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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
250/256

215 魔神獣:毒空木―7

〈ミミゴンー! トリウムのデータ、復元できましたー!〉

「はぁ、なんとかデータを引っ張り上げたぜ。よかった」



 書き換えられていくトリウムのデータを、魔神獣のデータから取り出した。

 あいつが心に残した父への後悔。

 それがトリウムを呼び覚ますキッカケとなった。

 まったく、親子喧嘩ばかりに俺を巻き込ませやがって。

 俺はもう……できないってのによ。



(ミミゴン! あとは脱出するだけだ! 急いで、魔神獣から脱出しろ!)



 エルドラの急かす声が、脳内いっぱいに響き渡る。

 そうだ、あとはこの毒液の空間から抜け出せばいいだけだが。



「くそ、体が動かねぇ! 劇毒に浸かりすぎたか」

(な、なんだと!?)



 劇毒に溺れる機械のあちこちが破裂するように放電している。

 痛みはないが、命が静かに終わりゆく感覚に陥っていた。

 自己犠牲が過ぎたか。

 戦いの連続ということもあって、最適解に至ることはできなかった。

 次から次へと、厄介事が来すぎなんだよ。



「助手……なんとか、できそうに……あるわけないか。お前もよく頑張ったよ」

〈なに諦めてるんですかー、ミミゴン。らしくないですよー〉

「……!? まさか!」

(あるというのか!?)



 間も置かずに。



〈いえ、ないですよー〉

「なんで、そんな余裕そうなんだよ! 紛らわしいわ!」



 秘策でもあるのかと思って、期待しちまったよ。

 あったら、もうとっくに脱出してるか。



(あわわわ! どうすればいいのだ! ミミゴン、慌てるな! 冷静になれ!)

「エルドラが一番、慌ててるじゃねぇか」

(落ち着けるわけがないだろう、ミミゴン! ラヴファーストたちに助けを求めたいが……うむ、自分のことで精一杯といった様子だ。先程から、毒空木の攻撃が激しくなっている)

「トリウムのデータを復元できたなら、普通弱っていくはずだろ」

(魔神獣に残された自我が、最後の悪あがきをしておるのだ。そのうち、動きも鈍くなるはずだが)

「その前に、俺が死ぬ……か」

(ミミゴーン!)



 どうしようもできないという状況が、無気力感につながる。

 観念というよりも、ただただ無力を痛感させられ、手も足も出ないといった感じだ。

 紫の毒液の中をゆっくりと降下していくしかなかった。



「俺の異世界生活、ここで終了か。第二の人生、なかなか楽しかったぜ」



 しんみりと呟きながら、視界を閉じる。

 その瞬間。



(まだ、終わりませんよ……第二の人生は)



 エルドラではない優しげな声が脳内に響く。

 この声は。

 声の主を思い出そうとしたとき、突然もの凄い勢いで横に引っ張られた。

 その勢いは猛烈で、壁に激突して更に外へと突き抜けた。



「え、うおー!?」



 魔神獣の皮膚を突き破って、俺はなんとか脱出することができた。

 勢いよく飛び出てきた俺を誰かが受け止める。



「ね、魔神獣は案外、力業でなんとかなったでしょ」

「あはは、まぁな……アヴィリオス」



 俺を抱えて、浮遊するのは顔を白いベールで隠したアヴィリオスだった。



「はぁ、助かったぜ。ありがとな」

「礼をするなら、ボクの方だ。君たちの貢献は計り知れない。世界の希望だ」

「それ、ほんとに感謝してんのか? お世辞にしか聞こえないんだが」

「大げさに聞こえたかもしれないけど、本心だよ」



 そう言うと、アヴィリオスの手を伝って、魔力が入ってきた。

 回復してくれたおかげで、少しは動けるようになった。

 『ものまね』で人に化けて、地面に降りる。

 アヴィリオスも隣にそっと降り立った。



「さて、あとはトリウムが元の姿に戻るのを待つだけですね」



 場に似つかわしくない微笑んだ声で言う。

 待つだけ、とは言うが。



「ミミゴン様! 無事だったか!」

「ラヴファースト! みんなも! ここまでよく戦ってくれた!」



 ラヴファーストに続いて、七生報国が集まる。

 ゼェゼェと息を切らしているオルフォードは、俺に杖を突きつけた。



「ワシが、こんなになるまで戦ったんじゃ! ちゃんと作戦は成功するんじゃろうな!」

「絶対に成功する。俺を信じてくれ」

「……信じろ、と言われても、ほれ! 奴め、まだ大暴れしとるぞ!」



 オルフォードの言う通り、毒空木は触手や本体を振り回していた。

 戦う者たちは巻き込まれまいと、散り散りに逃げている。

 運悪く逃げ遅れた者の頭上に、大樹のような触手が落ちてきた。

 そのまま潰された……わけはなく、アルフェッカが抱えてその場を脱したようだ。

 トウハたちエンタープライズ軍や、六星騎士長が率先して、逃げる者たちの手助けを行っていた。

 アルフェッカとリーブが退陣命令を出したのだろう。

 毒空木の暴れっぷりは豪快で、敵味方構わず吹っ飛ばしている。



 ついに、俺らに向かって巨大な触手が振り落とされた。



「避けろ!」



 全員、後方へ飛び退いた。

 その一秒後、目の前が爆発する。

 大地はめくれ上がって、触手は止まっていた。

 土塊や煙が衝撃で舞い上がっている。

 あの攻撃を、今の俺ではとても受け止めきれそうにない。



「次が来たら、大変じゃ。ミミゴン、すぐに離れるぞ」



 オルフォードが冷静に助言してくれたが。



「あれ、アヴィリオスがいない」

「まさか!」



 ミリミリが叫ぶ。

 おい、さっきの攻撃を避けなかったのか。

 あの動かないままでいる触手の餌食となったんじゃあ……。



「ボクなら、ここですよ」



 どこからか、アヴィリオスの呑気な声が聞こえた。

 触手はゆっくりと持ち上がっていく。

 窪地となった目の前を見下ろそうとした途端に気づく。

 触手を持ち上げているのは毒空木ではなく、アヴィリオスだった。



「ボクは毒空木を引っこ抜いてきますので、そこで待っていてください」

「はぁ!? 引っこ抜く!?」

「このままでは、トリウムくんに戻ったとき、地中ですからね」



 この魔神獣を引っこ抜くだと?

 大きなカブを引き抜くのとは訳が違う。

 アヴィリオスは触手を掴んで、上空へと昇っていく。

 こいつがただのホラ吹きか、それとも強者なのか。

 教皇の実力を見ることができるというのなら、黙って見ておこう。







 アヴィリオスの持つ触手が微妙に震えている。

 毒空木はおそらく抵抗しているのだろうが、その抵抗を上回る力で押さえているのだろう。

 それが分かっただけでも、敵に回したくないと悟った。

 今にも触手が引きちぎれそうなほど天空へと持っていったアヴィリオスは、じっと毒空木を見つめる。

 そして。



「うん? 地面に亀裂……? は、離れろ!」



 地面に亀裂が走ったのを発端に、毒空木周辺の土が盛り上がり始めた。

 あいつ、まじで引っこ抜くつもりだ。

 地面は割れて、地下が露出してくる。

 戦場にいる全員が状況を察して、毒空木から少しでも遠くに逃げる。

 地上は見る見るうちに変化していき、やがて地中の根っこが表出し始めた。

 一本の太い根が出てきたのを皮切りに、次々と根が地表から出ていく。

 雑草を抜くのとやり方は似ていても、規模が桁違いである。

 大陸そのものが剥がされるのではないかという迫力を感じさせる。

 毒空木の残った触手が地面を叩いて暴れていたが、しばらくして一本も地面に届かなくなった。

 触手や根が鞭を振り回すように荒れ狂っているが、本体は既に高空である。



「これがあの者の実力……! 私達を造作もなく葬れる、と言っていましたが……」



 アイソトープの言葉を聞いて、ラヴファーストは忌々しく舌打ちする。



「何者だ、奴は。本当に知らないのか、オルフォード!」

「アヴィリオスという名前と、神都ユニヴェルスで教皇をしているとしか知らんわい!」



 オルフォードは悔しそうに怒鳴る。

 あらゆることを知っているオルフォードでも、アヴィリオスについては知らないというのか。

 さて、張本人はというと余裕の表情で触手を持ち上げていた。

 大地を支配するように生えていた毒空木が、たった数分で空に浮かんだ。

 根っこもついには全て引き抜かれ、毒空木は完全に宙ぶらりんとなった。

 アヴィリオスからの『念話』が頭に響く。



(巻き込まれないようにしてくださいね)

「いったい、なにをするつもり……」

(『セオイナゲ』!)



 毒空木が一瞬消えたかと思った次の瞬間、地面に叩きつけられていた。

 大槌で杭を打ち込む勢いで、体を一回転させて地面に叩きつけたのだ。

 見ての通り、背負い投げで奴は振り落とした。

 とんでもない力を秘めていることがひと目で理解できた。

 それは七生報国のみなも感じ取ったようだ。

 頭から突き刺さった毒空木は塔が崩壊するように、音を立てて横に倒れる。

 倒れた衝撃は、辺り一帯の魔物の死骸を吹き飛ばした。

 もうめちゃくちゃな光景である。



「あとは待つだけですね」



 魔神獣を放り投げた張本人はなんてことない様子で降りてきた。



「お前も一緒に魔神獣と戦ってくれたら、俺らはここまで疲労しなくて済んだんだけどな」

「それは面白くないでしょ、ミミゴン……あはは」



 嫌味を込めて放った言葉を、笑いながら返答された。







 毒空木が輝き、爆発する。

 轟音と衝撃波で、砂埃が大きく舞った。

 舞い上がる砂に毒空木の影はない。

 元のトリウムに戻ったというわけか。

 俺が駆け寄ろうとしたとき、隣をリーブが通り過ぎていった。



「トリウム!」



 いち早く息子の無事を確かめたいのだろう。

 俺も、リーブの後ろに付いて走った。

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