33 グレアリング王国:魔神獣
『テレポート』で向かった先とは。
「なんだか久しぶりだな、エルドラ」
(久しぶり……まあ、久しぶりか)
そう、英雄の迷宮に閉じ込められた、エルドラに会いにきたのだ。
相変わらず、雑に物が散らかっている。
(我が親友、ミミゴン! 一体、何をしに来たんだ?)
「それは……エルドラ、お前の力を借りに来たんだ」
(ほう! いいだろう……だが、我は出られんぞ)
迷宮に封印されているため、エルドラは出られない。
それでも、エルドラの力を借りることができる。
「実は脱出させる方法を思いついたんだよ。試してみないか?」
エルドラは、その巨体を震えさせ、手をたたいて喜んでいる。
気に入ってもらえるはずだ、たぶん。
(その方法とは?)
「簡単だ。『ものまね』」
人の姿だった俺は新たに『ものまね』で、エルドラの姿形になる。
おー、とエルドラは驚き、次に期待している。
で、俺は次に。
「借りていくぜ、エルドラ。『テレポート』!」
(おー……へぇ!? ちょ、ま)
俺だけ無事スキル発動ができるということは、対エルドラの牢獄というわけか。
これでいつでも、迷宮へ遊びに行けるというのが分かった。
今度、エルドラに触れながら『テレポート』で脱出できるか試してみよう。
と、ここでエルドラから苦情を伝えられた。
今、忙しいんだが。
(ミミゴンの馬鹿野郎!)
エルドラの怒号が脳内で反響する。
おかげで、脳みそがシェイクされた。
落ち着いてくれ、エルドラ。
(我が脱出していないではないか! この嘘つき! 嘘つきはな、泥棒にジョブチェンジだぞ)
「実を言うと脱出方法、本気で思いついたんだ。これが終わったら、その方法を試すから。絶対な!」
(本当か! 本当の、本当か!)
怒り顔が一転して、笑顔になる。
親友らしい会話である。
喧嘩して仲直りできるのは、親しい間柄だからだ。
「俺が嘘で偽ることがあっても、約束まで偽らねぇよ。だから、約束だ。いいな!」
(フフッ、我は何百年も生き続けているというのに、この感情は……ミミゴン! 約束だぞ!)
「おう!」
これで心置きなく、蛇足と戦える。
助手も、準備オッケーか?
〈準備万端、気合い良しー! いつでも行けまーす!〉
助手もスタンバイ完了、後はあいつらの報告を待つのみ。
……やっときたか。
ラヴファーストと、アイソトープの報告がきた。
鬼人たちを引き連れ、ラヴファースト班はトルフィドの村に待機し、アイソトープは村に結界を張った。
『念話』を全員に繋いで、宣言する。
「戦闘開始だ! 絶対に勝つぞー!」
オー! という声が、辺り一帯に響くと同時に『蛇足』の腹に頭を向けて、弾丸のように発射する体勢に入る。
そして思いっきり地面を蹴り、膝を伸ばして飛んだ。
地面は跳躍の勢いで抉れ、土と煙が舞う。
電流よりも速いスピードが出せるのも、エルドラの肉体だからだろう。
一瞬にして蛇足の懐に入り、全身全霊最強の右ストレートを打ち放つ。
こいつを食らえ!
蛇足の腹に渾身のパンチを放った刹那、障壁が威力を殺し、その影響で途轍もない衝撃波が村や周辺の森を襲った。
森の木が何本か地を離れていき、空へ舞っていった。
被害を少なくするため、高高度で蛇足に攻撃したが、それでも下に影響を及ぼしている。
そのことから、エルドラの強さが証明される。
が、これでも壊れない障壁の力も証明された。
どれだけ硬いんだよ、バリアは。
地の底から叫ぶような甲高い咆哮をし、八つの手のひらを俺に向けて開き、何か唱えだした。
直感が危険を訴えてくる。
〈究極魔法『聖を司る神の光耀』ですー! こちらもエルドラの持つ、究極スキルで対抗しましょー! スキル『究極障壁』ですー!〉
よし、『究極障壁』だ!
肉体を薄い緑の障壁が覆い、ダメージを無効化する。
重力に従って落ちていく俺に、奴の魔法を食らった。
光がドッと押し寄せ、一瞬にして地に落とされる。
目を開けると土の壁に囲まれていることから、地面より下の世界といることが分かった。
『究極障壁』でダメージは防げても、勢いは防ぐことができないわけだな。
借り物であるエルドラの体にも、慣れてきた。
もう一回、最速で奴のもとへ飛んでいく。
ついでに助手が出てきた穴をスキルで塞ぎ、補助や強化のスキルも使用してくれる。
〈『自由飛行』『究極強化』『究極障壁』『ブレイヴァリー』『超加速』『神の加護』ー! 頑張ってくださーい!〉
任しとけ!
再度、最強のパンチ!
強打で障壁を壊そうとするが、ビクともしない。
一発でダメなら、二発三発四発!
雄叫びを上げながら、連打していく。
壊れるまで殴ればいい!
蛇足に攻撃するたび、黄色い障壁が現れ、守っている。
蛇足は翼を広げ、羽ばたき、離れていくが『自由飛行』のおかげで自由自在に高速移動できる。
追いついて、連続してパンチを繰り出すが、それでも破壊することができない。
蛇足は怒り狂ったようで、鼓膜を破るほど絶叫し、スキルを発動しようとしている。
おい、今度は何だ。
〈召喚系スキル『天使の降臨』ですー! 大量の天使が降り注いできますよー〉
天使って死んでから迎えにくるものだよな。
こっちの世界では、殺す時に迎えにくるものなのか。
次の瞬間には夜空に光の粒子が結集し、円となってそこから天使が召喚された。
天使は美しい翼と美貌をもった女性のようで、手には剣や弓が装備されている。
武器を持っていなければ、喜んで死んでいたかもしれないのに残念だ。
そして、激しい雨のように襲ってきた。
俺は矢の嵐に巻き込まれ、剣を持った天使はラヴファーストのいる村を襲い始めた。
ラヴファーストは次々と襲ってくる天使を薙ぎ払い、他の鬼人たちもグループとなって戦っている。
天使相手に、ちゃんと戦っている鬼人。
ラヴファーストの指導でどれだけ強くなったんだ、と興味が湧いたが、今は弓の天使を何とかしないと。
『究極障壁』が、前を見えなくするほどの量の矢をはじき返している。
助手、お前の出番だ。
〈助手がカッコいいところ、見せますよー! 『超引力玉』『炎を司る神の憤怒』ー!〉
『超引力玉』が放たれ、ここから離れた位置に漂い、天使達を引き寄せていく。
寄せられた天使は何もすることが出来ず、そこに究極魔法をぶち込まれる。
真っ黒の『超引力玉』は赤くなって大爆発し、弓の天使を一掃した。
流石、助手!
今日は、より気合が入ってるな。
蛇足も焦り始めているようだ。
奴の手からは巨大な氷塊が形成され、何本も発射する。
こちらも負けじと避けつつ、戦闘のプロである助手に任せつつ、自分は敵に接近していく。
〈『氷を司る神の恐慌』ですかー。なら『雷を司る神の我儘』で対抗ですー!〉
高速で衝突し合う魔法は、空を彩る。
俺自身も奴の放った魔法に当たりそうになるが、頼もしい助手が一瞬にして打ち消す究極魔法を放ってくれる。
長い時間、それらが繰り返され、蛇足とは鬼ごっことなっている。
蛇足は究極魔法を放つ準備に取り掛かったいる。
だが、鬼ごっこを終わらせる魔法のようであった。
なんだか、時の流れが変わったように思える。
〈究極魔法『闇を司る神の冥闇』ですー! まさか、こんなものまで使えるとはー〉
なるほど、助手が焦るほど危険みたいだな。
説明をしてくれないか。
〈究極の究極魔法ですー! 発動した瞬間、世界崩壊が始まりますよー!〉
俺は目を閉じて、一度深呼吸をする。
食い止める方法は、ないのか!
〈詠唱時間が凄まじく長いので、その間に倒すことが出来ればー!〉
解決方法があって助かる。
今までのは練習、言わば準備運動だから。
こっからが本番だ!
「『分身』『分身』『分身』……」
エルドラの姿をした俺を『分身』で、どんどん増やしていく。
一度試したことがあるのだが、普段の俺で『分身』は三回が限界だ。
分身、それぞれに意識を分配するので、増やしすぎると意識が狂い、失ってしまう。
のだが、エルドラのおかげで64体まで増やすことが出来た。
うぅ……気持ち悪い。
闇の粒子が蛇足の手に集まり、闇を形成していく。
集めきる前に倒すぞ!
意識を集中し、全俺を動かす。
俺軍団、奴の障壁に突撃だ!
俺たちが、一度に障壁へ超連打する。
「「「うおおおおおおおおおおー!」」」
障壁を殴る。
障壁に傷が走るも、蛇足の魔力で回復する。
が、それに負けじと、『超加速』による凄まじい速さと凄まじい数で殴りつけていく。
強力な一撃が64回。
右、左、右、左……!
拳の皮膚が無残に破れ、血が出てくる。
だが、不思議と痛みは感じない。
あれだろうか、アドレナリンが興奮で分泌しているからだろうか。
とにかく殴り続ける。
皆(俺)が殴り続ける。
殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る……!
「「「お前は、もう……終わりだ!」」」
障壁にヒビが入り、更に殴って穴を広げ、挙句の果てに障壁の回復が追い付かなくなり、ようやく障壁が消え去って、本体にダメージが入るようになった。
障壁が破れようと、容赦ない猛攻で蛇足の詠唱を止め、終いには蛇足の肉体を消し去った。
《レベルアップ! 21⋙100》
《上限レベルに達しました。『兵器』から『無人航空機:オクトコプター』に進化可能です》
《称号『限界突破』を獲得できます。『限界突破』を獲得することで、レベル100以上に上げることが可能になります》
《称号『上限に達せし者』を獲得できます。『上限に達せし者』を獲得することで……》
《称号『……》
《……》
終わった……!
奴を消し去った後、天の声が上限がどうたら、称号がこうたら言っていたが、意識が朦朧となって聞こえなかった。
あとで……助手に……聞いて……おく……か……。
増やした『分身』は一斉に消えていく。
目を無理矢理閉じられ、『ものまね』の効果も消える。
しばらくぶりの宝箱に戻り、村へ墜落していった。




