『フルオート』『無反動』を付与しては、どうでしょー〉



 マヌケと言われるのは腹が立つが、すぐに解決策を言ったのは偉いぞ。

 助手の助言通り、リボルバーにそれらのスキル効果を付けて、今にも襲いかかってきそうな鳥の魔物『スモールコカトリス』に向かって、引き金を引いた。

 軽く引き金を引いただけで、光速の弾丸が魔物を撃ち抜き、空中から地に落下させた。

 しかも、引き金を引き続けるだけで最強の弾丸が連射される。

 反動もないし、弾丸が尽きることなく発射され続ける。

 反則的な強さを持つ銃だな、これ。

 一通り武器を扱って周りの魔物を殲滅し、銃をダンダンに預ける。



「こ、これは……」

「これで自分の身を守れ。『魔結界』を張ってても、万一って時がある。使い方は分かるな?」



 コクコクと頷き、理解した。

 さてと俺は、この魔物がうようよいる状況を何とかするか。

”Internet of Everything” IoTの上位概念ですね。

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