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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
233/256

198 ドラコーニブス・アルフェッカ―5

 ある日、帝都に被害を及ぼす魔物を討伐するため、アルフェッカは森へと向かった。

 三人の兵士を伴って、苔むした森を縫うように移動する。

 森の名は、ラスブリカーゼ大森林。

 帝都デザイアから少し距離があり、大森林の名の通り広大である。

 方向音痴が入れば、戻ることは叶わない。

 地面から噴出する魔力が高濃度のエリアもあり、そこには高レベルの魔物が生息していることが多い。

 今回の討伐目標は、魔力高濃度エリアの魔物である。



「ミリミリ、いるか?」



 大森林を闊歩しながら、ミリミリを呼び起こす。

 別次元で寝ていたミリミリが、アルフェッカの声に反応した。

 アルフェッカの頭上に瞬間移動し、目尻を指で掻く。



「どうしたの?」

「そろそろ、目的の魔物が現れるはずだ。戦闘態勢に移行してくれ」



 早速、ミリミリは右手を伸ばし、杖を異空間から取り出す。

 手で器用に杖を回すと、先端を前に突き出して構えた。

 杖を構えたミリミリに隙はない。

 どこから襲われても、確実に対処できる。



「ふっ、頼もしいな」

「でしょ」



 互いに見つめ合い、相手を信頼する。

 アルフェッカはこれまで、ミリミリの戦闘を見たことがない。

 どれほどの力を備えているのかと、期待していた。



 突如、辺りの雰囲気が暗くなった。

 大気がしんと冷たくなり、息を吸うと喉が凍りつく。

 地面から漏れ出る魔力が濃くなったため、青色の霧が発生し始めた。

 魔霧と呼ばれ、濃密な魔力が具現化したものだ。

 一般人ならば、魔霧を見れば即引き返す。

 近くの環境は、それまでの森の景色とは一変している。

 木々は太く、葉の色は濃く。

 土は固く、空気は冷気となり、重くなる。

 しばらく進んでいると、開けた場所に出る。



「いたぞ、ミリミリ」



 アルフェッカが指差した先にあったのは、巨大なピンクの花。

 木々が密集する場所に大きく開花している。

 花弁の下から、幾本もの触手状の蔓をニョロニョロと伸ばす。

 アルフェッカ一行を捕食対象として捉えたのだ。

 大地が揺れたかと思うと、付近の木々が生長し、円形の闘技場を構築し始める。

 植物型の魔物が植物を操作し、アルフェッカたちを逃さないようにしたのだ。

 植物の魔物は、ワイルドラフレシアの名で知られている。

 花の奥から甘い匂いを垂れ流し始めた。



「あれを倒せばいいのね」

「そうだ。全力で葬ってくれて構わん」

「りょうか~い」



 場の雰囲気に似つかわしくない和やかな声で返事をした。

 ワイルドラフレシアの触手が一斉に、ミリミリへ向けて発射される。

 あの少女が強敵だと本能で感じ取ったのだろう。

 その本能は間違いなかったが、実力を計り知ることはできなかった。



「『炎を司る神の憤怒アルティメット・プロメテウス』」



 強烈な熱・光・音と共に、大爆発が起きた。

 1秒後には正面が爆心地となり、広漠とした窪みが完成している。

 ワイルドラフレシア諸共、森の一部が蒸発したのだ。

 これには、アルフェッカも生き肝を抜かれた。

 驚天動地の光景である。



「神、まさに神の妙技だ。……ミリミリ、今のはいったい」

「火の究極魔法よ。『炎を司る神の憤怒アルティメット・プロメテウス』って言うのよ」

「究極魔法……だと。文献にしか存在しないスキルかと思っていたが、まさかこの目で見られるとは」



 驚きは遂に笑いに達した。

 アルフェッカの口はひん曲がり、目は見開く。



「ふふ、ははは、はははははっ! 素晴らしい! 確かに今、神を目撃している!」

「そう? 私にとっては造作もないことなのよ。まあ、褒められて、悪い気はしないわ」

「兵よ……今の魔法、目に焼き付いているだろう?」



 三人の兵士に振り向き、問いかけた。

 呆然となっていた兵士たちが恐る恐る首を振る。



「これは幻覚ではない。夢でも理想でもない。確かな現実だ。ミリミリ、他にも究極魔法を持っているのか?」

「ええ、全ての魔法を扱えるわ。あなたが望むなら、何もかもを破壊する究極魔法も可能よ」

「ミリミリ、君がいれば私も君も幸せになれる。これからも共に付いてきてくれないか」



 アルフェッカは右手を差し出すと、ミリミリは迷わず握った。



「もちろんよ。毎日が楽しいもの。それに……あなたに付いていけば、本当のミリミリを見つけられるはず。そんな予感がするわ」

「記憶を取り戻すため、協力を惜しまないつもりだ。ドラコーニブス家の竜人は、強き願いを実現させる。嘘偽りを口にしない。さぁ、我々の第一歩を世に示そうではないか」







 実父アルファルドに褒められたい、認められたい。

 その執着心がひたすらに、アルフェッカを前進させた。

 皇帝宮に呼び出されたアルフェッカは久々に、アルファルドと対面する。

 だが、そこにいたアルファルドを皇帝として見ることはできても、父として見ることはできなかった。

 そこに父の面影がなかったからだ。

 ステラの死をきっかけに、アルファルドもアルフェッカも変わってしまう。

 彼らの間にあった家族の絆は、とうに崩れ去っていた。

 代替として、承認欲求でできた執着が互いを結びつける糸となった。

 アルフェッカの本心は、自分ですら取り戻せないほど深く沈んでいったのである。







「諸君らの健闘を称えよう。強くなったな、アルティア」



 アルフェッカはアルティア、メリディスの猛攻を食らい、直立が難しくなっていた。

 ダメージは蓄積し、左膝が下がっている。

 『龍化』で一息に攻めたアルティア、メリディスだったがゼーゼーと息が切れていた。

 限界寸前の二人は目をこじ開け、歯を食いしばる。

 一度でも目を瞑ってしまえば、意識が途切れる予感がした。



「この私が、ここまで追い込まれるとはな。才能に溺れることなく、勇往邁進してきた。才能は所詮、最初からある程度できるというものでしかない。ある程度という壁に達すれば、その先は努力あるのみ。私は、ひたすらに努力した。だからこそ、アルティアの努力も目に見えて分かる。自慢の……妹だ」

「お姉様……」

「だが、私はここで倒れるわけにはいかない。ドラコーニブス家のため、帝国のために責務を全うせねばならない」



 膝を真っ直ぐに立て、双剣を構え直す。



「お姉様の責務は、戦争に勝利することじゃないはずです。そもそも、お姉様が責務を負う必要はないのです! 武器を……下ろしてください」

「……覚悟して挑んだはずだ、アルティア。降伏を勧めず、最後まで戦い抜くべきではないか。そちらから攻めてこないのならば、私から攻めよう」



 双剣を交差させ、少し屈む。

 かかとを上げ、一気に踏み込み、アルティアへと突進する。

 『龍化』していないというのに、凄まじい圧力を放っていた。

 アルティアは白銀の剣を構え、振り下ろされる刃を見極める。

 振り上げた剣と振り下ろされる剣が打ち付け合い、火花が散る。

 続く攻撃をアルティアは防ぎ止め、回避した。

 それで猛攻が止まるはずがない。

 アルフェッカの攻撃は苛烈さを増し、勢いも段違いになる。

 集中力が切れかかる刹那を、アルフェッカは捉え、一撃を撃ち込んだ。



「――『バリアウォール』!」



 硬い金属音が響き渡り、障壁の上で剣が止まった。



「『鎧袖一触』!」

「ふっ!」



 意識の外側から太刀が飛んでくる。

 濃厚な殺気の放射を浴びたことで、アルフェッカは反射的にのけ反ったのだが、これが正しい動作だった。

 メリディスの顔は、獲物を狩る獣のように獰猛な表情を浮かべていた。

 沸いて出てくる怒りの感情。

 アルフェッカの両足が地についたことを視認して、すぐにメリディスは動き出す。



「『疾風迅雷』『雷光一閃剣』」

「『エグゼクションソード』」



 妖刀と双剣が激闘する。

 メリディスの一太刀に込めた威力を超える勢いで、アルフェッカは対抗した。

 片方の剣で妖刀を受け止めたまま、メリディスに接近する。

 間合いに入ると、左の剣を振りかぶった。

 直前に後ろへ跳ねたことで、剣先は目前を通過していく。

 躱されることを予期して、アルフェッカは既に右の剣で刺突していた。

 一閃する刺突に反応できず、左肩を貫かれる。



「ぐっ!?」

「メリディス!」



 メリディスはすぐさま、抉られる剣を引き抜こうと刃を持つが、アルフェッカが一蹴した。

 腹を蹴飛ばされ、後方に体を持っていかれる。

 意識が飛びそうになるが、それでも師匠から譲り受けた太刀を離すことはなかった。

 床を転がりながら、必死に体勢を立て直す。



「『フレイム』! 『サンダーボルト』!」

「『反射の意志』!」



 アルティアの魔法は尽く跳ね返され、アルフェッカの接近を許してしまう。

 肉薄するアルフェッカは回転斬りを叩き込んだ。

 実の妹に対して、容赦のない一撃。

 アルティアは渾身の力で踏ん張りを利かせ、白銀の剣で受け止める。

 だが、爆発の如き斬撃を押さえることができず、無様に吹き飛ばされてしまった。



「アルティア様! 貴様、アルティア様の様子を見て何とも思わないのか!」

「私に、どういった言葉を求めている?」



 メリディスは太刀を支えにして立ち上がり、アルフェッカを憎むように睨みつける。



「私は、この六年間……アルティア様から姉のことを散々と聞かされた。羨ましいぐらい、貴様を敬っている。一度だって、悪口を言ったことはない。こんなに貴様を尊敬しているというのに、貴様はアルティア様に耳も貸さないようだな。ちゃんと観ることもなければ、ちゃんと聴くこともない」

「アルティアとの付き合いは、たったの六年だろう。そんな者が愛する妹を語るなど、愚か。立場を弁えたまえ」



 アルフェッカは静かに闘志を漲らせ、双剣を下にして構える。



「貴様が過ごした六年と、私が過ごした六年とでは格段に質が異なる。この六年、アルティア様を気にかけたことはあったか? 愛する気持ちはあったのか? アルティア様も、デザイア帝国も、何一つ大切にできなかった貴様に、アルティア様のことを語る資格はない! いい加減にしたら、どうだ! アルフェッカ!」

「妹の特別護衛騎士として、これまでご苦労だった。私から、ささやかな手向けを用意しよう。(はなむけ)は、この剣だ」



 先に動いたのは、メリディスだった。

 太刀の切っ先を、アルフェッカに向けて『疾風迅雷』で突っこむ。

 進路の途中で飛び上がり、太刀を振りかぶった。

 大技を企んだ。



「『虚構最上大業物』……『鎧袖一触』!」



 太刀の刃渡りが伸び、『虚構最上大業物』で武器が強化される。

 メリディスの持つ剣技スキルで最も破壊力のある『鎧袖一触』をぶつけるつもりなのだ。

 それを見ても、アルフェッカは余裕の笑みを崩さない。

 遂に、『鎧袖一触』が振り下ろされた。



「食らえ!」

「『健弱』」



 一瞬、アルフェッカが何をしたのか理解できなかった。

 それでも、メリディスは太刀を叩き込んだ。

 これ以上ない全力で振り下ろした。

 双剣では受け止めきれない全身全霊の一太刀。

 だが、次の光景に目を疑う。



 アルフェッカは軽く太刀を弾いたのだ。

 たった一本の剣で、刃にコツンと打撃を加えた。

 ただ、それだけで攻撃は逸れた。

 アルフェッカの側に、太刀の切っ先がめり込む。

 すぐに、地面に降り立ったメリディスだが、アルフェッカが斬撃を仕掛けていた。

 上手く力を入れることができず、メリディスの太刀は上空へと打ち上げられる。

 円を描いて舞う太刀がリフトを超えて、発令所の下へと落ちていった。



「馬鹿……な」

「ふん!」



 双剣を横薙ぎし、メリディスを思い切り斬りつける。

 アルティアが辛うじて顔を上げたが、目撃したのはちょうど、メリディスが斬られた瞬間だった。

 メリディスは剣に押され、その肉体は跳ねた。



「お姉様の力……疑問だったのですが」



 アルティアは腕を床に押し付けながら立ち上がる。



「その力……六星の加護を受けている、というのですか……?」

「ああ、そうだ。土星の加護を、私は得た。何が起きても、勝つためにな」

明けまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

2021年 神島しとう

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