42 新都リライズ:道中―真価
夜ではない、昼間だ。
タナトフォビアは、ゆらゆらと何かに向かって手を伸ばしている。
そいつは、開けた湖に漂っていた。
『透明化』を解除すると同時に、光魔法『ジャッジメント』を放つ。
背後の魔法陣から、光線が飛び出し、一気に貫いていく。
一撃であった。
死体など残らず、俺の糧となったのだ。
俺の経験値となってくれたか。
と、唐突に体が燃え始めた。
熱いとは感じない、死霊スキル『スピリサファー』か。
すぐに消火して、放った奴を見つける。
どこにいるのか、と振り返った時、真ん前に佇んでいた。
タナトフォビアが5体も。
さっきのは囮か。
こちらが動くよりも先に、即死スキル『キル』を飛ばしていて、食らってしまった。
が残念ながら、即死は効かない。
『ものまね』で、タナトフォビアに化け、すぐさま攻撃に移る。
さて、化けたから何が貰えるかな。
《スキル『キル』『スピリサファー』『レベルマイナスデス』『死の宣告』『下位死霊召喚』『記憶に残る最期の瞬間』を獲得しました》
大量に取れたが、恐らく化けたこいつが、既にエルドラの魔力を吸って強くなったのだろう。
名前が『タナトフォビア』ではなく『死霊の頭領』という名前に変わっている。
だが、姿は変わっていないみたいだ。
見分けがつかん。
それでも、まとめて倒すんだから意味ないな。
ところで助手、第三闇魔法は何なんだ。
〈『ブラックホール』ですー。ちょっと特殊ですー〉
と、解説してくれるのは嬉しいのだが、名前を言うと共に発動した。
突如、大きな穴が空間に出来ていく。
そして真っ黒の穴は広がると、全てを吸い込み始める。
タナトフォビアは、その穴に吸い込まれ、出てくることは叶わなかったようだ。
おかしなことに俺も、穴に吸い寄せられていた。
湖の水も吸っていくので、光景が幻想的だが、俺も巻き込まれるとは。
霊の体を素早く動かし、遠ざかろうとしているが吸引はまだ続く。
おい、どうすれば止まるんだ!
〈自分で止めないと永遠に続きますよー〉
だから、早よ言えよ、それ!
で、どうやって止めるんだよ!
〈しょうがないですねー。それー!〉
ぽっかりと空いた穴は塞がっていく。
これで一安心かと思った瞬間、映像が目に焼き付けられる。
タナトフォビアと湖の生物にズームされ、『ブラックホール』に吸い込まれる映像、というより実際に今起きているかのように追体験させられる。
そう、それぞれの生物が死ぬ瞬間を映し出しているのだ。
なんだ……これは、気分が悪くなる一方だ。
そして現実に引き戻される。
直前まで眠っていたかのようだ。
助手の説明が聞きたい。
〈『ものまね』でー、先ほど獲得したスキル『記憶に残る最期の瞬間』というのがあったのを覚えていますかー。その効果は自分の攻撃で殺した相手の最期を、相手の視点で見るのですー。魔物スキルですから、人類には獲得できないスキルですねー〉
なんつう悪趣味なスキルなんだ。
殺した瞬間が好きだという、猟奇的な奴にうってつけなスキルか。
こんなスキル、消したいんだが。
〈消すなんて勿体なーい! 活用しましょー!〉
このスキルを活用するだと。
助手の発言を聞いて、絶句する。
魔物を殺すことが、億劫になるなんて嫌だぞ。
〈これは『ものまね』を進化させる素材ですよー。まあ、聞いててくださーい〉
何やら、おかしいことをしでかすみたいだが、黙って傾聴しとくことにした。
《スキル『ものまね』に『記憶に残る最期の瞬間』を統合し、進化させますか?》
〈イエース! しちゃってくださーい!〉
《統合開始……スキル構築中……》
助手のことだ、何か良いことがあるんだと信じて、結果を待つ。
〈出来上がるまで時間がかかるのでー、今の間に埋葬物を掘り出し、破壊された環境を元に戻しましょうかー〉
見渡せば、『ブラックホール』が周辺の地形を歪ませていた。
地面は抉られ、湖と呼べない状態になっており、大変なことになっていた。
責めるのなら俺ではなく助手ではないか、と考えてしまうが。
〈そうやって、人のせいにするのは良くないことですよー。知らなかったのか…? 責任からは逃げられない…! ですー〉
なるほど、回り込んで逃げられなくするか。
分かりました、俺の責任です、はい。
〈ようやく理解できましたかー。ちゃんと、ミミゴンには『空間修復』という、スキルがあるんですから、次からは自分でやってくださいねー。一応、言っておきますが、私のせいじゃないのでー。『空間修復』ー!〉
速攻、喧嘩売るのか。
欠けていた地形は、元通りになっていき、訪れた時と違いが分からない状態へと戻った。
湖にも水が満たされたが、魚は一匹もいない。
何だか罪悪感が半端ない。
本当にすまない、魚。
それと、エルドラの魔力が込められていた物も掘り起こした。
よく分からない化石だった。
オルフォードのところに『転送』して、解析してもらう。
《構築完了。統合され『ものまね』は『真・ものまね』に進化しました》
おー『真・ものまね』が完成した。
……それで、何が変わったんだ?
〈今まで目の前のものにしか、効果を発揮しませんでした。ですが『真・ものまね』は、一度化けた人物にいつでも化けることができるのですー。つまり、本人がその場にいなくても、『ものまね』することが出来るのですー!〉
そりゃ、すごいな。
だっていちいち、エルドラの所に行かなくても、化けることが出来るんだろ。
真、と名を冠するだけあるな。
工夫すれば、どのような相手でも倒すことができるはずだ。
それに、タナトフォビアから手に入れた死霊スキルって、即死系だから強すぎないか。
考えただけで、威張ってしまうな。
「試しに、トウハに化けてみるか」
一度、暇なときに化けたのだが、試しにとやってみる。
死霊の姿から鬼の姿へと、変化した。
水の鏡で、その変化を確認する。
おー、普通の顔でも怖い怖い。
子供が近寄らないわけも理解できる。
笑顔の練習でもさせれば、改善させることができるのだろうか。
こいつの笑顔を最高級にするか。
はい、じゃあ笑顔の練習!
「あ! は! は! は」
〈――何やってるんですか、人来ますよー〉
……『テレポート』。
教えてくれてありがとう、助手。
今の見られてたら変な人だと、トウハにレッテルが貼られるところだった。
ていうか、何であんなところに人来るんだよ。
サカイメの街から出ようと思う。
さて、今自分には、車を運転したいという欲望がある。
ですが、お金がない。
だから、賢い自分は思いついた。
そうだ、車になろうと。
何言ってんだ、この大人、という言葉が聞こえてきましたが助手。
『ものまね』って人だけじゃなくて、物にも化けることが出来るんだよね。
〈えー、出来ますよー〉
というわけで、通りかかったセダンタイプの自動車に化けます。
『ものまね』を発動させる。
よし、成功!
無事、車になりたいという夢が叶ったので、運転してみよう。
おー、動く動く。
ちゃんとガソリンを消費して、動いている。
タイヤも回転し、前後左右自由に動かすことが出来た。
それに合わせて、自動運転の車のようにハンドルが回される。
人が乗っていないのに、勝手に動く車である。
グレアリング領には舗装された道路が無く、車を走らすことなどできないだろうが、リライズ領は、舗装されているので、快適なドライブを楽しめる。
ヘッドライトも点け、夜の道を照らす。
ある程度、走ることができたので、この辺で休むことにするか。
路肩に寄せ、停車する。
今日は疲れたな、お休み。




