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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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204 法則解放党―2

 世界のことなんて、どうでもいい。

 早く元の世界に戻らせてくれ、なんて思っていたが今は違う。

 乃異喪子と直接出会って、考えが完全に変わった。

 同じ転生者とは思えないほどの冷酷非道さ。

 一目見ただけで、寒気がした。



「お前が、乃異喪子か。ラオメイディアから話は聞いている。悪い話だがな」

「何も知らない転生者が口を開くな、ミミゴン……」

「生きやすい世界にするのが法則解放党だって? 転生者だからって、世界を丸ごと変えようなんてのは許されることじゃない。人を大量に殺して、生きやすい世界を作りますって、そんなふざけた話があるか」



 イヒヒ、と気味の悪い笑い声を漏らして、俺を睨みつける。



「大量に人を殺したのは事実よ。でも、それは実験のため、世のため人のため自分のため。私たちの世界には、動物実験っていうのがあるじゃない? 医薬品、健康食品、日用品に化粧品が動物の尊い犠牲によって製造されているのよ。全ては安全のために、効果を確認するために。動物実験の成果によってできたものは人様の役に立ち、動物様にも貢献するの。この世界において、動物というのは魔物に相当するわ。だけど魔物と人は生命原理が異なるから、魔物の実験で得た知識は人には役立てないのよ。だから、仕方なく人を実験体にしているってわけ」

「この世界で、人体実験が必要な事柄なんてないだろ」

「そうかしら? 元の世界と、この世界はシステムが大きく異なっているのよ。この世界なら、死んだ人を蘇らせることも可能なのよ」

「本気で言ってんのか」



 もちろんよ、と肯定するようにふっと笑う。

 確かに、蘇生に近い現象を聞いたことがある。

 七生報国を復活させた究極スキル『リザレクション』だ。



「あなた、元の世界に縛られすぎ。スキルやステータス、レベルなんて馬鹿げたシステムが存在する世界なのよ。システムを詳しく解析するためにも、人体実験は必要なの。あ、そうそう……」



 そう言って、アルフェッカを見つめる。



「あなたのお母さん、ステラはヒドゥリーが持ち込んだ毒で死んだって知っているかしら?」

「なっ!?」

「お母様を!?」

「そなたが……」



 アルファルドは『重力糸』で拘束されているヒドゥリーを、怒りのこもった眼差しで捉えた。

 アルティアとアルフェッカも同様に、ヒドゥリーに振り向く。



「そういえば、言ってなかったか。法則解放党から渡された毒を、紅茶に混ぜて飲ませた。半年経ってから、ようやく効果が出始めたから焦ったよ」

「そなたを雇ったのが過ちだったか」

「毒は、人の体を魔物に変えるというもの。ステラ様は実験体にされたってことだ。結果は知っての通り、失敗。魔物になれず、皆に見送られながら死にましたとさ」



 乃異喪子は両手を打ちつけ、パチンと音を鳴らす。

 再度、彼女に視線が集まった。



「お話はお終い。ヒドゥリーを返してもらうわ」

「『陰影』! 『アルテミスアロー:アクリーション』!」



 ヴェニューサの『陰影』が乃異喪子を捕らえ、体の自由を奪ったようだった。

 そこに接近して、近距離から矢を放つ。

 弓から離れた矢は一気に大きくなり、竹筒ほどの矢じりが乃異喪子に突き刺さった。

 見事なまでの直撃。

 赤い鮮血が背中から吹き出すのかと思ったら、出てきたのは黒い靄のようなものだった。

 靄と一緒に矢先が現れた。

 嫌悪にも似た違和感を覚える。

 ヴェニューサが顔を歪ませた途端、乃異喪子に首根っこを握られた。



「『ペシニズム』」



 全身を突き刺す痛みが、ヴェニューサを襲った。

 激痛によって手足がピンと伸び、弓を手放してしまう。

 横薙ぎするように、ヴェニューサを投げ捨てた。

 六星スキルをもってしても、最強の存在である転生者に通じない。



「『龍化』! 『緑生・大木連撃剣』!」



 スイセイは『龍化』し、水晶の大剣を横に構えて走る。



「『アレキシサイミア』」



 乃異喪子がスキルを詠唱した直後、スイセイの両角が短くなっていく。

 同時に、スキルを伴った大剣は色を失い、元の色に戻った。

 『アレキシサイミア』が『龍化』と『緑生・大木連撃剣』の効果を失わせたのだ。

 追い打ちをかけるように、更にスキルを唱えた。



「『ベルトシュメルツ』」



 右手から生み出した紫の短剣を、動揺するスイセイの腹にねじ込んだ。



「ぐはっ!」

「『トラウマ・ディスガスト』」



 短剣でスイセイの肉をグジグジとほじくるように動かし、スキルを発動させた。

 それでスイセイは動かなくなり、前のめりに倒れる。

 腹から抜いた短剣は血と紫が混ざって、気色悪い黒になっていた。

 六星騎士長が全滅したことで、彼女の力を思い知らされる。

 モルスケルタは大地を一歩踏みしめるごとに、強大さを見せつけられた。

 それと同じで乃異喪子も、こちらに近づくたびに勝てないのではないかといった感情を湧き出させる。

 俺も、少しビビっていた。

 勝機が見えてこないことに、俺は恐怖している。

 それでも立ち向かわなければならない。



「はぁー! 『健弱』!」

「お姉様!」



 捨て身で突撃したアルフェッカは『健弱』を唱え、乃異喪子を弱らせる。

 双剣を振り回し、切先を乃異喪子に突きつける。

 対する乃異喪子は無表情で左手を出した。



「『メモリーギルト』」



 右手で指パッチンした途端、アルフェッカは走りを止めてしまった。

 体が自由に動けなくなったようだ。

 後ろにもっていった右手を開き、スキルを呟く。



「『ドレッドサイス』」



 先程の短剣のように、今度は紫の棒が現れる。

 すぐに棒は展開し、大鎌へと化けた。

 隙だらけのアルフェッカを刺すため、大鎌を振り上げようとした。



「うん?」

「アルティア様!」



 メリディスが太刀で大鎌を上から押さえつけたのだ。

 背後からアルティアが飛び上がり、右手に魔力を溜める。



「『サンダーボルト』!」

「『ヴィジランス』」



 自身に向かってくる雷撃を左手で軽く振り払った。

 『サンダーボルト』は明後日の方向へと飛んでいく。

 乃異喪子は左手にエネルギーを集中させ、地面に向かって思い切り叩きつけた。



「『オルギー・プレゲトーン』!」



 左手が地面と接触した瞬間、暗黒の炎が爆発するように広がり、辺り一帯を火の海にした。

 地面は抉れ、黒く染まっていく。

 乃異喪子の必殺技が炸裂したのだ。







 乃異喪子は邪魔者全てを吹き飛ばしたことに安堵し、顔を上げた。

 ところが、何かもの足りない気がしたのだろう。

 人を焦がした快感が得られなかったことに疑問を覚えた。

 黒煙は霧散し、そこでようやく何が起こったのか理解したようだった。



「ふぅ、間に合ってよかったぜ」

「ミミゴン様!」



 『オルギー・プレゲトーン』が発動する前に、俺とミリミリがアルフェッカとアルティア、メリディスを回収したのだ。

 大爆発で発生した熱風が吹き抜けていく。

 ミリミリは抱えていたアルフェッカを下ろし、杖を取り出した。



「ミリミリ、世話をかけたな」

「アルフェッカは後ろで待ってて。私が片付ける。思い出したの……あなたのこと」



 内側から湧き上がる魔力によって、銀髪は逆立ち、ツインテールが上になびいている。

 杖の先を乃異喪子に向けた。



「一度、私が目覚めたとき、誰かに再び封印されたのよ。しかも、記憶消去も施されて」

「あら、思い出したのね。偶然、あなたのこと発見しちゃったから、利用してやろうと思ったのよ。気を悪くしたのなら、ごめんなさいね」



 謝る気など更更ない声音だ。

 ミリミリは気にすることなく、静かに杖を構えた。

 乃異喪子への怒りが闘志と魔力をみなぎらせている。



「エルドラ様……私を見守っていてください」

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