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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第二章 グレアリング騒乱編
26/256

24 リブリー:異変

 ふぁ~……朝か。

 ミージャは、まだぐっすり眠っていたが、ミゴンの姿が無い。

 起きて、どこかで散歩しているのかな。

 テントから出て、簡単な体操と深呼吸をする。

 先輩に教わったことを試す。

 肺の空気を吐き出し、思いっきり吸い込む呼吸法を。

 限界まで吸い込んだら、3秒我慢してゆっくり吐き出す。

 この手順で呼吸し、朝の始まりを体に教える。



 さてと、ミゴンを探すことにしようか。

 突然、話し合うような声が聞こえて近づくと、宿泊施設の前が黒山の人だかりになっていた。

 なにやら騒がしい。

 そこに、ミゴンも紛れており、話を伺うことにした。



「ミゴンさん、おはようございます」

「フィルか。おはよう!」

「何、集まっているんですか」

「ミージャが起きたら、話すことにしよう。大事なことだからな」



 大事なこと?

 とりあえず、テントに戻ることにし、ミージャが起きるのを待つ。



 しばらくして僕らのテントから、ミージャが出てきた。



「おはよう、ミージャ」

「お、おはよう。お兄ちゃん、ミゴンさん」

「ミージャちゃん、おはよう! というわけで、問題をお知らせしようか」

「問題?」



 ミージャにさっきのことを軽く説明し、ミゴンの話を聞く体勢に入る。

 大げさにゴホンと咳き込み、口を開く。



「昨日、ドークランの群れに会っただろ? 普段、あんなに数がいるものなのか?」

「確かに通常、ドークランは10体ぐらいで、群れを形成しているはずですが……それが何か」

「異常だと思わないのか。他のハンターの話では、エアヴァイパーやら、ハイウルフやらも数が多くなっているらしい。ミトドリア大平原に生息する魔物が、大量発生しているんだと」

「それじゃあ、狩猟対象のシャーリザードも、数が多くなってるってこと?」



 ミージャが疑問を僕とミゴンにぶつける。

 そう、僕も思ったが否定した。



「けど、シャーリザードって群れは作らないだろ。数が多くなっても、僕らが狩るのは一体だけだから、問題はないと思うけど」

「シャーリザードに会うまでだな。困難になるのは」



 魔物の異常大量発生。

 原因は何かあるに違いないけど、僕らの出番ではない。

 ミゴンの話では、別のハンターが近くの街【コースタウン】の解決屋に報告へ行ったそうだ。

 ミトドリア大平原を根城としている、ハンターにとっては不幸な情報だが、僕らに影響は少ない。

 止めておいた馬にまたがり、シャーリザードの棲む住処へ馬を走らせる。



 今度は、いきなり遭遇することになっても準備万端だ。

 昨日のうちに、ミゴンと攻略法を練っておいたのだ。

 基本、僕が囮となって注意を向けさせ、二人の魔法で不意を衝く作戦だ。

 ミージャは的確に効果的な位置へ魔法を放つし、ミゴンは昨日の暴走魔法を見て、正確に操ることができるなら、心強い助っ人になってくれると信じている。



 草原の草を踏みつけながらの道中、やはり魔物の数が多い。

 群れで走り回っていたり、じっと座り続けていたり。

 遠回りしながら身を屈めて、やり過ごしていき。

 ようやく、対象を発見した。







 周りは何もない。

 雑草が小汚く生えているくらいか。

 シャーリザードは、僕らの知っている姿で特に変わった様子はない。

 四足歩行で、鱗は頭に向かって大きく尖った刃のようになっている。

 白い鱗は身を守るように、生え揃っている。



「いいですか、僕が『挑発』スキルを発動させ、囮になります。弱点である奴の顔が、こちらに向いたら一斉に強力な魔法を放ってください!」

「了解だよ、お兄ちゃん」

「了解だぜ、お兄ちゃん」



 親指を立てて「了解!」とジェスチャーして、にやけ顔のミゴンを確認し、槍を持って、肉体を危険にさらす。

 『挑発』スキルを使用する前に、コッソリと近づき、『鎧通し』のスキルを武器に付与する。

 『鎧通し』によって、硬い鱗も貫くことができる。



 槍のスキル『一閃突き』で、背後から槍で貫く。

 ザクっと気持ちの良い音が出て、刺さった槍を引き抜く。

 血が噴き出すと同時に、シャーリザードが体を回転させ鱗を飛ばす。

 しゃがんで避け、スキル『挑発』を発動する。

 ハンターの居場所はここだ、と体で合図して突進を誘発させる。

 単純な魔物は自慢の武器うろこを使わず、怒りを纏わせた肉体を衝突させてきた。

 二人のいる方向に避けて、魔物の顔を向けさせる。



「「『ブリザード』!」」



 大きい切れ長の目が付いた顔面に、二人の第二氷魔法『ブリザード』が襲う。

 暴風雪の魔法が、シャーリザードにダメージを与え続け、倒すことに成功した。

 ちゃんと死んでいるか槍で突きながら、確認したが異常なし。



「依頼達成だ。ミージャ、ピン持ってきて」



 ミージャが、ガサゴソと荷物から目的の物を探し出して僕に手渡す。

 ミゴンが例のごとく、覗き込んでピンを眺める。

 ピンは、片端にグループ名が刻まれてある球体が付いていて、討伐した魔物に刺すことで効果が発動する。



「ミゴンさん、よく見ててください」

「シャーリザードに刺して……」



 ピンを差し込み、魔力を送ると。

 死体は、指定の位置へ転移する。



「一瞬で消えた!? 『テレポート』でも付いているのか」

「あのピンは『転送』のスキルが付加されていて、討伐した魔物を解決屋まで飛ばすんですよ」

「ほーほー、なるほどー。倒した魔物を運ばなくてもいいのか」



 ミゴンは納得し、満足した顔をしている。



「これのおかげで、解決屋ハウトレットは急速に、世へ名を広めていったそうですよ。本当に便利な道具です」

「討伐する対象の数だけ、支給されるのか?」

「はい。失ったり無駄に使ってしまうと、追加でお金を払わないといけないんですよね」



 無事に終了し、せっかくなので【コースタウン】へ寄ることになった。







「おお、ここがコースタウン」

「コースタウンは、グレアリングまでの長旅を続ける人のため造られた街なのです」



 僕がハンターの基本である、周辺地域の知識をミゴンへ得意げに話すが。



「知ってる。今、聞いた」



 知ってたんだ。

 ていうか今、聞いたって……。

 あまり気にせず、宿屋を探す。

 ハンターズキャンプの宿屋よりかは安いので、ミトドリア大平原の魔物に挑むハンターたちにも好評だ。

 ミゴンは、しきりに見回し街を楽しんでいる。

 馬留めに馬をつなぎ、宿に入る。



「三人で1泊ですね、1500エンです」



 1000エンの硬貨と500エンの硬貨を店員に渡し、宿泊者名簿に記載して、部屋のカギをもらう。

 ミゴンが「ここでもエンなんだな」と、ぶつぶつ独り言を言っていた。



 部屋に入って荷物を全部、大きな箱に収納する。

 鍵もかけて、武器もベッドの傍に立てかけておく。

 ウーンと背伸びをして、質素なベッドに寝転がる。

 ミージャとミゴンは、街を散策にすると言って出かけた。

 僕は荷物の整理とかして、ゆっくり休むことにするか。







 いつの間にか、窓から夜空が見えるようになっていた。

 二人は帰ってきて、食べ歩きをしてきたという。

 明かりを消して寝ようかと思った、丁度その時、扉がぶち開けられ侵入者が現れた。

 白衣を着た小柄な老人が、僕とミージャの手を掴んで扉から出ていこうとする。



「ちょ、ちょっと! 誰なんですか!?」

「Bランク上がりたての『リブリー』だな! 緊急事態じゃ。ワシに付き合ってもらおう」

「や、やめてください!」



 バシッ!! と強烈な一撃を与えた音が響き渡る。



「お~、かわいい手がワシの顔に」



 ミージャにビンタされてもビクともせず、笑って悦んでいる。

 妹は目を潤ませながら、老人の手から逃れようとジタバタしている。



「離してください! 離して!」

「良い暴れっぷりじゃ! ワシの妹になら――」

「対変態正拳突き!」

「ぐふぉっ!」



 白髪の老体は、壁に打ちつけられ倒れる。

 ミゴンが、渾身の強打を放ってくれたおかげで、魔の手から逃れた。

 ミージャは「お兄ちゃーん!」と叫んで、しがみついてくる。

 吹っ飛ばしたミゴンさんは提案した。



「この変態、どうする。燃やすか?」

「いや、燃やしちゃダメでしょう。縛って、ミトドリア大平原に放置しましょう」

「いや、お前も怖いな」

「魔物に殺され、ゾンビとなっても僕が突き殺します。二度、殺してあげるんです」



 ミゴンは、妹を怖がらせた者への鉄槌を下そうと情熱的な僕の言葉を聞き過ごし、老人を観察する。

 チョンチョンと突いていると、むくっと起き上がり、何事もなかったかのように説明し始めた。



「失礼、取り乱してしもうた。かわいい女の子よ、名は――」

「対変態裏拳!」

「なぜじゃ!?」



 突きの使えない至近距離でも素早く打てる特徴のある裏拳を、ミゴンは顔に放つ。

 骨の折れた音がして、壁に激突する。



「なぜじゃ、じゃねーだろ。名を聞く前に、自分から名乗れ」

「う……モチトリ・ブレンス、じゃ。聞いたこと、あるじゃろ」



 ゆっくりと立ち上がりながら、よろよろと近づいてくる。

 噴き出す鼻血を手で押さえながら、歩いてくる様は恐ろしく見える。



「いや、知らないが。知ってるか、フィル?」

「僕も知らないです」



 目前のよれよれ白衣を着た人物が、ミゴンより恐ろしい。

 何より、妹を見る目つきがヤバイ。



「妹が嫌なら、姉に……」

「ちなみに次は『対変態手刀』だからな。容赦なく半身、消え失せるので」

「というのは、挨拶冗談ハロートークというもので、リライズで流行してるやつじゃ。全く、本気になっちゃって困るのう……」



 全然、面白くもない冗談を聞いて激怒しそうになったが、兄の威厳を保つため耐えることにする。

 妹の目の前で、暴力は振るいたくはない。

 せめて、こいつが一人になった時だな。

 モチトリが沈黙を破る。



「ハンターなら、もう気づいておるじゃろう。魔物の異常に」

「あなたは、その研究を」



 胸を張って、僕に近寄る。

 どの行動で、妹がやられるか分からない。

 体を動かして、ミージャを隠す。



「ワシは『魔物研究調査団』の団長兼研究者じゃ。本当に知らんのか?」



 モチトリが、ゆっくりと妹だけを見つめて詰め寄ってくる。

 さて、ミゴンのように手刀の用意をしておくか。

 ミゴンは、モチトリの後ろで処刑する前のギロチンみたいに、手を持ち上げ構えている。



「知りませんよ、何なんですか!」

「手を貸してほしい。いもう……じゃなかった、ワシをミトドリア大平原まで護衛してほしいのじゃ。ワシの妹に……」



 ミゴンが丁寧に答える。



「貸してやるよ」

「ほ、ほんとうかね!? ワシの妹……」

「地獄まで墜落させる『手』をなぁー!」

「ぎゃぁぁぁー!」



 僕がミゴンと目を合わせて頷くと、勢いよく手刀が振り落とされた。

 モチトリは、仰向けにめり込むように倒れていた。

 二人は頷いて。



「「外に放り出そう!」」



 窓から投げ捨てる。

 外から「団長が落ちて来たぞ!」と聞こえてきたが、寝ることにした。

 あのジジイに付き合ったら、妹が危険な目に遭う。

 ミゴンは変人だけど、妹のミージャを守ってくれた。

 依頼は達成したし、余計なことには首を突っ込まないようにしよう。

 おやすみ、今日。

モチトリ・ブレンスは幼い頃、愛する妹が殺害された。いなくなった妹の代わりに、兄としての愛情を注ぐ相手を今日も探している。

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