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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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210 魔神獣:地上―1

「アリオス! まだ、戦えるか!?」

「はぁはぁ、問題ないよ、ガルド……って強気に言いたいけど、さすがに、ね」



 戦場中央にそびえ立つ塔のような大樹。

 魔神獣「毒空木」から撃ち出される種子は地面に落下すると、強力な魔物となって人々を襲い始める。

 帝国軍、王国軍、エンタープライズ軍が植物型の魔物に挑んでいた。

 先程まで互いに争っていた帝国と王国が、今は手を組んで協力しあっている。

 平和への第一歩を無事に歩めたわけだが、皮肉にもそうした状況を生んだのは魔物によるものだった。

 今は、その魔物に苦戦している。



「『インフェルノ』! ガルド!」

「分かってる! おらぁー!」



 火球がサボテンのような魔物にヒットし、ガルドが追撃を加えて止めを刺す。

 二人の連携で効率よく魔物を討伐し続けたが。



「くっそ、キリがねぇ! いつになったら、終わるんだよ!」

「魔物の数が……減らない。それどころか、ますます多勢になっている。八十……いや、百は超えている」

「あの大樹を殺さねぇ限り、敵は増え続ける。俺らも加勢して、一気に大樹を伐り倒してぇ、ところだが……」

「僕らでは匹敵しないだろうね。種子の魔物で苦戦しているから」



 遠くで爆発が起き、地面の振動が伝わってくる。

 二人は、そちらに顔を向けた。



「おいおい、また新しい魔物が現れたぞ」

「帝国軍との戦いで疲弊している王国軍……正直、勝ち目なんてない」

「弱気になるのも分かるが……」



 その魔物は、二人が倒し続けた魔物とは一線を画する大きさを誇っていた。

 巨大な苔のような形をしており、大きな口を開け、毒液を出す触手を四本振り回している。

 口内に、ふつふつと沸騰する酸のような液体が見受けられた。

 奴――大虚仮苔(オオコケコケ)は酸を四方八方に撒き散らしながら、周囲の兵士に触手を振るっている。

 大虚仮苔に手を出す者は酸を被って脳を溶かされるか、触手に貫かれてゆっくりと死を迎えるかのどちらかに陥っていた。



「いいか、アリオス。俺たちは戦わなければならない! 兵士として、国を守る志を持つものとして、一歩も引くわけにはいかないのだ!」



 そう叫ぶガルドの武器を握る手はひどく震えていた。

 それに気づいたアリオスはなぜか安堵して、彼の隣で剣を構えた。



「手、震えているよ」

「ば、ばーか、恐怖で震えてるんだよ」

「そこは武者震いしているって言わないと、威厳がないよ」

「うるせぇ……とっとと斬り込んでやろうぜ」



 他の兵士は挑むことを諦め、離れた位置で様子を窺っている。

 大虚仮苔は次の挑戦者を探すように、でかい図体を回していた。

 そして、笑うように口を大きく開き、中の酸を噴水のように吹き出した。



「ダメだ、アリオス……俺、近づけねぇわ」

「さっきまでの威勢は!?」

「虚勢だったから、すぐ崩れたよ畜生! こうなったら魔法で攻めるしかない。隙を突いて、俺が斬り込む」

「了解! 『インフェルノ』!」



 残りわずかの魔力を振り絞り、炎魔法を解き放つ。

 アリオスの手のひらから撃った火が敵の口腔で爆発した。

 すかさず、ガルドは駆け始める。

 だが。



「まずい、ガルド!」



 直後、暴れる触手を食らって、ガルドは戻ってきた。

 胸を強打し、地面で悶えていた。

 『インフェルノ』が大虚仮苔の怒りを買い、地団駄を踏むように巨体を飛び跳ねさせていた。

 少しして、大虚仮苔はガルドに向かって突進を仕掛けた。

 あの巨体に踏まれたら、骨ごと潰される。

 アリオスは走って、『フレイム』を発動しようとするが、もう魔力は底を突いていた。



「ガルドー!」

「『イノセンスソード』」



 幾千もの斬撃が走った。

 それは大虚仮苔を(たちま)ち微塵切りにし、その場から脅威を消し去った。

 バラバラに刻まれた苔の欠片は地面で弾ける。

 アリオスはガルドに駆け寄り、意識を確かめた。



「大丈夫か?」

「ああ、まだ動けるさ。それよりも、アイツだ……」



 ガルドが目をやった先には、大虚仮苔を斬り刻んだ剣士がいた。

 頭に黒い角を持つ剣士は双剣を振って血を落とす。

 同時に長い黒髪がなびく。

 双剣使いは美しくも冷酷な目で足元の二人を見下ろした。



「無事か、グレアリングの兵士」

「…………」



 女の低い声が重く響く。

 二人は問いかけに対し、黙っていた。

 ガルドは自力で立ち上がり、一息ついて答えを返した。



「デザイア帝国の最高指揮官……アルフェッカ。あんたに助けられるとはな。驚きだぜ」



 喧嘩腰の口調で、アルフェッカに声を発した。

 それに彼女は、ピクリとも眉を動かさない。

 アリオスらにとって、ほんの数十分前まで彼女は敵だった。

 アルフェッカもまた、彼らを敵だと認識し、攻撃を加えていた。

 そう簡単に敵対心を抑えられるはずがない。

 アルフェッカが静かに踵を返した、そのとき。



「ありがとう、俺たちを助けてくれて」



 背後から聞こえてきた言葉に動揺が隠せず、再度振り返る。



「ガルドを助けてくださり、ありがとうございます」

「……君たちは私が憎いだろう。礼など言わなくても」

「いえ、言わせてください。あなたが竜人で、帝国軍を動かしていた張本人だとしても、ガルドを助けてくれたのは事実です。まだ……あなたを心の底から許すことはできませんが、それでもお礼は言わせてください。感謝します」

「俺を魔物から救ってくれた。感謝するぜ」

「……優しいな、君たちは。だが、これで満足することなく、これからも罪に向き合うつもりだ」



 二人の感謝を受け取ったアルフェッカは厳しい表情で言葉を述べた。

 複雑な感情を抱いたのだ。

 自身がいくら良い行いをしたとしても、感謝される筋合いはないのだと。

 犯した罪の意識は彼らの感謝を否定し、次の場所へ向かおうとした矢先、セルタス要塞で爆発が起こった。

 振り向くと、要塞の障壁が破られ、魔物の群れがなだれ込もうとしている。

 アリオスとガルドが駆け出そうとするより先に、アルフェッカが飛び出した。



「アルフェッカ……」



 満身創痍で走るアルフェッカを見て、二人は心を引かれた。

 敵として認識していた竜人であり、帝国軍の最高指揮官。

 そして今、二人を救った強き剣士。

 彼らの胸中で、畏れや憧れといった複雑な思いを抱いたのであった。

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