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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
236/256

201 終戦―2

 リフトが出発すると発令所から離れていく。

 下に到着した直後、真っ先にメリディスが駆けていった。

 どうやら、アルフェッカとの戦闘の最中、あの妖刀を弾き飛ばされたらしい。

 師匠から託された太刀だ。

 なくすわけにはいかないだろう。

 アルフェッカは、バツが悪そうに少し頭を下げていた。



 通路の向こうから、三人が歩いてくる。

 水色の甲冑と灰色の甲冑。

 もう一人は青いジャケットを着た、やけにラフな格好の竜人だ。

 そいつの正体は、ペンティスだった。

 大きく手を振って、俺の名前を叫ぶ。



「ミミゴン!」

「ペンティスか」



 ペンティスは俺の前に立ち、やれやれとばかりに顔をくたびれさせる。



「あの二人が戦っている横で待ってなんかいられるかよ。トラオムがいつ、傷つけられるか不安で不安で堪らなかったんだぜ、おい」



 あの二人というのは、スイセイとジオーブだ。

 相当な激闘が繰り広げられたのだろう。

 二人の甲冑が、それを物語っている。



「わ、わるいな。あそこで待たせたのは、まずかったな」

「それで首尾は? って聞かなくても、さっき聞こえてきたぜ。アルフェッカ様の宣言がな」



「アルフェッカ様、終戦……ですか?」

「そうだ、ジオーブ。卿の頑張りに応えられず、不満に思うだろう」



 ジオーブの声色には疑問というよりも、怒気のようなものを感じられた。

 アルフェッカは、ジオーブの感情を受け止め、話を進める。



「私が決断したことだ。どうか、この結果を受け入れてもらいたい」

「受け入れる……ねぇ。ま、閣下の選択にケチつけるような真似はしませんよ」



 そう言って、ジオーブはさっさと出口へと向かったようだった。

 あの男、他の六星騎士長とは違って、妙な雰囲気を醸し出している。

 兜の下で、常に企みながら生きている。

 そんなふうな生き方を感じた。



 スイセイは、アルフェッカの決断を称える。



「閣下、素晴らしい宣言でした。皇帝陛下もさぞ、お喜びになられるでしょう」

「そうだろうか。自分で勝手に蒔いた種を周りに指摘され、自分で刈り取ったようなものだ。その種というのも、とんでもない有害植物ときた。お父様が喜ぶことなどないはずだ」

「どれほど、閣下のことを心配されていたことか。お会いになれば、分かるはずです」

「そうか……それと、スイセイ。色々と迷惑をかけた。償いきれないほどに」



 スイセイは手を振り、否定する。



「いえ、私は迷惑などとは思っておりません。これまでのことは水に流し、これからの未来を考えましょう」

「卿が、それで良いと申すのであれば、そうさせてもらう」



 スイセイが頷き、アルフェッカは一礼した。

 彼女は、実直でやるといったらやるという性格である。

 現に、皇帝の威光を押しのけ、軍を動かし、グレアリング王国をあと一歩のところまで追い詰めた。

 さすがは皇帝陛下の血を引いているだけある。

 だからこそ、今のアルフェッカなら戦後も罪滅ぼしのため、尽力してくれるだろう。

 周りには、スイセイやヴェニューサ、アルファルドにアルティアが付いている。

 彼女に関しては、もう心配不要だろう。







 モルスケルタの腹の部分から、外へ出入り口が続いている。

 今は昼ごろだろうか。

 太陽は輝きを放ち、地面と草地を照らしている。

 正面を見ると、なだらかな丘が続き、丘の上はセルタス要塞が支配していた。

 そして、広がるは両軍の兵士。

 人間と竜人の兵士が一同、俺たちを凝視している。

 未だに疑いを持っているのだろう。

 終戦が本当に訪れるのかと。



 スロープを降りた先に、ヴェニューサとジオーブ。

 飛行戦艦アークライトは要塞近くで着陸している。

 それから、リーブ王と側近のアルテックが仁王立ちしていた。

 加えて……デザイア帝国現皇帝。



「お父様……」



 アルフェッカがやるせない表情のまま、引っ張られるように歩いていく。

 迎えるアルファルドも、どういった表情をしていいのか困惑していた。

 視線の先を娘に合わせようとしているが、目を伏せてしまう。

 それでも、前を向こうと決心し、瞳を真正面に向けた。

 腕を広げ、アルフェッカを待ちわびる。

 その大きな胸に、アルフェッカは恐れながらもゆっくりと抱きついた。

 ぎこちない動作で、アルファルドはアルフェッカの背中に腕を回した。

 やがて、アルフェッカは皇帝の心情を察し、顔を胸に預ける。



「お父様、私……」

「語らずともよい。もう十分、言動を省みただろう。我は……出来損ないの親だ。苦しかっただろう、ずっと。そなたを、ちゃんと見てやれなかった。戦争で我を忘れ、家族を大切にしてやれなかった。愛を与えることもせず、自分の保身に走ってしまった。だというのに、そなたは我を敬愛してくれていた。ずっと見ていてくれたんだな、アルフェッカ」

「今更、ですか……」

「遅すぎたな。だけど、言わせてくれ。アルフェッカ、愛している。立派な娘になったな」

「……はい」



 アルファルドは相変わらず、ぎこちない手つきでアルフェッカを撫でる。

 やがて、アルフェッカは離れ、次はリーブ王のもとへと寄っていく。

 父親に甘える顔ではなく、為政者としての顔つきになっていた。



「グレアリング・リーブ。我の申し出に応じ……」

「堅苦しい挨拶は省こう。まずは、握手だ」



 リーブ王は有無を言わせぬ勢いで、右手を差し出した。

 それを見たアルフェッカは気兼ねして、小さく笑ってその手を強く握った。

 両者は頷き、思いを共有する。

 すなわち、停戦の合意。



「ありがとう、ドラコーニブス・アルフェッカ」

「これで、皆は納得してくれるだろうか」

「私が、宣言しよう」



 握手は解け、リーブは要塞の方に体を向けて声を張り上げた。



「聞け!」



 大砲の如き発声は要塞を貫き、山々に当たって木霊する。

 この王様、あんな響く声を出せたのか。

 正直、見くびっていた。



「我々はたった今、ドラコーニブス・アルフェッカと停戦を合意し、デザイアリング戦争の完全停止をここに宣言する! デザイアリング戦争は終わった! 我々は――自由だ!」



 しばらくして、兵士たちは状況を飲み込めたのか、グレアリングとデザイアは歓声を上げた。

 全身全霊で、腹の底から叫ぶ。

 喉がはちきれそうな雄叫びが、あちこちから聞こえてきた。

 心の声を精一杯、発して表現しているのだ。

 狂喜乱舞する兵士もいれば、疲れ切ってその場に大の字で倒れた兵士もいる。

 とにかく、目の前の光景はすごかった。

 争いが渦巻いていた地で、悪しき暗い戦いが幕を閉じようとしていた。

 そうだ、終わったんだ。

 これで、世界は一つに……。







「『ハードショット』」







 誰かが銃スキルを唱える声。

 ドンと内臓を揺らす銃声。

 倒れゆく人影。

 全員の視線が音の発生源に移動する。



「お……」



 振り向いたアルフェッカが驚愕し、声を出そうとする。

 脳内で状況を受け入れたとき、撃たれた人物を叫んだ。



「――お父様!」

「皇帝陛下!」



 側に付いていたスイセイが駆け寄り、アルファルドの頭を持ち上げる。

 アルファルドは胸を撃たれていた。

 撃たれた箇所から鮮血が吹き出し、上着が赤く染まっていく。

 歯を食いしばって呻き、胸を両手で押さえ、手当する。

 アルフェッカは剣を抜き、切っ先を狙撃者に突きつけた。

 怒気を帯びた声で、問い詰める。



「なぜ、なぜ……お父様を撃った! 答えろ……ジオーブ!」



 拳銃を持ち上げ、銃口から煙が立ち上っている。

 撃ったのは、六星騎士長ジオーブだ。

 どう言い逃れしようと、犯人なのは確かだ。

 アルティアも白銀の剣を握り、戦闘態勢に入る。

 他の者も、ジオーブを警戒した。

 兵士は何が起こったのか成り行きを飲み込めず、呆然と佇んでいる。



「ジオーブ! 答えろ! お父様を撃った訳を、答えろ!」

「……そう、かっかすんなよ。()()……なんつってな。おっと、洒落も通じないほどに激怒されている」

「なぜ、答えない!」

「こっちもなぁ……激怒してんだ! 黙って、死んでいけよ……ドラコーニブス!」

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