31 グレアリング王国:危急存亡
エンタープライズの運命が決まる、三日間が終わった。
王としてこんなに働いたし、休憩しよう。
最上階にある俺の部屋で、思いっきりくつろぐ。
改良された茶葉も美味しい。
お茶は大好評だそうだ。
今日は、もう寝ようか。
影の調査員には強さを見せ、交渉を有利にする。
承認してもらい、これでちゃんと国になった。
グレアリングとも今後、友好的な関係であり続けたい。
明日はパーティー……英雄の……。
もう、いいや。
おやすみ。
〈お疲れ様でしたー。ゆっくり休んでくださいねー〉
(ミミゴン、流石だ! ありがとう、今はしっかり休息しておけ)
手を天井に向かって伸ばし、体を目覚めさせる。
椅子から立ち上がって、広い自分の部屋を走り回った。
ベルを鳴らして、メイドを呼ぶ。
「失礼します、ミミゴン様」
「朝食を頼めるか?」
「かしこまりました」
今来たメイドの名は、ニコシア。
アイソトープから評価されている鬼人で、どのようなことにも熱心に取り組み、班のエースだそうだ。
それに、下からここまで、あの長い階段を上ってこられるのは、レラとニコシアだけだという。
というか、本当に長すぎるよな。
調査されていた時、俺はここでずっと待っていたのに、一向に部屋に入ってこない。
ミネラルもそうとう体力がある方だと見ていたが、途中でへばっていた。
ドワーフに、エレベーターでも作ってもらおう。
メイド達には今だけ我慢してほしい。
ニコシアが汗を流しながら、肉と野菜が盛り付けられた皿を机に置き、鞄からコップとお茶を取り出し注いでくれる。
フォークも丁寧に置かれ、恐縮するほどの丁寧なお辞儀をして退去した。
「ニコシア、ありがとう!」
すでに閉じられた扉に言ってしまったが聞こえたはずだ。
直後、階段を転がり落ちていく音が聞こえた気がする。
食事を終え、金髪も整え、スーツもビシッと決める。
グレアリングに行く挨拶をして、転移石を発動させようとするが、トウハが。
「一国の王が護衛も付けず、旅立つものか?」
「護衛……」
「俺は王を守るために、己を鍛えている。もしも、何かあったらどうするんだ」
「そうだな、じゃあ……俺を守ってくれるか?」
「ああ! ミミゴン様!」
トウハも連れて、グレアリングへと転移した。
グレアリング城の真ん前に瞬間移動していた。
横で騒がしくしているトウハに目を向ける。
「これが人間の国……グレアリング。商人から聞いた以上だ。こんなにも、華やかなのか」
「トウハ、もしかしてこれが見たかったのか?」
いつも睨みつけているような目が大きく開き、輝かせている。
トウハ達にとって、夢のような国だろうな。
この機会に色々学んでくれるだろう。
だが、気になるのは人間から見た鬼人の姿だ。
そこには、差別があるのか。
人間より背が高く、小さい角も生えている。
体格もガッチリして、明らかに目立つ外見だ。
が、今はパーティの準備に忙しいのか、それほど気になってはいないようだ。
それにしても人が多い!
初めて訪れた時より、もっと増えている。
あれは、車……まさか車まであるとは。
デザインのいいスラっとした自動車が、通っていく。
上空は、飛行船も見える。
あれも全て、リライズのものだろうか。
全部城に向かっているのだから、このパーティにはどれほどの価値があるんだ。
息を荒くしているトウハに声をかける。
「トウハ、行くぞ」
「おぁ……は!」
そうとう、気が動揺してんのか。
遊園地に来た子供みたいだな。
城の入り口まで人とぶつかり合いながらも辿り着き、中に入ろうとした。
が、衛兵に止められ「何者か名乗れ」と言ってきた。
「エンタープライズの王、ミミゴンだ」
「どこの国だよ。聞いたことないが」
「グレアリングに承認された国だ。聞いてないのか?」
おい、入れないじゃないか。
ちゃんと話、通しておけよ。
「怪しい奴だな。ちょっとついてこい」
「グレアリング王に招待されているんだ。このパーティに」
俺は怒らず、丁寧に説明した。
それと、トウハの殴ろうとする手を止めさせ、大人しくさせる。
衛兵の口が一向に閉じる気配がない。
こうなっては仕方ないな。
以前、城の内部に侵入したからいけるはずだ。
「『テレポート』」
「えっ?」
衛兵は、ビックリした顔をしていたが知るか。
エントランスホールに瞬間移動して、急いで会場に向かう。
誰にも見られていなければいいが。
人垣に突撃して、ようやく会場に到着する。
ハウトレットに借りたスーツが、しわくちゃだ。
ここも人が多い。
ドワーフもいるし、貴族と思わしき人物もいる。
一般人っぽいのはいないみたいだ。
トウハは、俺に口を寄せて。
「あのー、トイレ行っていいか」
「その後、歩き回るんだろ。護衛なのに離れてどうする」
「そ、そうだよな」
全く、しょうがない奴だな。
ラヴファーストの評価もいいし、たまには遊ばせてやらないとな。
「行ってこいよ。あんまり目立たないようにな」
「あ、ありがとうございます!」
こんな時だけ、敬語使いやがって。
俺の警護をしてくれよ。
……いや、狙って言ったんじゃないぞ。
昼を過ぎようとした時に、会場に声が響く。
「お待たせしました! ただいまより、グレアリングを騒がせた吸血鬼を捕まえた英雄に登場してもらいましょう! どうぞ!」
会場は暗くなって、主役に照明が当てられる。
拍手の音が大きくなっていき、英雄の登場を喜んでいる。
だが、本当に喜んでるのか分からない奴もいる。
そうか、王に会いに来た者もいるわけか。
ここは王に最も接近できる場でもある。
主役が何だか可哀想に見えてくるな。
グレアリング王と、その王妃。
王妃の名は、プレンリだったか。
王族に相応しい美貌だ。
二人がアリオスの活躍を称え、勲章を授ける。
俺も周りに倣って拍手した。
その主役は、誰かを探すように頭を動かしているが。
この後、俺は何しようか。
王に挨拶でもしにいくか。
と、その前に御馳走があるじゃないか。
「美味しい! これは前狩った、シャーリザードの肉か!」
食べる、食べる、胃を満足させるまで。
太る心配もないし、不健康にもならない。
周りから変な目で見られていたが、気にしないでくれ。
誰も食べようとしていないから、代わりに食べているだけだ。
運ばれてきたグラスの酒も飲みまくり、欲求を充たしていく。
うん? もう一人、ガツガツ食べてる奴がいるな。
そいつも、飲んで食べてを繰り返していた。
スーツは食べ物で汚れ、口にどんどん放り込んでいく。
「おい。落ち着けよ、食べすぎじゃないか」
どっかから「お前もだろ」と聞こえてきたが気のせいだ。
口に運ぶ手を止め、俺を見つめる。
じーっと見つめている。
「……」
「……」
「その……」
「お、なんだ?」
痩せ気味の男が汚れた指を俺に向け、何かを探っている。
指先は油でてかっている。
この男とは、一回も会ったことないはずだが……。
「……ヤバイ」
「は?」
急に、あちこちの扉が開き、魔物が流れ込んできた。
え!?
狼のような魔物や人のような魔物が、次々と貴族たちを襲っていた。
当然、俺のところにも来るよな。
青年はスーツの下から、二丁の銃を抜くと一斉に連射し始めた。
射貫かれた魔物は、血を飛ばしながら舞っていく。
青年は俺と背中合わせになって、急ぐように喋った。
「戦えますか!」
「戦えるが……」
「後は、任せました! では!」
えー……見ず知らずの俺に任せるのかよ。
あんたは何者なんだ。
唸り声がして、右に顔を向ける。
魔物が歯を剥き出しにして、頭部に飛翔してきた。
強烈な右ストレートを食らえ。
見事にヒットして、魔物は吹き飛んだ。
で、どうするよこれ。
魔物の攻撃を避けながら、エルドラに状況を確認してもらう。
「エルドラ、今どうなってる!」
(すごいことになっとるぞ。おお、あれは魔神獣『蛇足』じゃないか。……簡単に言うとだな、国中に魔物が大量発生してる)
これを危機と呼ばずして何だと言う。
魔物が大量に入っているってわけか。
オフにしていた『危機感知』を発動させると、途端に頭が痛くなるほどに騒がしく感じた。
……なかなか面白い状況だ。
王に恩を売るチャンスだな。




