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ミミック・ギミック:ダイナミック  作者: 財天くらと
第六章 デザイア終戦編
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188 エルレライ・メリディス―7

「このオレを処刑するだって? いいぜ、やれるものならやって……」



 言葉を言い切る前に、メリディスがウラヌスに斬りかかっていた。

 ほんの少しの油断が、防御を遅らせる。

 妖刀の切っ先が甲冑を削った。

 さらに一撃を繰り出したが、ウラヌスは即座に躱す。

 躱された後も、メリディスが止まることはなかった。

 最小限の動きで、背後のウラヌスに目がけて回転斬りを放ちつつ、ウラヌスにべったりと接近戦を仕掛けていく。

 回転斬りもその後の連続攻撃も、ウラヌスは懸命に避け続けていた。

 だが、剣戟を浴びせるメリディスも速度を上げて、猛攻撃を放ち続けた。



「くっ、お前……祠を突破したあとだろ!? なぜ、そんなに武器を振るえるんだ!」



 ウラヌスが焦るのも当然だ。

 祠から出てきたメリディスは、誰が見ても疲労しているように見えた。

 憔悴したような雰囲気だったはずだ。

 それに、メリディスの軍服には生々しい激闘の跡があった。

 ところどころ生地が破れ、肌が露出している。

 それに、服のあちこちに黒々とした点があった。

 出血しているのだろう。

 それなのに、メリディスは疲れた様子を見せない。



(彼女、『龍化』した後のはずだ。『龍化』の反動が、メリディスには表れていた)



 龍人だったエルドラが言う。

 ラオメイディアも『龍化』の効果が切れると、身体が限界を迎えていた。

 あのラオメイディアでさえもだ。



(人知を超えている……のだな)



 彼女を研究したところで、この現状を解析できないだろう。

 だが、確かなことはある。

 それはメリディスが、忠誠を誓ったアルティアのために闘っているということだ。



「くそっ! 『乱気』!」

「メリディス!」



 アルティアが叫ぶ。

 ウラヌスが左手で『乱気』を発動させると、メリディスの動きが止まった。

 『乱気』で戦況を狂わせることに成功したウラヌスが、後ろに飛び退く。



「すまねぇなぁ、メリディス。あんまり『乱気』は使いたくなかったんだがよ。真剣勝負に水を差すような真似ができちまうからな。だが、この戦いは真剣勝負じゃねぇ。本気のお遊びなんだよ。閣下の命令がなければ、真剣勝負でもよかったんだが……悪いな」



 ウラヌスが剣先を、動かないメリディスに突き付ける。

 メリディスが参戦しても、あの『乱気』を使われたら終わりか。



「お遊び? 言ったはずよ、これは処刑だと」

「あ?」



 行動が封じられた状態でも、メリディスは冷静さを欠いてはいなかった。

 強がりだと判断したのか、ウラヌスは小馬鹿にする笑みを浮かべる。

 次の瞬間、その笑みが驚愕へと変わっていた。



「バカな!?」



 メリディスは『乱気』をものともせず歩き出す。

 エネルギーの流れで押さえつけていたはずなのに、メリディスは歯牙にもかけず抜け出したのだ。



「『乱気』が効いていない、だと?」



 ウラヌスは迫ってくるメリディスに刀を振り下ろした。

 刀を振り下ろす勢いを『乱気』で倍以上にしている。

 メリディスは慌てることなく、刀を受け止め、左手でウラヌスを押し飛ばした。



「『迫撃拳』」

「ぐっ!」



 ウラヌスは雪面に転倒していた。

 上体を起き上がらせ、メリディスを睨む。

 彼女を観察している様子だ。



「なるほどな……刀をぶつけたときに分かったぜ。お前、オレの『乱気』を弱らせたな。それが、メリディスの……六星スキルか」

「六星スキル『減退』。貴様の『乱気』とやらは使えなくなったな」



 相手のスキルを弱らせる六星スキル『減退』。

 強いエネルギーの流れを『減退』で弱らせたのか。

 メリディスのスキルがあれば、『乱気』は恐れるに足りない。

 状況が一変し、ウラヌスが不利になった。

 それを悟って、奴は乗ってきた魔導機へと駆けだしていく。



「貴様! 逃げる気、か……うっ」



 さすがのメリディスも、ここで限界だった。

 膝から崩れるメリディスをアルティアが支える。

 ウラヌスは既に、魔導機の入り口に足をかけていた。



「アルティア殿下、モルスケルタまで来るんだろ! オレは、そこで待ってるぜ! メリディス! 次こそ、真剣勝負だ! 楽しみにしてるぜ!」

「ウラヌス!」



 メリディスの叫び声が響き渡ったあとには、魔導機が空へと飛び去っていた。







 教皇から受け取った転移石を発動させると、目の前の光景が威風都市エーレグランツへと変化した。

 エーレグランツへの転移石があるなら、最初から渡しておいてくれればと思ったが、転移石の価値は計り知れない。

 元となる魔石の数が少なく、転移の場所を登録する魔法使いも少ない。

 これは貴重な一個なのだろう。

 と、転移石を説明したところで、俺たちは都市長の屋敷へと急いだ。

 メリディスは手負い。

 俺とアルティアも休憩が必要だ。

 だが、街中の雰囲気が俺たちを更に駆り立てる。



「もう、戦争が起きているようですね」



 アルティアの言った通り、デザイアリング戦争の火蓋が切られていた。

 遠方から、爆発しているような音が聞こえる。

 都市の竜人も急いで買い物を済ませていた。

 家に閉じこもって、戦争の終わりを祈るのだろう。

 だが、人々は未だ戦争の終結を信じてはいない。

 少し進軍して終わるとしか考えていないはずだ。

 彼らの中で、終戦は御伽噺のような扱いになっている。

 現実離れした空想だと。



 それは今日で現実のものとなる。

 戦争の行方は明日、はっきりと見えるだろう。

 俺たちがアルフェッカを止めて終戦という結果。

 もう一つは、アルフェッカを止めることができず、グレアリング王国が陥落するという結果。

 明日は、どっちの結果を見るのか。







 屋敷の中は静まり返っており、使用人は立ち尽くしていた。

 戦争が始まったことで、落ち着き払っているのだ。

 普通ならば、気がかりで騒いでしまうものかもしれない。

 彼らは違う。

 200年もデザイアリング戦争が続いたため、慣れてしまったのだ。

 騒いだところで何とかなるものでもない。

 軍務に服していない一般市民は、黙って戦争の終わりを祈るしかないのだ。

 階段を上り、赤い絨毯が敷かれた廊下を進んで、都市長の部屋へとたどり着く。

 重厚な木製の扉を開けると、窓を見つめていたアレクサンド都市長が重そうに振り返る。

 同時に、もう二人の人物が視界に入った。

 一人はアヴィリオス教皇だ。

 その素顔は相変わらず、白い布で覆われている。

 もう一人は、変わった服を着ている人物。

 裁判官が着ている法服のような形で、生地は白い。

 肩や胸に装飾品を散りばめた制服を身に着けていたのは、現デザイア帝国皇帝。

 アルフェッカとアルティアの父親、アルファルド皇帝だった。



「アルティア、久しぶりだな」

「……お父様」



 皇帝は懐かしむような瞳で、アルティアの顔を覗いた。



「ステラの面影を、アルティアから感じる。立派に成長しているのだな」

「お母様の面影……」

「気の置けない雑談は、全て片付いてからしましょう」



 教皇が間に割って入り、続きそうだった話を中断させる。



「さて、まずはメリディス。無事……とは言い切れませんが、祠の力を授かることができたようですね。お疲れ様と労いの言葉をかけたいところですが、ここからが決戦です」

「分かり切ったことを言わないでほしい」

「そうでした、あなたはアルティアの特別護衛騎士でしたね。踏んだ場数は、六星騎士長をも上回る。余計な心配をしてしまいましたね」



 メリディスは近くの椅子に腰掛け、身体を休めた。

 俺は『異次元収納』で水薬(ポーション)を取り出し、メリディスに手渡す。

 マトカリアが調合して精製したポーションである。

 道具屋で購入するポーションよりも、圧倒的に質が高い。

 つまり、回復量が大きい。

 ただ……



「げぇっ、にがい。貴様、毒でも入れたのか!」

「毒は入れてないから安心しろ。我慢して飲んでくれ」



 質が高くても、味は苦すぎる。

 ポーションを疑うメリディスの顔は、嫌いな食べ物を子どもが一生懸命に克服しようとするときの顔だ。

 マトカリアには、味の調整もお願いしておこう。

 教皇は部屋全体に響く拍手をして、注目を集めた。



「いよいよ、この時が来ました。今日で、デザイアリング戦争に幕を下ろしましょう。人の新たな歴史のために!」

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