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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
242/256

207 魔神獣:毒空木―2

「ミリミリ! こいつを渡す! 魔力を補充してくれ」

「これは魔晶石? かなりの魔力量を秘めた魔石ね。どこで、これを?」



 空中を飛行しながら、『異次元空間』から取り出した魔晶石をミリミリに放り投げる。



「エンタープライズ近くの洞窟だ。それで、少しでも魔力を補うんだ」



 この世界では、最高峰の魔石だ。

 渡した魔石の持っている魔力は、国一つを破壊し尽くすほどだという。

 その魔力を吸収して、自分の魔力に変換するのだ。

 ただ、俺以上の魔力量を誇るミリミリにとって、この程度の魔石で補いきれるものではないだろう。

 エンタープライズの魔石は、あと三個ほど。

 主戦力はミリミリなので、もう二個渡した。



 魔石を手に持ち、秘めている魔力を吸い取る。

 緋色の魔石が一息で透明になって、最後は砕け散った。

 魔力が取り込まれた途端、体が軽くなり、熱を帯びたような感覚になった。

 ミリミリは三つ、一気に魔力を吸収している。

 直後、ミリミリの放つ熱気が強くなった。

 瞳は燃え上がる炎のように赤くなっている。



「ミリミリ! 短期決戦だ! とにかく全力で、スキルをぶつけてくれ!」

「記憶を封じられていたときよりも、今はもっと強くなってる。ミリミリの底力、なめないでよね」



 ここで、毒空木が先に攻撃を仕掛けてきた。

 二本の触手が、俺たちに迫ってきている。

 下からも、四本の触手が押し寄せていた。

 俺も底力を発揮して、果たして有効か確かめなければならない。

 『ものまね』で、エルドラ以上の魔力を持つミリミリに化ける。



「『ものまね』! 『風を司るアルティメット神の矜持・ストリボーグ』!」



 地上から巻き起こる嵐の龍が、四本の触手を丸ごと齧りついた。

 伸びた触手の半分以上をちぎり取られ、先端部分はミキサーされて木っ端微塵となる。

 嵐を纏う龍は、そのまま毒空木を目指して突き進み、幹の樹皮を削った。



「『フォルティス・ラーミナ』!」



 スキルを唱えて、ミリミリは右手を横薙ぎする。

 すると、前方から差し迫る二本の巨大な触手が動きを止め、縦にスライスされた。

 触手の断面は肉が詰まったソーセージのようで、テラテラと鈍く黒光りしている。

 とても植物とは思えないグロテスクな断面だ。

 続けて、ミリミリは手刀を十字に切り、追撃を加える。

 触手はスパスパと心地よく切断されていき、ついには毒空木まで攻撃が届いた。

 だが、本体は触手と比べて強堅だった。

 魔法の刃は溝を掘ったが、すぐに再生し、触手も幹から湧き出てくる。

 今度は出ている触手全てを束ね、槍状にして俺たちを突いてきた。



「ミリミリに化けたってことは、ミリミリのスキルが使えるってことなの?」

「ああ、そうだが……」



 ミリミリは人差し指を天に向けて、究極魔法を詠唱する。



「『聖を司る神の光耀アルティメット・クエーサ・ベレヌス』!」



 触手の矛が目前に押し迫ってきたところで、人差し指を勢いよく振り下ろした。

 毒空木のちょうど真上に白い魔法陣が広がり、魔法の方向が明確に定まる。

 矛が俺たちを貫き潰す寸前で、極大の光柱が放出された。

 以前、ミリミリとの戦いで放たれた究極魔法とは規模が違う。

 本体と断ち切られた触手は、ゆっくりと落ちていく。



「さすが、ミリミリ! これで奴は」

「――今のは、毒空木の魔法障壁を剥がしただけよ」

「魔法障壁?」

〈魔法によるダメージを激減させる障壁ですねー〉



 『風を司る神の矜持』は最後、本体の樹皮をちょっと剥いだぐらいで終わっていた。

 剥いだというよりも弾かれたようにも見えた。

 究極魔法なら、もう少しダメージを与えていいものだ。

 あのとき、魔法障壁によって魔法のダメージを弱めたのか。



「ミミゴンの究極魔法を食らった反応で、魔法障壁を張っていることに気づいたわ。ミリミリの魔力をありったけ込めた光属性究極魔法で障壁を打ち破り、二人で最強のスキルを放ち、毒空木を弱らせる。なんてことない、強いだけの単純な敵ね」



 エルドラが育てたミリミリは強気に敵を捉えていた。

 この娘は魔法障壁を打ち破る魔法を唱えたのか、とんでもねぇ。

 ひょっとしたら、エルドラよりも強いんじゃないか。

 彼女の外見に似合わぬ思考と言動が違和感となる。



(これぞ、我が鍛え上げたミリミリだ! 昔と変わってなくて、安心だ)



 脳内に、エルドラの笑い声が反響し続ける。

 やはり、エルドラたちは常識外れの存在だと改めて認識させられた。

 俺は、ミリミリに尋ねられた質問を再び持ち出す。



「さっき、俺がミリミリに化けて、ミリミリのスキルが使えるかと聞いてきたが」

「使えるのなら、これで毒空木を弱らせるよ。私の取得しているスキルの中で、最も強力な魔法。極限属性魔法『エクストリマジック』」



 極限属性魔法『エクストリマジック』?

 究極魔法の更に上位の存在だとでもいうのだろうか。



〈究極魔法を超える威力を持つという『エクストリマジック』ですねー。どの魔法にも込められる魔力量に上限が定められているのですがー、この『エクストリマジック』だけは無制限に魔力を込められるのですー。つまり、究極魔法で消費する魔力以上の魔力量を有している時、この『エクストリマジック』が最強となるわけですー〉



 『エクストリマジック』は、まさに必殺技というわけだ。

 ……これで、トリウムを殺しちゃったりしないよな。



「『エクストリマジック』を全力で放つつもりなのか?」

「二人で放って、ようやく毒空木は弱るはずよ。ミリミリの戦闘経験が、そう告げているわ」



 不安が胸中で渦巻き始めた。

 『エクストリマジック』を見ていないから、どの程度の威力になるのか分からないのが怖い。

 究極魔法以上の威力があるという点については信じられる。

 だが、やりすぎで毒空木を消滅させたら、トリウムを救えない。

 しかし、ここはミリミリを信じてやるべきか。

 毒空木の成長速度は異常で、欠乏し色を失っている陸地が目立ってきていた。

 奴の高さも、巨塔と言えるほど成長している。

 手をこまねていれば、誰も敵わぬ魔物になる恐れがある。

 早急に奴を弱らせ、トリウムを元の人間に戻す。



「ん、奴が攻撃を仕掛けてきたぞ」

「『マレフィキウム:アイギス』! ミミゴン、同時に『エクストリマジック』を放つよ! 集中して!」

「ああ!」



 ミリミリは、ハニカム構造の白い障壁を周囲に張り巡らせる。

 触手の撃ってきた弾が障壁に弾かれ、赤黒い爆発を起こした。

 当然、障壁は何ともなく、次ぐ触手の殴打も効いていない。



「やるぞ! 『エクストリマジック』!」



 まずは、魔力を右手に集中させる。

 自然と手が動き、体中の魔力がそこに集まりだしたのは助手の援助によるものだ。

 この間にも、障壁への猛撃は止まらない。

 ガキンガシンと衝突しては跳ね返される音が鳴り響く。

 よし、順調に魔力を集めることはできた。



〈ミミゴン、『エクストリマジック』使用後に襲われる倦怠感に耐えてくださいねー〉



 魔力の急激な消費が体調を崩す。

 ああ、頑張ってみせるよ。

 後は、ミリミリの『エクストリマジック』を待つだけ。







 と思っていたが、不意に気づいたことがある。

 障壁の弾き返す音が聞こえなくなっていた。

 嫌な予感を抱きながら、障壁を見ると白色が半透明になるほど薄くなっている。



〈『マレフィキウム:アイギス』の耐久度が減少しますー! まさか、毒空木の劇毒が作用しているのかもしれませーん!〉



 劇毒だと。

 毒空木の方を見下ろすと、幹の触手を束ねて槍に変形していた。

 矛先を一直線にこちらへ突きつけて、触手を集めて一団にしている。

 その槍は以前の槍と比較して、雄大豪壮としていたのだ。



「ミリミリ、障壁がやぶら――」







(……ゴン! ミミゴン! 今、我の気力を分けよう! 『勇壮活発』!)



 双眸がカッと開き切る。

 体中に電気を流されたような刺激で目が覚めたのだ。

 電撃が数秒続いて、ようやく手足を曲げて起き上がることができた。

 透き通るような皮膚で、ほっそりとした両手。

 視界の両側に映る銀髪。

 よかった、『ものまね』は解除されていない。

 直撃を免れたことで、そこまでダメージを食らったわけではなさそうだ。



(戦えるか、ミミゴン!)



 エルドラ、起こしてくれてありがとうな。

 『念話』を通じて、エルドラの気力を受け取ったようだ。

 照れくさそうに鼻息を吹いたあと、エルドラは真剣な態度に戻った。



(ミミゴン、ミリミリが心配だ! すぐに助けに行ってくれ!)



 ああ、助けに行く。

 『魔力感知』を発動させた途端、酷い頭痛が襲ってきた。

 近くに強大な魔力を持つ者がいる証拠である。

 『魔力感知』を切って、反応のあった場所に走る。



「ミリミリ!」



 風にはためく黒のローブを着たミリミリが、毒空木を睨んでいた。

 名前を呼びかけられて、こちらに顔を向ける。



「私は大丈夫。『エクストリマジック』を放つ前に食らったから、魔力もまだ残ってる」



 顔やローブからはみ出る脚に擦り傷が目立つ。

 大丈夫とは言うものの、余裕があるようには見えない。

 それは俺にも言えることだろう。

 満身創痍でも胸張って大丈夫って言わなきゃ、やってられないのだ。

 他人どころか、自分にも嘘ついて無理しなければ立っていられなくなる気がする。



「毒空木の攻撃が厄介で、ミリミリの『エクストリマジック』が発動可能になるまで間に合わないな」

「アイツは『マレフィキウム:アイギス』を溶かす毒を生成して、触手の先に塗ったのだわ。スキルを打ち消す毒……それが毒空木の厄介なところよ」

「次『マレフィキウム:アイギス』を発動しても、さっきよりも短い時間で破られてしまうってことか。となると、奴の気を引く何かを用意した方がいいわけか」



 毒空木の注意を引ける何かがないかと戦場を見渡した。

 ここで事態が深刻化を感じ取る。

 王国軍も帝国軍も、毒空木の放った魔物に苦戦を強いられていた。

 それもそのはず、数が多い。

 強さはそれほどではないにしろ、彼らは取り囲まれる形で応戦している。

 不利な戦況が犠牲者を増やしていた。

 両軍は協力し、状況を打開しようと懸命に戦っている。

 それでも自分のことで手一杯といった様子だ。



「助けてやりたいが……くそっ!」



 唇を噛み、無念を堪える。

 俺たちが優先すべきは大本の毒空木を対処することだ。

 そうこうしている内に、また毒空木は空に向かって大量の実をばら撒いた。

 地上に埋まった実は開花して、植物型魔物として活動を始める。

 戦況は悪化していく一方だった。



 こうなったら、あいつらに増援を。



「ミミゴン! あそこを見て! 誰か来てる!」

「うん?」



 ミリミリの指差す先は、セルタス要塞の向こう。

 グレアリング王国側から一体、誰が。

 小さな人影がセルタス要塞を飛び越えて、地獄絵図の地上に向かって右手の刀を一閃した。

 たちまち、魔物はまとめて斬り払われ、一掃された。

 あのスーツ姿に、黒の長剣を軽そうに持つ男。

 俺の知っているアイツに相違ない。



「ラヴファースト! なぜ、あいつがここに……」



 ラヴファーストに駆け寄ろうとした瞬間、セルタス要塞の方から地鳴りが聞こえる。

 地鳴りの正体は多数の人が走る足音や人を載せた車両だった。

 それらが塊となって、戦場へなだれ込んできた。



「エンタープライズまで!?」



 進軍し続けるエンタープライズ軍の中から一足飛びで、魔物の群れに突っ込んだやつがいた。

 そいつは自慢の大斧を振り回して、植物の魔物を断ち切る。

 その勢いを止めず、次から次へと魔物を切断していった。



「トウハ! お前も来たのか!」

「よう、ミミゴン様!」



 俺に気づいて、攻撃の手を緩めた途端、一斉に魔物が襲いかかった。



「おい!?」

「……『十二天一流:夜叉』! 吹き飛びやがれ!」



 一瞬、時が止まったかと思うほどの重い一撃で周囲を吹き飛ばした。

 吹き飛ばされた魔物は体を真っ二つにされ、グチャッと空中で爆ぜた。

 振り回した斧を肩に置き、ニヤッと歯を見せて笑う。



「エンタープライズ王国軍が来たからには、もう勝つしかないぜ! 俺らに任せろ!」

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