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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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エンタープライズ:異形の訪問者―2

 人ではないと言われた旅人は不満げに肩をすくめる。

 今更だが、その旅人の様相について表現する。

 声の特徴からして、性別はおそらく男。

 儀式で着衣するような白い装束に奇妙な模様の外套。

 その人の形を夢か現かにする図形と色合いだ。

 目立つのは、頭をすっぽりと隠す布。

 顔を拝むことはできない。

 ……こう表現すると、旅人とはと疑問を抱く。

 マトカリアが不審に思ったのは、こうした有様によるものだった。



「ここは解放の国、エンタープライズでしたよね。種族問わず、受け入れる国であるとか。異形の怪物は受け入れてもらえないのですかねぇ」

「貴様に協調性は見られない。最初から敵対心むき出しで来られては、いくら種族を問わないとはいっても受け入れかねる。引き返すのなら、今のうちだ」

「そうですか、残念です。全て終わったら、ここで穏やかに……と考えたのですがね」



 布の下の顔が妖しく笑った。

 ラヴファーストは兵士たちを庇うように立ち、オルフォードはEIHQの職員を、アイソトープはメイドを守るように佇む。

 神経を張り詰める空気が場を支配し始める。



「ってことで、立ち去るといいぜ」

「トウハ!?」



 前に出ようとするトウハを、シアグリースは引っ張るが制止を峻拒して斧を肩にのせた。

 ラヴファーストも下がるよう命令する。



「やめろ、トウハ。お前の匹敵する相手ではない」

「そうは言っても、このままじゃ膠着状態。さあ、異形! 足を一歩でも進めたら、エンタープライズを守るために全力で追放するぜ」



 大斧を両手で握り、異形の様子を窺った。

 異形はやがて、口のあたりを手で覆いながら笑い声をこぼし始めた。



「何がおかしい」

「失礼、笑ってしまったのはラヴファーストの気苦労を想像してしまったからだよ。こんな面白い鬼人が部下にいるラヴファーストはさぞかし、心労が絶えないだろうね」



 笑いが落ち着くと、異形は腰に手を当て、堂々と立つ。

 どんな試練でも跳ね返してやるという気概を示すほど胸を張っている。



「じゃあ、足を一歩……進めてみようかな」



 有言実行で早速、足を前に一歩だけ動かした。

 刹那、トウハは異形に飛びかかった。

 ラヴファーストが叫ぶ。



「トウハ!」

「『十二天一流・羅刹』!」



 斧全体に黒い闘気が纏まると、刃先を一気に異形へと振り落とした。

 この一撃が当たれば、まともに立ってはいられない。

 そんな渾身のスキルに対して異形は怯むことなく、降ってくる斧を軽く片手で掴む。

 この時点で、実力の差は雲泥の開きである。



「ちっ!」

「弱いねぇ、弱い」



 斧の刃先を握りしめ、トウハごと横に放り投げた。

 一仕事を終えて、安堵の息を吐いた異形の眼前に、ラヴファーストの刀が迫る。



「部下には手を出させない。俺が叩き切ってやる」

「千年前とは、ちょっと変わったみたいだね。ラヴファースト」

「なぜ、俺の名前を知っているのかは不明だが、貴様を拘束して問いただしてやろう」

「もう……ボクはこんなことをしにきたんじゃないんだよ。ちょっと、ちょっかいを出してやろうかなと思ったのは確かだけど。ともかく、忠告しにきたんだよ」

「忠告、だと」



 刀を横にして、刃を布に向ける。



「君たちの主、ミミゴンに身の危険が迫っているよ。それに加えて、世界の命運にもね」

「ミミゴン様はデザイア帝国に向かったはずだが」

「デザイアリング戦争に終止符を打とうと、戦場であるセルタス要塞に飛んでいったよ。そこで、厄介事が起きるのさ」

「貴様の口振りからは、ミミゴン様の強さも把握しているはずだ。ミミゴン様一人でも、終戦を叶えることは可能だ。ここを出発する直前、ミミゴン様は一人で大丈夫だとおっしゃっていた」



 本来であれば部下の一人や二人はミミゴンの側に付いているべきだが、傭兵派遣会社との激戦の後では不可能だった。

 ミミゴンは部下を気遣い、休養を命じたのだ。

 王の心遣いを無視して、助力に駆けつけるのはかえって迷惑になる無用の親切だと捉えられる。

 ラヴファーストたちはミミゴンを信じるため、異形の言葉を疑った。



「確かに、終戦はもう目前。だけど、問題はその後だよ。戦争の陰に隠れて、暗躍していた組織が現れる。いくら、ミミゴンといえど、連戦は気骨が折れるだろうねぇ」

「そうなる未来を知っているようだな」

「確実に、奴が現れるのさ。君たちエンタープライズにも因縁のある敵、だよ」



 その布に隠された顔は、どのような表情を浮かべているのかは分からない。

 悪事を企んで、意地悪な表情かもしれない。

 だが、声音に嘘は感じられなかった。

 ほのかに焦りも感じられた。

 ラヴファーストは決して刀を下ろさなかったが、決断は下した。



「国防軍! 出撃準備だ!」



 あっけらかんとしていた兵士だったが、ラヴファーストの発声により、すぐに動き始めた。

 メイドとEIHQも自分たちにできることをするため、城内へと戻っていく。

 残ったのは何人かの兵士とラヴファースト、アイソトープ、オルフォードの三人だ。



「さすが、冷徹の剣士。さすが、エンタープライズ。ありがとう、協力してくれて」

「何かあったときは、貴様を斬ればいいだけだ」

「無傷では済まないだろうけど、弱りゆく君たち程度なら造作もなく葬れるつもりだよ。たとえ、エルダードラゴンが相手でもね」



 エルダードラゴンを強調して、挑発する。

 ラヴファーストたちの顔に変化はないものの、心を少し揺さぶられる。

 異形の正体に見当がつかない。

 オルフォードにとっては、これが一番の恐怖であった。

 情報量に自信のあった彼が必死に記憶を駆け巡らせても、欠片のヒントさえも見つからなかった。

 異形は踵を返し、懐から転移石を取り出す。



「それじゃあ、戦場で待ってるよ……」



 眩い光のベールが異形を包み込んだかと思えば、次の瞬間には消えていた。

 そこでようやく、三人は警戒を解く。



「ついに、我らのことを知る者が現れたか。困ったもんじゃのう」



 オルフォードはしみじみと呟く。

 いつかは現れるだろうと予期していたが、このような時期に来るとはと頭を抱える。



「それだけ、エンタープライズが大きくなったということですよ」



 と、アイソトープが答える。



「それで、ラヴファースト。あなたは戦場に向かうのでしょう?」

「もちろんだ。嫌な予感がする」

「私もです。ラヴファースト、あなた一人では足りないような相手が出てくるといった感じです。アイソトープも同行しましょう」

「ワシも赴こうではないか。久々に、ミリミリのやつにも会いたいわい」



 エンタープライズはまた騒がしくなる。

 歴戦の強者が集う傭兵派遣会社を乗り越えたエンタープライズは、戦いへの恐れが薄れていた。

 勝ち気になって、今度も乗り越えられるとポジティブに考えることができた。

 それは兵士だけで、ラヴファーストたちは未知に対して恐れを抱いている。



「エンタープライズを、エルドラード帝国のようにはさせない」



 刀身に額をつけ、祈る。

 ラヴファーストは想いを秘め、ミミゴンのいるセルタス要塞へと軍を率いて向かった。

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