32 グレアリング王国:第三者
助手、戦闘を任せていいか?
〈はーい! お任せをー! 『シャイニングレイ』ー!〉
助手が魔法をぶっ放し、魔物で溢れる道を開けてもらう。
会場がどうなっているのか、辺りを見渡した。
お、戦ってる戦ってる。
なだれ込んできた兵士が、貴族を庇うようにして武器を振るっている。
貴族でも、逃げる貴族と戦う貴族に分かれていた。
逃げる貴族は、ちょうど横を通り過ぎていく。
外も酷いらしいが、果たして生きて帰ることができるだろうか。
時々、衝撃が城を襲って激しく揺らす。
遠くの方で王様の姿を確認した。
近づいて、話しかけようとするが。
どうも、王妃が人質になっているみたいだ。
不気味な雰囲気を纏った三人組。
どう考えても、この騒ぎを起こした首謀者だ。
あれ、もしかして、あいつ王子のトリウムじゃないか。
リーブ王が剣を構え、怒鳴る。
「トリウム! そいつらは何者だ!」
「父さん。紹介するよ、俺の新しい友達さ」
新しい友達というのは変な仮面をつけた女と、竜の顔に体が古傷だらけの竜人か。
マスクの女が一歩前に出て、自己紹介を始める。
「初めまして、グレアリング王。トリウム君と仲良くさせてもらっています、マナディと申します」
王妃を、その大きな腕で捕らえている竜人も自己紹介する。
「俺は、ラバート。『法則解放党』の幹部だ。貴様に残された道は二つ。要求を断って、グレアリングを失い、王妃も失うか。もう一つは、我々と共に活動するかだ」
リーブ王は見開いて叫んだ。
「お前たちの『法則解放党』とは何なんだ!」
トリウムが説明する。
「父さん、知っているかい。この世界には中核があるからこそ人がいて、魔物がいて、命があって、スキルがある。俺たち、法則解放党は、その中核のプログラムを書き換え、生きやすい世界にするんだ」
「トリウム! そんなことが可能だと思うのか! 騙されているぞ!」
もはや正気を失った王子が激昂した。
「父さんは、俺に何をしてきた! 俺は王になんか、なりたくない! 何が“不羈”の王国だ! 俺は真の自由を得る! そして……全てを書き換えてやる! 俺たちが望む世界に!」
テロリストを黙らせるため、『インフェルノ』を放つ。
巨大な火の玉を王子に飛ばすが、ラバートが庇って、背中で受け止める。
やるじゃねぇか、傷だらけの竜人。
筋骨隆々の背中は、少し焦げた程度で済んでいた。
グレアリング王は俺に気付く。
「ミミゴンか」
「子育てに失敗したようだな」
全員が、こちらに視線を向ける。
誰だこいつという視線もあれば、ミミゴンだと気付いている視線もある。
「王、考える時間が必要でしょう? 一度、国をご覧になられてはいかが? 大変面白いことになっていますから」
ここで、マナディが王に提案する。
俺が現れても、たいして気にしていない様子だ。
ポケットから、石を取り出し何かを発動させる気だ。
あの石……ニヌルタ?
「送ってあげなさい! 『強制送還』!」
「助けて! リーブ!」
王妃が手を伸ばし、リーブ王がその手を掴もうと伸ばす。
「プレンリ!」
しかし、こっちに光り輝く石を放り投げられ、俺とグレアリング王はどこかに転移された。
石にスキル……あいつら鬼人を襲った魔人と関係があるのか。
光に包まれ、城からつまみだされた。
ここは……国の外、といっても今いるのは山か。
グレアリングを見渡すことができる山の頂上に転移させられたみたいだ。
火の手が上がる国を一望しようとしたが、それよりも激しく目立つものに目を奪われた。
「ミミゴン、あの化け物は……!」
「巨大すぎるだろ! あれが『蛇足』か!?」
大国を覆うほど、凄まじく極大な図体。
名の通り、蛇の胴体に足が生えている。
が、それだけでは飽き足らず、後ろには六対の翼。
おまけに、八つの手も揃っている。
蛇足は、大惨事を静観して待機していた。
あんなのに暴れられたら、ひとたまりもない。
リーブ王は茫然自失で膝をつき、見ていることで精一杯のようだ。
悲鳴も聞こえてくるし、あちらこちらで建物が火事になっている。
夜だからか、より一層目立っている。
「大変だな、王様ってのは。こんな時でも決断をしなくてはならないのは」
「もう……慣れている。ミミゴン王、どうか……力を貸してはくれないか。この通りだ!」
横で、王に似合わない土下座をしていた。
頭をしっかり地に着け、伏している。
この異世界にも土下座文化が存在するのか、ということに驚く。
土下座というのは、そんな簡単にすべきではない。
だが、相当の覚悟があるから、俺に隙を見せるのだろう。
きっと彼の心には悔しい気持ちと、これで民は助かるという気持ちが混ぜ合わせになっているはずだ。
なら、こう答えるしかないよな。
「助けてと言われたら、助けるしかないよな!」
伏している王を強引に立たせ、剣を握らせる。
「いいか、リーブ王。城に戻って、こう言い返してやるんだ。グレアリングは絶対に守り抜く。お前たちの提案は断る、ってな!」
俺の言葉に、リーブ王は頷く。
「ああ、分かった。ミミゴンは、どうするんだ」
「俺は、あの化け物をぶっ倒す。そうすれば、連中も大人しくなるはずだ。だから、安心してくれ」
王の肩を掴んで『テレポート』を発動。
城の会場入り口まで戻ってきた。
固い握手を交わして、互いの約束を確証する。
それからある人物に、リーブ王の護衛を任せた。
「トウハ、聞こえているか!」
(ああ、もちろん!)
「グレアリング・リーブを護衛してやってくれ」
(守ればいいだな! よし、やってやる!)
リーブには、トウハに警護してもらうことを伝えて、あの化け物のところに瞬間移動する。
まだ、蛇足は動いていない。
恐らく、王が法則解放党の連中にNOと断るまで行動することはないはずだ。
その間に、奴を倒す手段を講じなければならない。
んー……そう簡単に思い付くものではないな。
仕方ない、本当の本当に緊急事態の時、使おうと思っていた戦術がある。
ただ、成功するかは分からないが。
だがしかし、手段を誤れば世界崩壊をも簡単に成し遂げることができるだろうな。
ハイリスク・ハイリターンか。
……まあ、大丈夫だ!
自分を鼓舞して、挑むことにした。
戦闘準備開始だ!
「ラヴファースト! 班全員連れて、トルフィドの村に向かえ。到着したら、連絡してくれ」
(了解だ、ミミゴン様)
「アイソトープ、聞こえるか!」
(はい、何でしょう)
「すぐにトルフィドの村に行き、『究極結界』で村を守ってやれ。そこが戦場になる」
(かしこまりました、ミミゴン様)
よし、動いてくれたな。
『テレポート』で蛇足に触れることができる位置まで、移動する。
蛇足に手を当て、共にトルフィドの村上空へ瞬間移動。
この時点で、グレアリングは救われたといってもいいかもしれない。
おお、かなり真下に村が見える。
当然、蛇足も一緒だな。
蛇足の大きな目が、ぎょろぎょろと気持ち悪く蠢いている。
周りを見渡すように目を動かし、確認していた。
そこで、じっとしとけ。
さて、次は。
「オルフォード! 魔神獣『蛇足』について解説してくれ!」
(奴は、魔物の中でも最強クラスの化け物じゃ。魔神獣は、その強大すぎる力のせいで封印されていたんじゃ。詳しい説明は省くがレベルは恐ろしく高いし、究極スキルも使いこなしおる! 今のエルドラと互角じゃろう)
「エルドラと互角だと!?」
オルフォードと『念話』で、情報を得ていたが予想外だ。
エルドラに負けず劣らずの力……。
普通に弱いと思っていたが、想定外だ。
これは、益々最終手段を使わないと。
「オルフォードなら知ってるんじゃないか、弱点とか」
(ああ、知っとるよ。弱点は、全身じゃ)
「全部、弱点ってことか!」
なんだ、楽勝じゃないか。
と、思っていた自分が情けない。
オルフォードが、エルドラと互角だと言い切ったんだ。
この後の説明で、余裕は完全に無くなる。
(だが、超強力な障壁が奴を護る。それが、エルドラでも互角と言った理由じゃ)
「なら、それを破ることが出来れば!」
(勝てるじゃろうな)
希望が見えてきた。
こんな時、お笑いを教えてくれた師匠なら、笑ってこう言うはずだ。
無敵の連撃、ぶちかましたったらええねん。
「ほな、天下無双一人勝ちやろ」と励ましてくれた師匠の言葉が、今でも心に沁みついている。
胸を熱くさせる想い出を武器に、俺は「あの場所」へ『テレポート』した。




