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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第二章 グレアリング騒乱編
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25 リブリー:不幸

 久しぶりに聞いた小鳥の声で目が覚めた。

 愛らしい小鳥の鳴き声は、平和の象徴だ。

 誰かを落とした窓から日が差し込む。

 他の二人も起きて、背伸びしていた。

 洗面台の蛇口を捻り、水を出して顔を洗う。

 体操と深呼吸も行って、朝食を食べに店へ向かった。

 ミゴンとお店を探していると、一軒だけパン屋が開いていた。

 そこで朝食を取ろうと提案し、お店のドアを開けると。



「おー! リブリーの者ではないか!」



 昨日のジジイと出くわした。

 朝食は後にすべきか?

 いや、すぐにここを出発しないと。



「おいおいおいおい、無視は酷くないかの。こっちに来い、君たちを雇いたいのじゃ」



 ミゴンは頭を抱えて、モチトリと離れた位置のテーブルに手を置き、焼き立てのパンを注文する。

 僕らも真似して、パンを注文する。



「この機器が反応する場所まで、ワシらを守ってくれるだけでよい。報酬は……50000エンじゃ! 喉から手が出るじゃろ?」



 注文したパンが届くと、急いで食べた。

 味わって食べることができなくても、栄養になる。

 パンを胃に収めようと三人は食らいついていると、モチトリがにじり寄ってきた。

 手に持っている、アンテナの付いた機械を目に近づかせる。

 しょうがない……。



「もう何なんですか! 引き受けますから!」

「フィル、受けるのか?」

「受けた方がええぞ。何より、ハンターのためじゃぞ」



 了承して、外へ出る。

 ミージャは嫌な顔をしていたが、ごめん我慢してくれ。

 モチトリと共に二人の小人ドワーフがついてきた。

 二人は研究員兼助手だと聞かされ、再びミトドリア大平原へ、あいつらの馬車に乗って向かうことになった。







 草原を疾駆する馬車の中は、居心地があまり良くない。

 研究員たちはアンテナをあらゆる方向に向け、強い反応を探している。

 どうやら、このミトドリア大平原のどこかに強い反応があり、そこに謎があるらしい。

 それにしても、どうして僕たちなのか。



「ああ、それな。ワシは、ハウトレットと親交があっての。ここらで、強いハンターを紹介してくれと言ったら、リブリーがおすすめだと言っての。その通り、雇ったわけよ」

「場所も、よく分かったな」

「そんなもん、ワシの第六感で何ともなる」



 ミージャが馬車を上手に走らせ、魔物と当たらないよう広い平原をあちこち向かう。

 反応がある場所に、だんだんと近づいていったのだが。

 ここは……。



「墓地、か」



 木の柵で囲まれ、刺さっている木の棒が墓標となっているだけ。

 奥へ進むごとに霧が濃くなっていく。

 名前の分かる死者には歪ながらも彫られてあるが、名前が分からない者は何も彫られていない。

 生前は名前があったのに、最期には失ってしまった者達。

 墓のそばには、遺留品が供えてある。

 名前が無くとも確かに存在していたという証。

 遺留品も武器やネックレス、指輪。



 墓地をさまよい歩いていると、何もない広場に出る。

 前を歩いていたモチトリが叫ぶ。



「あったぞ! ここだ! ここを掘るんだ! さあ、弟子たちよ! 我に真実を見せてくれ!」



 弟子の研究員は、スコップをリュックから取り出し、犬のように掘りだす。

 近くに墓があるせいで、墓荒らしなんじゃないかと錯覚してしまう。

 ちょっと目を離した隙に、深い穴が出来上がっていった。

 と、その時。



「フィル! 後ろだ!」



 顔を上げると、何かが飛来してきた。

 ミゴンに突き飛ばされ、黒い炎を避ける。

 あれは即死スキルの『キル』か。

 非常にゆっくりと飛ぶ『キル』は肉体に当たれば、情け容赦なく魂を引き抜かれる危険なスキルだ。

 それから使える者も限られてくる。

 こいつは。



「タナトフォビアじゃ! 厄介な奴が現れよったわ!」



 ネクロマンサー系の魔物。

 即死スキルや死霊スキルを操り、浮遊して離れた位置から殺しにかかる。

 死した人型の魔物がサイズの大きい白装束を着て、飛び回っている。

 幸い、この一体だけ。

 ゆらゆら漂うこいつに、ミージャは魔法を当てようとするが容易に躱され、『キル』を使用してくる。

 槍を持っても、攻撃がとどかない。

 最低でも囮には、なれると考えた。

 しかし『挑発』して気を引かそうとするが、知らんぷりだ。

 『挑発』に対する耐性が無効だということか。



 青白い火の玉が飛んできた。

 今度は死霊スキル『スピリサファー』か。

 『キル』より速い玉が、僕に飛来する。

 何とか避け、次の攻撃も見切ろうと思った先に『キル』が飛んできていた。

 行動を先読みして、こっそり飛ばしてきていたのか!?



「フィルー!」



 ミゴンが僕に突進して、突き飛ばされた。

 そして、庇ったミゴンに『キル』が接触する。

 僕は転がりながら、すぐに体勢を立て直し、ミゴンの様子を見たが。



「ウォ!? うわぁぁぁ!」

「ミゴンさん!」



 僕とミージャが駆け寄ろうとするが、モチトリの叫び声が飛んでくる。



「近寄るではないぞ! タナトフォビアの攻撃に、気をつけるのじゃ! ミゴンのことは、任せておけ!」



 でも!

 反抗して、ミゴンの近くに寄りたかったが、この気持ちを抑え、タナトフォビアを視界に捉え続ける。

 横から、人として出せる声ではない叫び声を出し、発狂しているようだった。

 奴が放つスキルには、ある特殊効果もあると聞く。

 悲しげに、モチトリが呟いた。



「死への恐怖、不安、孤独など負の感情を呼び起こす……見ておれん」



 彼の苦しむ絶叫は、死への恐れか。

 許さない!



 ミージャも泣きじゃくりながら、本気の魔法を放っていく。

 ミゴンの絶叫を聞けば聞くほど、暴走に近い魔法になっていった。

 魔法は次々放たれるが、嘲笑うかのようにスイスイ避けられる。

 それが更に、ミージャの魔法を暴走させた。

 魔法の制御も出来ず、大きい魔法や小さい魔法が入り乱れている。



 僕だって、いつまでも突っ立っていなかった。

 槍を振り回し、奴目掛けてジャンプする。

 届かないなら跳べばいい!

 空中で、一心不乱に突いて振り回しているが当たらない。

 ただ怒りのままに暴走状態で振り回しているのだから、冷静に狙い撃つことができなかった。








 彼の絶叫が聞こえなくなっていた。

 それに気付いたのが、倒した後だ。

 タナトフォビアに、運よくミージャの暴走魔法が当たり、僕の槍が運よく忌まわしい体に突き刺さった。

 そう、運が良かった。

 だけど。

 だけど。

 だけど……。

 聞こえなくなっていた。

 気付かなかった。



 いや、気付きたくなかったのかもしれない。

 彼の絶叫が聞こえなくなるというのは、死んだということ。

 この世にいないということ。

 叫び声を聴き続けていたかった。



 僕は、僕は……不幸者だったんだ。







 あれから一週間、僕は引きこもっていた。

 グレアリングから遠く離れた村の小屋、小さな部屋の一室で、ただじっと彼に黙祷を捧げていた。

 それは、彼の死を認めてしまったということ。

 あの後、ミゴンの尊い死体は、グレアリングのしっかりとした綺麗な墓所に葬られた。

 火葬せず、土葬した。

 「彼」を保ち続けるため、ゾンビとなって腐らせぬよう聖水を施し、日が通らない土のなかでも明るいように、とランタンも一緒に葬る。

 彼と過ごしたランタン。

 彼と過ごした日々が、記載されている日記の一部も一緒に。



 もともと、こうなった原因であるモチトリの探し物だが。

 掘り起こして出てきたのが、腕時計だった。

 古く金具も錆び、ボロボロの腕時計。

 だが、これがミトドリア大平原の異常発生に関わる物だという。

 リライズに「魔物研究調査団」の本拠地があり、持ち帰って研究するそうだが。

 どうでもよかった。

 ほんとうに下らなかった。

 こんなことになるなら、引き受けなければよかったと何度も自分を責めた。

 悔やみ続けて、何日が経過しただろう。



 小屋の扉が開く。

 ミージャが食料を持って、部屋に入ってくる。

 ドークランの素材を売り、モチトリから100000エンも貰い、しばらくは何もしなくても生活できるほどだ。

 それと解決屋に報告していないので、依頼料は貰っていない。

 妹は、横でグレアリングの事件を説明している。

 なんでも二日前、グレアリング国内で争いが発生し、大混乱しているらしい。

 あー、だから外が騒がしいのか。







「すみませーん」



 大雨の中、誰かが呼び掛けている。

 ミージャが対応し、何者かを中に入れたようだ。

 僕の名前を叫ぶミージャは興奮した面持ちで、口が開いたり閉じたりしている。

 そこに現れたのは……。



 魔法攻撃に耐性のある青いローブ。

 下は、素早さが向上するファルサウルスの素材が使われたズボンに、武器はダグラム街の木で出来た大きな杖。

 そして、茶髪の男。







 なぜ、人は幸運を生み出し、不幸を呼び込むのか。

 なぜ、自分の思い通りにならないのか。

 しかし、これだけは言える。

 雨は一人だけに降り注ぐわけではない。

 それに「不幸」がなければ、人はすぐに思い上がる悲しい生き物なのだ。



 世界は、今日も幸運と不幸を生み続けている。

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