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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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220 現実世界への帰路

 テレビ局の屋上からは地上を見渡すことができる。

 際まで近寄って見下ろしてみるとアヴィリオスの影響により、車や人がその場で止まっていた。

 時間が流れなくなった世界は静かであった。

 ここ、屋上にもスタッフと思しき者たちが休憩をしている。

 その横を通って、アヴィリオスと俺は中央へと向かう。



「色々と話す前に、先にこれだけは答えてくれ。異世界脱出の件だ」

「そうですね。分かりました」



 アヴィリオスは歩みを止めて、こちらに振り返る。

 俺は固唾を呑んで、やつが話し始めるのを待った。



「先代は君に伝言を託しました。その伝言こそが異世界から出る方法です。よく聞いてください」

「ああ」

「魔神獣を全て倒し、エルフの里の長を尋ねよ……」

「魔神獣を全部倒して……エルフの里の長を尋ねる……?」



 非常にシンプルな道でありながらも、すぐに頭に入ってこなかった。

 魔神獣は分かるが、エルフの里?

 その前に、なんで魔神獣を全て倒さなければならないんだ?



「異世界脱出に、どうして魔神獣を倒す必要があるんだ? それに、エルフの里の長を尋ねる理由も聞きたいんだが」

「ボクも全ては知らない。エルフの里長については、ボクと同じように先代から力を授かった人物と聞いています。里長もまた、二代目マーテラルと言えるでしょう。しかし、授かった力は別物のようです。ボクが授かった力が世界の秩序を保つための物理的な力だとすれば、エルフの里長が授かったのは世界を制御する力。先代はそう言っていました」

「世界を制御する力、か」



 なら、俺を異世界から脱出させることができるのかもしれない。

 エルフの里の長か、覚えておかなければ。



「エルフの里はどこにあるんだ?」

「深い森の奥。運が良ければ、辿り着けます」

「運……? 入るのに、運が必要なのか?」

「エルフの里は俗世間を好まず、外界を拒む。隠れ里が来訪者を受け入れてくれなければ、進入することはできない。つまり、エルフの里は来訪者を選ぶのです」

「エルフの里に必要とされなければ入れないのか。それと深い森ってどこの森だ?」

「森であれば、どこでも。過去に一度、エルフの里を訪れた際はシュトルツ村近くの森から立ち入りました」



 シュトルツ村というと、幽寂の森だったか。

 俺とクラヴィス、マトカリア、ゼゼヒヒが悲惨な目にあったあの森。

 確かに、日の光も通さない深い森だった。



「ちなみに、どういう用事でエルフの里に入ったんだ?」

「エルフの里長に会うため、ですよ。結論から言いますと、会うことはできませんでした」

「なんでだ?」

「会う必要がないから、ですよ。まぁ、里長と会って何を話すべきか、考えていなかったから追い返されても仕方ありません」



 エルフの里もなんだか面倒くさい場所らしいな。



〈エルフは魔物から身を守るためのスキルを創造する種族であり、世界を静かに守るという使命を抱いていますー。そして、世界が破滅したとき、新たに世界を創造するための種族なのですー〉



 まるで神様みたいな種族だな。

 エルフの力は他の種族よりも優れていると言える。

 なるほど、それで無闇に関わらないよう、里が外界を拒んでいるのか。



「エルフの里長に会わなければならない、というのは分かった。だが、魔神獣を倒せ、とはどういうことだ?」

「魔神獣は魔物の神にあたる存在。近頃、魔物が活発化していることはミミゴンの耳に入っていますね?」

「魔物の数が増えているらしいな。それに凶魔化しているとかなんとか」



 クラヴィスから報告を受けていたことを思い出す。



「魔神獣が魔物を操り、この世界を破壊しようと企んでいるのです。世界を脅かす魔神獣を倒すことができれば、エルフの里はミミゴンの来訪を受け入れるというわけです」

「魔神獣を倒して、エルフに恩を売るわけか」



 理解は示したものの、なぜかすとんと腑に落ちない。

 魔神獣を出しに使え、という点が妙だ。

 先代の遺言があれば、俺をエルフの里に通すよう、里長に伝えることができるだろう。

 なぜ、わざわざ魔神獣を倒して、エルフに恩を売らなければならないんだ。

 なぁ助手、魔神獣っていうのはなんなんだ?



〈……アヴィリオスが言っていたように、魔物の神ですよー〉



 歯切れの悪い回答が返ってきた。

 もっと芯を食った情報がほしいのだが。



〈エルフの里長は世界を制御する力を持っていると聞きましたねー。ですが、簡単に制御することはできないのですー。魔神獣は世界の制御を邪魔する存在でもあるのですー〉



 魔神獣は、エルフの里長の力を阻害する。

 創造神マーテラルは好き勝手に世界を制御できないよう、魔神獣という歯止めを生み出したということか。



「魔神獣を倒せば、世界は平穏になって、俺は異世界に帰ることができるということか」

「そういうことです」

「帰り道は見えたが、長いなー。いつになったら、終わるんだ。魔神獣を全て倒せって言われても、何体倒せばいいんだよ」

「魔神獣は十三体いたのですが、残り三体にまで減っています」

「え、残り三体?」



 一気に希望が見えた瞬間だった。

 というか、既にそんなに討伐されてたんだ。

 異世界に来た転生者が倒してくれていたのか。



「ここまで来たミミゴンのことです。なんだか、簡単なように聞こえませんか?」

「言葉で言われたら、少しは気が楽になったような気がする。だけどよ……やっぱり無茶な気がしてきたぜ」

「転生者は世界を救う使命と共に、特別な能力を授かります。あなたが授かった能力は、無茶を乗り越えられるもの。大丈夫ですよ」



 柔らかな口調で告げられ、俺は安堵した。

 全てに化ける『ものまね』がなければ、俺はここまで生き残ることはできなかっただろう。

 授かる能力がランダムであるならば、『ものまね』を手に入れた俺はかなり運が良い方だ。



「さて、ミミゴン。あなたがやるべきことは二つ。一つは魔神獣の討伐。二つ目は、法則解放党の壊滅。彼らは、この世界を壊そうとする者たち。法則解放党の行動次第では、ミミゴンの帰還が困難……もしくは不可能にさせられる可能性がある。早急に、潰さなければなりません」

「分かっている。だが、魔神獣と法則解放党の件、エンタープライズでやろうにも大変なことになりそうだな」

「何を言っているのです? エンタープライズ国だけに突き付けられた問題ではないのですよ。これは全ての国に関わるもの」

「確かに世界に関わる問題だ。だが、グレアリングやリライズ、デザイアには荷が重すぎる」

「舐めすぎですよ、ミミゴン。国というものを。種族というものを」



 アヴィリオスは空高くで止まっている太陽を見つめる。



「あなたの国と比べれば、他国は弱く見えるでしょう。転生者と違い、この世界で生まれた者は特別な能力を持ってはいない。ですが、端的に言い表すことのできない強さを皆、秘めている。善人や悪党にも、そういう力が備わっている。そして、個々が寄り添い、できた国は強さをもっている。法則解放党のような集団を圧倒するような強さをね」



 力強く宣言するような声からは、人間臭さを感じた。

 元人間とはいえ、神様のような怪物に人の強さを説かれるとは思わなかった。

 あと、彼の口調に感情が強く表れている。

 怒り、という感情が。

 先代マーテラルに世界を守る使命を与えられた彼は、法則解放党に苛立っているのだろう。

 表立っては動けない二代目マーテラルは、地上で幅を利かせる法則解放党を鎮めたくても彼らに叶う力の持ち主はそうそういない。

 だから、俺に託すのだろう、全てを。

 それにしても、二代目はなぜ、先代マーテラルの使命を全うしようとするんだ。

 そこまでの恩を受けたのか?



「さて、ボクが知りたいことは知りましたし、伝えたいことは伝えたので神殿に戻りま……」

「……? どうした?」



 俺の方に向き直ろうとした直後、言葉を切って固まった。

 何か、異変でも感じ取ったのだろうか。

 アヴィリオスはしばらく止まった後、左手で遠くを指さした。



「見てください、ミミゴン」

「ん? って、あれはどうなってんだ?」



 遠くの建物が浮き上がっているのが確認できた。

 ゆっくりと地面から引き剝がされて、空へと浮かんでいく。

 空へと舞っていく建物がだんだんと増えている。

 俺を取り囲むように、前後左右で建物や剝がされた地面が浮き上がっていた。

 不思議な現象が、どんどんと近づいてきているようだった。

 ふと、アヴィリオスを見ると少し困惑しているようだ。



「初めて見る現象ですね。これまで、それなりに転生者の記憶を覗き見てきましたが。どういうことです?」

「ここって、俺の記憶なんだよな? あんな光景、見た覚えがねぇよ」

「記憶……まさか」



 何かを思い出したようで、俺の表情をじっと見つめられた。

 それから、右手を俺の額に押し付けて。



「では、元の世界に戻りましょう。しばらくしてから、ボクも帰るので。少々、長いですが眠っていてくださいね」

「え、おい!」



 急に視界がぐらつき始め、あっという間に倒れてしまった。

 アヴィリオスは空に浮き上がり、何かスキルを詠唱している。

 あいつが何をしているのか、一部始終を見ることなく瞼が閉じてしまった。

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