エンタープライズ:ノウア
グラティア村の神父ファーザー・ノウア。村を奪われた彼が、神に導かれ到達した国エンタープライズで得た職業とは。
「ここは、エンタープライズです! 私の名は、ノウアと申します。案内は、私にお任せください! 誰よりも、ここを愛しておりますので、知らぬ場所などございません!」
別に誰かに、話しかけているわけではないのです。
そう、私ファーザー・ノウアは、コンシェルジュとして任命され、エントランスホールの目立つ場所に、チョコンと設置された受付カウンターで仕事しています。
一人ただじっと座って、時間の流れを感じ続けています。
さっきの言葉を、早く私は言いたい!
「ここは、エンタープライズです! 案内は私に……」と、誰かを案内したい!
ここの王、ミミゴン様から頂いた『コンシェルジュ』という仕事ですが、いまいち存在意義が理解できないのです。
完成されたばかりの国。
来客は少なく、いつも訓練に向かう者達が前を通過するか、メイド達が掃除に来るか、ぐらいです。
仕事内容について、ミミゴン様からは「究極のパーソナルサービスとして、頑張れ」としか言われていないのです。
それで、私なりに考えたのが「案内」「苦情の受付」「連絡係」です。
が、「案内」なんて人が少ないんですから、しようがありません。
「苦情の受付」に関しても、誰も苦情を言いません。
「連絡係」としては、役立てる可能性があります。
近くに、トルフィドの村というのがあるのですが、そこからケイトという女性がよく、主に料理に携わっている使用人達に料理を教えに来たり、採れた野菜を持ってきてくださりと、してもらっています。
ケイトさんに「あの人はどこにいますか」と訊かれるので『念話』で、お呼びしたりしています。
それぐらいでしょうか、私の仕事は。
あと、たまに来られる商人の方から、荷物運びを手伝わされたりしてます。
……私が望んでいた労働では、ないのですが。
私は守っていただいている国のために、汗水垂らして働くんだ、と思っていました。
この仕事は楽といえば楽ですが、暇です。
コーヒーを啜りながら、今日も流れを観察していきましょうか。
まず、全使用人の長であるアイソトープ様。
私と一緒に避難してきた人間も加わったことで、出来ることも増えてきたらしいです。
女性の大半は、使用人となり『領域の番人』に加わったのである。
『テリトリーキーパー』とは、アイソトープ様率いる使用人の軍団名ですね。
掃除班、食糧班、医療班に分かれています。
アイソトープ様は、ミミゴン様の次にお偉い方、ちゃんと挨拶しておきましょう。
「おはようございます! アイソトープ様!」
挨拶というのは相手に自分を覚えてもらい、自分が存在する証拠になるのです。
今日も、コンシェルジュとして頑張っていますよ!
「……おはようございます、ファーザー・ノウア様。今日も、よろしくお願いいたします」
はい、頑張ります!
アイソトープ様は「絶世の美女」といっても、過言ではないでしょう。
その整ったスタイル、髪は色も相まって「金の海」のようで美しい、そして引き締まった凛々しい顔。
笑った顔を想像できないほど、仕事を熱心に取り組まれる。
常に誰に対しても、気を引き締めているのでしょう。
なにより、彼女の纏う雰囲気が違います。
冷え切っているといっては失礼かもですが、とにかく普通の人間には出せない雰囲気なのです。
それに途轍もなく、お強いとも聞きました。
食料が不足していた時期、近くにいた魔物を討伐されたというのですが。
その魔物のレベルが、90を超える「ミーノタウロス」だそうでした。
ミーノタウロスといえば、神が創り出した化け物といわれ「目撃して、生きて帰れる者いないランキング(自分が作った)」でも上位を争う魔物です。
……一撃だったそうです。
いえ、その光景を目の当たりにした者に言わせれば、一撃さえなかったと言います。
ただ奴の前に立っただけで、即死……。
伝説の魔物が攻撃することも出来ず、肉料理にさせられたのです。
私もいただくことが出来、一口食べると口の中に楽園が広がりました。
そして、筋肉ムキムキになりました。
贅肉など全くない「筋力」というのが、端的に表現されている肉体へと進化したのです。
当然、全員ですのでアイソトープ様の後ろを歩く、メイド達も無駄のない引き締まったボディを獲得しております。
そして称号『星の子』を獲得し、更には大量の経験値も獲得、レベルも40を超えました。
私は戦士ではないので、レベルなんて一桁だったのですが、この結果です。
ということで、この国にいる者全員、もれなく強者になったのです。
もちろん例外なく、子供たちもです。
もしかしたら戦争を軽く、終わらせることが出来るかもしれません。
私は戦争を憎んでいますから、今すぐにでも向かいたいくらいです。
これらの事からアイソトープ様の種族は、人間ではないという結論に達しました。
人間の姿をした化け物ではないか、ということです。
ですが、私にも親切にしてくださいますし、何より国を守るという共通の目的がありますから、敵ではないということです。
味方で、安心します。
「おーい! ノウア、案内してやってくれ!」
あ、案内ですと!?
よよよ、喜んでやりますとも!
どうやら、ミミゴン様が何人かドワーフを引き連れて、戻ってきたそうです。
ミミゴン様が「あとは、よろしく!」と、私に仕事をくださいました。
その後『テレポート』で、どこかに行かれましたが、私はウキウキしています。
何故なら、このセリフを言えるからです。
「ここは、エンタープライズです! 私の名は、ノウアと申します。案内は、私にお任せください! 誰よりも、ここを愛しておりますので、知らぬ場所などございません!」




