22 グレアリング王国:約束
リーダーが、それぞれの職場の人数を書いた紙を持って、王の部屋に集まる。
俺は一枚一枚に目を通していく。
アイソトープの班は予想していた通り、女性で構成されていた。
鬼人の半数以上が女性だったため、アイソトープの班が一番数が多い。
ラヴファーストの班は名簿を見るかぎり、屈強な戦士が集まっていた。
元々、狩猟に出ていた男が多い。
クラヴィス、トウハも入っている。
危険な仕事なので働く人数は少ないかと思いきや、ほとんどの男が志願している。
鬼と言われるだけはある、と思っていいのか。
これからの予定は、世界で通用する力を身に着けさせるそうだ。
オルフォードの班だが、僅か二人だけだった。
怒り心頭に発するオルフォードだったが、二人も入ってきてくれたんだ。
ちゃんと世話、見てやってくれ。
「ふん、見たら軟弱者じゃから鍛えてやるわ」と乗り気になってくれたが、一抹の不安は拭えない。
だが、二人の内にグレーがいる。
老人同士、話が合うこともあるはずだ。
更に、ニーナからは子供たちの教育をしたいという意見があった。
教育は必要だ、とすぐオッケーし、アイソトープに部屋を用意してもらった。
ゆくゆくは、しっかりした教育機関を準備し、子供の問題にも立ち向かわなければならない。
教育に関して学問を教えるのはもちろんだが、それより重要なことがあるのではと考える。
生きる術だ。
魔物との戦闘術を教えることは必要だと思うし、ここは様々な種族が一堂に会する。
種族に根付く思想、考えは異なるということも教え、差別を解消させねばなるまい。
社会教育も施すことが、種族をまとめることに繋がるはずだ。
その前に異世界の教育がどうなってるのか、確かめてからだな。
トウハやクラヴィスからも質問があった。
「ツトム様の仕事は何でしょうか」
「彼にはエンタープライズ発展のカギを、危険なダンジョンで探索してもらっている」
「ツトム様一人で危険な場所に足を踏み入れているのですか」
クラヴィスが、ツトムを不安に思っているから出る言葉だろう。
同じここに住む仲間としての絆が、すでに芽生えているのか。
トウハが前に出る。
「あいつ一人じゃ不安だ。俺も行かせてくれ」
「弟の主張に賛成です。僕もお願いします」
「お前たちでは、あいつの足を引っ張るだけだぞ。ツトムに聞いたんだが、あそこの魔物平均レベル50は余裕で超えているそうだ。クラヴィスは立ち向かえるかもしれないが。トウハ、お前レベルは?」
「……28だ」
余談だが解決屋の連中は、ずっと魔物を倒しているからレベルも高いんだと思っていた。
彼らのBランク平均レベルは30、最高ランクのAでも50をちょっと超すぐらいらしい。
レベルは100以上いくらしいが、50ちょっとで生涯を終える者が多いそうだ。
50から上は、天才の世界と呼ばれている。
理由だが、50から人によって次のレベルへの必要経験値量が変わる。
つまり、個人差がある訳だから運が悪いと全然上がらないし、運が良いと上がりやすい。
生まれついての力ということか。
ツトムはレベル68、エルドラは軽く100は超えているそうだ。
100が限界じゃないの?
ラヴファーストやアイソトープ、オルフォードについても同様だ。
住む世界が違うとは、このことか。
で、トウハは28。
クラヴィスが36だから。
「お前たちは無理だな」
「もしものことが、あってからでは遅いんですよ!」
「そうだ、王様! ツトムは、大事な国民じゃないのか!」
「分かったから、落ち着け。いいか、今のお前たちでは無理だ。だが、ラヴファーストのところで修行し、強くなって認められたら許可する。それで、どうだ?」
二人とも渋々だが、理解してくれた。
実力を伴ってない者は、立ち入り禁止だと示してこの件は終わった。
それに、ツトムには罰の意味を込めて、ダンジョンに行かせているのだ。
わざわざ死にに行かせる真似はできない。
さて、一つの問題が片付いたところで、新たな問題の解決に向けて動かなければならない。
様々な問題が浮き彫りになったが、大問題は土地等の件だ。
グレアリングに国家の承認をもらいたい。
よし、出かけるか。
王とて、玉座に座ったままでは民は快く思わないだろう。
それぞれのリーダー達に後は任せて、グレアリングへ発った。
さて、解決屋を訪れるか。
「邪魔する、ハウトレット! ミミゴンだ! 用があって伺いにきた!」
「それは、扉の前でいう事じゃないの? いきなり許可無く訪れるの、心臓に悪いし、次から面会の予約を取ってから来てよね」
「驚かせてすまない。次から、そうしよう」
「で、何の用?」
簡潔に「グレアリング王から国の土地を貰いに来た」と要件を伝える。
ハウトレットなら、王とのコネクションがあると思い、問い合わせに来たんだが。
「王と約束を取り付けてほしいと? アタシに何の得があるの?」
「得を求めてくるか。こういう時は利益とか忘れて、恩人に尽くすべきなんじゃないか?」
「アタシを求めてきたと言うことは、王はただの客人を相手にしないと知って頼りにきたんでしょ?」
大国の王は忙しい。
ましてや、戦争の最中である。
故に突然、尋ねに来た者へは対応しないと聞いた。
だが、ハウトレットという超が付く貴族の家に加え、国のために解決屋として役に立っている。
無碍にできるはずがない。
すぐにでも、応対してくれるはずだ。
「ほら、吸血鬼の件を思い出せ。誰が解決してやった? 報酬金があるんだったよな。まだ貰ってないんだが」
「報酬金だけど、アンタじゃなくて、アリオスっていう英雄が受け取ることになってるから」
「おいおい……あの時、アイソトープに投げさせた二人のどちらかだな。俺がやったんだぞ」
「残念だったね、ミミゴン」
「だけどだ。だけど、お前は真相を知っている。誰が、吸血鬼を、終わらせたのか。感謝すべきだろ、この国の国民として。安全を確保したのは、誰のおかげか。よく考えろ」
「アタシ、一銭も得してないんですけど。アンタが得してんのに、まだアタシにやれと?」
あまり使いたくない手段だが。
しょうがない。
「今から情報屋として接してほしいんだが」
「何? 情報で動くと思ってんの? アタシが?」
「ルトゥム街のレジスタンスについてだが」
「――詳しく聞かせて頂戴」
ハウトレットは机から紙とペンを取り出し、姿勢を正した。
オルフォードから、最終兵器を預かったが使うことになるとはな。
これは本当の本当に緊急事態の時に使いたかったんだが、仕方がない。
まあ、オルフォードなら新鮮なネタを掴んでるだろうし、大丈夫だろう。
俺は教えられた通りのことをそのまま喋って、協力してもらえるようになった。
ハウトレットは吉報に心を躍らせ、筆をスイスイ走らせている。
そんなに凄い情報なのか、と話す自分が気になってくる。
悪い組織のボスの居場所が、どうたらこうたらの話だったが。
書き終わった紙を隣に移し、別の紙を目の前に持ってくる。
嬉しそうに小さな体で飛び跳ね、用件が書かれた手紙を分厚い封筒に入れて、職員に持って行かせた。
「返事届くの、三日後ぐらいかも。楽しみに待っててね」
「三日か。それまで何しようか」
「じゃあさ、一仕事。受けてくれない?」
夜空に光る星の如く綺麗な瞳で覗き込んできた。
そんな目をされたら断れないな。
やってやるよ、と軽快に返事する。




