21 職場
「オルフォード、いるか」
「おるよ、ずっと」
オルフォードの机には紙が大量に積まれ、内容は価値があるかもしれない情報の塊だ。
床一面にもばらまかれている。
ハウトレットみたいに、迷子になるぞ。
俺が訪れた理由だが、クラヴィスに撃ち込まれた弾丸ことニヌルタを、オルフォードに解析してもらっている。
捨てるのは勿体ない、再利用できるならするし、石の仕組みも知っていれば情報にもなるし、防御にもなるということで預けていた。
解析結果は、というと。
「で、石はどうなったんだ?」
「お主は、これを魔人が造ったと思うか」
「……魔人が誇らしげに自慢していたみたいだし、そうじゃないの?」
石を、俺に近づける。
慌てて、遠のく。
「危ないだろ! 魂が……」
「大丈夫じゃ。スキルは抜けておる。発動は、せん」
「スキルが抜ける?」
スキルが抜けているとは?
スキルが込められていて、近づけることで発動すると?
「察したようじゃな。よく見てみ、ほれ精巧に造られとるじゃろ?」
石の表面は、きめ細やかで青く美しい。
「5年前、耳に入った話じゃが。ドワーフの連中が長年かけて、スキルを込めることのできる石を完成させたのじゃ」
「すごいことなのか?」
「褒められたもんじゃないが、すごい。所持しとらんスキルを使うことができる、ということじゃからな。この石は、魔人がドワーフの物を盗んで改良したに違いない」
「その石は、自然にできたものなのか?」
「これは人工魔石。通常、魔石というのはじゃな、自然によって魔力やスキルが込められとるが、こいつは人が『スキル』を込めることができる」
「便利だが、危険だな」
「そうじゃ、だから褒めたくない。じゃが、造ったドワーフはその危険性に気付いて逃げたため、生産数は少ない。簡単に造ることはできないし、不幸中の幸いじゃ」
便利の裏には、危険が潜む。
というよりも、危険のない便利などないのではないか。
インターネットは便利で、そして危険だというのを思い出す。
「再利用は出来ないのか?」
「ワシがさせんよ。こんなもの、壊すに限る。製作者も、そう望んどるに違いない」
「そうか。だけど魔人はまだ諦めずに、間違った使用を繰り返しているかもしれない。何か、対策はないか?」
「込められとるスキルは『契約進化』。『妨害』を持っとるじゃろ。それで防げる。石に込められる力は、少ないから阻止は子供でも出来る」
「『妨害』を持ってない者は?」
「……運がなかったのう、としか言いようがない」
されたら終わりかよ。
させる前に壊すが最適か。
「それより、ミミゴン。ワシ一人に仕事を押し付けるな。人手はないのか?」
「任せろ。猫ならぬ鬼の手を用意させる。ついてきてくれ」
今日も元気な太陽の下、城のエントランスホールに鬼人たちを集合させる。
「どうだ、我が城の住み心地は? 最高か?」
「最高です!」
鬼人は、高台にいる俺に手を振って喜ぶ。
校長のように台に立って、話をする。
「じゃ、この国の重要人物を紹介する。まずは、アイソトープだ」
アイソトープが、俺の横に立つ。
長髪で金髪のメイド、アイソトープを皆に知ってもらう。
「アイソトープは、エンタープライズの使用人だ。普段、物静かだが仕事熱心で皆のために働いてくれている。この城を建てたのも、アイソトープだし『オツカレティー』を栽培したのも、アイソトープだ。ハッキリ言って俺より強い」
「メイドをしております。アイソトープです。よろしくお願いします」
アイソトープは両手を前にし、丁寧に礼をする。
顔は相変わらず無表情。
1000年は生きているそうだから、何を見せても感動しなさそうだ。
次に、ラヴファーストを立たせる。
メガネケースから四角いメガネを取り出し、かける。
そういえば、ラヴファーストって視力が悪いのか?
後で聞いてみるか。
「こいつも、普段から無表情で怖いかもしれないが、この国最強の戦士だ。いや、世界最強かも。怖くても、話は聞いてくれる常識人だ。ハッキリ言って俺より強い」
「よろしく」
スーツをビシッと着て、強者のオーラを放つ。
鬼人はビビって身を硬くさせ、子供は泣きだしそうだ。
紹介だからな、戦いではない。
威嚇しろとは言ってない。
で、オルフォード。
人手が欲しいんだろ。
第一印象が重要だ、心を掴んでくれ。
「分かっとるわ、若造」
一応、43歳なんだが。
……もう、オッサンか。
いや、オッサンと認めなかったらオッサンじゃない。
オルフォードを台へ誘導し、紹介する。
「髪が長くて、毛で埋もれてる老人は、世界を手にできるほどの情報量を持っている。名はオルフォードだ。人に知られたくない情報、弱みは、この老人に握られてると思え! ハッキリ言って俺より強い」
「人の弱みなど興味ない、オルフォードじゃ。情報処理のため、手を借りたい。よろしく」
台を下りる際、思いっきり睨んできた。
強さを証明できたはずだが。
この流れで、ツトムも紹介する。
急遽、ダンジョンから帰ってきてもらった。
ちゃんと紹介しておかないとな。
「彼はツトムだ。彼には、国の発展に繋がりそうな仕事を遠くでしてもらっている。だから、あまり見かけないかもしれないが覚えておいてくれ。ハッキリ言って俺より……ちょっと弱い」
「ちょっと弱いツトムです。よろしくお願いいたします」
小さくお辞儀し、台から降りてダンジョンに向かった。
紹介は済み、いよいよ職場を決めてもらう。
「えー、この国に住まう以上、働いてもらいたいなと思っている。働きたくない、とあまり言わないで。仕事の内容は今のところ4つある。
1つは、アイソトープをリーダーとし、掃除や食事等の準備など、国のため皆のために働く使用人になる。
2つは、ラヴファーストをリーダーとし、城の警備や魔物退治をする戦闘を主とした仕事だ。力があって、国を守る意志を貫く者が望ましい。
3つは、オルフォードをリーダーとし、情報を収集、処理する仕事だ。国の発展に貢献する仕事だ。
4つは、国のための仕事を自分で提案し働く者だ。案があるなら、俺に一度言ってくれ。採用すれば、その仕事をしてもらいたい。
以上が、主な仕事内容だが今後も増えていくかもしれない。途中で仕事を変えることもできるから、気軽に言ってくれ。合わない労働内容は体に悪い。休暇も遠慮なく言ってくれ。無理して働くな」
一通り伝え終わる。
鬼人たちは、集まって話しあっている。
働きたくないのが本音だろうが、国がもたない。
仕方ないが、今はお願いします。
人が増えてきて、十分運営できるようになったら、無職も許そう。
とここで、グレーが手をあげる。
「食事や給料は、出るのですかな?」
「もちろんだ。働いたら働いた分だけ賃金は増えていき、欲しい時リーダーに申告すれば、給料を手にすることができる仕組みだ。食事は、アイソトープの班が作ることになっている」
「働いたら働いた分と言ったが、そっちで判断できんのか?」
トウハが申す。
俺は蓋を開け、箱に手を突っ込む。
掴んだ物は、アイソトープに創造してもらった元の世界でも見た「スマートフォン」だ。
アイソトープに、スマートフォンを知らないと思って、外見とかイメージを伝えると「スマートフォンというものでしょうか」と知っていたことに驚いた。
オルフォードによると、リライズで流行っている機器だそうで、今では国民一人一台は所持していると聞いたのだ。
リライズってもしかして、日本にいた頃と変わらない生活をしているのか?
「この四角形をした機械は、国民の働きを視る役割を持つ。健康状態や日時、仕事内容も知る事ができる。遠く離れていても、他者とのコミュニケーションができる便利な機械だ。こいつが評価し続け、簡単に認知できる。だから大丈夫だ。あ、一人一台な」
アイソトープと、ラヴファーストが配っていく。
手に取った者は不可解な面持ちで、スマートフォンを凝視する。
レラは知っていたみたいで、興奮しながら起動方法を周りに教えていた。
商人とやらに、聞いていたんだろうか。
せっかく驚かせようと思っていたのに。
レラが勢いよく質問してくる。
「あの! これで『ゲーム』っていう、楽しい遊びができると聞いていますが!」
「残念だけど、これには付いていない。が、皆が頑張ってくれたなら『ゲーム』……追加してもいいかなー」
「本当ですか!? 一生懸命、頑張ります!」
「ゲームとはよく分からんが、レラが面白い遊びだというし頑張るか、ゲームのために!」
そう言って、鬼人たちは一致団結した。
ゲームの力は凄い。
一人一人住む部屋も案内して、その間に就く職を選んでもらう。
果たしてこれで成功しているのだろうか、不安だ。
不満とかないだろうか。
人をまとめるって大変なんだな。
今日、いよいよ自分の職場を選んでもらう。
個人的には、アイソトープの所が多いと思う。
女性が多いし、筋力がなくても働けるからだ。
鬼人の数は村長に確認したところ、全員で68名とのこと。
もっと国民の数を増やしていかないと。
再び、エントランスに集合させる。
「この一晩で決定したか? まだ悩んでいても、時間はある。決定している者は、それぞれのリーダーに報告してくれ。以上」
皆、それぞれが働きたい職場へと足を運んだ。




