表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第二章 グレアリング騒乱編
25/256

23 リブリー:道案内

「君たちが『リブリー』のハンターたちだね?」

「あ、そうです! ハウトレット様から聞いてます。……ミゴンさんですね。フィルです。よろしくお願いします」

「妹の、ミージャです。よろしくお願いします!」



 茶髪の若い男性が、僕たちと握手をする。

 ハウトレット様から今回の依頼に助っ人を用意すると聞いていたが、同じ年頃の人とは。

 体を傷つけないための防具は、魔法攻撃に耐性のある青いローブ。

 下は、素早さを向上させるファルサウルスの素材が使われたズボンを履いている。

 武器は、ダグラム街の木で出来た大きな杖。

 これら全て、手に入りにくい素材の装備なんだが、この人は何者なんだろう。

 これほどの装備で、ハンターを始める新人と聞いていたけど。

 僕たちBランクの依頼に、Fランクのハンター。

 ハウトレット様から直々の依頼だ、失敗するわけにはいかない。

 妹が僕の耳元に口を寄せて囁く。



「あの人、Fランクってどういうこと? 入団審査で、ちゃんとランクにあった実力が分かるはずだよね」

「僕もおかしいと思ってるよ。どう見ても、強く見える」



 僕たちが疑いの目を向けているのに気づき、嫌な顔をする。



「俺が助っ人で怪しいか?」

「いえ、なんでもないです。ミゴンさん、じゃあ馬に乗って依頼内容、話しましょうか」

「馬、持ってるのか」

「入り口に馬を飼育している店があるんですよ。そこで貸し出してくれます」

「ふんふん、なるほど」



 何だか奇妙な人だ。

 助っ人として活躍してくれることを祈ろう。

 いや、僕たちはBランクハンターとして、彼を守らなければ。

 ようやくBランクになったんだ、実力を示さないとな。







 貸出料を払い、三頭の馬が連れてくる。

 クッション性の良い毛布の上に鞍を載せ、出口の門をくぐった。

 乗馬し、依頼内容をミゴンと確認する。



「狩猟する対象は『シャーリザード』。鱗が切れ味の良い刃のようで、飛ばしたりして攻撃してくる厄介な魔物です。ですが、肉を焼けば美味と言われており、数多くの貴族が愛している食材だそうですよ」

「私達は、祝賀パーティーで振舞う食材を取りに行くのです」

「祝賀パーティー?」

「知らないのですか? 吸血鬼を倒した英雄の晴れの席ですよ」



 何やら悔しそうに唇を噛んでいるが、僕たちもそうだ。

 国中を騒がせた吸血鬼を倒した者に、誰もがなりたかったと皆、嘆いている。

 歴史に名を残したいのだ。

 けど、僕たちに勇気がなかった。

 ミゴンは考え過ぎていることに気付き、笑って謝った。



「ああ、すまんすまん。早速向かうか」

「はい! 場所は、ここより西に位置する【ミトドリア大平原】に出没しています」

「そうか。んじゃあ、行くか!」



 ミゴンはよいしょ、と乗馬する。

 全員が乗ったことを視認して、馬を走らせた。







 僕が先頭を走り、二人を安全に誘導していく。

 体力を温存するため、出来るだけ魔物との戦闘は避けていた。

 そのために周りをよく見渡し、しっかりと確認している。

 自分の目が一番頼りになるのだ。



 30分ほど走らせていると、遠くにいた魔物の群れがこちらに気付いた。

 犬型の魔物だ。

 回避しようと遠回りしたが無駄だった。

 まるで地面そのものが襲い掛かってくる迫力だ。

 移動を止め、ミゴンの方へ体を向ける。



「まずい。ドークランに見つかった。戦うしかない」

「あの猛犬からは逃げられないのか?」

「無理です、足が速いですし。それに鼻もいいですから、遠くにいても気付かれます」

「逃げても追ってくるか。なら、戦うしかないな」

「ミゴンさんの戦い方は?」



 仲間との連携は、とても重要だ。

 風魔法など範囲攻撃が主な場合、巻き込まれる恐れがあるため、事前に打ち合わせをするのだが。

 しまった、いつも妹と組んでいるから、ミゴンとミーティングしてなかった。

 こうして仲間と手を組んで、戦ったことがない。

 戦術を知るため、ミゴンに尋ねたのだが、心ここにあらずといった状態だ。

 見えない誰かと喋っているみたいに、口をパクパクさせている。

 ミゴンの馬に近寄って、肩を揺さぶった。



「ミゴンさん! 戦い方は?」

「へ? 肩たたき券?」

「そんなこと一言も言ってませんよ! なにで戦うのですか!」

「悪いが俺も知らねぇ!」

「お兄ちゃん! 目の前に来てる!」



 僕の武器である銀色の槍を、馬から降りながら手に持つ。

 『軽量化』と『頑丈』の効果が付与されているため、通常よりも軽く折れにくい自慢の武器だ。

 前に構えて、後ろの二人に指示をする。



「僕が引きつけますから、二人は魔法をお願いします!」

「分かったよ、お兄ちゃん!」

「分かったぜ、お兄ちゃん!」



 ミゴンに、お兄ちゃんと呼ばれたくはないが頼りにしている。

 魔法の扱いが上手くなる装備だから、そこから推測して魔法は使えるはず。

 ミゴンは何属性の魔法を使用するのだろう。

 風や闇は攻撃範囲が大きいから、使用は控えるだろうけど。

 僕が先陣切って走り出す。

 敵は10、20……30は、いるのか。

 10体ほど倒せば、こちらを脅威と認識して逃げるはずだ。

 全部、倒す必要はない。

 ミージャは第二氷魔法ブリザードを放つようだ。

 詠唱し、魔力を集めている。

 ミゴンは、というと……。



「とりゃ」



 ゴーっと悪魔のいびきみたいな音を立てて、ドークランの群れに竜巻が発生している。

 地上から雲へと太く勢いの強い渦巻きが、強風をまき散らしながら出現したのだ。

 ドークランはグルグル回転しながら、上空へと舞い上がっていく。

 僕は辛うじて目を開け、突風に飛ばされないよう、槍を地面に刺してしがみ付く。

 槍を必死に掴み、身を屈めているミージャの手をつないで身を寄せ合った。

 この竜巻を誕生させた張本人は、平気な顔をして立っている。



 ややあって渦巻きは消え、無風となった。

 天からドークランの死体が降り注いでくる。

 バキバキと骨が折れる音に、ドチャドチャと今まで生活していた大地へ激突した音が混じった音楽を奏でる。

 おまけに、地面で爆散した血が自分の防具を赤く着色する。

 ……ミゴンが起こした魔法なのか?

 普通に放って出る魔法じゃない。

 魔力を込め発射する魔法だが、明らかに必要以上に込めて暴走した魔法。

 それは、ミゴンの持つ魔力の強さを認識させられる。



「……何ですか! 今の魔法は!」

「『ストーム』……なんだけど。ちょっと加減の方法が分からなくて……」

「や、やりすぎですよ!」



 『ストーム』って、第二クラスの風魔法だよな。

 この人は、風をメインに魔法を習得しているのかな。

 でも、さすがに味方も巻き込む風属性だけじゃないはず。

 あとで聞いてみるか。

 それよりも……。



「ミゴンさん! 危ないじゃないですか! ちゃんと魔法の加減を調整して、放ってくださいよ!」

「反省しまくってる! 本当に申し訳ない」



 頭を地に擦り付けるか、擦り付けないかの境目で謝っている。



「この通りだ。許してくれ」

「僕たちに当たってたかもしれないんですよ!」

「まあまあ落ち着いて、お兄ちゃん。次からは注意してくれますね?」

「もちろんだ!」



 妹からの問いかけに答えたミゴンは笑顔だ。

 本当に反省しているのか?

 僕がまだ不機嫌な表情をしているのに、ミージャは気づき。



「この人がいなかったら、私達死んでたかもしれないんだよ。むしろ、感謝すべきじゃないでしょうか」



 微笑んだ顔を近づけて、僕を諭す。

 ミゴンが笑って。



「そうだよ、お兄ちゃん!」

「馴れ馴れしすぎますよ、ミゴンさん! 反省してるんですか!」

「もちろん全部、反省しているんだ。本当に申し訳ない。……早くしないと日が暮れるぞ。さ、行こう」



 天を仰いで、深いため息をつく。

 まったく、心が読めないな。







 ドークランの売れる部位を剥ぎ取って、大きな袋に入れる。

 死体がかなり損壊して、価値のない部位も出てくるが、それでも多く物にできた。

 これだけあれば、最悪この依頼が失敗しても、当分は生きていけるかな。

 袋の口をキュッと閉めて、馬の背中に載せる。



 道なき道を走らせ、ミトドリア大平原に足を踏み入れる。

 辺りはすっかり暗くなり、星と月が綺麗に輝く夜空だ。

 夜は昼と比べ、魔物は凶暴になり、数も増える。

 そして、志半ばに死んでいったハンターの死体も起き上がり、人として生きることから人を殺すことへと変わる。

 それは”ゾンビ”と呼ばれ、夜に活動し、生者を襲う死者に変わってしまうのだ。

 ある学者が「生物は一人二役を演じる役者なのだ」と言っていた。



 ミゴンに、これら夜の怖さを教え、近辺に【ハンターズキャンプ】があるので、そこに向かう。

 ランタンが吊るされ、休息地を告げる光に釣られるように入っていった。



「ここが、ハンターズキャンプか。いやー、落ち着くなぁ」

「僕たちも、テントを張って夜を明かしましょう」

「フィル、あいつら大きい家に入っていったが」

「ああ、あれはテントを持っていないハンターや、商人などが泊まる宿泊施設ですよ。ベッドやお風呂、食堂も設置してあり、便利ではありますが、それだけに料金が高く設定されてあり、僕たちでは支払うことに躊躇しますよ」

「だから、質素なテントで過ごすんだよね、お兄ちゃん」

「じゃあ、この辺でテント張ってる奴は金持ってないって訳か」



 この言葉を聞いてしまったハンターが怒鳴ってきたが、ミゴンに謝らせて黙らせた。

 今日で何回目か分からない、ため息をついて野営の準備をする。

 小さい円盤状に丸められたテントに魔力を送り込み、開花するように広がった。

 ミゴンは興味深く観察しており、この仕掛けに仰天していた。

 その間、ミージャは火をおこし、持ってきた肉を焼く。

 魚の缶詰も開け、フォークを突き刺した。

 今夜の食事は、これらだ。



「いっつも、こういった感じなのか?」

「この生活に慣れてない者にとっては距離を置くかもしれないですが、僕たちハンターにとっては贅沢なんだ」

「皆がみんな、こんな食事を食えるわけじゃないんだな。理解したよ」

「はい! 焼きあがったよ」



 香ばしい香りの肉を薄くスライスし、皿に盛りつけていく。

 いただきます。

 フォークの先に突き刺した肉を、口に入れる。

 少し硬いがこれくらい問題ない。

 肉汁が少量しか染み出さない肉を、引きちぎるように食す。

 缶詰の魚も独特の臭みがあり、ミゴンは臭いで嘔吐しそうになっている。

 僕もミージャも最初は慣れていなくて、お互い泣きながら安い缶詰を食っていたけど、今ではもう慣れっこだ。







 食事も進んでいた頃、ミゴンに質問した。



「ミゴンさんて、どこの生まれなんですか? やっぱり貴族とか?」

「うーん……俺のことはあまり話せないんだ」

「あ、ごめんなさい。何か事情があるんですね」

「まあ、そういうことにしてくれ。悪いな」



 詮索されるのが嫌いなのか、事情があるのか。

 多分だけど後者だろう。

 ハウトレット様も心配していたし、どちらかと言うと僕たちが助っ人かもしれない。

 彼のことが気になるのだが、黙っておこう。

 今度は、僕たちに質問をぶつけてきた。



「フィルにミージャこそ、どこの生まれなんだ?」

「僕たちは、グレアリング領で一番貧しい村から来ました」

「失くし続けた者が最後に流れ着く村、なんて呼ばれてるよね」

「ロス村っていうんですけどね。本当に何もないんですよ」



 毎日、生きるのに必死で食べ物も自分で調達する。

 腐った臭いのする木造の家で、母親と妹と生活していた。

 父は失踪し、母は寝たきり。

 ただただ汚れた村に、ある日、女の子を先頭にした集団が現れた。

 ミージャと背丈が変わらない女の子の名は、ハウトレットと名乗り、村の人間をハンターとして雇いにきた。

 力ある者はついていき、僕たちも母親を置いて、付いていった。

 妹を連れて、ハウトレット様のために仕事をこなしていった。

 大切にしてもらった、あの方はいつの日か姿を見せなくなってしまったが、それでも働き続けた。

 母親は、もう死んでしまったのだろうか。

 ハンターとして生活しようと思ったあの日、母親を捨て、逃げてきた。

 母が「行きなさい」と言ってくれたから、だけど。

 僕たちを恨んでいるだろうか、僕たちを憎んでいるだろうか。

 いつか、余裕ができたときに会いに行こう。



 ミゴンに語りたいことは語って、隠しておきたいことは隠しておいた。

 母親を捨てて、心地良い幸せへ逃げたことは一言も話さない。



「……そうか。辛いな」

「私達、こんなでも幸せですよ。生きることが楽しいと思えるくらいに」

「これも良いお兄ちゃんを、もっているからだな。良かったな、ミージャちゃん」



 ここで、ミゴンは妹が日記をつけているのに気付いた。



「日記か? それ」

「うん! 狩りの日々を記録して、有名になった時に見返すんだ。更に、ここまでの道のりを本にして、出版するの。そしたら、私達『リブリー』に憧れ、頑張る人が増えると思う。私達は案内無しの手探りで始まったけど、この日記が『道案内』の役割を持つようにするの」

「ハンターの説明書か」

「まあ、近いかもね。体験談てさ、意外と希望を与えるんだよ。『リブリー』の日記たいけんだんは、きっと魔物がたくさんいる時代で、重要な道しるべになるはずだよ」

「なるほどー、良い考えだ。フィル、良い妹をもったな」

「うん、幸せ者だよ。僕は」



 よしよし、とミージャの髪を撫で、表情を柔らかくさせる。



「えへへ、ありがと!」



 僕は今も幸せだよ、幸せ者だよ。

 嬉し涙を流す前に、横になって毛布をかけ、寝ることにした。

 ランタンの灯が僕たちを照らし、日が昇るまで安心感を与え続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ