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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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191 モルスケルタ―突入

「し、死ぬかとおもったぁ……」



 巨大魔導兵器モルスケルタに乗り込んで早々、こんな情けない言葉を吐いたやつがいる。

 そう、俺だよ。

 トラオムフリューゲルの中で、不安定に体を飛ばす。

 ドローンの羽に上手く力が伝導しない。

 こうなったのも、モルスケルタの自動迎撃装置とかいうシステムのせいだ。

 あんなの全く聞いてなかったぞ。

 モルスケルタに近づいた途端、濃密な弾幕にお出迎えされた。

 魔導機だったら、まず木端微塵となっていただろう。

 偶然、トラオムフリューゲルに変更できたのが幸運だ。

 操縦者のペンティスもへとへとになり、だらしなく操縦席にもたれていた。



「はぁはぁ、へへ、さすが世界最速の戦闘機だぜ……ギムレット婆さん、さいこー」

「ペンティス、突然呼び出して悪かったな」



 アルティアとメリディスもいくらか堪えたようで、少し苦しそうな表情をしていた。

 ペンティスはこちらに振り返る。



「ミミゴンには数え切れないほどの恩があるんだ。これで少しでも返すことができたなら、よかった、ぜ……」

「もう、ほとんど返してもらったもんだ。あと、もう一つ頼みがある」

「なんだ……?」

「俺たちがモルスケルタを止めるまで、ここで待機しておいてくれ」

「わかったよ、ここで待ってる」



 気の抜けた返事をして、天井を見上げた。

 非常に申し訳ないことをしてしまったが、モルスケルタに乗り込む手段はこれしかなかった。

 ありがとう、ペンティス。

 アルティアたちが既に船を降りており、俺も降りようとしたちょうどその時、ペンティスから声をかけられた。



「なぁ、お前、本当にミミゴンなのか? その姿、機械ってやつじゃねぇのか」

「ああ……俺は竜人じゃない。エンタープライズって国で王様をしている宝箱型機械だ。すまねぇな、騙すような真似をして」



 竜人に擬態(ミミック)して、彼を欺いていたということになる。

 ペンティスが困惑するのも無理はない。



「エンタープライズ? 王様? 騙す? あー、よくわかんねぇけど、お前があの時のミミゴンだってことだけは伝わったよ。アルティア様と共に、この戦争を終わらせてくれよ! 頼んだぜ、ミミゴン!」



 状況を上手く呑み込めてはいなかったが、俺を頼りにしてくれているようだ。

 ペンティスの期待に応えなければな。



「もちろんだ、相棒」

「相棒……いい響きだぜ」



 口の両端をつり上げて、ペンティスは笑い、親指を立てる。

 その期待を心に背負って、俺はモルスケルタへと進入した。







 トラオムフリューゲルから降りて、上を見上げると真っ青な空が見える。

 左を向くと、地上へとつながる大きな穴が開いていた。

 そこから風が塊となって吹きすさぶ。

 アルティアとメリディスの軍服も風の流に従ってなびいている。

 巨体なだけあって、モルスケルタの発着ポートも開豁であった。

 黒い床面は海のように広大で、トラオムフリューゲルのようなちょっとばかし大きい戦闘機を何台も置けるほどの余裕がある。

 伊達に、エルドラを倒す兵器ではない。



「ミミゴン様、メリディス……ここまでついてきてくれてありがとうございます。お姉様を止めて、魔女を止めて、デザイアリング戦争を終わらせましょう!」



 勇ましく言い放った言葉に、ちっとも弱々しさを感じない。

 初めて会った頃のアルティアとは、一皮むけた様子だった。

 俺とメリディスは力いっぱいに頷く。



「それでは、参りましょう!」

「おっと、そいつは諦めてはもらえませんかね……アルティア殿下ご一行」



 両手で二丁の銃を弄びながら接近してくるのは、灰色の鎧と兜を装着した六星騎士長ジオーブだった。

 アルフェッカ派の竜人だ。

 指で器用に拳銃を回転させて、ある程度の距離まで近づくと銃口をアルティアに向けた。



「ジオーブ騎士長、お願いです。そこを通してください」

「別に通せんぼしてないじゃないですか。通りたかったら、僕の横を通っていけばいいんです。ほら」



 くぐもった声を兜から漏らしながら、腕を広げる。

 ジオーブを警戒して、誰もその場を動かなかった。

 当然だ。

 奴の放出する殺気が、俺たちを圧するように流れ込んできているのだから。

 ジオーブの言った通りに横を通れば、即射殺されるだろうな。

 あの兜の奥で、どのような顔をしているのか。

 口調と表情が真逆のような気がした。



「ま、そんなことを言われても、殿下は通りませんよね」

「このままでは、グレアリング王国が滅亡してしまいます。お願いです、通してください」



 メリディスが前に出て、背中の太刀に手をかける。

 ジオーブの殺意がより一層、強まった。



「滅びたらいいんじゃないですかね、そんな国。僕も、殿下と同様、平和が訪れることを願っているんです。ただ、殿下の考えはちょっと幻想的です。みんな仲良くしましょうねぇ、なんてのはあり得ないんですよ。その点、アルフェッカ閣下は現実を見ていらっしゃる。反乱分子をまとめて、潰す。実に合理的ではありませんか」

「そんなことをすれば、憎しみが広がるだけです。生きづらい世の中になってしまうんです。共に手を取り合う未来を、私たちは歩むべきなんです!」

「ふっ……どうせ、戦争が終われば、帝国も何もかもなくなるというのにねぇ」



 不可解な言動だが、妙に確信めいた声音であった。

 右手の拳銃をメリディスに突きつけ、引き金に指をかける。

 そして、引き金を引いた。



「『ハードショット』」



 放たれた弾丸には、あらゆるものを吹き飛ばす威力が込められている。

 万全な防御でも、ただでは済まない。

 メリディスに目がけて発射された弾は、瞬く間に目前へと迫っていた。

 太刀を引き抜く間もない。



「『達成・堂々一身』!」



 着弾したのはメリディス……ではなく、水晶の大剣。

 縦に構えた大剣が、強力な銃弾を受け止めたのだ。

 大剣の持ち主、六星騎士長スイセイが瞬間移動で現れた。



「スイセイ騎士長!?」

「さぁ、先へ行ってください! ジオーブは私が相手します」

「助かります」



 大剣を構えなおし、ジオーブを睨みつける。

 この合間に、俺たちはジオーブの横を通り抜けていった。

 彼は大して気にも留めない様相で、遠ざかっていくアルティアを視線で追う。



「おいおい、行っちゃったよ」

「お前の相手は、私だ。ジオーブ!」



 スイセイがジオーブを止めてくれたおかげで、体力を消耗することなく、内部へと進入することができた。

 アルフェッカのいる発令所は、とにかく奥へと向かえば見えてくるはずだ。

 巨人の口を思わせるような幅広の空間へと、俺たちは駆け込んだ。

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