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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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221 素顔

 アヴィリオスに抗うことは叶わず、意識を失った。

 意識が底なしの暗闇をさまよう。



(ミミゴン! 聞こえるか! ミミゴン!)



 脳内で叫ばれ続けていることに気づいて、目を覚ます。

 『ものまね』で人に化けていることを思い出して手足を動かし、もぞもぞと起き上がる。

 アヴィリオスに夢の中で、また眠らされたんだった。

 あいつ、最後に何かしようとしていたよな。



「ミミゴンに、ちょっとした術をかけたのですよ」

「ア、アヴィリオス!」



 何事もなかったように落ち着いているアヴィリオスが、俺の顔を覗き込んでくる。

 俺はバッと顔をそらして、アヴィリオスから離れる。



「ちょっとした術って何をしたんだ」

「ミミゴンに聞きたいことがあるのですが、答えていただけますか?」

「なんだ?」



 アヴィリオスは自分の顎を指先で撫でながら、質問してきた。



「最近、記憶が曖昧になることはないですか?」

「記憶が曖昧になること?」



 全く心当たりがないので、首を振って答える。



「いや、ないと思うが」

「前世の記憶については?」

「前世の記憶?」



 前世での記憶が曖昧になることはない。

 ちゃんと覚えている……はずだ。

 なぜか、記憶に自信を持つことができなかった。

 忘れたことはないはずだ。

 いや、自分の本当の名前を思い出せなかったな。

 それ以外は、ちゃんと自分の前世を覚えている。

 そう思い込みたいのだが、小さな違和感があった。

 何か以前の俺とは違う感覚がある。

 それが何なのかは分からないが、少なくとも思い出せない事柄はない。



「……ちゃんと覚えているよ。なんで、そんなことを聞くんだ?」

「あなたの夢で、地上が少しずつ欠けていたのを見たはずです。あなたの夢は前世の記憶が作り出した世界。その記憶の世界が欠けているということは、あなたの前世の記憶も失われているのではないかと思いまして」

「いや、そんなことはないと思うが……」

「ちょっとした術というのは、夢の世界の崩壊を抑えるというものです。まあ、応急手当みたいなものですがね。なんともなければ、それでいいのですが」

「心配しすぎだ。俺を信じてくれ」



 自分の胸をどんと叩く。

 魔神獣の討伐に、法則解放党の壊滅。



「全部、終わらせて世界を救ってやる」

「ふっ、頼もしいものですね」

「それとあれらに加えて、もう一つやることがある」

「ん? なんです?」

「エルドラの救出だ」

(ミミゴン!)



 エルドラが笑顔になったのが『念話』で伝わってくる。



(忘れていなかったのだな! もう、誰も我が囚われていることを気にしていなかったからな。気にしておったのだぞ!)



 悪かったよ、エルドラ。

 傭兵派遣会社の壊滅からデザイアリング戦争に巻き込まれて、自由時間が少なかったからな。

 今なら、時間も余裕も少しはある。

 魔神獣を倒すというのであれば、まずはエルドラを解放する。

 魔神獣を倒す力になってもらうぞ、エルドラ。



(ふむ、魔神獣を倒すのであれば我もぜひ協力させてもらおうではないか。なまった体を動かすのに、良い運動相手になりそうだ)



 アヴィリオスの方を見ると先程までの様子とは異なり、凛として立っていた。



「エルドラを自由にさせるというのですか」

「先代マーテラルがエルドラを封じ込めたのだったな。今でも、敵対関係なのか?」

「エルダードラゴンは全ての生物を超えた異常な存在。恐るべき力を秘めた存在が世界に解き放たれたら、あらゆるものを蹂躙することができるでしょう」

「だからこそ、解放するべきなんだ。魔神獣を相手にして、法則解放党も相手にするのであればエルドラの力が必要不可欠だ。それに、世界を脅かしたのは千年も前のことだろう。今は丸くなって、強いのか弱いのかよく分からない感じになってる」

(いや、我は強いぞ! 丸くはなったがな!)

「ボクが人間だった頃、エルドラに殺されかけているのですよ」

「え……?」

(は……?)



 俺とエルドラは、アヴィリオスの発言に度肝を抜かれた。

 エルドラに殺されかけた、だと?



「エルドラとマーテラル神との激しい争い。そのとばっちりを、ボクは食らった。瀕死のボクを救ってくれたのが、エルドラを封印し終えたあとのマーテラル神でした」

(それはその……悪いことをした)

「なるほどな。だから、先代に恩を感じて、与えられた使命を果たそうとしているのか」



 アヴィリオスは先代に命を助けられたから、使命を果たしているのか。

 エルドラを知っていたのも、そういうことか。



「エルドラに対して私怨を抱いていますが、この際、仕方ありません。ボクも解放することに賛同します」

「アヴィリオス、いいのか?」

「問題を起こせば、再び封印しようとは思いますが……ボクは先代のような力を持っていない。封印することができないということです。というわけで、全力で殺しにかかりますから覚悟してくださいね」

「あ、ああ……」

(我、脱出するのやめようかな……)







「さて、ミミゴン。ここからの行動について確認しておきましょう。各国の状況が落ち着いてきた頃に、ボクが招集をかけます。国王たちと情報共有してから、法則解放党の壊滅に動きたいと思います」

「分かった。しばらくの間は休めるってことだな」

「ボクから連絡をするまでは、ご自由に。ただし、勝手に法則解放党の壊滅や魔神獣の討伐に動かないでくださいね」

「分かっているよ」

「それでは、またお会いしましょう」

「ああ、またな」



 俺は踵を返して、エンタープライズに『テレポート』しようとしたところで、アヴィリオスが声をかけた。



「そういえば、見せていなかったですよね」



 そう言いながら、顔を覆うベールの先をつまむ。

 俺は彼を一瞥して、また顔を前に向けた。



「別に興味ないよ。元人間なんだろ? お前の素顔は、イケメンだって勝手に想像しておくよ」

「だったら、いいんですけどね」

「じゃあな、アヴィリオス」



 俺は『テレポート』を発動して、エンタープライズに戻った。

 確かに、アヴィリオスの素顔に興味はあった。

 だが、あのベールがあいつの顔のように思えた。

 隠している理由はなんであれ、わざわざ覗きに行くような嫌らしいやつにはなりたくない。

 ということで、アヴィリオスの素顔を知らないまま、帰ったのであった。



「ミミゴン、あなたにお会いできてよかった。マーテラル神……あなたとミミゴンとの繋がりは分からないが、彼を必要とした理由は分かった気がしますよ」







 神殿から、ミミゴンが消え、辺りは静まり返った。

 アヴィリオスは、ふと顔のベールを持ち上げる。

 その顔は、墨で塗りつぶしたように黒かった。

 口も鼻も目もない。

 のっぺらぼうだ。



「この顔とも千年の付き合いですか……」



 懐かしそうに呟いて、ベールを持ち上げていた指を離す。

 先代マーテラルがアヴィリオスを"神"に変えたときの言葉が脳裏に蘇った。



「君に素顔は必要ない。私の言葉を、アイツに伝えるための神になるのだ」



 エルドラの攻撃に巻き込まれ、気を失っていたボクの側にマーテラルが片膝を立てて座っている。

 そして、全身が動かないボクの胸に手をかざした。



「あなたは……だれですか?」

「マーテラル。それが私の名だ」

「マーテラル……? 誰でもいいです……ボクを助けてください。まだ……死にたくないんです」

「……たまたま、私の近くにいた、というだけの運命に感謝しろ。だが、それが君の運の尽きとも言えるな」



 マーテラルがかざした手が光り始めた。

 同時に、ボクの意識が遠のいていく。



「君が人ではないということを自覚させるために、君の何もかも変えさせてもらう。そして、私の使命も継いでもらうぞ」

「いったい、なにを……」



 目を覚ますと、変わり果てた自分がそこにいた。

 生まれ変わった気分とでも言うのだろうか。

 妙な感覚が自分の中にあった。

 しばらくして気づいた。

 自分が何かに操られていることに。

 ただ、操られていることを自覚しても、まるで自分の意志のように感じていた。

 違和感に向き合うことをやめ、ボクは神としての使命を果たすのだ。

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