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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
247/256

212 魔神獣:地上―3

 住民と負傷した兵士を無事、モルスケルタへと退避させることができた。

 アルフェッカら勇猛な戦士のおかげで、戦場に道ができ、安全な退避へと繋がった。

 この果敢な行動により、人間は竜人を、竜人は人間を信用する糸口となったのである。

 命がけの戦いは、種族の隔たりを埋めたのだ。



「閣下。要塞の人間たちは無事、モルスケルタに退避できました」

「そうか。ご苦労だった、ウラヌス」



 アルフェッカの労いに、ウラヌスは頭を下げる。



「それと、ウラヌス。中の様子は、どうだった?」

「人間と竜人……互いに関わろうとはしません。壁をつくっている……そんな雰囲気でした」

「今は、それでよい。自分のことで精一杯の状況だからな」



 アルフェッカは、モルスケルタに出入りする竜人を見送る。

 ここで、ヴェニューサが声を飛ばしながら走り寄ってきた。



「閣下!」

「ヴェニューサ、アークライトはどうだ?」



 アルフェッカは、ヴェニューサに飛行戦艦の確認を頼んだ。

 帝国軍を乗せて帰る輸送機に異常がないか。

 ヴェニューサは声色を重くして、沈痛な面持ちとなる。



「艦内に魔物が侵入し、中の兵士たちは全滅。一部、設備も破壊され、すぐには飛び立てない様子です」

「艦内の安全を確保するため、隊を編成し、魔物の退治にあたれ。加えて、モルスケルタの技術班を伴って、設備の復旧に務めろ」

「はっ!」

「エンタープライズの諸氏よ、頼みたいことがある」



 アルフェッカに呼ばれ、モルスケルタ前で集まっていた数人が振り返る。

 その中から、一人が前に出た。

 指揮官のシアグリースである。



「僕たちに頼みたいこととは」

「このヴェニューサと共に、我々の飛行戦艦アークライトに侵入した魔物を撃退してもらいたい」

「承知いたしました!」



 彼らは早速、気を引き締めて先行するヴェニューサの後ろを付いていく。

 エンタープライズ軍の早呑込みぶりに、アルフェッカは驚いた。

 疑うことを知らないうぶな者たちに、いささか不安を覚える。

 しかし、彼らエンタープライズ軍が戦場に来てから、状況は好転した。

 その事実は、しっかりとアルフェッカの目に焼き付いている。

 すぐに不安を拭い去り、彼らを信用することにした。







「皆、モルスケルタを死守するぞ。絶対に魔物を侵入させるな!」



 アルフェッカの叫びは、ここにいる勇士たちに響き渡った。

 モルスケルタの入口前で人間兵、竜人兵が並び立つ。

 皆一様に武器の柄を握り直し、精神統一する。

 ここを乗り切れば、最後。

 その希望に縋り、勇士は己の武器を振るった。



「ゆけー! 戦え!」



 リーブが声を張り上げ、味方を鼓舞する。

 ウラヌスとアルテックは自慢の剣術で、強敵を相手にした。

 押し寄せる魔物の群れで一際、異彩を放つ魔物。

 人面樹と呼ばれるその魔物は、立派な枝ぶりを振り回す。

 枝に生え揃った葉を、投げナイフのように勢いよく飛ばしてきた。

 駆ける二人は鋭く突き刺してくる木の葉を見切り、上空に跳ねる。

 刀に魔力を充填させ、スキルを発動させた。



「食らえ、『獅子吼・天空』!」

「『捲土重来』!」



 振り下ろされる二刀から放たれる強烈な斬撃。

 その二撃を受けて、人面樹は音を立てて崩れ倒れた。

 揺れた大地に、二人は舞い降りる。



「竜人は豪快な技しか使えんと思っていたが、意外にも繊細な技だったな。見事だ」

「オッサンも、その細身から想像もできない力を出したな。さすが、王の側近ってだけはある」



 ウラヌスは、隣のアルテックに挑戦的な眼差しを向けた。



「機会があったら、一戦交えてぇんだが、どうだ?」

「いいだろう。久々に、張り合いたくなる剣士が現れた。両国が落ち着いたら、試合を行おうではないか」

「へへ、楽しみだぜ」



 次に攻撃を仕掛けてきた魔物を二人はキッと睨む。

 刀で斬るタイミングを見極め、魔物の方へと走る。

 そして、攻撃を躱しつつ、敵を一刀両断した。







 突如、毒空木が大爆発した。

 アルフェッカたちの視界は真っ白に包まれる。

 続いて、暴れる熱波と爆音が全身に襲ってきた。

 いきなり起こった出来事に全員、身を縮こまらせるしかなかった。

 不幸にも耐えることのできなかったものは、魔物も人も等しく吹き飛ばされた。

 まるで太陽が墜落したような眩い光と衝撃。

 体の感覚を取り戻すまで数秒かかり、視界がハッキリと晴れるまで数十秒かかった。

 アルフェッカは顔を守る腕を下ろし、目をゆっくりと開ける。

 ぼやける視界が徐々に形を取り戻す。

 戦場を取り巻く土煙が風で流されるのを待った。



「う……あれは……」



 去っていく土煙の間から垣間見えたのは、半分が消し飛んだ毒空木だった。

 巨木を強引にへし折られたような見た目である。

 見上げると、宙に浮かぶ二人がいた。

 ミリミリとミリミリに『ものまね』したミミゴン。

 こんな芸当ができるのは、あの二人しかいないと、アルフェッカは乾いた笑いを出した。



 大地を撫でる風が吹き流れたあと、戦士たちは体を起こして再び臨戦する。

 ひっくり返った魔物は、劣勢だった兵士たちの餌食となった。

 この光景が士気高揚を促したのだ。



「鬨の声を上げろー!」



 リーブが腹の底から叫んだ。

 その意思に応え、戦場に喊声が轟き、鯨波は人に勇気を与えた。

 湧き上がる戦意はとどまるところを知らず、竜人と人間の勢いは増進するばかりである。



「閣下! そっちに魔物が!」

「ふっ、抗う者を殲滅せん!」



 ウラヌスの警告に反応し、アルフェッカは達人のごとく身構える。

 降りかかるように襲ってきた魔物を、双剣が一瞬の内に切り裂いた。

 空中で斬撃を食らって、裂かれた肉がベチャベチャと落ちる。

 続くマンドレイクの魔物に向き直り、双刃を下にして構える。

 鏡面仕上げの剣に魔力を集中させ……一気に放った。



「『逆浪』!」



 刃をしっかりと撃ち込める間合いに、敵が侵入する。

 目を光らせ、居合斬りのように双剣を斬り上げた。

 逆巻く波を思わせる斬撃は魔物を打ち上げ、体を真っ二つへと変えた。



「ウラヌス。ミリミリやミミゴンのためにも、地上の雑魚は我らの手で葬るぞ。さぁ、手を貸せ」

「御意! このウラヌス、全力で奴らを排除してみせましょう」



 ウラヌスは甲冑を鳴らして、すぅっと息を吸う。

 目を閉じて、唇を少し突き出して息を吐く。

 乱れていた心を整えたのを全身で感じて、バッと目を見開かせた。

 刀を両手で握りしめる。



 メリディスは、アルティア殿下に必要とされたからオレを打ち負かした。

 アルティア殿下をお守りするという野心が、メリディスを立ち上がらせた。

 なら、オレは……アルフェッカ殿下をお守りするという野心で戦い抜く!



 長年の悩みを振りほどいた心は、ウラヌスを目覚めさせる。

 満ちる闘気を武器に宿し、彼はアルフェッカと共に刀を振り続けた。

 この戦いが終わりを迎える頃まで。

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