43 新都リライズ:道中―災難
エルドラの『念話』が脳に響く。
それによって、朝を迎えることができた。
路肩で駐車していたんだったな。
エルドラ、おはよう。
(何寝ぼけたこと、言ってるんだ! ほれ、面白いことになってるぞ!)
面白いことになっている?
と、何だか痒い。
あちこち斬られたり、殴られたりされている感覚がする。
「おい! さっさと部品を剥ぎ取って帰るぞ! 何ちんたらやってんだ! 持ち主が帰ってきちまうだろ!」
「そうは言っても、なかなか取れないんですん! この車、頑丈すぎますん!」
「なーに? こんなもん俺に任せりゃ一発だよ」
男二人の声が響いているが、なんだ?
『千里眼』のスキルで、辺りを見回す。
どうやら、野郎共に部品奪われそうになってた。
若いドワーフと、オッサンドワーフか。
ちょっと驚かせてやる。
「おい! 何してんだ、ドワーフ!」
「ど、どこにいる!?」
「に、逃げましょん!」
「バカ言ってんじゃねぇ! あいつらが飢え死んでいいってか!」
飢え死ぬとかいう、ワードが聞こえてきたんだが。
気になって、尋ねてみた。
「飢え死ぬって、貧困か?」
「誰だかわかんねーが、そうだ! 俺たちは、故郷を追い出されたんだよ!」
「そういえば毎日、盗みしかしてないっすん」
「盗みじゃねー! 改造するためのパーツを奪ってんだよ!」
「盗みじゃねーか。貧困だからって盗むのは感心しないな」
こいつらを悟らせて、良い道へと導いてみる。
そうだ、練習だ、練習。
説得力は、王に必要な要素だ。
ちょうどいい、説得の練習だ。
オッサンドワーフが怒鳴って、語りはじめる。
「あんだと! 文句あるなら出てこい! 姿を現さない臆病者に言われたかないな!」
「ここだよ、ここ! お前の目の前にいるだろ!」
「貴様! なめてんのか!」
怒りを緩和しようと、俺を蹴飛ばす。
「痛ッ! 俺を蹴るんじゃねーよ!」
「おい! 出てこい! ドワーフは、力がないと思ってんだろ! 試しに受けてみやがれ!」
「あ、兄貴、ヤバイですん!」
「あん! ダイキリは黙ってろ! おら! これ、お前の車だろ! 爆弾持ってんだ! 仕掛けてもいいんだぜ!」
バッグから、ダイナマイトを数個持ち出して、天に掲げている。
近くにいる誰かに見せつけているようだが。
「兄貴ん! そんなもの、見せたらん!?」
「黙ってろ! 脅しだ脅し。本当に爆発させるわけねーだろ」
「そうじゃないですん!」
なんだ、この二人、漫才でもしてるのか。
丸聞こえだ、お前ら。
〈出番ですよー、出番ー!〉
出番?
そろそろ正体を現すのに良い時、ということか。
〈違いますー! あっちを見て下さーい〉
「何で分からないんですん! あっちを見るんですん!」
俺と兄貴は、あっちを見る。
どこを指さしてるんだ?
「グルァァァ! グルァッッ!」
「『マシンタードッグ』か!?」
「おわ!? いっぱい来てる!」
兄貴が言うには『マシンタードッグ』という電気を纏った犬の魔物が、大量に向かってくる。
ざっと30匹以上はいるのではないかと思われる集団は、少しも向きを変えず歯を見せ、口を開けている。
集団の先頭を率いているのは、ボス格の『マシンタードッグ』だろう。
他より体格が大きいサイズだ。
「あ、兄貴ん! 早くダイナマイトを放るか、隠してくださいん! 奴らの大好物ですん!」
「お、お前がなんとかしろ!」
「兄貴がしてくださいよん! 足、動かないんですん!」
兄貴は笑って、答える。
「奇遇だな、ダイキリ。実を言うと……兄貴もなんだ」
「あにきー!」
「おい、下がってろ! 俺が、なんとかしてやる!」
その二人は「ついに幻聴が聞こえ始めたー!」と騒いでいる。
うるせーな、この二人は。
車の『ものまね』を解除し、ドローンの姿に変わる。
驚愕する二人をかばうように前へ出て、『魔結界』を張る。
アイソトープの『究極結界』ほど頑丈ではないにしろ、現状十分な強度を誇る。
青い結界がドワーフを覆う即席のシェルターとなり、俺は攻撃準備に移行した。
「実験しよう。使ってみるぞ、死霊スキル! 繰り出すぞ、『レベルマイナスデス』!」
一瞬、黒い波動が辺りに広がると、ボス格の『マシンタードッグ』以外、雑魚は消え去った。
肉体すら、この世に残すことなく、あっけない死を迎えた。
ボスはそれまで続けていた突進を止め、半歩後ろに下がる。
そして、俺は違和感を抱く。
なんだろう、何かが違う、物足りない?
だが、ゆっくりと思考する時間を魔物は許さなかった。
身に纏う雷を開いた口に集め、狙いを俺に向ける。
自分の味方がやられたというのに、冷静に狙いを定めている。
確実に討ち取り、復讐を果たすという意志を感じ取った。
――狙撃。
『マシンタードッグ』が口から放った攻撃は狙い違わず、俺に飛んでくる。
電撃の弾丸は、獲物を吹き飛ばす威力を纏っている。
が、そうはさせないのが進化した俺だ。
俺自身、雷属性は効かないと聞いていたから……。
弾丸が見事に直撃し、俺は後方へ押された。
あれ、普通に食らったな。
弾丸は俺に当たると小さく傷をつけ、放電し散っていった。
無効なら、そのまま小さくなっていくはずのだが。
〈それは魔法に限った話ですよー。『全属性魔法無効』ってありましたよねー、聞こえてないんですかー。物忘れが激しいんですかー〉
魔法だけなのか。
魔法以外のスキルでの、雷は普通に食らうんだ。
一つ賢くなった。
と、更に奴は素早く二発、三発と連射してきた。
痛くはないが、当たった反動でのけ反る。
連射されて傷はつけられるが、『超高速回復』ですぐに塞がっていく。
しばらくして、敵の魔力が尽きたようで、体に帯びていた電気はなくなっていた。
苦しい呼吸を繰り返し、俺を視界に捉え続けている。
こいつ、レベルは俺より下のはずだが『レベルマイナスデス』が効かないのはなんでだ。
使用者より、レベルが低ければ即死なんだよな。
〈『見破る』をしたら、即死に耐性があるようですねー。どこで獲得したのか分かりませんがー、『即死無効』を持った魔獣がいるなんてねー〉
『即死無効』を付けた魔物か、通りで効かないわけだ。
〈ですがー、『死の宣告』は効くはずですよー。『即死無効』では防げないのでー〉
「『死の宣告』!」
言われた通り、死を予告するスキルは効いたようだ。
3000と書かれたタイマーを持った、霊っぽいのが奴の背後に憑く。
そのタイマーは一秒で一カウント減るのではなく、どんどん減っていく。
牙で噛みつこうと動けば動くほど、カウントが速くなった。
つまり、死を大人しく待ってろ、ということだろう。
俺は空中を飛び回り、0になるまで戯れる。
もうカウントは、100を過ぎていた。
50、20、10……。
0!
0が表示された瞬間、背後霊が憑依した宿主の全身を覆い、風船の空気が抜けるようにしぼんでいった。
もう、そこには何も存在していなかった。
死霊スキルは、シンプルに死を表現するため、使用者の俺は恐ろしくなってきた。
怖いから、ちょっと封印しておくか。
できれば、他のスキルで止めを刺すことにしよう。
「おーい、大丈夫かー!」
『魔結界』を解除し、中の二人を出す。
二人は支えあいながら立ち上がり、ゆっくり近づいてくる。
「あ、ありがとう。まさか、車に助けられるとは」
「兄貴ん! 部品奪わなくて、よかったですん!」
「だが、奪おうとしたことがダメだろ」
オッサンは笑って「その通りだ」と反省していた。
「ちゃんと働くか、ダイキリ。そうした方が、気持ちよく生きられそうだ」
「そうっすん! 僕も気持ちよく生きたいですん! 盗むなんて、自分で苦しいって言ってるような行動ですん!」
「反省、したみたいだな」
二人一緒に明るい笑顔を向け、大きく頷いた。
この調子なら安心できる。
俺はあることを提案した。
「俺の国、エンタープライズに来ないか! ドワーフの技術力、欲しかったところなんだ!」
「エンタープライズ……お前が統治する国か」
「国の発展、世界の発展に貢献してくれるなら、喜んで安住の地に招待しよう! 皆まとめてな!」
俺の提案に、すっかり安心しきって、ガッツポーズをする。
二人とも本当に嬉しそうだ。
エンタープライズの場所を教え、家族を連れて移住することを指示する。
兄貴は乗ってきた車に乗り込み、養っている家族のもとへ帰っていった。
朗報を抱えて。




