35 ミミゴン:進化
《『兵器』から『無人航空機:オクトコプター』に進化可能です》
《進化しますか?》
〈はいー!〉
《身体構造を変形、経験値を加工……進化中……》
《進化完了まで……15%》
《進化完了まで……35%》
《進化完了まで……60%》
《進化完了まで……85%》
《進化完了まで……100%》
《進化……完了》
《種族『無人航空機:オクトコプター』に進化》
《スキル『自由飛行』を獲得しました》
《称号『新種族』を獲得できます。『新種族』を獲得することで……》
〈保留でー。……さーてと、大改造しちゃいましょうかー〉
〈ミミゴーン、起きて下さーい! 朝ですよー〉
もう、朝か。
あぁ、これほど充実した睡眠は初めてだ。
さてと、車輪を出して走りまわるか。
ガシャン、ウィーン……スー……。
ん、車輪じゃない?
いつもの感じで出すと、いつもと感覚が違った。
前面、側面、背面から、それぞれプロペラが2個ずつ、計8個出てきた。
そういえば、日本で流行っていた物に似たようなのがあったな。
ドローン。
そう、8つの回転翼が付いた、言わばヘリコプターだ。
俺は空を得たのか。
試しに飛んでみようか。
静かに回転翼を回して、飛び上がった。
ホバリングすることも、自由にあちこち移動することもできる。
宝箱のサイズも、全体的に小型化している。
浮きながら、蓋を開けて、背面から出た手を突っ込ませ、本を取り出す。
ときに、この本まだハウトレットのところに返してなかったな。
暇ができたら、本棚に戻しにいくか。
うん、今まで通り、箱としてもちゃんと機能している。
ステータスは、どうなっているんだ。
名前:ミミゴン
レベル:100
種族:『無人航空機』
称号:『劇的変化』
耐性:『全障害ステータス無効』『全属性魔法無効』『下位スキル無効』
戦闘用スキル:『覇王』
常用スキル:『覇王』
特殊スキル:『ものまね』『機械』『賢王』『覇王』
究極スキル:『絶対君主』
かなり混雑しているかなと思ったら、こちらもスッキリしている。
逆に不安になってくるな。
助手、この『覇王』はなんだ?
〈大体のことが出来るスキルですー。魔法系や感知系、戦闘系、名誉系など網羅してありますー〉
ほとんどのスキルを、綺麗サッパリにまとめたのが『覇王』ってことか。
『賢王』は、助手のスキルだろう。
『下位スキル無効』は、弱いスキルは効かないということか。
究極スキルの『絶対君主』が最高に気になるな。
かなり強そうだが。
〈必殺技ですー。多分、使わないと思いますー〉
必殺技!?
尚更、知りたいんだが。
〈必殺技ですー。使わない方がいいですー〉
じゃあ、なんで獲得したんだよ。
〈このスキルは、もしもの時のみですー。スキル使用権限は、私が持っていますのでー、ミミゴン自身の意思では使用不可ですー〉
俺が、助手に乗っ取られている気がする。
これだと、助手に操られているみたいだ。
気になるけど、無視するか。
『テレポート』で1階に降り、城を出ると鬼人たちが集まっていた。
よく見れば、大きい鳥がいる。
人が乗るのに苦労はしない大きさだ。
日光を吸収する黒い翼を広げ、あくびのために口を大きく開ける。
鬼人の人だかりから、一人の男がこっちに歩いてきた。
刑事みたいな、スーツの上にトレンチコートを着た人間だった。
口にくわえていた葉巻を、ちょうど形に合った灰皿に入れる。
男が軽くお辞儀をして、喋りはじめる。
「ほんとに機械とはな。ここが旦那ぁ、の国。エンタープライズですかい?」
「そうだが、お前は?」
顔にかかる前髪を、すくいあげて。
「自分は……メルクリウス・クワトロだ。よろしく、旦那ぁ」
胡散臭そうな男が、あのでかい鳥を呼ぶ。
「こいつは、召喚獣キャリー。メルクリウス家、代々受け継ぐ相棒さ」
「相棒? この鳥がか?」
明るく笑って、丁寧に説明した。
「ああ、そうさ。メルクリウス家は商売の家でね。そこに生まれたら、経営の勉強、経済の勉強、交渉の勉強、戦闘の勉強、地形の勉強、世界の勉強……まあ、商売に関係することなら、繋がりが薄いものでも勉強するのさ。そんな忙しい俺を支えてくれるのが、相棒のキャリーってわけだ」
「ええと、クワトロは商人ということだな」
指パッチンをして、ウィンクする。
「正解さ、旦那ぁ。そう、グレアリングとリライズを担当する商人なんだが……まさか、こんなところに国ができたとはな」
「で、なんの用なんだ?」
「自分は商人。言いたいことは分かるよな」
キャリーの背中に取り付けられていた無機質な長方形の箱を取り外し、地面に置く。
クワトロが箱のボタンを押すと、プシューと音を鳴らしながら変形し始めた。
そこには、即席の建物が出来上がっている。
真ん中は空洞になっており、建物内に入れるようになった。
クワトロが、中に入れと指でジェスチャーをしている。
足を慎重に運び、商品が並ぶ店内に踏み入った。
ここは……。
「どうだ、驚いたろ。これが、クワトロの店さ。ここに並べられているのは日常品から食材、そして武器まで……何でもござれ、ってやつさ」
「思いのほか、広いな」
商品を綺麗に整えながら、クワトロは話す。
「これもメルクリウス家、代々受け継ぐ商売道具さ。『空間拡張』に『防音』、『対衝撃』『温度変更』も付いた、高機能次世代型移動式稼業道具さ。ところどころ、自分仕様にカスタマイズしているが……気に入ったか?」
「居心地は良いかもしれないな。ずっと、ここに居たくはないが」
調理道具、食器、懐中電灯、ライター、炭酸飲料水、魚、肉、剣、槍、銃、爆弾……。
クワトロが奥のソファに座れ、と誘導する。
空中を飛ぶ機械の俺を見ても驚かないのは、鬼人に聞いたのか。
テーブルには、水色のハンコが押された書類が散らばっている。
それをどけて、クワトロは腰を下ろす。
「旦那ぁ。商売の話、しようぜ」
「国がお抱えの商人にしてくれ、ってことだよな」
「そういうことさ。どうだ、クワトロのお得意様にならないか?」
正直、良い話だ。
必要最低限の物は、アイソトープが作ってくれている。
が、大量生産はできない。
これ以上、人が増えることを想定すると、商人の存在は考えたい。
タイミングが良いな、クワトロってやつは。
不気味すぎるくらいにな。
「よし、成立だ!」
「旦那ぁ……贔屓にしてくれよ! それで、何が欲しいんだ?」
「そうだな、今日は決められないかもな。全員に、聞いてまわる時間が欲しい」
「了解了解。明日、また来るよ。今日中に、トルフィドの村にも行っておかなければならないんだ」
今日はこれで別れ、国民に欲しい物、必要な物を聞いていくことにした。




