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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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216 真の終戦

 仰向けに倒れているトリウムを、リーブは抱きかかえた。

 そして、力いっぱいに抱きしめる。

 リーブのそばに寄り、俺は声をかけた。



「リーブ! トリウムは無事か?」

「ああ、心配はいらない」



 俺もトリウムを一瞥したが、大きい怪我があるようには見えなかった。

 最初、腹を刺されていたはずだが、その傷は塞がっているようだ。

 トリウムは死んだように動かない。

 生きてはいるようだが、目を覚ます様子はなかった。

 魔神獣となった代償だろうか。



「無事で良かった。トリウム、もう……大丈夫だ。私がいる」



 リーブは存在をしっかりと確かめるように抱きしめ、涙を流した。

 これは夢ではなく現実であるという喜びを噛みしめるように、唇を閉じて静かに泣いている。

 近くにアルテックが寄り、トリウムを哀れむように見下ろした。



「トリウムの目が開きそうにないのが怖いな。元の姿に戻ってくれたのは良いが……」

「このまま眠ったままでも、私は面倒を見る。息子への償いだ」



 父親としての覚悟を見せつけられ、アルテックは口を閉じるしかなかった。



 しばらくすると、アルフェッカたちも来て、トリウムの顔を覗く。



「この青年が、あの魔物へとなったのか。未だに信じられないな。何がどうなってる?」

「法則解放党は人を魔物にする研究をしていたんだ。その成果を披露するために、トリウムを使った。なんで、そんな研究をしてんのかは意味不明だが……」



 人を魔物に転化する研究。

 ラオメイディアから託された黒い手帳に、そう書かれていた。

 奴らが何を考えているのかは本当に分からない。



「お母様は、あの者らの手によって殺された。法則解放党……その名を忘れないようにしよう。私の仇敵だ。それに、ヒドゥリーも捕らえなければな」

「アルフェッカ、法則解放党は手強い。それに得体も知れない。だからこそ……国同士で連携し、奴らを壊滅させる。法則解放党は、世界の敵なんだ」

「……戦争などしている場合ではなかった。あのまま戦を続けて、デザイアが勝ったとしても、世界に平和は訪れなかっただろうな。敵を見誤っていた。すまない、ミミゴン、グレアリング王」



 リーブはトリウムを抱きかかえ、アルフェッカに向き直る。



「皮肉なものだが、法則解放党のおかげで我々は真に終戦を迎えることができた。討つべき共通の相手は法則解放党。奴らを葬るためにも、ドラコーニブス・アルフェッカ……貴女にご助力いただきたい」

「もちろんだ。私にできることがあれば喜んで協力させてもらう」

「よし! じゃあ、これで和睦成立だな!」



 俺の発言に両者は深く頷く。

 アルフェッカは後ろを向いて、六星騎士長に命令を飛ばした。



「戦場の後始末をする。ヴェニューサ、アークライトを飛ばせるよう、準備してもらいたい。ウラヌスは軍をアークライトまで誘導してもらいたい」

「御意!」



 ウラヌスは凛々しいアルフェッカの勇姿を見て、嬉しそうに同意した。

 ヴェニューサは、モルスケルタに目を向ける。



「閣下、モルスケルタの方はいかがなさいますか」

「モルスケルタを動かすための魔力を今は誰も持っていない。グレアリング王、しばらくの間だが、ここに放置しても構わないだろうか? 早めに引き揚げるつもりだ」

「いや、このまま、ここに安置してもらいたい。疑うわけではないが、再び兵器として運用されては困る。それにもし、ならず者があれを操ったとしても、ここならば両国に被害は出にくい。頼めるか、アルフェッカ皇女」

「ああ、もちろんだ。モルスケルタに人が入れぬよう、封鎖はしておく」



 アルフェッカは頭を下げてから、六星騎士長を伴ってモルスケルタへと戻っていった。

 帰っていく背中から戦意は感じ取れなかった。

 もう、彼女が戦争を起こす気にはならないだろう。

 リーブも彼女の後ろ姿を見て、呟いた。



「アルフェッカの中には、確かに王の資質がある。このまま、何事もなく女帝として座につくことができればよいのだが」

「まぁ……ヒドゥリーに操られていたとはいえ、戦争を過激化させたしな。それに、自国の諮問機関を破壊したそうだし。何かしら罪に問われるかもしれない」

「罪人となろうとも、彼女ならば償えるはずだ」

「アルフェッカのこと、えらく推してるじゃないか」



 リーブは口元を緩くした。



「……人の上に立つ者として尊敬しているのだ。それに、未来ある若者だ。アルフェッカが女帝となれば、国は安泰だろう。ミミゴンもそう思うのではないのか?」

「そうかもしれないな」



 アルフェッカは王にふさわしい才能を有している。

 部下からも信頼されている様子だし、国内では評判も良いと聞く。

 リーブの言うことにも合点がいった。



「さて、アルテック。我々も撤収するとしよう。講和の準備もしなければならない。一度、セルタス要塞に軍を集める。モルスケルタに避難した者たちを、要塞へと連れてきてくれ」

「ああ、すぐに行う。ガルド、アリオス、行くぞ!」

「はっ!」



 アルテックはガルドとアリオスを率いて、モルスケルタへと駆けていった。



「ではな、ミミゴン王。本当に世話になった。トリウムと、私の……命の恩人だ」



 リーブもまた深く礼をして、セルタス要塞へと歩いていった。

 トリウムを落とさないよう、しっかりと抱えて。

 俺たちも帰るとするか。



「ラヴファースト、アイソトープ、オルフォード、ミリミリ……俺を助けてくれてありがとうな。お疲れ」

「ちょっとー、なんか軽くない? 他になんかないのー?」

「それについては、ワシも同意見じゃ」



 と、ミリミリとオルフォードが揃って厚かましい態度を取る。

 ラヴファーストとアイソトープは同時にため息をついた。



 前方から、シアグリースとトウハが駆け寄ってくる。

 トウハは晴れやかな表情で、大きく口を開けた。



「ミミゴン様ー! エンタープライズに帰ろうぜ!」

「そうだな。ごちゃごちゃ考える前に、美味しいもの食べて寝るとするか! みんな、エンタープライズに帰還だー!」



 トウハとシアグリースは大仰に喜んだ。

 七生報国に、ミリミリが加わって、俺達はエンタープライズへと帰っていった。



 デザイアとグレアリングの両国は滅亡することなく、互いに手を取り合う存在となった。

 人間と竜人の種族間に、未だにヒビは入っているものの、時間が修復してくれることは目に見えている。

 戦争を煽るために生まれた差別は、もう必要ない。

 未来は、複数の種族が協力して立ち向かう世界となるだろう。



 デザイア帝国とグレアリング王国の和睦によって、デザイアリング戦争は終結となった。







 各軍がそれぞれの国へと帰る頃、夕日は顔を覗かせていた。

 ようやくエンタープライズで一息つけると思った直後、俺はアヴィリオスに呼び止められる。



「ミミゴン、助かったよ。目論見通り、デザイアリング戦争を終結させ、両国は健在。アルフェッカは潔白となり、魔女ミリミリは記憶を取り戻し、君の仲間となった。法則解放党を表に引きずり出すこともできた。全て、君がいなければできなかったことだ。ありがとう……」



 振り返ると、アヴィリオスは凛とした佇まいで俺を見つめていた。

 顔を覆う白いベールが風に吹かれ、ゆらゆらと揺れている。



「ここまでやったんだ。異世界から脱出する方法、ちゃんと教えてくれるんだろうな」



 声音を強くし、強気な態度で告げた。

 俺をやる気にさせた報酬。

 成功すれば異世界から出る方法を教えてくれる、という条件だ。



「……もちろん。忘れてはいないよ」

「じゃあ、教えてくれ」

「今は休息をとったほうがいいんじゃないかな、ミミゴン。大丈夫、準備が整ったら、神殿に招待するからね」



 こいつ、本当に教えてくれるのか、すごく心配になってきた。



〈ここは、アヴィリオスに従っていいんじゃないですかー。ミミゴンの体は瀕死に近い状態なんですからー〉

(そうだ、ミミゴン。体を休めたほうがよい)



 助手とエルドラが、口を揃えて休めと言う。

 お前ら、俺を異世界から出させたくないから、そんなことを。



(ち、違うぞ、ミミゴン! つ、疲れただろう。ささ、エンタープライズに帰って宴だー!)



 エルドラの拙い笑い声が脳内で反響している。

 ま、こいつらの言う通りに従うか。



「アヴィリオス、約束は破らないでくれよ。絶対だからな」

「分かっています。楽しみに待っていてください。それでは」

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